失敗しないITプロジェクトの秘訣は明確化にあり

 その「基幹」ソフトウェア開発プロジェクトは、相当な時間と予算を費やした挙げ句に頓挫した。前任者は去り、新任の管理者が立て直しに当たった。反省会の場で明らかになったのは、プロジェクトの日程、仕様、ベンダーの能力といった肝心な点についての事前の検討が不十分だったことだ。

 残念なことではあるが、ITプロジェクトの失敗は珍しいことではない。そして、プロジェクトが最良の成果を出せなかったり完全な失敗に終わったりする主因を求めると、プロジェクトを十分に明確化しないまま着手した点に行き着くことが多い。具体的には、ITプロジェクトの成否は、利用者が抱いている具体的な要求や問題点、鍵となる技術的機能的要件、厳密な日程、また、関連予算、リソース、組織問題といったことをあらかじめどれだけ明確化できたかにかかっている。そして、この明確化は、ITプロジェクトの管理者が持つ準備のための技術と情報収集力という基本的能力に挙げて依存している。以下では、これからそれを身につけようとする人のためのヒントを紹介する。

下調べをせよ――プロジェクトを成功させたければ、その規模にかかわらず、初めに「相当の注意」を払うこと、つまり事前の検討・情報収集・計画を丹念に行うことが必要だ。これには、たとえば、関係者が部署を越えて参加するブレーンストーミングなどの方法がある。典型的には、収集する必要のある技術情報、プロジェクトの支援者・反対者・利用者、予算とリソースなどについて共同で検討する。また、近く開催が予定されていて役立ちそうな会議やインタビューすべき人、あるいはプロジェクトに関連して正式に調査すべきグループなども列挙する。状況が許せば、社外コンサルタントや人事部門にも協力を仰いで、必要な情報を収集する。適切な検討が行われれば、正式な情報収集のための指針が得られ、また技術あるいは組織に関する具体的な情報も入手できるだろう。情報が得られたら、正式にプロジェクトを計画する際に考慮すべきカテゴリーに振り分ける。

「相当の注意」を払う技術を磨け――情報や意見を収集するための場を計画・運営したり、予備的なインタビューを手配したり、役に立つ公式調査を計画し実施するのは、相当に技術を要する仕事である。したがって、IT関連の技術を絶えざる研修と検定によって磨くのと同様、情報を収集力し会議を主催し計画を策定する能力を磨くべきだ。さもないと、プロジェクトに着手する前に知っておくべき重要事項(踏むとプロジェクトが妨害される恐れのある「虎の尾」など)を見逃すことになるだろう。

組織力学を理解せよ――組織に関する情報は往々にして鋭利な戦略的作戦的価値を持つことは広く知られている。しかし、それが「パワー・チップ」でもあることは忘れられがちだ。組織の中には――IT部門の中にさえ――多くの人脈を持ち掌握している人物がいるものだ。そういう人物は、予算・運営・利用者に関する情報のうち自分あるいは自分の所属する部門に有利なものだけを通す「門番」となる。この門番は、流すべき情報の種類・量・時期を左右し、ときには、情報をほかの人物やグループと共有するかどうかさえ決定する。IT管理者が扱うプロジェクトは、すべてではないにしても少なくとも一部は、そうした情報の収集方法、作成者、開示の時期と方法を変えることになるのだ。

 たとえば、医療現場の場合、医師が診療を記録する際の手順を変えるようなITプロジェクトは激しい抵抗を受けることが多い。上から命じられたプロジェクトをただ進めるだけでは下からの重大な、ときには致命的な抵抗に遭遇し、困難を極めることになる。したがって、事前にITプロジェクトに関連する情報を収集して、組織上の関係や長い間の慣習や力関係を、プロジェクトがたとえわずかでも変えることになるのであれば、それを説明できるようにしておかなければならない。重要なことは、ITプロジェクトは合理性だけで決まり誰もが歓迎するような技術的変更や改善などといった単純なものではなく、仕事の環境や組織の政治力学に極めて複雑に関わるものだという点だ。

必要な技術知識を身につけ、わかりやすく説明せよ――ITプロジェクトの管理は、通常、専門的知識を持っていると見なされた人に任せられる。しかし、その人が必要となるすべての技術的知識や大規模ITプロジェクトのすべてを掌握できるだけの詳細な知識を持っているとは限らない。持っていない場合は、仕事の遂行に必要な知識を持っている人物(あるいは適切なベンダー)をチームに加えること。肝心なことを誤魔化しても、組織から信頼を得ることはできない。

 また、プロジェクトの成果を利用する立場の人たちからは、ITの変更に関する専門知識を求められる。したがって、技術者として重要な責務の一つは、利用者が知っておくべき事柄を「通訳」できることだ。つまり、さまざまな背景を持つ利用者にプロジェクトの概要と知っておくべき具体的事項をわかりやすく説明できなければならない。利用する側は、担当者から幹部に至るまで、IT担当者はプロジェクトの技術的事柄をわかるように説明してくれないと不満を持つものなのだ。したがって、聞き手を知り、聞き手にわかる言葉で説明すべきである。

成功の鍵はプロジェクトの明確化――ITプロジェクトを失敗させたくなければ、すべての関係者の期待と要件を文書化しなければならない。つまり、プロジェクトの打ち合わせを丹念に記録し、文書を何度か回して承認を得なければならない。

 こうしてできた最終の「受け入れ可能な」計画は、明確で具体的なプロジェクト仕様書となる。役員にもわかるように書かれ、本文は明確に記述され、しかも技術的な詳細も適切な形で添付されていなければならない。また、求められている優先順位、予算と要員の要件、法的問題、適切な日程も盛り込む。重要なことは、明確で理解可能でありながらも、必要なときには極めて技術的な詳細さえもすぐに得られるようになっていることだ。

 こうした明確な文書化には多くの実践と経験が必要である。もし初めての仕事なら、プロジェクトに関する明確なコミュニケーションと文書化の経験を持ち支援してくれる人を探すべきだ。

定期的な対話の場を設けるべし――定期的な対話の場を明確に設定し実践することが重要だ。進捗報告と打ち合わせの頻度も守らなければならない。ITプロジェクトの進捗を説明し、その場で意見が言える双方向の対話であることが重要だ。鍵となるプロジェクト要素、進捗、問題について、真剣かつ同時進行の評価がなければならない。水面下にあり未解決の小さな問題も、放置すると急速に増悪し、プロジェクトを中断させるほどになることもある。また、定期的な対話は、IT部門と利用者間に信頼関係を育て、それが小さな問題を解消してくれるだろう。

技術の能力・効果・パフォーマンスについての大風呂敷は禁物――よく知られた技術を使った簡単なITプロジェクトでさえ、その実施に当たっては設計や実装上の問題に遭遇することがある。プロジェクトの効用について断定的に話すと、そうはならないことが明らかになり「産みの苦しみ」を味わうことになるだろう。己の墓穴を掘ってはならない。

 ITプロジェクトが着手されるときは、関係者全員が成功に必要な知識を共有していると思い込んでいることが多い。しかし、失敗したり完全には成功しなかったりしたプロジェクトを評価すると、「用意、撃て、狙え」式だったという明確な証拠が見つかることが多いのだ。沈没した重要プロジェクト(自分のキャリア)を引き上げる事態にならないように、時間をかけて下調べをし、当初からすべての人が同じ認識に立つようにしなければならない。

Ken Myers 米国海軍を退役後、ノースウェスト航空スタッフ・バイス・プレジデントを勤めた。組織学を研究する科学者・コンサルタントとして長年活躍。博士。現在、オンライン大学Touro University Internationalでビジネス管理とIT管理分野のコアプロフェッサーを務める。

Robert Lamb ブーズ・アレン・ハミルトンのシニア・コンサルタント。現在、米国空軍のCryptographic Modernization Projectsに参加。間もなく、オンライン大学Touro University InternationalでIT管理に関する修士課程を修了する。

IT Manager’s Journal 原文