Google's Summer of Code: 2年目の展望

昨年、Google社はオープンソース/フリーソフトウェア開発に参加する世界各地の学生を支援するイベント「Summer of Code 2005」を開催し、各地の開発者コミュニティに大きな反響をもたらした。そして今年もSummer of Code 2006 がはじまり、世界各地の開発コミュニティと学生とが開発プロジェクトに取り組んでいる。ここでは、Summer of Codeの一年間の反響をふりかえるとともに、今年の日本での活動を紹介する。

Google’s Summer of Code 2005 から1年

昨年のSummer of Code 2005の発案と狙いについてはOTP記事「 GoogleのSummer of Codeプログラムを振り返って」でも紹介されており、

  • 学生にとっては、報奨金を得るだけでなく、学術的なプロジェクトではない現実のプロジェクトに参加する機会が得られる
  • FOSSプロジェクトにとっては新しいコードが手に入り、開発者を新たに獲得する機会にもなる
  • 後援者であるGoogleは「前途有望な開発者に活躍の場を与える企業」という情報を発信できる
といったメリットがあげられている。

他方、internet.com翻訳記事「 Google、オープンソース開発支援プログラムの意義はどこに?」では別の見方もなされている。夏が終わってからも存続しているプロジェクトは多くないのではないかという指摘だ。

しかし、私見では開発者コミュニティを活性化させた効果は、存続率だけでは評価できない。まず、Summer of Codeをきっかけにした開発者コミュニティの変化をあげておきたい。Summer of Code に参加する開発者コミュニティには、申請書類だけで学生を審査し、さらに夏の間にプロジェクトを成功させる師匠(メンター)を抱えていなければならない。また、多額の寄付金(場合によっては国際送金)を円滑に配分し、税務所に申告する会計能力も要求される。こうした奨学制度を備えていない多くの開発コミュニティにとって、Summer of Code は新たな挑戦となった。

例えば、アカデミックなルーツを持つBSD方面では、FreeBSDがメンターになる開発者を募集している。またBSD News 報道, NetBSDの報告, プレゼンテーションを見てもコミュニティの活性化がうかがえる。 また、より広いコミュニティをターゲットにしたDDJは、その後の当選者たちに取材して、夏が過ぎても若手を継続的に育てていこうという意識が見られた(報道その1,その2)。

日本国内の反響

昨年の日本国内からのSummer of Codeへの参加は、個人的なものにとどまっていたように思われる。その中で、Summer of Codeのメンターとしての申請には間に合わなかったものの、FSIJ(フリーソフトウェアイニシアティブ)がグーグル株式会社の協賛をとりつけて「夏休みコード道場」を開催し、第一線の師匠を擁した非営利活動法人としての存在感を示した。

そのFSIJが今年はついに本家のCode of Summerのメンター団体となって広く学生の募集を行なった。Summer of Codeに日本語で審査や指導が可能な団体が加わったことで、日本の学生、あるいは日本語処理の師匠を探している世界各地の学生が参加するハードルは確実に低くなったと言える。募集がはじまると外国人からの応募が多く日本人学生が少なすぎるという話もあったようだが、先日のFSIJ定期フォーラムでは、FSIJは関西方面の学生2人とドイツの学生1人の合計3人を最終的な採択者として発表している。このフォーラムの鵜飼氏のイントロダクションでは今年度の採択速報も行なわれ、FSIJ以外にもFreeBSDやGNUでも日本人メンターが活躍していることも紹介された。 (参加された方のblog)。

個人的に今年の採択で目についたところとしては、アメリカのInternet2プロジェクトや大学がメンターとなって学生を募集していたところである。今後もこうしたアカデミズムとハッカー界の徒弟制度のクロスオーバーは続くのかどうか、興味深いところである。また、CMS方面の開発案件が予想以上に入っていたという印象を持った。

終わりに

現在のSummer of Codeのスケジュールは、日本の学生にとってはやや不便なところがある。「ゴールデンウィーク明けに参加申込、6月下旬に中間評価、8月末に開発終了」 この開発期限は、前期が7月いっぱい続き、後期授業が10月にはじまるような2学期制の大学では苦しいかもしれない。そこは師匠役と相談しながら計画を立てる必要があるだろう。そして師弟だけでなく、開発者コミュニティの活性化につながることを期待している。そして来年度はさらに面白いアイデアが集まることを期待している。