GNU/Linux認定の需要が再び急増

 GNU/Linuxなどフリーソフトウェア分野の認定とトレーニングに対する需要はここ数年間下降気味であった。しかし、過去の状態、現在のトレーニングコースと顧客サービス、そして今後の傾向を考えると、認定の需要がここに来てこれまでにはないほどの高まりを見せているというのが、この分野の専門家たちの一般的な見解だ。

 GNU/Linux分野の認定は、もともとはGNU/Linuxオペレーティングシステムの認知度が最初に高まった時期である1990年代後期に登場した。しかし今世紀に入ってからの最初の数年は、LPI(Linux Professional Institute)のCEOを務めるJim Lacey氏によると、認定がいったん「市場に過剰に出回り、過剰に販売された」ため需要が減少した。需要が減った理由の一つは、フリーソフトウェアを大々的に利用していることの多かったドットコム企業の没落であったが、Lacey氏によると「認定が本当にその人の能力を正確に測定しているのか」という疑問も広く唱えられていたのだという。さらに、認定の取得は学生が将来的に就職や良い給与を得るのに役立つという認定試験提供各社の主張が結果的には大げさであったことも判明した。CompTIAの製品マネージャであるCarol Balkcom氏は「実際の需要以上の誇大な宣伝がなされていたということなのだと思います」と言う。またGNU/Linuxデスクトップ市場も期待されていたほどの速度では伸びなかったため、管理者や技術サポートの専門家に対する需要も予測を下回る結果となった。

 しかし現在、認定プログラムを提供している各企業によれば、認定に対する需要が再び高まっているのだという。Novellのトレーニングサービス担当ディレクタSteve King氏は「認定に対する需要は昨年、四半期を終えるたびに20~30%の伸びがありました」と言う。またRed Hatの認定/カリキュラム担当ディレクタであるRandy Russell氏も、特に上級のプログラムにおいて同様の伸び率があったとしている。さらにO’Reilly School of TechnologyのディレクタであるScott Gray氏が示す数字はさらに大きく、2006年の伸び率は50%であり、2007年の伸び率は60~70%になると見積もっているとのことだ。

 世界的に見た場合は、はっきりとした傾向はつかみにくい。King氏によるとフリー/オープンソースソフトウェアへの関心の高まりを反映して、認定についても「世界中のどこにおいても非常に安定した一定量の」関心が見受けられるという。またKing氏は、GNU/Linuxの導入自体がまだ初期の段階にあるため、例えばMicrosoftのオペレーティングシステムのより成熟した認定プログラムと比較して急激な需要の高まりが見られたとしても、それはごく当然のことだと示唆した。

 一方Lacey氏は、各国の市場によってはっきりとした違いが見られるとしている。例えば日本では2000年以降、特にLPIの認定が着実に増加を続けており、さらにヨーロッパ、特にドイツでも市場が急速に拡大しているという。しかしLacey氏によると中国、インド、ブラジルでは現在はまだ成長が始まったばかりであるとのことだ。

トレーニングコースの多様化

 GNU/Linuxの認定が開始された当初のトレーニングコースは、主に管理者(ある程度は開発者についても)を対象とした基礎的なコースとして設計されていた。しかしこの数年で提供されるコースの幅が広がった。一般ユーザ向けのコースは(NovellのOpenCourseWareで多少の教材が提供されている以外には)まだ稀だが、それでも「Red Hat Certified Technician」や最近発表された「Novell Desktop Administrator」といったプログラムなど、技術に関心を持つ人向けの入門コースが登場し始めている。Lacey氏はこのような入門コースは「いつ大化けしてもおかしくない市場」だと見ている。

 とは言え今のところ最大の成長を遂げているのは上級/技術者向けコースのようだ。CompTIAはこのような傾向に対応するため、自らを他のプログラムの基礎となる「予備認定」という存在にしようとしている。一方Red Hatの認定では最近、上級レベルの「Red Hat Enterprise Architect」認定と「Red Hat Enterprise Security」認定に人気が出ており、同社では、クラスタリング、ストレージ管理、エンタープライズでの導入、システム管理といったテーマに強い関心が寄せられていると見ている。同様に、LPIのLevel 3認定はセキュリティや異機種混在環境や組み込みシステムなど多岐にわたる選択科目と、中核テーマとから構成されているが、Lacey氏によるとLPIではLevel 3の全選択科目の取得に関心がある人向けに、さらなる認定レベルを設けることを検討しているとのことだ。またLPIでは、特定のソフトウェアについてのコースを増やすためにUbuntuやMySQLとも協力している。一方King氏によるとNovellは現在、クロスプラットフォームの互換性についてのトレーニングの提供を「Microsoftと検討中」であるとのことだ。なお上級のテーマでは特定ディストリビューション上での設定知識が必要となることが多いため、そのようなコースの追加はベンダ中立的な立場を取るLPIやCompTIAにはとりわけ困難になる可能性もある。

 トレーニングコースがこのように多様化したことにより、学生たちを適切なプログラムへとどう導くかという問題が生まれた。そこでNovellでは、はじめての学生に対して無料で技術査定を行なうことでこの問題に対応した。この試みに対する学生たちの利用度と意欲は、King氏の表現を借りると「驚異的」であるとのことだ。とは言えCompTIAのBalkcom氏が指摘するように、認定試験を提供する企業側がどれほど努力しようとも「この類いの認定試験には、まったく経験がないのに受験に来る人たちが必ずいるのです」とのことだ。

筆記試験vs実技試験

 どの分野におけるトレーニング/認定業界にも共通したことではあるが、GNU/Linuxトレーニングの関係者たちも、筆記試験と実技試験のどちらの方がより好ましいかという点において二つの立場に分かれている。筆記試験では、選択問題や穴埋め問題といった形で出題が行なわれ、試験はどこででも実施することができる。一方実技試験は、学生が必要な技術を習得しているかどうかをより確実に証明する方法であるとされることが多いものの、特に会場が遠方である場合、有能な技術者が試験を受けるために本業を休まざるを得なくなるという状況も少なくなく、都合が悪い。

 実技試験を提供する企業は、実技試験の方が認定の信頼性が高いと主張する。King氏によると「実技試験に合格した認定取得者は実際に特定の仕事をすることができるということが実証済のため、実技試験は雇用者に対してある程度の安心感を与えることができる」とのことだ。Russell氏も同様の考えであり、同氏が「ペーパー認定者」と呼ぶ人々が原因で認定業界はこれまでに「信用を著しく損なってきた」と指摘する。さらにRussell氏は、ITトレーニング/認定業界が全般的に実技試験の方向へ傾き始めているとも付け加えた。Russell氏によると「すでに実技試験を実施している認定試験提供企業は、もっと実技試験を増やすことを検討しており、まだ実施していない企業は、現在実施方法を検討中」なのだという。またRussell氏は、将来的にはeラーニングやブレンデッドラーニングによって実技試験も便利になるかもしれないと指摘した。

 対照的に、筆記試験を実施している企業の人たちは、そもそも筆記試験を実技試験と対立的なものと考えること自体が適切でないとする。Balkcom氏は「選択問題の試験は本来、基礎知識を測ることを目的としています。あるテーマについてその人がどれほどの基礎知識を持っているのか、その人がそのテーマにどれほどの時間を費やしてきたのか、その人がそのテーマに本当に関心を持っているのかといったことを把握したい場合には、選択問題の結果から適正な判断を下すことができます」と言う。Lacey氏も同じ考えであり、重要なのは「認定プログラムが実際の仕事の流れをよく分析した上で作成されているかどうか、そして認定試験が人間心理を考慮した上で作成されているかどうか」なのだという。

 O’ReillyのGray氏はまた別の見方をしている。Gray氏によると筆記試験も実技試験も、知識を示し、学生がその知識を獲得しているかどうかを試すという客観主義的な学習理論に基づいているため、どちらにも不備があるという。そうではなくGray氏は、やってみてそこから学ぶということを重視する構成主義的な学習理論の方を好むという。Gray氏は「今日の世界では、ある事実を知っているかどうかということよりも、問題解決能力、学習能力、思考力があるかどうかということの方が重要です。今では必要な情報は何でも検索すれば手に入れることができるのですから」と言う。この目的のためにO’Reillyのトレーニングコースは、学生が手引書に沿って課題をこなすことのできる、Gray氏が「学習サンドボックス」と呼ぶものを中心に行なわれている。Gray氏によると「この方法では、学生は目の前で起こっていることについて理解し、自分なりのモデルを構築します。すると学生は自発的にたくさんの実験を行なうようになり、与えられた内容以上のことを学習するようになるということが分かってきたのです」とのことだ。

 さらにGray氏は「私が望んでいるのは、いつか試験をベースとする認定がなくなるということです。試験は何かをできない人をふるい落とすだけで何かをできる人が誰かということが本当に分かるわけではありません」と言う。とは言え、Gray氏のような見方は業界内で広く受け入れられているわけではない。

認定の後

 この業界のまた別の問題として、認定に有効期限を設けるかどうかということがある。LPI認定は現在では5年間有効となっている。ただしLacey氏によるとこの有効期限が導入された際に適用を免除された認定者もいるという。一方Red Hatの認定はリリースに対しての認定なので、該当リリースに対してはある意味無効になることはないとも言えるが、認定取得者の確認ページには認定取得の期日が記載されており、認定は2リリースサイクルの間有効だということになっている。Russell氏によると「カレンダー上の単なる任意の日付よりもリリースの方がずっと意味のある判断基準」であるとのことだ。対照的に、CompTIAとO’Reillyの認定には有効期限はない。ただしCompTIAは同社のトレーニングコースがISOとANSIの認証を取得するために有効期限を設けることを検討しているとのことだ。

 また、ほとんどの認定試験提供企業では、認定の取得者たちから非常に好意的なフィードバックがあるとしている。特にRed Hat認定の取得者はその認定を誇りに感じているようだ。Russell氏は「彼らはRed Hat認定を他の多くの認定よりも『上』だと感じているようです。そしてそのような資格を持っていることを誇りに思っています」と言う。Russell氏はまたRed Hat認定の取得者たちは、メディアでRed Hat認定プログラムが取り上げられた際などに即座に支持してくれるとし、彼らの職場においてもコミュニティ全般においてもRed Hat認定プログラムの「素晴らしい唱道者」になっていると表現している。

 一方でそのような認定取得者のためのサービスはと言うと、まだ始まったばかりの状態で各社で対応が異なっている。例えば、O’Reillyでは、学生は月々のラボ料金を支払うことで「学習サンドボックス」の利用を継続することができる。Gray氏によると、実験用の環境として、また、就職活動中にもアクセスすることができるインターネット上のファイルサービスとして、学生の約40%がこの仕組みを利用しているという。またRed Hatでは学生はメールフォーラムにログインして仲間と連絡を取り合うことができる。一方LPIでは現時点ではそのようなサービスは提供されていないが、Lacey氏によると特定の市場におけるキャリアマッチングサービスが現在試験段階にあるという。今後この市場の競争が激しくなるにつれ、このようなサービスへの関心も高まるかもしれない。

今後の傾向

 今回意見を聞いた人の全員が、GNU/Linuxの認定は今後も継続すると見ていた。またその多くが認定プログラムのトレーニングコースをさらに増やすことを検討しているとしており、さらに全員が既存のコースのアップデートの必要性を強く感じていた。なお、仮想化などの新たなテーマの採用と古いテーマのその時点での妥当性を再評価するプロセスについてRussell氏は「10リットルの泥を圧縮して、何とか5リットル用の袋に詰め込もうとしている感じに似ている」と表現した。

 このように試験やトレーニングコース教材に最近のテーマを反映させること以外にも、認定プログラムの提供企業は個人や企業の顧客向けにより多くのサービスを提供することにも関心を向けている。例えばLPIでは、新たなテーマについての広範な認定プログラムや、よりベンダに特化した認定の計画を企業とともに検討するなど、企業向けのコンサルティングに重点を置いている。同じようにRed Hatも、トレーニングコースの受講をより便利にすることなど、企業顧客のニーズに関心を寄せている。

 この記事で紹介したような認定に関する現在の活動や将来的な予定を考えると、Lacey氏が言うように「認定に対する需要の急増とオープンソースに対する投資が再び戻ってきているように思われる」という点について疑いの余地はほとんどない。この点について異議を唱える人は業界内にもほとんどいないだろう。認定市場は明らかに拡大しており、今後ますます成長しそうな勢いだ。

Bruce Byfieldは、NewsForge、Linux.com、IT Manager’s Journalへ定期的に寄稿するコンピュータジャーナリスト。

NewsForge.com 原文