Geekcorps:第三世界でコンピュータユーザを養成する平和部隊

フリーランスのソフトウェアコンサルタント業を営むRenaud Gaudin氏がかねてより考えていたのは、自分が抱くフリー/オープンソース系ソフトウェアへの情熱を生かして、発展途上国がITテクノロジを活用する手助けをできないか、ということだった。そしてこの3月、同氏はGeekcorpsに参加した。現在も同氏は、現地コミュニティに情報通信技術(ICT)を普及させるための活動を継続しており、地元のユーザを相手に必要なハードウェアとソフトウェアを用意するためのサポートを施し、彼らが手にした装備を長期にわたり持続的に運用するためのスキルを教え続けている。

Gaudin氏を含めた3,000名以上のボランティアが活動するGeekcorpsとは、首都ワシントンに本拠を置く非営利組織であり、その目標としては、世界中に散らばるIT分野のエキスパートの知識を糾合して、開発途上国の技術レベルを高めるという理想を掲げている。

Geekcorpsへの参加以来Gaudin氏が駐在してきたのは西アフリカ地域に広がる不毛のマリ砂漠であり、そこで同氏はLinuxシステムの管理者兼開発者として活動している。この地域でGeekcorpsが推進しているのは、Linuxを活用した様々なプロジェクトであり、同氏が行っているのもそうしたプロジェクトの1つである。「私が現在進めているプロジェクト(の1つ)では、Ubuntu Linuxを容量1.8GBのフラッシュ式ハードドライブに収まるようカスタマイズして、200KB/日を上限としたネットワークを運用することを目指しています」と同氏は語る。「それには、システムサイズを減量させ、適切なパッケージを厳選し、ディスクへの書き込み量を制限し、ネットワークトラフィックの規制、モニタリング、最適化を施すことなどが必要です」。

Geekcorpsがマリを舞台としたボランティア活動を開始するまで、同国におけるITテクノロジの普及率は極めて低かった。「これまでの私たちのマリにおける使命は、現地のコミュニティで利用できる情報の質と量を向上させることでした」と、マリでのGeekcorpsプログラムのコーディネータを務めるMatt Berg氏は語る。「そのため初期段階の活動では、USAIDがスポンサーとなっている地域ラジオ局や、バマコ大学などの現地組織との協力関係の形成に主眼を置いていました。その段階が過ぎた今は、村落単位で基本的なICTサービスを普及させることを目指しており、それを(USBキーを利用した)持続可能な経済的方法で行おうとしています」。

マリにおけるGeekcorpsチームが、砂漠地域で運用するという必要性から作成したのが、自己完結的な運用を可能とし、空冷ファンを不要化した上で入念なシールドを施したDesert PCと呼ばれるシステムである。これはLinuxをベースとした革新的なユニットであり、60ワットの電球を灯すだけの電力で充分に動作するため、「地球上で最も緊急に援助を必要とする問題に応える革新的なテクノロジ」であると認められ、Tech Museumの受賞候補にも上っている。

マリの現地コミュニティの人々が必要とするテクノロジを取得できるよう、そのためのサポートを進めているボランティアチームの活動にとって、砂漠地帯という過酷な環境や遠隔地ゆえの不便性は、様々な障害となって立ちはだかっている。「ごくありふれたIT機器を入手するだけでも、ここでは一苦労です」とBerg氏は語る。「機器の大半は外から輸入するしかありません。RAMにしろ電源にしろ、必要な時にBest BuyやFry’sといったショップまでひとっ走りして買ってくるなんて贅沢な真似は不可能ですから。でもほら、よく言われるでしょう、“必要は発明の母”だって。物資が不足しているなら、現地で入手可能な材料を活用して技術的な解決手段を編み出せばいいということで、例えば空き瓶を利用したWiFiアンテナなんてものも作ってしまいました」。

「(楽しいのは)仲間のボランティアや地元のチームの人間たちと一緒になって生まれたアイデアを具体的な形にすることで、それが実際に人々の生活の向上につながってくれるといいんですが。それとまた別の楽しみとしては、私たちメンバと共に働いた現地のスタッフやパートナたちの能力的なキャパシティが向上してゆく様子を見守ることがあります。おそらくは、こうした技術移転のあり方こそが一番重要なのであって、私たちのプログラムがマリという国の発展に対して継続的な影響を及ぼすことにつながるんでしょうね」。

Gaudin氏も同様の感想を抱いている。「何かのソリューションを構築して得られる達成感というのは、あくまで最初のステップに過ぎず、本来の目的はその成果を人々に笑顔で活用してもらうことであり、そうした様子を自分の目で確かめることで本当の喜びが得られるものなんです」。

道具に拘泥しない技術伝道の道

このように、国籍も文化も異なる社会におけるITテクノロジの普及促進に向けて熱心なサポート活動を続けているGeekcorpsのボランティアたちであるが、どのプラットフォームこそが地域コミュニティの必要性に最も則しているかという問題になると、常に決まって、それは分からないという答えが返されてくる。マリという社会はこれまでオープンソース系ソリューションという理念やその有用性に対してかなり高い受容性を示しているが、同組織の責任者を務めるWayan Vota氏の説明では、こうした態度が過去に活動してきたすべての国々で見られるとは限らないと言う。つまりGeekcorpsが現地でセットアップするオペレーティングシステムの90%はLinuxベースのものが占めているのだが、ボランティアたちはしばしば「Microsoftの名前が冠されたものは無条件で優れた製品である」という偏見と闘う必要もあるのだと。

実際にGeekcorpsのボランティアたちの経験した事例として、オープンソース系のスキルのみを教えた場合、そのコミュニティのメンバが職を求めようとしても、ガーナ、レバノン、ブラジルなどのMicrosoft認証を特別に重要視する国々では受け付けてもらえない、というケースが存在している。「これらの国々では、自分にはLinuxの知識がありますと売り込んでも、採用者側はまず取り合ってくれません。その代わりMicrosoft系のスキルがあると言えば、即採用です」とVota氏は語っている。「これらの地域ではブランド志向が強いこともありますが、Microsoftが“これさえ持っていれば世界の一流企業であると認められますよ”という殺し文句でマーケッティングに励んでいる効果もありますね。Microsoftのマーケッティング戦略を鵜呑みにしている国もあるということです」。

Gaudin氏の場合、マリでその種の抵抗に遭遇したことはないと言う。「正直な話、私が相手にした人たちの大多数は、コンピュータにまったく馴染みがないため、事実上Linuxが最初のコンピュータ体験というケースがほとんどです。もっとも一部には、非常に限られた範囲内でコンピュータの使用経験を持つ人たちもいますが、そうした人々もたいていはオープンソース系ソフトウェアを喜んで使用していますし、それは必要な要件を満たしていることと、私たちが整備したソリューションにオープンソースソフトウェアが最初からパッケージされているのがその理由でしょう」。

Vota氏の言葉を借りるなら、いずれにせよGeekcorpsの使命とはサポートするコミュニティの目的達成を支援することであり、何を目的とするかは当事者次第ということになる。「私たちがやるべきことは、状況に即した最適のソリューションを用意することです。Geekcorpsの意図として、プラットフォームやソリューションの善し悪しを論評する気はありません。意識しているのは、何を使えば最適な仕事ができるかであり、用いるオペレーティングシステムの選択もその方針に従っています」。

Geekcorpsにおけるボランティアの参加形態

Geekcorpsの活動予算は、主としてアメリカ政府の進めるUSAIDというプログラムから提供されており、同プログラムでは、情報通信技術を導入する上でのサポートを必要としている世界各地のコミュニティとGeekcorpsのボランティアチームとの斡旋を取り持つといった協力もしている。Geekcorpsの活動には一般企業も協力をしており、Hewlett-Packardの場合は個々のプロジェクトベースで資金提供をする形での貢献だが、VIA Technologiesの場合はハードウェアの提供をしており、例えば自動車のバッテリで26時間稼働できるCPUなどもそうしたものの1つだ。

こうしたプロジェクトの活動資金を集めるのもVota氏に課せられた役割ではあるが、その他にGeekcorpsのボランティアたちの活動拠点を整備してきたのも、同氏の功績である。これまでにGeekcorpsに参加したボランティアたちの間では、自分たちの活動に非常に高い意義を見いだすものが多く、実にその70%以上が4カ月という任命期間の終了後も活動の継続を希望するとのことだ。例えばGaudin氏も、マリにおける最初のボランティア活動を終えた後、2カ月の充填期間を経ただけで、2度目の活動に従事することを承諾している。「チームのメンバと再会できることが楽しみでしたね。実際、4カ月という期間は自分にとって充実した仕事をするには短すぎますし、ここではやりがいのあるプロジェクトが色々と展開されていますからね」。

Vota氏は現在、Linuxおよびオープンソース系の豊富な開発経験のある人間を求めているという。また同様に、ベンダや技術系の専門家を相手にオープンソースを用いるメリットを納得させるため、セールス的なスキルを有している人材も求めているそうだ。テクノロジ面でのバックグラウンドがあれば確かに役立つが、不可欠ではないとのことである。つまり、このプロジェクトに寄与する気があれば、やり方は何通りでも存在するのだ。

これはGeekcorps側も認識している問題だが、それなりの資金を有している人々が存在する一方で、プロジェクトの理念にいかに共感しようとも4カ月の海外渡航は無理だと感じる人々が存在するのも事実である。そのためGeekcorpsは、様々なパートナからの寄付や基金を活用することで、ボランティア活動におけるすべての経費を負担する用意を調えている。「ボランティア参加者が自腹を切る必要はまったくありません」とVota氏は説明している。「航空運賃を始め、宿泊費や食事代まで、自宅の玄関を出てから帰宅するまでの経費はすべて当方で支払わせて頂きます」。

「ただし、500名いる友人の土産用にアフリカ風マスクを現地で購入するといった場合は話は別ですから、必ず財布を持参してください」と、Vota氏は笑いながら補足していた。

Geekcorpsのボランティアたちによる献身によって、これまでのチーム活動は一通り完了しているが、行うべき活動はまだまだ残されている。「これは残念なことなのですが、マリのような国でGeekcorpsのような組織が貢献できることは、今後も永続的に存在し続けるでしょう」と語るのはMatt Berg氏だ。「その一方の朗報としては、携帯電話で巨額の利益を上げた民間企業があって、この国における広域的なインターネット接続体制を積極的に整備しようとしています(私たちが関係してきた事業の1つです)。これまでの私たちの活動は、現地で共に働いた人々の技術的なキャパシティを向上させることがメインでしたが、これは私たちが去った後でも、長期にわたって持続的に国内の技術発展を押し進められる人材を育成するためなのです」。

子供たちだけでなく、地域コミュニティにも救済の手を

One Laptop Per Child(OLPC)プロジェクトとは、第三世界に住む何千もの学童にコンピュータを手渡そうとする構想だが、その目的にはGeekcorpsの活動と重なる部分がいくつか存在する。いずれのプロジェクトも、第三世界の貧しい人々にITテクノロジを提供することを目標とした活動だが、OLPCは子供と教育に主眼を置いているのに対して、Geekcorpsはより広範な地域コミュニティ全体を視野に据えているという違いがある。

Geekcorpsはまた、単にICT用の機器類を提供するだけではなく、その後の持続的な運用をするためのノウハウを地域コミュニティに伝えることも彼らの使命だと考えている。GeekcorpsのVota氏は、現状でOLPCの主催者との間で何か特定のプロジェクトにおける協力をしている訳ではないと説明しながらも、「私としては、Nick Negroponte氏(プロジェクト責任者)が情報テクノロジを議題に持ち出し、教育分野での利用について言及したことに好感を抱いています」と語っている。

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