オープンソース周辺装置向けライセンス案にRaymondとNelsonは批判的
このOpen Hardware License(OHL)は、オープンソース・ライセンスを専門とする弁護士John Ackermannが執筆した。本人の弁によると、無線用ハードウェア・プロジェクトに触発されたのだという。同プロジェクトの開発者たちがTAPRに支援を求めたのが機縁になった。
「ハードウェア向けオープンソース・ライセンスの策定については、ずっと気になっていました。彼らの支援要請が、そんな私の背中を押したのです」
ライセンスは、実際には、ハードウェアを記述する図面やデータに対して適用され、その文書から製作されたあらゆる製品に及ぶ。
「従来のライセンスは主に著作権を扱っていますが、これは(ハードウェアの)デザインにはあまり有効ではありません」。Ackermannによると、著作権を基礎とするモデルは、装置を製造する実際の具体的事項ではなくロジック・フローのライセンスについては有効だという。しかし、「対象がロジックのデザインから物理的な人工物の製作に近づくにつれ、著作権の弱点が露わに」なってくる。
文書の扱いについてはGPLとよく似ているが、「このライセンスはその文書に基づいて製品を製造するときに行うべきことをも規定しており」、製品を製造するために使用した文書の公開を求める。また、特許の免除に関する条項もある。
批判も自由
現在、ライセンスの草案(PDF形式)を公開し、一般からの意見を募集中だ。非商用利用専用版(PDF形式)も公開されている(非フリーとして分類されている)。パブリック・コメントは3月7日まで。
「皆さんのご意見を歓迎します。他の弁護士とも相談し、手直しして、少しでもよいものにするつもりです」
OHL DevelopmentメーリングリストのメンバーBruce Perensによると、ライセンスはSoftware Freedom Law Centerにも提出されている。Open Source Definition を定め(Perensも最初の草案作成に参加した)、それに準拠しているソフトウェア・ライセンスを認定している団体Open Source Initiative(OSI)にも認定を申請する予定だという。
しかし、OSIからの最初の反応は否定的なものだった。
OSIの創設者で名誉プレジデントのEric S. Raymondは「オープンソース・ハードウェアという考え方自体については、ボードも概して好意的だと言って差し支えないと思います。しかし、このライセンスには問題点があまりにも多く、厳しい評価になるのは確実です」
Raymondが指摘した問題点の一つは「配布」の定義だ。
ライセンスの一節を引用しながら「これには驚きましたね。これでは『配布』という言葉の通常の意味が根本からなくなってしまいます。境界的なケースで多くの問題が発生するでしょう」と述べ、OSIはソフトウェア向けのライセンスしか扱わないとも指摘した。
OSIのボード・メンバーRuss Nelson(Crynwr Software)も、「オープンソース・ハードウェアに現行の(OSI認定)オープンソース・ライセンスが適用できない理由はありません」と述べている。
このライセンスには、TAPRの電子メール・アドレスに通知し、その内容をメーリングリストに公開するという条件がある。Raymondは、この点についても問題にしている。このアドレスにメールが届かなかった場合はどうなるのだろうかと訝っているのだ。
「あら探しと思うかもしれませんが、そうではありません。オープンソース・ライセンスの目的の中には、開発ネットワークにボトルネックを作らないということも含まれているのです」
これに対してPerensは次のように反論している。「TAPRはメーリングリストを保管するだけです。スパムは来ませんよ。多少整理する必要はあるでしょうけど。ここでの問題は、誰が維持管理するか――私たちにできるという確信はあります――ではなく、開示を求めたかどうかという点です。ですから、変更をメーリングリストに送れば開示したことになります」
昔からあるオープンハードウェア
ところで、現行のオープンソース・ライセンスを採用している「オープンハードウェア」プロジェクトは多い。今最もよく知られているオープンハードウェア・プロジェクトと言えば大所帯のopencoresサイトだろうが、ここでは多くのプロジェクトに対してGPLまたはBSDライセンスが推奨されている。大手メーカーの中にも同様の例がある。IBMのPower.orgは、同社のPower Architectureのためにオープン開発を進めているし、Sunも自社のUltraSPARC T1をGPL化した。
実際、「オープンハードウェア」という考え方は古くからある。大昔からブームを繰り返しており、その痕跡は今なおウェブに古いページやサイトとして残っている。「The Open Hardware Certification Program」「The Open Hardware Specification」「Open Source Hardware Page」などがよく知られているが、クリックしてもリンクが切れているか、ドメインが抹消されている。
しかし、Perensは、次のように言う。「オープンソース・ハードウェア実現の敷居は低くなっており、これに取り組む目的は多様化し、取り組む人も増えています。電子部品のマーケットを見てください。プログラマブル・ゲート・アレイなどのデバイスが個人でも本当に手軽に手に入ります。数年前のハイエンド・マザーボードのように」
そして、オープンソース・マザーボードを安価に自作できるようになったと言うのは「少々大げさかもしれない」と思うが、このライセンスが今最も大きな意味を持っているのは周辺デバイスだと言う。
Perensは、例として、フリー3Dビデオ・ドライバーの不足を挙げた。現在NvidiaとATIのカードがあるが、どちらもプロプライエタリな3Dデザインだ。しかし、Intelにはオープンソース3Dドライバーで完全に駆動できるチップセットがある。
「私の知る限り、これら(Intel)のデバイスはマザーボードでしか使われていません。一体どうしてIntelのチップを買ってきてカードに搭載しないのでしょうか。完全にオープンソースの3Dカードになるのですよ。このように、周辺デバイスの世界には、今、大きなチャンスがあります。店では手に入らないものがたくさんあるのです。大量には売れそうにないもの、小規模ながらTAPRがしてきたように、オープンソース・ハードウェアであればこそ対応できるのは、そうした市場です。この市場に他の方法で応えることはできません」
Ackermannによると、OHL最終版を採用した最初の実用製品は「製造に入る最終段階」にあり、「今年前半に提供可能になる」という。
Perensは、ハードウェア向けオープンソースが普及することで、そうした製品がデジタル著作権管理(DRM)に対抗する有効な手段になればと考えている。
「トラステッド・プラットフォームやDRMの蔓延を心配しています。最新のマザーボードではノントラステッド・オペレーティング・システムが起動できない、なんてことにならなければいいのですが」
そして、それにはLinuxも含まれると指摘した。
NewsForge.com 原文