それでもLUGは我々に必要なのか

 Linuxの世界では、ここ10年で多くの変化が起こった。オペレーティングシステム自体が発展を遂げ、もはや「新興勢力」ではなくなった。しかし、Linuxコミュニティを支える組織の1つLinuxユーザグループ(LUG:Linux User Group)は、一部の地域でその勢いに翳りが見えてきているようだ。LUGの会長たちによると、参加率が低下してミーティングを中止するところもあるという。もはや我々にLUGは不要ということなのだろうか。

 信義に厚い会員たちは、LUGの役割がLinuxに初めて触れる人々への支援から同じ考えを持つ人々の社会的な集まりへと移行しつつあると捉える傾向がある。たとえLUGミーティングの参加者が減っても、従来のサポートがなかなか得られない環境ではLUGが必要不可欠な存在である点は変わらない、と言う人もいる。

 数年前、LUGは絶頂期にあった。車で行けるほど近くにLUGのある恵まれた環境にいた人なら、おそらく毎回のようにミーティングに参加していたはずだ。Linuxとそれが象徴する理想の双方に対する熱意から、アジェンダは刺激的なプレゼンテーションで一杯になり、毎晩がデスクトップへの新たなディストリビューションのインストールや、我々の熱気を煽ろうとするRed Hat、Corel、SUSEのような企業から提供される多くのフリーソフトウェアの動作に費やされたものだ。

 現在、数多くのLUGで参加者が減少し、普通はLUGがスポンサーを務めるLinuxイベントのなかにはAtlanta Linux Showcase(ALS)のように廃止になったものもある。ALSの発起人の1人でAtlanta Linux Enthusiasits(ALE)グループのスポンサーでもあるChris Farris氏は、ALEの価値は「2001年から2003年にかけてのドットコム破綻以降」、地に墜ちたと語る。「私に関して言えば、ALEの衰退とALSの活動停止との間には関連性があった。ALSは、私がLinuxコミュニティに大いに関与する要因になっていたからだ」。Farris氏によると、ALEはメンバーたちがアトランタの交通渋滞を回避できるように、中部、北東部、北西部の3つのグループに分かれているという。「北西部の活動は断続的で、北東部には定期的な参加者がいるがその数は10人に満たない。中部にはまだそれなりに参加者がいるが、1995~1998年にジョージア工科大学で見られたような状況にはほど遠い。あの頃は、ひと部屋に100人も集まることがあったのだが」(Farris氏)

 ノースカロライナ大学シャーロット校(UNC Charlotte)のLinux User Groupの窓口を務めるBrad Spry氏は、同LUGでも出席者が減っているが「その理由は単純なものではない」と話す。LUGの拠点が大学にあるため、適切なミーティングの時間設定が難しい、というのだ。そのため、彼のグループにおける最も貴重な資産はlistserv(メーリングリストドライバ)だと彼は言う。「電子メールであれば時間的な制約がない。時間のあるときにいつでも参加できるわけだ。まったく、大学というのは忙しいところだ」

 メールの活用については、ALEのVernard Martin氏も同じ意見だ。「ALEはいくつかのグループに分かれているが、全体のメーリングリストはまだ1つのままなので、その購読者数は各ミーティングの参加者を合わせた数よりも多い」。メーリングリストによるやりとりを見ると、このLUGがまだ「かなり役に立っている」ことがわかる、と彼は言う。

 フロリダ州のタンパ湾一帯を拠点とするSuncoast Area Linux User Group(SLUG)の場合、現在よりも活動が盛んだった頃には、少なくとも3つの国に分派グループが存在した。現在、SLUGは縮小傾向にある。会長のPaul Foster氏は次のように話す。「これは必ずしも悪いことではない。参加者が減ったからといってLUGに手を加える必要はないと私は思う。時が経てば、市場も環境も変わるものだ」。しかし、Foster氏は、わざわざ何マイルも車を運転してミーティングにやって来る人がいないと思っているわけではない。「ガソリンはまだそれほど高くない。人々が来ないとしたら、それは明らかにミーティングにそれだけの価値がないからだ」

 「SLUGの最盛期は、Price Waterhouse Cooper社のオフィスビルでTampaミーティングを開いていた頃だ。我々は大きな部屋に、高速インターネット回線とテーブルごとの電源を用意した。技術的な講演が何件も行われ、多くの質問が飛び交った。ミーティングには、毎回30~40名の参加者がいた」。SLUG側でインターネットアクセスと電源のコンセントを用意できなくなると、ミーティングの参加者が減少した、とFosterは言う。「参加者は20名ほどに減った。今はどうなっているかわからない」

まだまだ健在
 最盛期を過ぎたとはいえ、一部のLUGには依然として勢いがある。シドニーのSLUGのメンバーであるJeff Waugh氏によると、同LUGの月例ミーティングには、メーリングリストや業界コミュニティにおける強い存在感の影響で、今なお「60~100名」の参加者が集まるという。また、ニュージャージー州プリンストンのLinux Users Group、LUG/IPは今なお成長を続けている、とメンバーのBrian Jones氏は言う。「我々が出会うLinux初心者の数は増えつつあり、PCを購入してLinuxについて知りたいと思っている新規のコンピュータユーザも全体的に増えている」

 Foster氏は次のように語っている。「Linuxに対する私の熱はかなり冷めてしまった。つまり、こういうことだ。最初にLinuxに関わったときには血が騒いだ。Windowsに嫌気がさしていたところに、自由に使えるものが現れたのだ。フリーのコンパイラを使ってプログラムを開発することができ、あらゆる情報がしっかりと公開されていた。だが当時、Linuxを理解するのは必ずしも容易ではなかった。インストールするには、私の知らない、またWindowsでは必要のなかった多くの情報が必要だった。そして10年経った今も、私が使っているのはほとんどLinuxだけであり、そのことに悔いはない。しかし、今では、やるべきことをするのに必要な知識のほとんどは頭に入っているし、インストールを行うにも私が多くのことを知る必要はなく、ハードウェアの状況はソフトウェアがほとんど理解してくれる。私はLinuxが大好きだ。かといって、ただ刺激を与えてくれるだけの存在ではない。ちょうど新車を買うのに似ている。最初は外観に魅了され、新車独特の雰囲気を感じる。数か月が過ぎてもその車を気に入っている気持ちは変わらない。だが、すっかり普通の車になってしまっている。それは単なる移動の手段であり、その車のことで頭が一杯という段階は終わってしまっているのだ」

ソーシャルネットワーキング

 最近のLUGミーティングでの話題は特にLinuxに限ったものではない、とFoster氏は言う。「全体的に見ると、ディスカッションの内容は、家のリフォームや妻に関することから、Verizonをはじめとする独占的企業まで多岐にわたっている。ミーティングでは毎回必ず1つはLinuxの話題を取り上げるようにしているが、そうしたディスカッションは10分ほどで終わるのが普通だ。参加者はすっかりLinux初心者ではなくなっている。彼らは、日常的にコンピュータを使って技術またはネットワークに関する仕事をしている人々だ。我々のところではプレゼンテーションを行っていないが、機器を持ち込んで自前でやるという人がいれば大歓迎だ」(Foster氏)

 Linuxとの付き合いが長い一部の人々にとって、人々と楽しく話せる集まりは願ってもない場だ。「LUGには廃れていない面もある。それが人間関係に関する部分だ」と語るのは、トロントのGTALUGの「トラブルメーカー兼トラブルシューター」、Chris Browne氏である。「愛好家にとっても熱烈な支持者にとっても、大切なのは他の支持者たちと一緒に集うことだ。趣向が同じ人々と出会えることが肝心なんだ」

 SLUGメンバーのDylan Hardison氏は、LUGにおける自らの唯一の関心について次のように話す。「それは毎回、仲間と顔を合わせること。プレゼンが見られるとか、新しい知識が身につくとか、何かがフリーで得られるといったことが重要だと考えたことはない。地理的に近くにいる友人はすべて、SLUGで知り合った人たちだ。婚約者ともこのミーティングで出会った。これまでにやってきた仕事の大部分は、SLUGやSLUGで会った誰かに何らかの形で関係している」

 オーストラリア、シドニーのSLUGメンバーJeff Waugh氏も、出会いの場としてのLUGの重要性を認めている。「ユーザベースの組織的で飛躍的な拡大、アイデアの交換、仕事上の接点の提供といった点において、LUGは依然として重要だ。Linuxの熱がすっかり醒めれば、最終的にはLUGの“社会的な部分”がデフォルトのモードとして注目される可能性もある」

 「我々のLUGは、十分な活動を行っていない」と語るのは、タンパ地区でずっと前からSLUGメンバーになっているRussell Hires氏だ。「実際、我々のLUGにはクールなWebサイトなどない。プレゼンもそれほど頻繁には行われていない。それは承知している。1、2回は私自らが行ったが、自分でも納得のいくものではなかった。かつてはいくつかの取り組みを行っていたが、最近は本当に何もしていない。我々には専門知識はあるようだが、熱意や経験、能力があってLUGのために全精力を注ぎ込む人物がいないのだ。皆、誰かほかの人が何かしてくれるのを待っているような気がする」

 Spry氏は、もっと関心を高めようと試みていると語る。「最近、私が行った試みの1つがLinuxとMacのユーザーグループを合併させるというものだ。今や両者には多くの共通点があるので、一緒になればもっと大きな影響力を持つ団体になるだろう。どちらのグループもこの考えに賛同を示していたようだが、この話はすっかり立ち消えになってしまった。無気力、無関心がはびこっている。まるで、何かを支持するという考え方は陳腐化してしまったようだ」

 こうした関心の低下は、オペレーティングシステムからその上で動作するアプリケーションへの注目の移行にとどまらず、「最近Linuxをインストールしたばかりの人に何ができるかについてのアイデアの応用方法とコンセプトを示し、その種を蒔くことにもつながっている」と捉える人もいる、と語るのはSimi Conejo Linux User Groupの会長Gareth Greenaway氏である。Simi LUGの会員はこの数年で減少したが「その原因のほとんどはミーティングに興味深い話題がなかったことにある」とGreenaway氏は言う。またFarris氏は、ALEで取り上げた話題は「たいてい、Asterisk、MythTV、dosemu、Exchangeの代替ソフト、TivoといったLinuxで動くアプリケーションに関するものだった」と話している。

 「カーネルを中心に扱ったLUGなんて聞いたことがない。LUGの中心はいつもアプリケーションだ」と述べるのはオーストラリアで活動するコンピュータハードウェアコンサルタントTerry Collins氏である。

 取り上げる対象や目指す方向性がどうであれ、心からLUGを退会したいと思っている人はどこにもいない。「我々はまだLUGを必要としている。LUGは、その道の専門家、学生、愛好家が集まり、話し合い、人脈を築く場なのだ」(Farris氏)

 Foster氏は最後に次のように述べている。「ほとんどの場合、LUGは少し変わった人々の集まりだ。彼らは、きわめて技術的な分野に関して相当な理解力がある。また概して、礼儀正しく陽気で、見返りを求めずに手を貸してくれる人々だ。お互いの自宅でバーベキューをするような関係ではないし、利害や宗教も一致しないかもしれないが、それでも我々は友人と同じくらいにお互いを信用することができる。そういう理由でグループを作っても悪くはないだろう」

Tina Gaspersonは権威ある業界誌のいくつかでビジネスおよびテクノロジ関連の記事を執筆している。1998年からフリーランスのライターとして活躍。

Linux.com 原文