FSFがGPLv3策定の最終段階を変更

 フリーソフトウェア財団(FSF:Free Software Foundation)は、GNU一般公衆利用許諾契約書のバージョン3(GPLv3)を策定する最終プロセスの変更を進めている。FSFの常任理事Peter Brown氏は、この変更の理由として、次のドラフトにおける改訂範囲が広いことと、策定の正念場を迎えるにあたって「FLOSSコミュニティに改めてこのプロセスに関わってもらう」必要があることを挙げている。なお、今回の改訂内容は、最近のNovellとMicrosoftとの協定によって持ち上がった問題や、特許とデジタル著作権管理(DRM)に関わる言い回しについてコミュニティから提起された問題に対処するものになる。

 すでにGPLv3には2つのドラフト ― 2006年1月の初版と同年7月の第2版 ― が出ている。また、当初の計画では、2006年11月にドラフト第3版が、今年1月から3月の間に正式版がそれぞれ公開されることになっていた。

 Brown氏によると、ようやくそのGPLv3のドラフト第3版が今週水曜3月27日に公開されるという。FSFは、ドラフト第3版の公開から60日間を、「最終審査用」ドラフトの作成に向けての言い回しのレビューをコミュニティから受ける期間にあてている。このレビューの終了後、意見聴取のために最終審査用ドラフトが30日間公開されたうえで、GPLv3の正式版がリリースされることになる。

 「重要な変更を加えたライセンスを、この時点で最終審査用ドラフトとして公表するのは好ましくない」とBrown氏は言う。「ドラフト第3版では大きな改訂が行われており、そのため、別途期間を設けてレビューを受ける必要があるのだ」

ドラフト改訂の理由

 こうしたつい最近の改訂の大きな理由になっているのが、2006年11月に結ばれたNovellとMicrosoftとの協定である。この協定については、GPLに違反するのではないかという意見が、メディアとフリーソフトウェアコミュニティの双方から出た。というのも、MicrosoftがNovellのSUSE Linux Enterpriseの再配布にあたってロイヤリティを支払う、またGNU/LinuxによるMicrosoftの知的財産権の侵害が発覚した場合にもNovellの顧客だけは保護される、という内容が含まれていたからだ。現行のGPLの下ではこの協定に法的な問題はないとFSFは判断したが、「GPLv3においては、この類の協定を防止する仕組みの構築と、そうした協定に伴う危険性に対する強力な防衛策の提供」を望んでいた、とBrown氏は語る。

 メディアによる報道とは異なり、最初からFSFは「身内を害して」までNovellに対する意図的な敵意とも見られる言い回し、あるいはNovellがGNU/Linuxを配布できなくなるような言い回しを盛り込むことを望んでいなかった、と彼は言う。今回のGPLv3ドラフトが「誰かに影響を与えるとすれば、それはMicrosoftだろう」とBrown氏は主張する。

 しかし、3月初めにドラフト第3版を公開するという当初の予定に遅れが生じたことで、FSFがNovellにしびれを切らしたのは明らかだ。もはや、FSFはNovellを第三者とは見ていない。「MicrosoftとNovellの特許協定は、特定のユーザを差別して扱うという卑劣なやり方でGNU GPLのねらいそのものを打ち砕こうとしている」と語るのはFSFのコンプライアンス・エンジニアBrett Smith氏だ。「我々が困っているのは、コミュニティに危害を及ぼすような協定をNovellがあからさまに擁護したがっていることだ。こうした態度に対処できるよう、GPLv3に対する追加の方策を検討している」

 今回の改訂のもう1つの意義は、これまでのドラフトで議論を呼んだ部分(特に反DRMと特許に関する表現)についてできるだけ広いコンセンサスをとることにある。Linus Torvalds氏を含むLinuxカーネルの開発者は、ドラフトの第1版と第2版におけるDRM排斥の言い回しに反対を唱えている。また、特許に関する条項は、GPLv3各委員会にいる営利企業の代表者にとっての重要な懸案事項として残ったままである。「このライセンスができるだけの支持を得られることを我々は期待している」とBrown氏は言う。

 しかし、Brown氏によれば、こうした条項にどの程度まで取り組むかについて、FSFは厳しい制限を設けているという。コンセンサスを追求する活動は「合意に達するために正しいことをあきらめることとは違う。DRM排斥の表現に反対する人々は「開発者にとっての自由」にしか関心がないようだが、FSFが目指しているのは「すべての人にとっての自由」なのだ、と彼は述べる。

 「GPLv3では何ら新しいことはしていない。単なる更新だ。人々は、我々がソフトウェアに関係する以上のことをしていると主張する。だが、GPLv2を実際に読んだ人なら誰でも、フリーソフトウェアのねらいが人々に自由を与えることにあることを知っている。自由を奪うことがGPLv2の役割だなどと言う人々は、この点をすっかり見過ごしている」(Brown氏)

弁護の期間

 1年以上前にGPLの改訂作業が始まって以来、ドラフトや策定プロセスへの反響の声に対してFSFが多くを語ることはなかった。例えば、Linux Torvalds氏がドラフト第2版を批判したときには、それに対する唯一の回答が、Eben Moglen氏のブログに載った、改訂プロセスへの参加を依頼する招待状だった。

 Brown氏によると、こうした沈黙は意図的なものだったという。「オープンなプロセスを採用するときは、返答を期待せずにユーザが意見を言えるようにすることが非常に重要だ。言うべきことは何でも言える環境を作りたかった。だから、我々は論争をしなかった」

 しかし、ドラフト第3版の公開を済ませ次第、FSFは「弁護の期間」へと移行する予定だとBrown氏は話す。「我々の意図についてのもっとわかりやすい説明と、人々からの質問に対する回答を始める必要がある」

 メッセージの発信を容易にするために、FSFはよくある質問に対応できるFAQを用意することを考えている。また、Brown氏は次のようにも語る。「GPLv3について何か質問があればすぐに答えを得られるように、我々はコンプライアンス・エンジニアのBrett Smith氏を電話相談の担当にするつもりだ」

 「これはかなり緊張を強いられる期間になるだろう。明確な最終目標を定めた以上は、人々をもう一度しっかりと巻き込むことができれば、と考えている」(Brown氏)

これまでの振り返りと今後の見通し

 GPLの改訂に関するこれまでの議論は、フリーソフトウェアとオープンソースソフトウェアの各コミュニティ間に生じた分裂の存在を明らかにし、ことによるとその亀裂を深めたことをBrown氏は認めている。しかし、彼は達観した態度でこう言い切る。「そのことで我々にできることは何もない。物事とはそういうものなのだ」

 また、Brown氏は昨年を振り返って次のように語っている。「めまぐるしい1年だった。このプロセスには、各企業がかなり積極的に関与し、自らの意見が採用されるよう熱心に働きかける大勢の弁護士が参画している。関与した大部分の人にとって非常に骨の折れるプロセスだ」

 それでも、「GPLとFSFの活動に対して大いなる注目を向けさせた」ことから、このプロセスには取り組む価値があった、とBrown氏は感じている。FSFが好んで「GNU/Linux」という表記を用いることにさりげなく言及してGNU/Solarisの台頭を示唆しながら、彼は次のように述べる。「これでようやく、人々は「『Linux』という言い方が実状を正しく表現していないことを理解してくれるだろう」

 Brown氏にとって、このプロセスの成功は、何年かかけて見ていかなければ判断できないものだという。「このライセンスは何年間も使われることを想定して作られているので、誰もが直ちにバージョン3への切り換えを行うとは思っていない。我々が期待しているのは、そこに多くのメリットがあることを時間をかけて人々にわかってもらうことだ。だが、何年も後にならなければその結果はわからないだろう」

Bruce Byfieldは、NewsForge、Linux.com、IT Manager’s Journalに定期的に寄稿しているコンピュータジャーナリスト。

NewsForge.com 原文