ITプロジェクトの成否は組織変革のための計画にかかっている

 普通に考えて、あなたが計画したITプロジェクトは組織に多大な価値をもたらすものだとあなたは思っていることだろう。しかもその計画は経営陣が全面的に承認したものなのだ。失敗するはずがない!――しかし残念ながら、そのように価値のあるIT改善プロジェクトが「失敗するはずはなかった」という碑文が書かれた墓の下に埋まることは少なくない。ITプロジェクトを行なう際には、ITプロジェクトを組織変革計画だと考え、以下のような10個のポイントを押さえるようにしよう。

「人的影響」の確認を怠らない

 あらゆるITプロジェクトにおいて最も重要な点は、ITプロジェクトが通常、仕事に使われる「技術」についてだけでなく、「人々の働き方」についても何らかの変化をもたらすということだ。言い換えると、ITプロジェクトによって影響を受ける人々がそのことを認識し、受け入れ、導入される新技術を利用するための教育を受けるということを徹底しなければならないことを意味する。例えば情報の扱い方が変化することにともなって有力なマネージャの政治的な立場も変えてしまうようなITプロジェクトがあるかもしれない。あるいは計画されているアップグレードが、長年の間に構築された仕事上の慣習や組織のやり方と相容れないものである可能性もある。経営陣に承認されていることはプロジェクトの成功を十分に保証するものではなく、プロジェクトの影響を受ける可能性のある人々のことを十分に考慮しなければ、抵抗されたり完全な失敗に終わる可能性は必ず高くなる。

信用を築く

 ITプロジェクトの成功率は、プロジェクトリーダーの信用によって大きく高まる。信用は、組織内での地位、技術力、過去の業績、定評のある政治的なネットワークの信頼されているメンバーであることなど、様々な理由から生まれる。IT変革プロジェクトのリーダーを選ぶ基準として、組織内でどれほど信用されているかという点が重視されることも多い。したがって、日頃からIT変革/改善プロジェクトのリーダーになることのできる人物としてのあなた自身の信用を高めておくことが賢明だ。なおあなたの信用をさらに強化する手段として、より信用の高い、組織全体の中でも優秀な人物(年長者であることが多い)の支持を得ることにより、プロジェクトの影響を受ける人々から支持を得てプロジェクトの遂行に大いに役立つことも多い。

明確な計画表を作成する

 プロジェクトを成功させるためには、「誰が、何を、いつ、どこで、どのように、なぜ」と「コスト」とを列挙した詳細な計画表を作成しよう。またその計画表には、プロジェクトと他のシステムやプロセスとの相互運用についてもしっかりと詳細に記述しておく。さらに計画の一部を最初に実行するときには不測の事態に備えておくことも重要だ。計画表の詳細は、具体的で現実的なものにしよう。計画表では、技術的な面での実現だけでなく、上述したような人的な問題についても扱うようにしよう。また「支援勢力と抵抗勢力」とそれぞれのための対応を明確にして計画表には含めておくと便利なことが多い。支援勢力とは、計画の成功を支援してくれそうな事柄や人々のことであり、抵抗勢力はその反対だ。計画表にはさらに、支援勢力を増加させる方法と抵抗勢力を減少させる方法を含めておく必要がある。この計画表は、変革のためのロードマップであり、必要な承認を得るために上司に見せることもできる。また、プロセス上重要な他の人々に概略を説明したりするためのツールとしても使用することができる。

必要性を感じてもらう

 プロジェクトでは、変革が必要であるということをプロジェクトによって影響を受ける人々に納得してもらうことが重要になる。したがって計画を考えるときには、どのようにしたら、変革案に対する前向きな感情を生み出すことができるのかということを意識しておこう。また、個人と組織の福利にとって改革が欠かせないものであるということを分かってもらうようにしよう。そのためには合理的な説明を用意したり、新しい方法/技術についての教育を増やしたり、さらにはプロジェクトの全体的なプロセスに簡単に関わってもらったりすることで、変革の必要性を認識してもらうようにすれば良いだろう。最低限でも、変革によって影響を受ける人々が無関心でないようにするためにできることは考えておかなければならない。そうしなければ、そのような無関心さが原因となって計画が狂ってしまう可能性もある。さらに言えば、単にプロジェクトに従うよう上司に命令してもらうだけでは、単に既存の抵抗勢力を表立って抵抗できなくすることはできるかもしれないが、根本的な解決にはつながらない。

変革を支持する社風を構築する手助けをする

 現代的な組織では、不断の変革・改善が競争力を維持し成功するための唯一の真の方法であると言えるかもしれない。IT専門家であればなおさら、システムの継続的な向上の必要性を認識していることだろう。しかし顧客の多くは既存の方法に安住していて、改善プロジェクトを直ちに始めることには消極的である可能性もある。そのためITプロジェクトを導入しようと計画している組織の既存の社風を把握するように努めるようにしよう。すでに述べたように、変革に対して消極的な組織では、変革が重要で必要だということを個人個人に支持してもらうために、組織の年長者のリーダーシップに訴える必要があるかもしれない。また社風の変革は長期的なプロセスであることが多いため、プロジェクトがほんのわずかな影響しか与えることができない可能性もある。したがって社風の壁が大きすぎるように感じたときには、プロジェクトのタイミングが適切かどうかを上司に相談する必要があるかもしれない。価値のあるプロジェクトがかなりの予算を増補したうえ、社風という壁を乗り越えることができずに結局失敗したという例が数多くあったということを知っておこう。

変化しないことを説明する

 ITプロジェクトによって「変わらない」ことを説明するということは、あまりにも頻繁に見落とされがちだ。日々の生活において安定性を重要視するのはほとんどの人によくあることだが、このことは職場でも確実に当てはまる。プロジェクトを実行する際には、何が変わらないのかということを定義することで、安定性を重視する傾向にある人々を部分的にサポートすることができる。

成功のための教育

 プロジェクトの成功のためには、プロジェクトがもたらす変革の価値を顧客が認識するように(あるいは少なくとも抵抗しないように)手助けするほかに、「教育」も必要だ。そのためプロジェクトの予算には、トレーニングのための予算も十分に含めておかなければならない。危なっかしいユーザや能力のないユーザは、それ以外の不具合のほとんどよりも、プロジェクトの破滅を早める大きな原因となる。単純に言って、適切なトレーニングはプロジェクトが組織にもたらす変革の成功を決定付ける、プロジェクトにとって不可欠のステップだ。この観点から、トレーニングは徹底的に行なうようにしよう。また可能であれば少なくとも少しは顧客にとって興味深く楽しめるものにすると良い。高度に技術的な問題/手続きであっても、プレゼンテーションが前向きで巧みであるということはそのような観点から好ましい。

計画を忠実に実行する

 計画は忠実に実行するようにしよう。計画からの逸脱は、予算、締切、あなたのプロジェクト管理能力の信頼性を台無しにしてしまう可能性がある。したがって予期せぬ遅れや避けることのできない遅れが発生した場合には、直ちに上司と顧客に対してその詳細、影響、軌道に戻すために行なっている対処の内容を知らせるようにしよう。プロジェクト管理にとって極めて重要な点の一つは、あなたが計画の進捗と成功に責任を感じているということが、関係者に伝わっていなければならないということだ。

完了まで進捗を監視/分析する

 変革プロジェクトのための適切な測定方法を前もってしっかりと定義しておこう。プロジェクトの明らかな測定基準が見当たらない場合には、関係者と協力して、進捗の測定基準として客観的で適切であるものを決めておくと良い。適切な監視を行なうことによって、とりわけ進捗の遅れや、ユーザによる受け入れ具合いの問題や、おそらくそれ以前には見つかっていなかった組織上の壁などを明らかにすることができる。もう一つ変革のための活動として重要なことに、定期的な分析とプロジェクト完了後の分析とがある。定期的な分析とは、プロジェクトのメンバーと顧客とが、単に進捗だけでなくどれくらいうまくプロセスを進めることができているか(例えばコミュニケーションや問題解決や協力作業などが十分に行なわれているかどうかなど)をレビューする、測定基準に基づいた分析のことだ。一方プロジェクト完了後の分析では、今後に活かす教訓を得るために、プロジェクト全体の流れをレビューする。そのような監視と分析とを行なうためには、変革が進行するにしたがってメモを残し記録しておくことが重要だ。というのも大抵の場合、複雑な進展を追跡するためには記憶だけは不十分であるためだ。

足で歩いて管理する

 このことは、ただただ、ないがしろにされていることが多い。変革のための活動は、足を使って歩きまわったり、直接会う形でのコミュニケーションを取ったり、その他の何らかの形で関係者と連絡を取り合い作業の進捗の状況を把握し続けることによって管理するようにしよう。電子メールを使ったり遠隔会議を行なったりして変革を管理することもできるが、そのような方法には限界がある。したがって地理的に離れた場所のIT変革プロジェクトを管理している場合には、定期的に現場に出向いて直接会う形でのやり取りを行なうことが重要だ。

 特にITプロジェクトを管理するのが初めての人は、組織変革計画を成功させるために以上の10項目を真剣に検討して欲しい。そして変革しようとしているのはITの技術的なシステムやプロセスだけではなく、人々の考え方でもあることを忘れないようにしよう。彼らはあなたが推進していることを(上層部からの命令があったとしても)あなたほど熱心に受け入れようとはしていないかもしれないのだ。

Ken Myers博士は米海軍を退役後、ノースウェスト航空常勤副社長を務め、応用組織科学を長年研究している。現在はオンライン大学Touro University Internationalでビジネス運営/IT管理のCore Professorを務める。

Ron Pierceは現在、米空軍のIT技術記者を務めるかたわらオンライン大学Touro University Internationalで情報技術管理の修士課程に在席している。

Tim Stromingerは米空軍大尉であり現在米空軍で通信を担当するかたわらオンライン大学Touro University Internationalで情報技術管理の修士課程に在席している。

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