NovellにOpenOfficeをフォークさせる意図なし

 最近のメディアの報道を目にしている一般の読者は、有名なフリーのオフィススイートOpenOffice.orgが分断されつつあることを安易に信じるかもしれない。NovellがOpenOffice.orgのフォークを正式に支持しているとの記事が先週Slashdotに掲載され、Ars TechnicaはNovellの動きがOpenOfficeのフォークにつながれば、それは「深刻な分断」であって「OpenOffice.orgコミュニティにとっては好ましくないこと」と記した。しかし、状況を詳しく調べてみると、そうした動きは分断というほど大げさなものではなく、関係組織が長らく抱いてきた不満が表出したことで、長い間にわたって確立された体制をメディア側に知らしめただけであることがわかった。

 最初に警鐘が鳴らされたのは、開発者のMichael Meeks氏がSun MicrosystemsによるOpenOffice.orgの支配が同プロジェクトの周辺コミュニティの発展をどのように妨げることが推測されるかについて一連のブログ投稿を行った際だった。これに吉田浩平氏のブログ投稿が続き、彼が自らのcalc-solverモジュールをSunとの共同著作物とする署名を拒否したこと、またそれを受けてSunが彼の成果物そのものの複製を試みようとしていることが明らかになった。

 Meeks氏も吉田氏もよく知られたOpenOffice.org貢献者であり、両氏ともNovellに在籍している。go-oo.orgというサイトで独自のOpenOffice.orgビルドの提供を始める予定をMeeks氏が公表した際に、Novellの支持するフォーク版が生まれる、との噂が出回ったのはそのためだった。しかし、現実はそれほど大げさなものではない。

批判

 Meeks氏による批判を実際に見聞きすると、そのような噂が出るにしては驚くほど穏便な内容に思えるはずだ。

 Meeks氏によると、NovellにはSunとの協力関係を絶つつもりはないようだ。Meeks氏は既存アプリケーションのバグ修正や改訂に言及して「我々の貢献範囲は、自分たちがOpenOfficeのコアと見なすコードのうち半分以上に及ぶ」と述べている。また彼は「(最近になって)Sunのコミュニティへの対応は非常に良くなってきている」ことも認めている。これについては、彼の言う技術検討委員会の設置のような改善項目が「ずっと素早い方針転換」をもたらしたことに触れ、「こうした取り組みはあるレベルでは非常に有望だ」と述べている。

 Meeks氏が懸念しているのは、とりわけ成果物の共同著作権化によってOpenOffice.orgプロジェクトの支配を狙うSunの思惑がOpenOffice.orgにとっての最善の形とはますます一致しなくなっていることだ。「以前と違うのは、今やSunがまったく関与しないところで書かれたコード(1行たりともSunが貢献していないコード)が存在する点である。我々はこうしたコードをOpenOfficeに採り入れたいと思っている」(Meeks氏)。だが、現状のプロジェクトの組織体制下では、こうしたコードは必ずプロジェクトの外側に置かれたままになる。

 Meeks氏はこの状況がエンドユーザの不利益になるとも述べているが、彼が最も懸念しているのはプロジェクトへの貢献を希望する開発者のことである。「これはひどい話だ。個人の開発者にとっては自らのコードの採用こそがある程度の栄誉になるからだ。せっかく多くの時間をかけて生み出したものなのに、Sunに譲り渡さなければOpenOfficeには採り入れられない(きわめて露骨な言い方だが、要はそういうことだ)と言われるのだから、少なからず動揺するのも無理はない」。Meeks氏にとっては、個人の開発者がOpenOffice.orgのような大きなコードのビルドやパッチ当てで直面するあらゆる苦難を乗り越えた後にそうした問題が起こることや、ただSunが支配権を維持しようとするがためにプロジェクトが既存の成果物を作り直すのにリソースを無駄使いすることが特に耐えがたく思えるようだ。

 こうした状況は技術的な問題を生み出すだけでなく、OpenOffice.orgコミュニティの形成をも妨げている、とMeeks氏は示唆する。「力の弱い組織や、Sunの影響力が及ばない個人には何らかの保護が必要だ」

 そればかりか、このような権力の不均衡は参画意識の醸成も難しくする。彼は、GNOMEでの作業を振り返って「場合によっては、勤務先を変えて同じ仕事を続ける人々もいた」と述べている。その一方で、「OpenOfficeプロジェクトに属したいとはあまり思わない。1つの組織による支配があまりに強く、勤務先に対するもの以上の忠誠を捧げようとはなかなか思えないからだ」とも彼は語る。

 Meeks氏は奇跡を期待してはいない。「程度の差こそあれ、すべてがおかしくなっている。私は能力主義の世界、実際にコードの管理および保有を行える統治体制を伴ったある種の財団法人があればよいと思っている。コードの所有権の統一を明言するものが存在するのであれば、私のコードを財団に譲渡しても構わない」

 その一方で、お役所的な効率の悪さを埋め合わせるために、Meeks氏はgo-oo.orgサイトを、Sunに譲渡されていないOpenOffice.orgコードの情報センターとして利用しようとしている。

以前からあった似たような話

 開発者に焦点を当てている点を別にすれば、Meeks氏の意見は必ずしも目新しいものではない。著作権譲渡は、当初からOpenOffice.orgプロジェクトにつきまとっていた問題である。8月22日の時点でSunとの共同著作権の合意書に827名が署名していたが、プロジェクトのメーリングリストのアーカイブを調べるとほかの人々はSunの要求に応じることをためらっていることがわかる。こうした要求のせいで、Worldlabel.comがスポンサーを務めたOpenOffice.orgのテンプレートコンテストに深刻な遅延と運営上の問題が起きたのは、つい去年のことであり、その入選作品はいまだにOpenOffice.orgには含まれていないようだ。

 同様に、SunによるOpenOffice.orgの支配は絶えず論争の火種にもなってきた。多くの人々にとって、法的にはCollabNetに雇用されているコミュニティマネージャのLouis Suarez-Potts氏がプロジェクトに責任を持つのか、それともSun以外のボランティアの調整役に過ぎないのかは依然としてはっきりしていない。事務所を保有する複数のボランティアが、こうした問題への不満からプロジェクトを去っている。

 Sunによるプロジェクトの支配は、OpenOffice.orgのデフォルトファイル形式の普及を促進するOpen Document Format Alliance、OpenOffice.orgの機能強化版であるOxygenOffice、OpenOffice.orgのMac OS X向けネイティブビルドのNeoOfficeのようなプロジェクトが併存する理由の少なくとも一部にはなっている。これらすべての組織は本家のOpenOffice.orgプロジェクトとの関係を維持しているが、ときには意見が衝突することもある。

 そのよい例がOOoAuthors Projectプロジェクトである。OOoAuthorsが生まれた理由を、貢献者のJean Hollis Weber氏は次のように説明する。「OpenOffice.orgのメイン構造の範囲内では、物事をうまく処理するのが難しいからだ。一番の問題は、ドキュメント生成用のIssue Trackerの使用に支障が出ることがあったが、文書がまったく生成できないという事実がDocumentation ProjectのWebサイトに公開されなかったことだった」。OOoAuthorsのメンバーは、正式にプロジェクトと連絡を取って解決を図るよりも、自分たちで独自にドキュメントを作成したうえでプロジェクトに提供する道を選んだ。この調整は両者の間に緊張を生んだが、Weber氏によれば、状況は終盤になって大いに緩和されたという。それは、SunがOpenOffice.orgのドキュメント整備に以前より注意を向け始め、今では協力体制を取ることが常態化しているためだ。

 だが、Meeks氏と吉田氏のコメントに見られる新たな情報はすべてこうした状況に反した内容であり、彼らの明確な考えと彼らがSunから受けた扱いを示している。Meeks氏の指摘において特に大事な点は、OpenOfficeプロジェクトの最初の何年かはSunが所有権を持つことに意味があるだろうが、プロジェクトが発展するにつれて「1つの企業がOpenOfficeのプロセス全体を所有することの妥当性がますます失われていくように思える」ことだ。

 事実、go-oo.orgサイトでさえ、誕生後かなりの年月が経っている。このサイトが生まれたのは実に2002年のことであり、NovellやMandriva、そしてMeeks氏やDebianのOpenOffice.orgメンテナRene Engelhard氏のような個人の開発者との協力により立ち上げられた。開発者向けに、ソースコードの検索ツールやOpenOffice.orgをコンパイルするためのWikiガイドなど、本家のOpenOffice.orgプロジェクトにはないサービスを提供するのが目的だった。このサイトは、本家プロジェクトに追加されていないコードに関する情報交換の場にもなった。「しかし、このサイトは世間の評判なることはなかった」とMeeks氏が語るとおり、OpenOffice.orgコミュニティ関係者以外の人々はこうしたグループの存在すら知らなかった。

 最近になって変わったことといえば、ほとんど活動停止の状態が数年続いたあとに、go-oo.orgサイトのデザインが一新されたことと、独自のビルド(最初はWindows用)の提供開始を予定していることだ。その狙いはもちろん、ほかの多くのグループと同じような形でOpenOffice.orgへの貢献を並行して行うことにある。

反応

 こうした背景から、より規模の大きなOpenOffice.orgのコミュニティの中で、Meeks氏や吉田氏の意見に対する反応が抑えられている理由が伺える。たとえば、長い間OpenOffice.orgに貢献してきた人物でもあるSunのSimon Phipps氏は「OOoプロジェクトにいくつか歴史的な問題があることは、皆と同じように承知している」とブログに記している。彼は、Meeks氏の意見はプロジェクトの統治と運営を変えようとする最近のSunの取り組みを反映していない、と述べてはいるが、Meeks氏は「建設的な方法でSunに問題を提起しようとしているのだ」とも記している。そうせずにはいられなかったのか、Phipps氏はMeeks氏が最近まで共同著作権に何の問題意識も持っていなかったと指摘し、Meeks氏はSunに異議を唱える理由を探しているのだとも述べているが、Meeks氏の意見に対するPhipps氏の批判は、この問題をメディアの報道でしか知らない人々にとっては、驚くほど穏やかなものに見える。事実、Phipps氏の反応は、Meeks氏が開始を望んでいるはずの対話の申し入れと受け取れないこともない。

 つまり、Meeks氏の意見はOpenOffice.orgからの独立を宣言するものではなく、むしろコミュニティの内部で長年くすぶり続ける問題について改めて考えようとするものなのだ。最近の出来事によってフォークの決意が固まったかどうかをLinux.comが尋ねたところ、Meeks氏はきっぱりと次のように答えた。「NovellはOpenOfficeをフォークさせるつもりはない。とにかくそういうことだ。我々はOpenOfficeと緊密な連携を取っているし、私は一日の大半の時間をOpenOffice全般に使われることになるコードに費やしている。もしコードがフォークされれば、我々は分岐先と本家の双方に取り組むことになるだろう。我々NovellはまだOpenOfficeに相当な投資をしているので、Sunとはうまくやっていくつもりだし、Sunと共同で取り組む予定のプロジェクトはこれまでどおり存在する、というのが実状だ」

Bruce Byfieldは、Linux.comとIT Manager’s Journalに定期的に寄稿しているコンピュータジャーナリスト。

Linux.com 原文