MySQL Enterpriseの登場は顧客、貢献者に何を意味するか
MySQLのオープンソース・コミュニティ関係担当副社長Kaj Arnö氏は、この分割の構想について自身のブログで説明している。Arnö氏によると、同社はMySQL Enterpriseのユーザだけに、これまでより短い間隔でEnterpriseコードベースのバイナリ・リリースを提供する。Red HatがRed Hat Enterprise Linux(RHEL)をソースのみでリリースしているのと同じように、MySQLもEnterprise版のソースコードを引き続きGNU General Public License(GPL)の下でリリースするが、バイナリコードは一般には公開しない。MySQLのCEO Mårten Mickos氏は、Enterprise版のソースを無償で入手して自力でバイナリをコンパイルすることは妨げないが、同社は「そのようなモデルを推奨しない」と表明している。
Mickos氏は、開発を2つに分ける理由について「これまでビジネスの構築に専念する余り、コミュニティのためにするべきことをまったくしていませんでした」と述べ、MySQLの開発をEnterprise版とCommunity Server版に分けることは、実験的な機能やエンタープライズ版のユーザには不適当な変更を「大胆に試すには不可欠」と説明する。
DebianのMySQLパッケージを担当するメンテナの1人Sean Finney氏は、エンタープライズ版とオープンソース版の分割についてこう語った。「多分、賢い選択ですよ。”本丸への鍵”とでも言いますか、そういったものを危険にさらさなくても、開発をコミュニティに対してオープンにできますからね」
Finney氏は、MySQLを使用および配布するDebianなどのオープンソース・プロジェクトに分割がどう影響するかは「時間が決める」と言うものの、「両方のツリーがGPLの下にあるという前提付きですが、プラスの方向に向かうだろうとかなり楽観しています」
過去の実績から未来の姿勢がわかるとすれば、MySQLがオープンソース・コミュニティでも成果を収める可能性は高い。Finney氏によれば、MySQLはこれまでDebianとの協力関係において「かなり協調的」であり、「過去に取り組んだ問題の中でも難しい部類に入るものに関しても、前向きな協力を示していました」
「こちらからも大きな貢献(たとえばライブラリ・シンボルのバージョン管理など)をしたと思いたいです。問題がなかったとも、改善の余地がないとも言い切れませんが、かなり友好的な関係にあると言いたいですね」
エンタープライズ市場向けにPostgreSQLベースのデータベースを販売する米EnterpriseDBの社長/CEOであるAndy Astor氏は、今回の2本立てのリリースはMySQLにとって賢い選択だと見ている。「MySQLは外観とツール機能を強化する必要があります。この選択は、製品にとって、そして顧客にとって吉と出るでしょう」
ただし、Astor氏はEnterpriseDBのビジネスがMySQL Enterpriseに脅かされるとは思っていない。「EnterpriseDBにとってはプラスもマイナスもありません…。マーケティング戦略は多少高度になるでしょうが」と語り、今回の発表によって「データベースの基本テクノロジが変わるわけではなく、変わるのはデータベースを取り巻くもの」であり、MySQLそのものも変わらない、と指摘する。
コミュニティの貢献が容易になる
Arnö氏によると、MySQLが望んでいるのは、これまでより簡単な方法でMySQLに貢献できるようにすることである。そのため、コミュニティ・メンバがMySQLに貢献できるようにするMySQL Contributor License Agreementが導入された。Mickos氏は「世間は知的財産権と、その所有者が誰なのかということに相当に敏感です」と説明し、MySQLは貢献するコードが実際に自分で書いたものであることを貢献者に確認できる必要があった、と語る。
貢献の合意(contribution agreement)という言葉に抵抗を感じる貢献者もいるだろう。この合意では、貢献物が貢献者に属し、「すべての権利、所有権、権益」をMySQLに譲渡する必要があることだけでなく、MySQLが貢献物を任意のライセンスの下に再度供与することも認められる。貢献者には、この合意に基づいて貢献物に対する権利が再度与えられるが、自分のソフトウェアがフリーソフトウェア以外の製品に流れ着くことを望まない貢献者もいるだろう。
Mickos氏によると、MySQL Community Serverだけに取り入れられる貢献物については、もっと緩やかな合意が将来導入される予定だ。また、貢献度の高い貢献者には、雇用や貢献したソフトウェアへの対価の支払いが予定されている。「霞を食っては生きていけませんから」
エンタープライズ版とオープンソース版の違いが意味するのは、オープンソース・コミュニティが「ほぼ確実に、少ない方を受け取るということです。企業や営利団体は、代金を支払う人に多くのリソースを集中するものですから。MySQLは、顧客ベースの多層化を進めたに過ぎません」
結局、重要なのはGPLによる保護だろう。Mickos氏によれば、MySQLの仕事がオープンソース・コミュニティのためにならない場合、コミュニティはコードを分岐できる。「弊社がMySQL Community Serverを普及させる仕事をうまくやれなければ、誰かがもっとうまくやれると言って仕事を引き継ぐことになるでしょう」
新しいサブスクリプション・サービス
バージョンの2本立て以外に、エンタープライズ版MySQLを対象とする新しいサブスクリプション・サービスも導入された。このサブスクリプションには4つのレベルがあり、データベース・サーバ単位の年間使用料は$595から$4,995までの範囲に設定されている。最小限のサービスが含まれるBasicレベルでは、問い合わせへの応答時間は2ビジネス日以内である。一方、最上位のPlatinumレベルでは、応答時間は最長で1時間であり、さらにリモートによるトラブルシューティング、パフォーマンスのチューニング、顧客の書いたコードのレビュー、MySQLのカスタムビルドがオプションで提供される。
MySQLの監視サービスは、Nagiosなどの他の監視サービスを置き換えるものではなく、そういったサービスを補完する機能である。MySQLは、一部のケースでデータベースの設定またはスキーマの変更を具体的な構文で提案できるようになるが、「その変更を実装するかどうかの最終的な決定はデータベース管理者に任される」と、Mickos氏は説明する。
Mickos氏によれば、最も低価格のエンタープライズ・サブスクリプションは、MySQLを使って個人Webサイトを運用する単独ユーザにとっても無理のない出費である。「$595以外にはビタ一文払う必要はありません…。一晩でそれ以上を[繁華街で]使い果たす人がいる金額ですよ」
NewsForge.com 原文