建築家のためのオープンソースソフトウェア

 12年前に建築家のアシスタントの仕事をしていたとき、建築関連の図面の作成や3Dモデリングを行なうために私はAutoCAD R12、3D Studio、CorelDraw 6.0、Photoshop 4.0を使っていた。現在でも多くの建築家がそのようなソフトウェアの後継版を使用しているが、それらの巨大なパッケージには建築家が決して使用することのないような機能も多数含まれている。しかし幸いなことに、建築家の使用に非常に向いたオープンソースの代替物――AutoCADに代わるQCad、3DMaxに代わるBlender、CorelDrawに代わるInkscape、Photoshopに代わるGIMP――がいくつか存在する。

 CADは、建築家向けのオープンソースのツールの中では、もっとも未発達なツールだ。AutoCADでは建築家にとって効率の良い機能が提供されていて、例えば何百個もの扉や窓や柱を数秒で設計図に追加することなどができる。一方オープンソースのCADでは、そのような作業のほとんどを一から行なう必要がある。また現時点のオープンソースCADアプリケーションでは、まだ大量の定型的な作業をうまく扱うことができない。しかし非定型的な設計を行なったり自分の需要に合わせた特注のCADソフトウェアを作成したりしたい場合には、オープンソースは優れた選択肢だ。

 QCadのコミュニティ版はオープンソースのシンプルな2D CADアプリケーションで、建築設計図の作成にも適している。QCadコミュニティ版は台湾などの国や地域では非常によく使われていて、台湾企業の中にはQCadコミュニティ版を建築設計図のための標準的なソフトウェアとして使用している企業もある。

 QCadコミュニティ版は、QCadプロフェッショナル版の数ヵ月後にリリースされる。したがって例えば、QCadコミュニティ版の現在の最新バージョンは2.0.5.0で、プロフェッショナル版は2.1.3.2となっている。なおQCadプロフェッショナル版は一ユーザあたり33ドルで購入することができる。またプロフェッショナル版にはデモ版があり、ダウンロードして機能無制限で100時間使用することができるが、10分ごとにシャットダウンするようになっている。

 QCadには、点、線、弧、円、楕円、多角形、NURBS、テキスト、寸法記入、陰影、塗り潰し、寸法測定などに関する強力なツールがある。ラスタ画像を使用することもできるし、その他にも多くの編集用ツールがある。またメインウィンドウの中にコマンドラインがあって、そこから製図の制御を正確に行なうことができる。一言で言えば、ベテランの建築家が設計図を作成する際に必要なものはすべて揃っている。

 ただ残念な点として、QCadはAutoCADのDWGファイルをサポートしていない。

 QCad以外のオープンソースのCADアプリケーションには、BRL-CADがある。BRL-CADは3D CADでCSG(Constructive Solid Geometry)モデリングをすることができる。あるいはもし独自のCADを開発したいという場合には、Open CASCADEをプラットフォームとして利用するという手もある。

3Dモデリングとレンダリング

 3Dモデリングのためには、Blenderか、またはBlenderよりもパワフルさで劣るがWings 3Dを使うことができる。

 Blenderは、小さいがパワフルな、3Dモデリング/レンダリング/アニメーション用アプリケーションだ。BlenderはDXF、OBJ、3-DS形式のファイルをインポートすることができる。モデリングを始める際には、建築設計図の左面のビュー/前面のビュー/平面図をBlenterの背景に表示しておくことができる。またメッシュ/曲線/面/メタオブジェクトなどの要素を選んで、さまざまな方法で3Dモデリングを行なうことができる。最新版のBlender 2.44にはSSS(Subsurface Scattering)と呼ばれる新機能があり、SSSを使えば光沢タイルやクリスタルなど、独特の性質を持つ素材の仮想現実を完璧に作り上げることができる。

 Blender.orgにはBlenderのチュートリアルがいくつか用意されていて、ダウンロードすることができる。3-DMaxに慣れた人はBlenderを初めて使う際にもどかしい思いをするかもしれないが、使い続けていれば慣れてきて簡単に使うことができるようになるだろう。

 建築家や室内装飾家なら、Blenderと合わせてYafRay(Yet Another Free Raytracer)を使うと良いだろう。YafRayの最新版0.09には、グローバルイルミネーション(建築現場をリアルに表現することができる)、スカイドームイルミネーション、コースティクス(ある点から曲面に対して当てられた光の反射/屈折を扱う)、DOF(Depth Of Field)/ぼかし機能などが含まれている。YafRayを使えば、Blender内で3Dモデルを写真のように見せることができる。

ベクタ形式とビットマップ形式の描画プログラム

 BlenderやQCadで作品を仕上げた後、ベクタ形式かビットマップ形式の描画プログラムを使って画像に磨きをかけたいこともあるだろう。ベクタ形式のプログラムには、Inkscape、Xara LX、Skencilなどがある。ビットマップ形式のプログラムには、GIMP、Paint.net、CinePaint、Gimpshop、Kritaなどがある。

 Inkscapeはオープンソースのベクタ画像エディタで、CorelDrawやIllustratorにある標準的な描画機能のほとんどをサポートしている。さらに言えば、単純な建築設計図であればInkscapeだけを使って作成することも可能だ。

 GIMPは、オープンソースの描画用プログラムの中で最も有名なアプリケーションかもしれない。GIMPにはパワフルなペイントツールに加えて、100種類以上のプラグインやスクリプトがある。GIMPを使えば、Photoshopで行なうのとまったく同じように3Dレンダリング画像の仕上げを行なうことができる。

利点と難点

 建築関連の図面を作成するためにオープンソースソフトウェアを採用することには、いくつかの利点がある。

 経済的な節約になる。以前のように10,000ドルを支払うことなく、無料でソフトウェアを利用することができる。

 古いコンピュータでもプログラムが軽快に動くため、時間とお金の節約になる

 プログラムがシンプルで使いやすい。派手なだけで実際にはあまり使用しない機能が多過ぎるということがなく、インタフェースも単純になっているので、数時間もあれば使い慣れることができる。

 オープンソースコミュニティが作成する大量のプラグインやスクリプトをダウンロードすることができる。また、必要な機能が用意されていなかったら、ソフトウェアに追加で実装することもできる。自分で追加しても良いし、サービスを提供する他の人に頼っても良い。これは正にオープンソースの利点だ。

 万が一、AutoCADや3-DMaxの海賊版を使用しているというような場合には、もうそのことについて気にする必要がなくなる。これは精神衛生上の大きな利点になるだろう。

 ただしオープンソースへ移行する前には、次のような心構えをしておくべきだ。

 以前に使用していた商用ソフトウェアについて考えることをやめること。上記のようなオープンソースのアプリケーションを初めて試したときには「だめだ」と感じて元の商用ソフトウェアに戻りたいと思ってしまう可能性もあるが、その際には我慢強く使い続けるようにしよう。やがて使い慣れてくるだろうし、オープンソースのアプリケーションの利点も分かってくるだろう。

 定型的な作業を大量に行なう場合には、自分のニーズに本当に合っているのかを自問してみるべきだ。答えが「ノー」であれば、オープンソースソフトウェアには移行しない方が良いだろう。

まとめ

 まとめると、Blender、QCad、Inkscape、GIMPのようなオープンソースソフトウェアを使用すれば、商用ソフトウェアでできるような建築関連の図面はすべて同様に作成することができる。ただしこれまで使っていた商用ソフトウェアと比べると効率が落ちることがある。また、互換性がない場合がある(QCadでDWGファイルのサポートがないなど)。

Chen Nan Yangは元中国政府のITディレクタで、現在はフリーランスのジャーナリスト。建築学の学士号を持ち、十年ほど前に建築家のアシスタントをしていた経験がある。

Linux.com 原文