NEC iDCビジネスサポートセンター センター長に聞く――データセンターにおけるサーバ運用コスト削減の秘訣

Salseforce.comに代表されるSaaS/ASP型アプリケーションの普及が急速に進んでいる。最近では、パッケージ・ソフトウェアの販売を事業の中心に据えてきたMicrosoftのような大企業までがこの市場への参入を表明し、ホスティング型アプリケーション市場は今後ますます拡大していくことが予想される。さて、SaaS/ASP型のアプリケーションを利用することで顧客企業は設備投資と運用コストを削減することが可能になるわけだが、その一方でサービスを提供するxSP事業者は競争力を向上・維持するために、サーバの構築・運用コストの削減に常に取り組まなければならない。

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NEC iDCビジネスサポートセンター
センター長 藤浪 秀樹氏

こうした状況を背景として、国内のサーバ市場を牽引するNECは、今年5月にデータセンター向けサーバ「iモデル」を製品化。同時にiDC/xSP事業者向けにハードウェアコンサルティングなどのサービスを提供する「Express5800 iDCビジネスサポートセンター」を開設した。ここでは、同センターのセンター長を務める藤浪 秀樹氏に、xSP事業におけるコスト削減のポイントをお聞きしたい。

――データセンターで発生するコストの構成について教えてほしい。

データセンターでサーバを運用する際に発生するコストは、大きく分けて以下の3つに分類できます。

  1. 初期コスト
  2. 運用コスト
  3. 所要変動によるコスト

1.は主にサーバやストレージといったプラットフォーム導入にかかるコストです。また、2.は場所代や電気代、保守などのサポート・サービスの費用などが含まれます。3.はピークに合わせた機器の導入により発生する余剰資産のコストを指します。

これら3つのコストそれぞれが全体に占める割合は事業内容や運用形態によって変動するので一般化しにくいのですが、ある程度調整することはできます。例えば、同じ処理性能を確保する場合、少数の大規模サーバの代わりに多数のエントリー・サーバを導入すれば、初期費用を抑えることができます。ただしこの場合は、管理しなければならないサーバの台数が増えるため、運用コストが増えてしまいます。逆に大規模なサーバを導入した場合、初期費用はかかってしまいますが、運用コストの削減が図れます。

もちろん、どこを削ればいちばんメリットを受けられるのかは、事業者によって変わってきます。

――それぞれのコストを削減するポイントは?

まず、初期費用を抑えるためには、サイジングを徹底して行う必要があります。提供するサービスの用途、求められる可用性に見合ったサーバを選択することが重要です。

二つ目の運用コストはコスト要因が多いので、削減が可能なポイントもいくつかあります。例えば、ロケーションコスト(場所代)に関して言えば、データセンターの電源事情にマッチしたサーバを選択することでサーバ1台当たりのコストを削減することが可能になります。また、マネジメントに関しては、プラットフォームが提供する機能を活用して管理効率を高めることで、管理コストを削減することが可能です。

最後に変動コストですが、リースやレンタルといった短期利用が可能な仕組みを使って機器を導入することで削減が図れます。リースの利用は初期費用の低減にもつながりますし、ごく短期間の契約ができるレンタルは、オンラインゲームやアフェリエイトに連動したサービスのようにサービスイン直後にアクセスが集中するようなケースで特に有効です。

――「データセンターの電源事情にマッチしたサーバの選択」とはどういう意味か?

数年前まで、データセンターで提供される電力は1ラック当たり20Aというのが一般的でした。最近では20A×2系統、30A×2系統を利用できるデータセンターが増えていますが、それでも1Uサーバ1台で2~3Aを消費するので、1本のラックに17~18台しか収容できません。40台分のスペースがあってもその半分以上が無駄になっているわけです。より低消費電力なサーバを選択すれば、無駄なスペースを減らして1台当たりの場所代を削減することができます。

――管理コストを削減するうえで重要なポイントは?

データセンターに設置するサーバの場合、リモートからの監視・管理をいかに容易に行えるかという点が重要になります。このリモート管理を行う仕組みには2つのレイヤーがあり、1つはOS上で動作するソフトウェアによる統合管理、もう1つはサーバのハードウェアレベルで動作する監視機能による統合管理です。OS上で動作する管理ソフトウェアは非常に高機能なものが各社から提供されていますが、利用できる環境(対応OS)に制限があるという弱点があります。特にxSP事業者の場合は商用Linuxではなくコミュニティ開発の無償Linuxを利用されていることが多く、ソフトウェアレベルでの統合管理が困難になりがちです。そうしたケースでは、OSに関係なく利用できるハードウェアレベルの監視機能を備えるサーバを選択することがリモートからの統合管理を実現するうえで重要なポイントとなります。

――データセンターでサーバを運用する企業に対して、NECはどのような製品・サービスを提供しているのか?

NECでは、今年の5月にデータセンター向けサーバ「Express5800/iモデル」の販売を開始し、同時にデータセンターへのサーバ導入支援サービスを提供する「Express5800 iDCビジネスサポートセンター」を設置しました。

以前からデータセンター向けには低消費電力の1Uハーフサーバ(1Uのラックスペースに前後に2台収容できる小型サーバ)を提供していましたが、1wayと2wayの1Uサーバを加えてラインアップ化したものがiモデルです。それまでは汎用的なサーバを企業内でもデータセンターでも利用してもらうという方針で製品を展開していたわけですが、企業内とデータセンターではサーバに求められる機能に違いがあります。しかし、データセンターでしか利用しないような機能を汎用サーバに標準装備させるわけにもいきません。そこでNECでは、とことんデータセンターに特化したサーバを作っていくという意思表示の意味も込めて、新たにiモデルというカテゴリーを設けることにしたのです。

――データセンター向けサーバへの要望としては、どのようなものがあるのか?

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Core Duo搭載の1Uハーフサーバ「Express5800/i110Rb-1h」

我々がユーザーから受け取っていた主な要望としては、次の3つが挙げられます。

  • 低消費電力
  • オープンソースOSへの対応
  • 管理効率の向上

まず、低消費電力という課題に対しては、1UハーフサーバではPentium MやCore Duoといったモバイル・プロセッサを、1Uサーバでは低電圧版のXeonを採用し、メモリやハードディスクといったその他のコンポーネントにも低消費電力のものを組み合わせることで、消費電力の低減を図っています。その結果、1Uハーフサーバでは最大消費電力を108Wまで抑えることができました。先ほど30A×2系統が利用できるラックでも1Uサーバ17~18台が限界という話をしましたが、この1Uハーフサーバであれば十分なマージンを取っても50台くらいまで設置することが可能です。iモデルの1Uサーバはそこまでの集積率は実現できませんが、それでも1wayモデルの場合で22~23台程度は収容できます。なお、1way/2wayモデルに関しては今後の製品でさらなる低消費電力化を図っていく予定です。

――オープンソースOSへの対応としては、どのような取り組みを行っているのか?

データセンターでコミュニティ開発の無償Linuxがよく使われていることはすでに述べましたが、それらの動作確認情報は入手しにくく、サーバを導入する際には動作検証をユーザー側で実施しなくてはなりませんでした。そこで、ユーザー側の負担を軽減するために、Red Hat Enterprise LinuxやSUSE Linux Enterprise Server、MIRACLE LINUXといった商用ディストリビューションに加えて、DebianやFedora、CentOS、FreeBSDといった無償のディストリビューションに関してもiモデルの動作検証を実施し、その結果をExpress5800の情報発信サイトである「8番街」で公開しています(http://nec8.com/linux/i/)。

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NEC iモデル Wiki

現行バージョンだけでなく、過去のバージョンのディストリビューションについても可能な限り検証を行っており、RAIDボードなどのオプション利用時の動作もチェックしています。古いディストリビューションの場合、ドライバを別途に用意しないと動作しないデバイスが出てくることがよくありますが、そのような場合は必要なドライバとそのインストール手順まで記載するようにしています。

ちなみに、動作確認情報を含めiモデルに関する情報は、SourceForge.jpに開設した「NEC iモデル Wiki」にもまとめられています。

――iモデルで利用できるマネジメント機能とは?

OS上で動作するサーバ管理ツールは、様々なものが各社から出ているかと思いますが、NECでは、ESMPROやSigmaSystemCenterなどの各種ミドルウェアを提供しています。しかし、これらは使いやすいツールだとしてもOSの種類に依存するため、利用できるOSが限定されてしまうというデメリットがあります。

そこでiモデルでは、ハードウェアレベルの管理機能に特に力を入れています。具体的には、EXPRESSSCOPEエンジンという管理プロセッサを搭載しています。これはメインのCPUとは独立して動作するチップで、サーバが電源コンセントに接続された状態であれば、リモートからWebコンソール経由でサーバの状態を監視したり、電源のON/OFFを制御したりすることが可能です。さらに、オプションのリモートKVMを追加していただくことで、BIOS画面からOSのブートメッセージまでをリモートから監視し、キーボード/マウスを使ってサーバを操作することができます。

通常だとSSHのようなリモートアクセス手段はOSが起動してネットワークがつながっていないと利用できませんが、EXPRESSSCOPEエンジンでは専用のネットワークポートを介してリモート操作を行うので、OSのネットワークがダウンした状態でも有効です。カーネルのアップデート後にシステムが起動しなくなったというような場合でも、EXPRESSSCOPEエンジンによるリモート操作でハードウェアログの採取などができます。また、EXPRESSSCOPEエンジンはDMTF準拠のCLIを搭載しているため、ユーザー独自のアプリケーションの作り込みなどを行なうことが可能です。

「エージェントレスでリモートからいかに管理作業を済ませられるか」、これはデータセンター向けサーバが対応すべき課題であり、NECではEXPRESSSCOPEエンジンの機能強化を柱にこの課題に積極的に取り組んでいきたいと考えています。

――iモデルと同時に開設されたiDCビジネスサポートセンターでは、どのようなサービスを提供しているのか?

大きく分けて、以下の3つのサービスメニューを用意しています。

・導入前ハードウェアコンサルティングサービス(無償)
これからサーバを購入される企業に対して、サーバのサイジングやオープンソース・ソフトウェアの導入支援を提供するサービスです。

・ライトカスタマイズサービス(有償)
OSのインストールやネットワーク設定など、サーバ導入時に発生する作業の一部をNEC側で代行するサービスで、ラックに合わせた専用筐体の提供や周辺機器の組み込みなどのハードウェアのカスタマイズも工場出荷前に行えます。もう1つ、添付品のサーバ本体とは別梱包での納品や、不要な添付品の抜き取り、梱包材の引取りといったサービスも提供しています。あまりピンとこないかもしれませんが、数十台単位のサーバをまとめて導入することがよくあるデータセンターでは、梱包材の処分に意外と手間が掛かるため、非常に好評いただいています。

・ASPサービスメニュー化支援(有償)
すでにASP事業を提供している事業者向けに、SaaS/ASPでの提供に対応可能なアプリケーションをご紹介するサービスです。ASP事業者が既存のサービスに付加価値をつけたり、サービス・メニューを拡大したりするお手伝いをします。

――今後の取り組みについて教えてほしい。

あくまでも、お客様視点での製品/サービス提供の継続ですね。iモデルとiDCビジネスサポートセンターの立ち上げからまだ4カ月ほどしか経っていませんが、「本気でデータセンター向けサーバに取り組みます」というNECからのメッセージが届いたことの表れか、すでに多くの反響をいただいており、「こういうものを作ってくれないか」といった要望も頂戴しております。あまり具体的なことを言うわけにはいかないのですが(笑)、今後の製品強化でそうした要望に応えていきたいですね。

NEC
http://www.nec.co.jp/

NEC 8番街
http://nec8.com/

NEC iモデル Wiki
http://sourceforge.jp/projects/nec-imodel/wiki/