Creative Commonsに新理事長が就任、Lessig氏はCEOとして続投

4年間にわたって実世界におけるコンテンツ共有の方法を革新してきた、Creative Commonsの創始者Lawrence Lessig氏が、先週の理事会で理事長の座を降りることを発表した。Lessig氏がバトンを渡したのは、日本のベンチャーキャピタリスト、伊藤穣一(Joi Ito)氏だった。

Creative Commons(CC)は非営利団体で、その著作権ライセンスでよく知られている。「我々の提供するフリーのライセンスは、他の人々が作品の共有または改編、あるいは作者がそれを選んだ場合にはその両方を行えるように、創造的な作品に作者の認める自由を与えるものである」とLessig氏は記している。CCの評判について、Lessig氏は「立ち上げて1年以内に、我々のライセンスの被リンク数が100万を超えた(つまり、我々のライセンスに対してリンクを張り、おそらくはそうしたライセンスの下でコンテンツを提供していたサイトが、Web上に少なくとも100万箇所あったことになる)」と話す。2006年6月には、この件数は約1億4千万に膨れ上がった。「件数は順調に伸びており、ますます多くのサイトがCreative Commonsの力で保証される自由を手に入れている」とLessig氏は言う。

またLessig氏は、伊藤氏が理事長職を引き継いだことを喜んでおり、「次期理事長として申し分のない人物」と評している。「現在、我々が成功するための鍵は、このプロジェクトを新しい創造的な経済の全体に適合させることにある。我々は共有経済(sharing economy)の支援および保護を行いたいと考えている。また、そうした支援のうち重複する部分を営利経済(commercial economy)に採り入れるためのツールを構築したいとも考えている。そのためには、Joi(伊藤氏)がこれまでの経歴で発揮してきた感性と洞察力が必要なのだ」

Creative Commonsの相談役Mia Garlick氏は、次のように語っている。「Joiの抜擢は前回の理事会で決まりました。CCが彼のリーダーシップを得るとともに、今なお将来の展望と洞察力を持ってCEOとしての活動を続けるLarry(Lessig氏)の負担を軽減することをねらったものです。すでにJoiは「共有経済」に関する経験と見識、そして技術および業界の専門知識により、CCにかなりの貢献をしています」

伊藤氏は、自らが関与するようになってからのCCの発展を次のように振り返っている。「私が理事会に加わった2003年には、CCライセンスは誕生していて、すでにライセンスを取り巻く活動や評判は大変なものになっていた。当時、Movable Typeのような一部のプロダクトには、もうCreative Commonsライセンスが組み込まれていたが、ほとんどの場合、CCはあるビジョンのもとで同様の考えを持つ人々の運動だった。それ以降、Creative Commonsは主要な検索エンジン、Webサービス、ソフトウェアツール、コンテンツライブラリにおいて標準的なものになっていった」

多数の予定

伊藤氏はCCでの新しい役目と職務を楽しみにしている。彼の予定表には、伊藤氏自らが「常に優先すべき項目」と言う資金の調達のほか、やるべき仕事のリストが記されている。

リストの最上位にあるのは「CCが取り組んでいる革新的なツールを最終リリース前に試したり見たりできるようにccLabsを拡大する」という項目だ。そうしたツールを手がける現行プロジェクトの1つ、Freedoms License Chooserは、CCライセンスを構成するさまざまな自由と制限に混乱している人々を対象にしている。

優先して取り組むべきもう1つの項目として「CCの提供するライセンシング・インフラストラクチャを利用してCCのアーティストが(うまくいけば)収入を得られるようにするための営利的な権利のライセンシング」がある。これはMetadata LabDHTML License Chooserを通じて実現される。Lessig氏は次のように説明している。「Metadata Labは、近いうちに我々が実現にするもっと一般的な施設の具体例だ。我々のライセンシング・エンジンを使って適切なメタデータを追加すると、ユーザはライセンス自体で指定された範囲を超えて権利や用途を指定できるようになる。そうした権利あるいは用途には、人々が購入できる営利的な権利や対象物、またはその他のCCライセンスを含めてもよい」

ライセンスそのものに注目して、理事会では「我々のライセンスが現行のものであり、それらを利用するコミュニティにとって意味を持ち続けることを保証するため、CCライセンスのバージョン3.0を完成されたものに仕上げる」ことも考えている、と伊藤氏は言う。この新しいバージョンの草案は10月のディスカッションに投稿されている。また、伊藤氏は「WikipediaのようなプロジェクトをCCのBY-SA(Attribution And Share Alike、帰属および同様の共有)のライセンスに従うコンテンツを用いて改編できるように、FDL(GNUによるFree Documentation License、フリー文書利用許諾契約書)への準拠に向けた取り組み」も予定している。

さらにプロジェクトでは、カナダのパブリックドメインに存在する作品を容易に識別できるよう、そのためのWikiの構築も継続される。こうした動きは、2006年に計画されたプロジェクト群の1つとしてLessig氏が説明していたものだ。

伊藤氏は、理事長への就任を先週Lessig氏とともに発表したオンラインの仮想世界Second LifeにおけるCCのプレゼンスの維持にも力を入れている。「楽しい点は別にしても、そこにはCCが進めようとしている多くの要素が詰まっている。Second Lifeは、技術的および法律的な障害に煩わされることなく、クリエイタたちを集め、彼らが容易に自己表現できるようにしたデジタル・プラットフォームだ」

Support the Commonsキャンペーン

Support the Commonsは、CCが年に一度実施する資金調達のキャンペーンである。「初回(昨年)のキャンペーンに対する反響はすばらしいものでした」とGarlick氏は語る。「私たちは目標を超える成果をあげ、慈善基金の公的支援をしてくれているIRSに十分なアピールもできました。コミュニティに支援を求めたのはそれが初めてだったことを踏まえて、私たちはキャンペーンに寄せられた力強い反応を謙虚に受け止めました」

「2回目を迎えた今年の反響はさらに大きく、もっと多岐にわたっています。今回、圧倒されたのは、私たちのコミュニティが一緒になって、創造力に富んだやり方でCCとその使命を支援してくれていることです。たとえば、ある歴史的なドメイン名をeBayのオークションに出して得た収益を寄付してくれた人がいます」

CCは自らも、それこそマスメディアと、「ユーザが生み出したコンテンツ」および個人参加型の文化の一翼を担う新しい配布メディアとを利用した、独創的な資金調達のモデルを採用している。「私たちは、自分たちで用意した短時間のビデオのいくつかをビデオ共有プラットフォームRevverにアップロードしています。このプラットフォームは、Creative Commonsライセンスを利用してクリエイタが作品を介して収入を得られるようにするものです。Revverはそれぞれのビデオの最後に短い広告を付与し、閲覧者が広告をクリックすると、その広告収入がRevver側とビデオ作成者に分配されるわけです。Revver側は寛大にも、私たちの資金調達キャンペーンが終了する2006年12月31日までは私たちのビデオによる収入に対するCC側の取り分を100%にしてくれています」

Revverを通じてCCが調達した資金は約950ドルだという。30万ドルという目標からするとわずかな額に思えるかもしれないが、Garlick氏は次のように語る。「この数字から、およそ300人がビデオの最後の広告を見てクリックしたことがわかります。つまりその向こう側には、初めてCCに接したか、CCを十分に理解している人々が300人いると想定できるわけです」

またGarlick氏は、コミュニティのメンバーがCCライセンス化された自作ビデオによって得た収入をCCに提供したいと思えば、そのビデオをCCのアカウントに直接アップロードできるポータルの立ち上げも計画している。

それでは、この組織は調達した資金をどのように使おうとしているのだろうか。これについてGarlick氏は次のように語る。「これまでCCでは、私たちのさまざまなプログラムの支援および発展のために管理費の比率を低く抑えてきた経緯があります。ここ1年は、コミュニティからのフィードバックに基づく法律面および技術面の各種ツールの拡張と、コモンズの思想の伝達に邁進してきました」 Garlick氏によると、集まった資金は、伊藤氏の予定表に記された前述の各プログラムのほか、コミュニティの人々が設立または発展を望んでいる新しいプログラム分野に投入されるという。こうしたプログラムには「‘フリーカルチャー’の確固たるインフラストラクチャの構築、作者が実感できる支援の追加、すでに築き上げた拠点の拡大、教育分野における活動の展開」が含まれるそうだ。

「今年の目標額はきっと達成できると私たちは見ています。現在、調達額がちょうど205,500ドルを超えたところなので、あと10日で95,000ドルを獲得すればいいことになります。年内にこの記事をお読みになってCreative Commonsの活動を支援したいと思われた方には、無理のない範囲でぜひご協力をお願いしたいと思います」

NewsForge.com 原文