意外に上出来なgOS
わざわざ新しいコンピュータを買うのも何なので、今回はgOSだけをダウンロードした。ダウンロードファイルは、インストール可能なライブCDイメージになっている。デスクトップに現われたインストーラ起動用のアイコンをダブルクリックし、指示に従ってインストール環境の設定を行う。まずは言語とキーbボードレイアウトの設定を何十という項目の中から選択し、パーティションの準備を行う。gOSでは壁紙、My Documents、Firefox環境など、自分用の設定をほかのシステムからインポートできるようだが、この機能が正しく動作するかどうかは確認しなかった。続いて、ユーザアカウントとブートローダの設定を行う。パッケージ選択の余地はなく、全システムがインストールされる。インストール終了後は、リブートしてもよいし、そのままライブCDを使い続けることもできる。
ブートプロセスは紛れもなくUbuntuのものだが、配色とグラフィックは変更されている。デスクトップはEnlightenment DR17 ― 現在使えるデスクトップ環境のなかで非常に過小評価され宣伝不足なものの1つ ― をカスタマイズしたバージョンだ。gOSはEnlightenment DR17の高度なオプションと機能をふんだんに採り入れることで、使いやすいものになっている。
デスクトップと各種アプリケーション
gOSのデスクトップの領域には、アプレット用の“シェルフ”(shelf)と呼ばれるパネルやドック、それに“ガジェット”(gadget)と呼ばれるランチャ(ローンチャ)が存在する。シェルフはデスクトップ周りのどこにでも配置できる。ガジェットとしては時計、ネットワーキングアプレット、バッテリモニタ、温度計などが用意されている。また、Start、iBox、iBarといった要素もガジェットと見なされている。Startはスタートメニューに代わるボタンであり、iBoxには最小化されたアプリケーションが、iBarにはスクロール式のアプリケーションランチャがそれぞれ収められている。なお、このアプリケーションランチャには、マウスポインタを当てると脈打ち、クリックすると破裂するといった視覚効果がいくつか盛り込まれている。
iBarは画面の一番下に配置されていて、使用頻度の高いWebサイトおよびサービスの多くを素早く起動できる。このiBarにはMeebo、Facebook、YouTube、Wikipedia、Bloggerのほか、Gmail、Docs、Maps、News、CalendarといったGoogleツールが含まれている。ほかにも、Firefox、Skype、Rhythmbox、Xineなど、各種アプリケーションを開くアイコンが存在する。iBoxの動作は「My Settings」->「Applications」->「IBar」メニューを選択することで徹底的にカスタマイズできる。私の環境ではFacebook、Meebo、Bloggerが削除され、OpenOffice.org Writer、GIMP、UXtermが追加されている。
もう1つ予め設定しておくべきなのが画面右側のシェルフで、ここにはデフォルトでExaltとClockが収められている。ExaltはKDEのKNetworkManagerに相当するEnlightenmentのツールである。検出されたネットワークデバイスがすべて表示され、それぞれの設定を行うことができる。設定を終えると、利用可能な接続が表示され、ネットワークへの接続が可能になる。次回ブート時には、最後に選択されていた接続が自動的に利用される。
シェルフにガジェットを追加する一番簡単な方法は、シェルフを右クリックし、表示されるメニューから「shelf 8」->「Configure shelf contents」を選択することだ。私の環境には、バッテリ寿命とCPU速度を監視するためにBatteryとCpufreqが追加されている。そのほか、Startボタン、システム用のTemperature、ほかのデスクトップに移動するためのPagerといったガジェットも追加できる。
画面上部には各種アイコンとGoogle Search Widgetが並んでいる。Google Search WidgetはGoogle検索を実行するもので、その結果はアドレスバーやアイコン、操作ボタンのない簡易ブラウザWebrunnerに出力される。だが、このWebrunnerのせいでGoogle Search Widgetの便利さはかなり損なわれている。私の場合、なんらかの検索を行うとほとんど必ず「Back」ボタンが必要になるからだ。検索結果がフルブラウザのFirefoxで開けば、このウィジェットはもっと便利になっていただろう。
こうしたインターネットアプリケーションに加え、gOSには日常的に使われる優れたデスクトップアプリケーションが多数収録されている。OpenOffice.org、GIMP、UXtermについては先ほど述べた。2Dゲームとしては、Solitare、Chess、Mahjongg、Mines、Same GNOME、Gnometris、Sudoku、Tetravexなど多くのタイトルが含まれている。また、電子メールクライアントはMozilla Thunderbird、インスタントメッセージングクライアントはPidginになっている。さらに、CDおよびDVDの焼き込みメニューにはGnomeBakerの名前がある。
XineとRhythmboxについては、iBarから起動可能ということで先ほど紹介した。Rhythmboxはほとんどどんなフォーマットのオーディオでも再生できるサウンドアプリケーションだ。ローカルのmp3ファイルだけでなくオーディオCDも再生できた。私がRhythmboxを気に入っている理由は、インターネットラジオ局もいくつか設定されている点にある。また、その色彩豊かな外観はだれの眼にも心地よく映るはずだ。
一方のXineは動画プレイヤーであり、AVIおよびMPEGの動画ファイルが再生できることを確認した。一部の国におけるデジタル著作権管理の問題から、DVDのディクリプション機能は含まれていない。ただし、ディクリプション用のパッケージは米国外であればダウンロードでき、インストールも難しくはない。
その他のアプリケーションが必要な場合に備えてSynaptic Packagerが用意されているほか、UbuntuおよびgOSの各リポジトリもセットアップされて使える状態になっている。私はこれらを利用してndiswrapper-common、ndiswrapper-utils、restricted-managerの各パッケージのインストールを行った。Restricted ManagerはNvidiaビデオチップのプロプライエタリなグラフィックドライバのインストールに、Ndiswrapperツールは無線イーサネットチップの有効化に、それぞれ利用した。
ハードウェアサポート
gOSのブート時には、どの程度ハードウェアがサポートされるのか不安だった。EverexのgPCでしか動作しないように機能が削られているのではないか、と思ったのだ。だが嬉しいことに、私のHP Pavilion dv6105のハードウェアの大部分は、ほかのLinuxディストリビューションの場合と同様、何もしなくても認識された。
サウンドカード、タッチパッド、USBマウス、有線LANはブート後すぐに使えた。グラフィックアダプタも機能していたが、解像度が1024×768ドットに抑えられていた。ところがgOSに用意されている画面設定のツールでも、解像度は1024×768ドットまでしか上がらない。そこで、もっと広い領域を得るために「/etc/X11/xorg.conf」ファイルを編集して、普段使っている好みの設定に変えた。だが、それが功を奏したのも次回ブートまでのことで、ブート後は「xorg.conf」ファイルが上書きされて解像度の設定はデフォルトの1024×768ドットに戻ってしまった。試行錯誤の末、この問題を解決する最良の(つまり最も簡単な)方法は「/usr/sbin/xdebconfigurator」ファイルを編集することだとわかった。このファイルはPerlスクリプトなので中身を読めば理解できる。この方法もブートのたびに新しい「xorg.conf」ファイルが作られるという点は同じだが、その設定内容のほうは私の望んだとおりに記述される。ただしこのあたりは、経験の浅いユーザにとってはハードルの高い問題になりそうだ。
私の環境では無線イーサネットが簡単に設定できた。前述のNdiswrapperパッケージをインストールすることで、対応ドライバの取得とロードが可能になり、無線LANカードが無事に検出された。さらに、Exaltを使ってWPA(Wi-Fi Protected Access)の種類とパスワードの設定を行うと、ルータへの接続が完了し、ブート後も問題なく接続することができた。
gOSのEnlightenmentでは、USBメモリのような外付けのデバイスや記憶メディアを差すと、デスクトップにアイコンが現われ、これをクリックすることでEnlightenmentのファイルマネージャFilemanのウィンドウにデバイスの中身が表示される。新規にディレクトリを作ってそこに既存のファイルをドラッグアンドドロップしたり、別のファイルを削除したりといったところまでは、思い通りに操作できた。ところが、作業を終えてウィンドウを閉じ、リムーバブルデバイスのアイコンを右クリックして「Safely Remove or Umont」オプションを探したところ、それらしきものが見当たらない。仕方なくターミナルセッションを開いて手動でアンマウントしようとすると、そのデバイスはもうマウントされていなかった。結局、リムーバブルデバイスはウィンドウを閉じた時点で自動的にアンマウントされることがわかった。これは新規ユーザにとっては便利だが、欠点もある。マウントされたデバイスには不規則なアルファベットのディレクトリ名が動的に与えられるので、ほかのアプリケーションでこのデバイスのコンテンツを使いたい場合でもFilemanウィンドウを開かなければならない。
もう1つ意外で嬉しかったのは、高度な省電力機能が備わっていて、しかもデフォルトの状態で動作するようになっていたことだ。CPUスケーリング(CPU速度を抑えてバッテリ寿命を伸ばす機能)、サスペンド、ハイバネーションといった機能が、一切の調整を必要とせずに問題なく動作した。
その他のシステムツールと設定ツール
gOSの「Administration」メニューには、数々の便利なシステムツールが用意されている。そこには、言語サポート(多数の言語に対応)、ログインウィンドウ、ネットワークツール、パーティションエディタ、印刷、画面とグラフィック、システムモニタ、アップデートマネージャなどが含まれる。
印刷(Printing)設定ツールは機能的でわかりやすいグラフィカルなPythonアプリケーションで、ユーザはこれを実行することでプリンタの設定が行える。今回はSambaのネットワークプリンタの設定にこのツールを利用した。スキャンというオプションを使うと、利用可能なプリンタの検出と表示が直ちに行われる。稼働中のプリンタを指定して、そのドライバを選択するだけでテスト印刷を実行することができた。
アップデートマネージャ(Update Manager)とアップデートノーティファイア(Update Notifier)は、Ubuntuに含まれているのと同じものだ。システムまたは各アプリケーションのアップデートをユーザに通知してくれるのがノーティファイア、アップデートを実行するのがマネージャである。この評価期間中には、適用可能なアップデートが数件あった。それらUbuntuのアップデートはアップデートマネージャで問題なく実行できたが、gOSリポジトリのミラーは常にダウンしていた。
gOSでは、デスクトップに関する設定が「Configuration」->「My Settings」に多数用意されている。このメニューコンテナ内の各モジュールはEnlightenmentの外観と機能をカスタマイズするためのものだ。このメニューからは、壁紙、テーマ、アイコン、フォント、カーソルの変更が行える。また、各アプリケーションをiBarから起動できるようにするか、ログイン時に起動するかの設定も可能だ。「Screen」というサブ項目の下では、仮想デスクトップの画面数、仮想画面の解像度、電源管理に関する項目を設定できる。さらに「My Settings」では、メニューの内容、ファイルマネージャの挙動、ウィンドウ機能なども変更できる。
iBar内にはQ&Aアイコンがあり、これをクリックするとユーザ支援フォーラムとWikiを一緒にしたような役割を果たすgOSのWebサイトが開かれる。gOSユーザはこのサイト上で質問をしたり、ほかのユーザから回答をもらったりできる。なお、この記事の執筆時点では、質問が数件しかなく、回答のほうはもっと少なかった。
まとめ
今回のレビューでかなりgOSが気に入った。豊富な機能とすばらしい外観を備えた小粋なシステムだ。動作の面でも優れており、きびきびと安定した動作を私のノートPC上で見せてくれる。何であれその他のLinuxに対応したコンピュータなら、どんな機種ででも動作するはずだ。デスクトップ環境Enlightenmentは綺麗にまとまっているし、iBarはあまりオーバーヘッドをかけずに必要な機能にクールな視覚効果を添えることができる。使ってみればきっと気に入るはずだ。