GPLv3ドラフト新版:特許やロックダウン技術に対する新たなアプローチを導入
これまで15ヶ月間に渡る徹底的な作業を行なってきたGPLv3の改訂プロセスはこれから最終段階に突入することになるが、これらの新たなアプローチの導入が火種となって、すでに過熱気味の議論がますます白熱することになりそうだ。
法律用語とその説明
今回のGPLv3ドラフト第3版においてまず最初に目に付く変更と言えば、GPLv2よりもあからさまに法律文書らしくなっていることだろう。ドラフト第3版も以前のドラフト版と同様に一連の用語の定義から始まっており、ドラフト第3版では今までの版と比べてその定義の多く(例えば「システムライブラリ」の定義など)について明確さをより高めるための微調整が行なわれている。
またさらに目立つ変更として、ドラフト第3版では他の法律文書への参照が行なわれているということが挙げられる。例えばロックダウン技術についての議論の中ではWIPO著作権条約(1996年12月20日採択)の第11条が参照されており、また「User Product(ユーザ向け製品)」の定義の説明のベースとしてマグナソン・モス保証法(15 U.S.C. 2301)が参照されている。
WIPO著作権条約への参照は、以前のDMCA(デジタルミレニアム著作権法)への参照を置き換えたものであり、この変更はGPLv3の米国外の司法管轄区での使用や他言語への翻訳を行ないやすくするために文言を国際化する取り組みの一環でもある。
なお国際化を進めるための取り組みには他にも、第15項「無保証(保証の否認)」と第7項とに、各司法管轄区での条件に合わせてディストリビュータが利用することのできる無保証(保証の否認)に関する文面が一段落さらに追加されたことなどがある。
以上のような変更によりGPLv3は、それ自体で完結していてGPLv3に書かれている文面だけを読めば良いというライセンスではなくなりつつあり、普通のユーザにとってはますます理解しにくいものになってきた。しかし法律的により明確になったことで、おそらくライセンスの実効性は高まったのではないかと思われる。なお理解しにくさを補うかのように、GPLv2の特徴でもあったGPLの使用方法について書かれた付録がドラフト第3版では復活している。
細々とした変更点
特に議論になりそうではない規定としては、オブジェクトコードと一緒にソースコードを提供する義務についての変更などがある。前回のドラフト第2版では、公開されたネットワークサーバ上でソースコードを提供するという規定が新たに設けられていた(ドラフト第3版では第6項b)。それに加えてドラフト第3版では第6項dにおいて、オブジェクトコードが入手可能である間ずっとソースコードも入手可能になっている限り、オブジェクトコードとソースコードを異なるサーバ上に置くことを許可している。ただし、「オブジェクトコードに対応するソースコードの入手場所を示す明確な指示を、オブジェクトコードのすぐ隣りに書いておく」必要がある。
その他にも、GPLv3と他のフリーなライセンスとの互換性を高めることをねらった項目を列挙した第7項が細々と変更されている。
またドラフト第3版では、(ドラフト第2版での)第7項b4がライセンスを単純にする目的で省略された。これは第7項b4が、公開されたネットワークサーバ上でのソースコードの提供に関するドラフト第3版第6項dの規定と両立しないためだ。同様に(ドラフト第2版での)第7項b5についても、ドラフト第3版の特許についての新たな文言と両立しないため省略されている。
さらにドラフト第3版第13項の単純な宣言によって、Affero General Public Licenseとの互換性が実現している。以上のような項目にはまだ微調整が必要かもしれないが、その背景にある意図については特に議論の必要がなさそうだ。
ロックダウン技術に対抗するための文言
前回のGPLv3ドラフト第2版の中でも最も物議をかもした点は、「本許諾書の他の条項に関わらず、『保護された著作物』を実行するユーザが、本許諾書によって認められた法的権利を最大限に行使することを拒否するような伝達形態には、一切の許可を与えない」という宣言だった。
Linus Torvalds氏をはじめとする主要なカーネル開発者たちは、選択の自由の侵害であり(つまるところ)干渉すべきではないことだとして特にこの規定については声高に反論した。この点は、ユーザの自由を重視するフリーソフトウェアコミュニティと、コードについての自由を重視するオープンソースコミュニティとの違いをGPLv3についての議論の中で最も鮮明に際立たせたものだった。
GPLv3でロックダウン技術(あるいは、最も有名な事例にちなんで「Tivo化」とも)の問題に対する新しいアプローチが取られたのも、この議論が発端となっていると言って間違いないだろう。ドラフト第3版では、そのような技術はすべてGPLv3と非互換であると宣言する代わりに、オブジェクトコードに「対応するソースコード」をオブジェクトコードの生成/インストール/実行に必要となるすべてのソースコードと定義している。
そしてこの定義に沿う形で、ディストリビュータに対しすべての「User Product(ユーザ向けの製品)」(所有や使用のためのライセンスが必要な消費者向け製品のすべて)に「Installation Information(インストール情報)」を含めることを義務付ける長い規定が第6項に追加された。「Installation Information(インストール情報)」とは「改変された当該作品のインストールや実行に必要となる方法/手続き/認証キーなどのすべての情報」だと定義されている。
なおInstallation Information(インストール情報)は、製品を改変したい場合に改変した製品をちゃんと機能させるのに必要なだけの情報が完備されていなければならない。ただしこの条件はオブジェクトコードの改変が不可能な場合(例えばROM上にインストールされている場合など)には適用されない。また改変された作品に対するサポートの提供を義務付けるものでも決してないが、情報は公開された文書という形で提供する必要がある。ドラフト第3版第10項の下では、Installation Information(インストール情報)についても、これまでのソースコードについてとまったく同じようにユーザが入手できるようになっていなければならないということだ。
以前の版のドラフトでの確固とした立場からすると、このような新しいアプローチは表面上は後退のように思われるかもしれない。しかしロックダウン技術についてFSFが最も懸念していること(つまりフリーソフトウェアの実行の妨げになる可能性)については、この新たな文言によって解消されている上、すでに広く受け入れられている条件に基づくものであるため、以前の版で批判していた人々にも受け入れられる可能性がある。
特許についての文言
2006年夏にドラフト第2版がリリースされた際に十分に対処されていなかった大きな問題の一つとして、GPLと特許の関係があった。そしてSoftware Freedom Law Centerのドラフト作成メンバーも当時から、GPLv3の作成に協力していた委員会の企業メンバーとの議論が非常に長引くことになるだろうとは予測していた。
その上、FSFも認めている通り(翻訳記事)、特許についての議論は2006年11月にNovell社とMicrosoft社との間の契約があった後、さらに激しいものになった。この契約は、Novell社のSUSE Linux Enterpriseを再配布するためにMicrosoft社がNovell社に対してロイヤリティを支払うということと、GNU/Linuxの中にMicrosoft社の知的所有権が見つかった場合に、Microsoft社はNovell社の顧客に対してだけは特許を主張しないという内容のもので、このことはたとえGPLv2の文面には違反していなくとも、その精神には違反するものと広く受け取られた。そのため、そのような契約を明示的に阻止することがGPLv3の新たな関心事となっていた。
ドラフト第3版では、特許についての懸念のすべてに対処するため、GPLv3の(特許を扱う)第11項が広範囲に渡り手直しされ強化されている。ドラフト第2版では、特許を主張しないというディストリビュータによる誓約に留まっていたが、ドラフト第3版では特許についての取り扱いについては「開発協力成果物に開発協力者が持つ基本的な特許権利が含まれる場合、作成/利用/販売/販売のオファー/輸入などを行なうために必要な、またその他上記以外の目的であっても実行/変更/頒布を行なうために必要な、非排他的で全世界的なロイヤリティなしの特許ライセンス」とはるかに明確に定義されている。
さらにその文言を強化するために、「特許ライセンス」は「特許ライセンス、あるいは特許違反で訴えることはしないという誓約、あるいは特許権を行使することはないというその他の明示的な協定/約束等(いかなる呼び名であれ)」と定義されている。同様に、特許ライセンスに該当することを知っているソフトウェアを配布する場合は、ソースコードを公開して特許ライセンスを放棄するだけでは十分ではなく、特許保護の対象を最終的な受け取り手にまで広げなければならないとも書かれている。
Novell-Microsoft契約への対応
Novell-Microsoft契約への対抗策として第11項ではさらに、サードパーティとのビジネス上の協定の一つとして一部の人々にだけ特許保護を行なうことを禁じている。なおこの段落の最後の文では、2007年3月28日以前の同種の契約については除外されている。ただしこの文はカッコ付きであり、この既得権者に対する例外規定は、現在はまだ試験的に付け加えられているだけの状態であることが示されている。
FSFのコンプライアンス・エンジニアBrett Smith氏によってメディア向けに提供されているドラフト第3版の説明には、「私たちはこの問題についてのコミュニティからの意見を期待」しているとある。Novell社は(Microsoft社との契約は「2007年3月28日以前」なので)将来的にGPLv3でライセンスされるソフトウェアも配布することもでき、フリーソフトウェアコミュニティとの良好な関係を保つことにもなるので、GPLv3を受け入れるかもしれないが、他の企業がそのようなNovell社の特別な立場を受け入れるかどうかは不明だ。
今後の行方
ドラフト第3版はこれから60日間のレビュー期間に入る。この間FSFは、ドラフト第3版の文言や意図するところを広く一般に説明しながら、コミュニティからの意見を踏まえてリリース候補の作成に取り掛かる予定だ。このレビュー期間が終わるとドラフト最終版がリリースされ、その後さらに30日間のレビュー期間となる。
しかしそのようにプロセスが手際よく計画されているからと言って、実際に計画通りに手際よく事が進むのかどうかは定かではない。明確さのための文言の変更や国際化しやすくするための変更が議論を呼ぶことはなさそうだが、ロックダウン技術に対する新たなアプローチについてと特許に関する新たな文言についてはおそらく大々的に議論されることになるだろう。すべての問題を解決するには、90日間では足りないかもしれない。
そして、そのように激しい議論が終わってもなお、広く一般に受け入れられる形で何らかの合意に達することができなかった場合にも、(フリーソフトウェアコミュニティとオープンソースコミュニティとの協力関係が弱まったり、ビジネス界で不満が蔓延したりといったような問題を承知の上で)ライセンスはリリースされることになるかもしれない。何が起こるにしろ、今後90日間は退屈しそうにないことは明らかだ。
Bruce Byfieldは、NewsForge、Linux.com、IT Manager’s Journalへ定期的に寄稿するコンピュータジャーナリスト。