Microsoftの幹部が語る「IT革新とOSの未来」――「OSにはまだまだ改善の余地がある」
ゲーリー・アンテス
Computerworld 米国版
根本的な変革が起こる。われわれの身の回りでもすでにその兆候が現れている。特に顕著なのがストレージのコストだ。われわれが利用するストレージ環境は、「どの情報を保管し、排除すべきか」という段階から、「気になるものはすべて保管しておく」という段階に入った。
ストレージの利用環境は「人間の尺度」で満足のいくレベル、すなわち「ヒューマン・スケール」のレベルにまで到達した。1TBのディスク・スペースがあれば、自分が過去に交わしたすべての会話を保管したり、個人の生活を分単位で撮った写真を一生分保管したりすることも可能になる。
――それはビジネスにとってどのような意味を持つのか。問題解決に対する考え方が根本的に変わるだろう。実際に、それはコンピュータ・サイエンスにさまざまなかたちで反映されてきている。例えば、データ・ドリブンの処理を必要とする「マシン・ラーニング」などのテクノロジーでは、これまでは十分にデータを利用できなかったため、マシン(言語)翻訳、特定のビジョン・アルゴリズムの処理や分析を行うができなかった。
しかしここに来て、このようなマシン・ラーニングや統計学的テクニックにかかわる分野で大きな変化が起きている。1997年当時なら、ディスク容量が1TBもあればインターネット全体を保管することもできたはずだ。しかし、いまやその程度の容量は個人のハードディスクで利用できる。
――Microsoft Researchが打ち出す次なるテクノロジーとは何か。これまで、「次世代テクノロジー」と言われるもののほとんどは、社会によって定義づけられてきた。つまり一般の人々が普及に貢献したものが多く、科学者やエンジニアはしばしばそれに驚かされてきた。
しかし、現在起きている現象の1つは、上位技術である「インテリジェンス」をさまざまな種類のデバイスに組み込むという逆向きの動きである。例えば、センサーやセンサー・ネットワークの世界ではすでに多くの取り組みが進められており、エネルギー消費量を測定する環境センシングなどの分野にも大きな影響を与えている。
当社は現在、冷却コストを軽減するために、分散型環境センサーを使って大規模なデータセンター内の状況を監視する方法などに関する研究を重ねている。また、ユーザー・インタフェース・テクノロジーの進化に関しては、(今年5月に発表した)テーブル型デバイス「Surface」を見れば、その進化を実感していただけるはずだ。しかし、これは当社がこれから提供するさまざまな技術のまさに“サーフェス”(表面)にすぎない。
今後2~3年後には、液晶ディスプレイの平方インチ当たりのコストはホワイトボードのそれと互角になるほど低下するだろう。そうなれば、利用の形態も根本から変わるはずだ。
――「Microsoftは真のイノベーターではなく、追随者だ」という見方もあるが。批判的な見方はいつでも存在し、しかもそれを変えるのはなかなか難しい。
しかし、各地で開催されている各種のコンピュータ・サイエンスのコンファレンスに参加すればわかっていただけると思うが、Microsoft Researchはほかのどの組織よりも多く研究論文を発表しており、多くの分野で技術をリードしている。そういう意味では、当社は世界有数の出版社であると言ってもいいかもしれない。
Microsoftの研究部門は、社内のほかのどの部門よりも早いペースで組織強化を図っており、この15年間、年間平均50人のペースで研究者を増員してきた。これは、カリフォルニア大学バークレー校のコンピュータ・サイエンス学部の教授陣を毎年丸ごと雇い入れるのと同じだ。
――Googleに追いつくためにどのような研究を行っているのか。今日の検索エンジンは、いくつかのキーワードに対して該当する大量の記事が検索結果として返ってくる。ユーザーはその中から必要な情報を探し出さなければならない。われわれは、ユーザーが提示した質問に対して明確な答えを抽出する方法を研究している。
――「Microsoftのソフトウェアはバグが多い」という声に対してどう答えるか。バッファ・オーバーフローの問題はなぜ解決できないのか。バッファ・オーバーフローをフィックスする方法はすでにわかっており、当社のほとんどのソフトウェアはすでにフィックスしている。出来るだけ早く、すべての製品に適用されることを望んでいる。ただ、われわれは、Microsoftのシステムとともに出荷されるすべてのソフトウェアを管理しているわけではない。しかし、どんな小さな過ちでも、それが脆弱性につながる可能性があることは十分に認識しており、Vistaのデバイス・デベロッパー・キットでは、多くの問題を回避できるプログラム・プルーフ・キットを用意した。
われわれはこの数年の間に、数百万行レベルの巨大なコード群の特定の問題を検証できる優れたテクノロジーを開発した。
しかしインプリメンテーションだけでなく、設計自体にも解決すべき問題は残っている。もちろん設計の段階から完全に欠陥のないシステムを開発するのが理想だが、それを実現することは困難だ。プログラムの問題点は検証できても、正確性を検証することはできない。なぜなら、正確性を定義する手法がまだ確立していないからだ。問題を正確に理解していないために問題を解決できない場合もある。
――そうした問題に対して具体的にどう取り組んでいるのか。正確性を向上させる言語のサポートに取り組んでいる。われわれはプログラムに仕様情報を組み込むことができる「Spec#」と呼ぶC#の派生言語を開発したが、これによって当社のプルーフ・ツールでは仕様情報と実際に書かれたコードとの間に整合性があるかどうかを検証することができる。あらゆる段階のプルーフを組み合わせて、システムとそのアプリケーション全体に特定の問題点があるかどうかを判別することができる。
――「VistaはMicrosoftWindowsの最後のメジャー・リリースとなる」との声も聞かれるが?彼らは現状のOSに満足しているのだろうか? わたしから見れば、OSにはまだまだ改良の余地がある。
――しかし、次期OSは基盤からまったく新しいタイプのものになるのではないのか。Windows 95やWindows 98と比べれば、Vistaも新しいOSと言える。今までとは明らかに異なるステージに入っている。
将来、例えば、Webとの統合性が強化されたOS、多数のマシンに対応する高度に分散化したOS、新しいタイプのインプット(コンピュータ・ビジョン、音声、ジェスチャー)をサポートしたOS。マルチプロセッシングを真に活用した新しいOSが登場する可能性がある。しかしどの時点で「根本的に新しい」と呼ぶのかは難しい問題だ。
(Computerworld.jp)
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