GoogleのSummer of Codeプログラムを振り返って

Googleが開催したSummer of Code(SOC)プログラムが終了した。コンピュータ科学の学生にフリーおよびオープンソース・ソフトウェア(FOSS)プロジェクトを紹介し、活動に参加してもらう。そして、実績を残した学生には報奨金を提供しようというプログラムである。

計画が発表されるや、学生側にもプロジェクト側にも圧倒的な反響を巻き起こした。現時点で得られる情報からは、プログラムの運営に若干の問題があったものの、SOCは広範なプロジェクトを生み出し、将来性のある多くの学生にFOSSコミュニティの魅力を伝えることができたようだ。しかし、SOCが今後も継続して開催されるかどうかは、まだ決まっていない。

Googleのオープンソース・プログラム・マネージャChris DiBonaによると、SOCはGoogleの創設者であるSergey BrinとLarry Pageの発案だという。目的は、学生たちに「本当の開発者とオープンソース開発コミュニティに触れてもらうこと。そうした新たな参加者たちによって、オープンソース・コミュニティが活性化し、楽しい場となり、発展するだろう」というのである。

「Summer of Code」という名称は、Summer of Love――カリフォルニア州サンフランシスコにおける1967年の夏を指し、1960年代米国反体制文化の極致として広く知られる――に因む。プログラム名中の「Code」という言葉には、同社におけるオープンソース・ソフトウェアの使用に関心を持つ社外開発者のためのサイト「Google Codeの含みも」あるとDiBonaは言う。

三方一両「得」

DiBonaによると、SOCは関係者全員に「得」があるように考えられているという。学生にとっては、学術的なプロジェクトではなく現実のプロジェクトに参加する機会が得られ、実務経験が積める。さらに、人脈ができ、報奨金を得ることもできる。一方、FOSSプロジェクトにとっては新しいコードが手に入り、開発者を新たに獲得する機会にもなる。

「プロジェクトの中には、長い歴史があり変化に乏しくなったものがあります。私見ですが、SOCのようなプログラムを通じて、そうしたプロジェクトに新しい人材が加わればと思います」

SOCに参加した学生Matt Wardenも、同じ意見だ。「オープンソース・ソフトウェアの世界には、伝統的に実力主義の壁があります。この壁が、高度な技術を持った学生をこれまで遠ざけていました。(しかし、SOCによって)その壁が壊れたのです。もっとも、大学で作るコードとリリースに使われるコードとの間には質的な違いがあり、この壁は依然として残っていますが」

SOCの後援者であるGoogleにとっては直接的な利点は少ない。しかし、やはり得はある。DiBonaは明らかな広報効果については触れずに、FOSSをよく利用している企業一般に利点がありGoogleもそうした企業の一つだと指摘した。また、「前途有望な開発者に活躍の場を与えること」、それが近い将来における新入社員の獲得に繋がるだろうとも述べた。

発表と募集

SOCは2005年6月にGoogle Code上で発表され、一部の大学にはポスターも張り出された。仕組みは、いたって簡単である。FOSSプロジェクトが、それぞれ提案されているプロジェクトとそれを統括するメンターを選んで一覧を提出し、学生を募集する。各メンターはそれぞれの判断基準に従って、応募者の中から参加してもらう学生を選ぶ。夏の終わりまでに学生が担当プロジェクトを完成させれば、その学生に4,500ドルを贈るというものである。

当初、募集人数は200名だったが、SOCがSlashdotに掲載されると大変な反響を呼び、Googleは募集人数を倍増させた

DiBonaによれば、応募者は最終的に8,744名にのぼり、41のFOSSプロジェクトから400件以上のプロジェクトが選ばれた。最も多かったのはApache Software Foundationの38件で、これにKDEの24件、FreeBSDの20件が続く。テーマが絞り込まれた小規模なプロジェクトも選ばれており、WINE、Samba、Mamboはいずれも6件のプロジェクトが開始されることになった。

結果

最終的な評価はまだ出ていないが、Googleは、プロジェクトの完成率を88%以上と見積もっている。

しかし、この数字の妥当性を云々するのは困難である。なぜなら、FOSS開発モデルの特性として、SOC終了後もプロジェクトの多くは継続され、中には開発に伴って方向性が変わっていくものもあるだろうからである。

また、FOSSプロジェクトごとに見ると、完成率はまちまちである。たとえば、Ubuntuは64%、KDEは67%と報告されている。しかし、学生とメンターの話を聞く限り、完成率はまちまちでも、今回着手されたプロジェクトの多くで、そのコードは捨てられることなくFOSSコードベースに加えられたことは確かなようだ。

プロジェクトは400件を超えており、この場でそれらを総括するのは不可能である。しかし、以下に紹介するFOSSプロジェクトの状況を見るだけでも、その多様性が知られよう。GNOMEプロジェクトは、起動時間の改善、Nautilusにおけるリビジョン管理の文書化、暗号化フォルダーのサポートの改善に関するプロジェクトなどを学生に託した。

MozDevでは、学生たちは主にMozilla/Firefox/Thunderbirdのヒンディー語・ラトビア語・タイ語・ベトナム語への移植を担当したが、Thunderbirdの電話クライアント、Mozilla用のグラフィカル・テーマ・ビルダー、FirefoxのBitTorrent拡張に関するプロジェクトにも挑戦した。さらに、Ubuntuプロジェクトは、GNOMEパネルの拡張、ファイル検索、グラフィカルな構成ツールなど、主としてデスクトップ・ツールを学生たちに任せた。このように、各FOSSプロジェクトで学生たちが挑んだテーマは実に多様であった。

それでは、学生たちはどのように受け止めたのだろうか。

GNOME文書のためのライブ・エディタSarmaを担当したDanilo Seganは、SOCに応募した多くの学生とは異なり、FOSSコミュニティに参加した経験があった。以前、GNOMEのセルビア語への翻訳や文書関連プロジェクトに何度か関わったことがあったのだ。その経験から、GNOMEプロジェクトで仕事をしたいと考え、応募したのである。「それに、GNOMEの舞台裏は随分見てきたので、今度は、ユーザー・インタフェースの設計で自分を試せる場がほしかったのです」

SOCプログラムに参加した学生の中には目的意識の低い者もいたが、Seganには明確な目的があった。「一番気に入ったのは、私の好きなフリーソフトウェアの世界で活動できることです。現実的な問題については心配していません。それに、ずっと知りたいと思っていた技術的なことについても幾つか学ぶ機会があるでしょう。同じ理想を共有する多くのIT/コンピュータ科学の学生たちと会えるのも楽しみでした」

今回のプログラムに参加したことについてSeganは概ね満足している。しかし、多くの人がプログラムの運営につい不満を持ち、特に報奨金4,500ドルを全額受け取れない可能性があることについては、多くの参加者が不満に思っていたと言う。「米国以外の学生のほとんどは、おそらく、米国で30%が税として徴収され、手取りは3,150ドルになってしまう」というのである。ただし、課税に関する相互協定を米国と結んでいる国々に住む学生の場合は、こうした問題は生じないだろう。他にも、支払いが遅く、事務が機能していない点についても、学生たちは不満に思っていたとSeganは言う。「ほとんどの人が書類の紛失や再送を何度も経験させられ」、支払いの状況をオンラインで確認することもできない。「電子支払いに必要なデータが届いているのかどうか、未だにわかりません。小切手を送るつもりなのでしょうか」

こうした事務処理上の問題点を除けば、SeganはSOCに参加して概ね良かったと考えている。担当してくれたメンターFederico Mena Quinteroを「人柄が良く、打てば響くような人」と評し、このプロジェクトの方向性についての考え方の違いを調整できたことに満足しているようだ。また、SOCに参加したことで、GNOME文書プロジェクトとの関わりが深まったとも考えている。

さらに個人的なレベルで言えば、SOCのお陰で「履歴書に書く経歴」が増え、技術的な知識が身につき、少なくとも6か月間の生活資金も得た。「GoogleのSummer of Codeは、フリーソフトウェアで活動する人なら誰もが夢見るもの、つまり好きなことで稼げる場なのです」

もう一方の当事者、学生たちを指導したプロジェクトの側はどう受け止めたのだろうか。

参加したプロジェクトの中には、当初、SOCに懐疑的な見方もあった。実際、GNOME Foundationの理事会メンバーであるLuis Villaは、選定作業を進めながら、今夏担当するプロジェクトに期待はしていなかった。「具体的な成果は何もない」と考えていたのである。

UbuntuでSOCを担当したJane Weidmanは、さらに懐疑的だった。Weidmanによれば、選定作業は「きわめて困難」だったという。応募は「軽薄な広告文のようなものから、論文に匹敵するものまで」さまざまだったからだ。その上、メンターは応募者と接触することを許されておらず、応募者を正確に評価することはできないとWeidmanは言う。そして、しばしば「プロジェクトで実際に必要となる技術を身につけている学生ではなく、作文や国語が得意な学生の方が採用された」とも述べた。

その結果、Ubuntuの「学生たちは出足でつまずく」ことになった。メンターの割り当てを変更する事態に追い込まれ、最初の数週間で「SOCを通じて創造的かつ技術的に優れたコーディング・ソリューションが得られる可能性は潰えたと思いました」とWeidmanは述懐する。

しかし、終わりの1か月間は、こうした問題のほとんどが自然消滅したという。SOCが終わる頃には、ほとんどの学生が「急速に進歩し、自分たちの関わるプロジェクトへの熱意と献身と傾倒振りをメンターに印象づけた」のだった。

Ubuntuは、今、Emmanuel Cornetが担当したGNOMEパネルの拡張を次期リリースで、Carsten Heyが担当したファイアウォールを2006年4月期のリリースに搭載する予定である。最終的にWeidmanはSOCの試みを「肯定的に」評価し、今回発生した問題点は初回にありがちなトラブルであり、今後は改善されるだろうと考えている。

Villaもまた肯定的に評価する。「非常に具体的な成果を得ました。なかなか刺激的な結果だと思いますよ」。次期リリースにはDanilo Seganが担当したライブ・ドキュメンテーション・ツールが搭載され、起動時間も15秒ほど速くなるだろうとVillaは予想している。

こうした例から、今回のSOCに革命的な事はなく、あったとしてもごく一部だけで、大半の学生たちは堅実で好ましい活動をしたようだ。GoogleのDiBonaは、メンター付きプロジェクトの反応の大方を総括して、こう述べた。「陪審はまだ協議中です。……(しかし、)現時点ではとても満足しています。学生たちが期待以上の働きをしたことは確かですね」

次回のSOCは?

SOCを継続するかどうかは、まだ決まっていない。学生とプロジェクト双方から問題点が寄せられており、それを見る限りSOCに対する反響が予想を超えたために管理に不手際が生じていたようだ。

また、既存の報奨金制度と重なっていた点も問題と思われる。Jane Weidmanによれば、Ubuntuは以前からコードの完成に対して報奨金を提供しているが、Googleの報奨額が大きく、報償金に対する要求が将来非現実的な水準に上がってしまうことを心配する。

こうした問題点を除けば、学生とプロジェクト双方からの反応は肯定的なものだ。Weidmanは「Googleが示した善意と度量の広さに感心」したと言うが、ほとんどの意見もこれと同様のものだ。

DiBonaによれば、Googleでは、現在、学生とメンターからのフィードバックを基にSOCを評価中だという。DiBonaの知る限りでは「第2回はありそう」だが、「200万ドル――学生に贈る報奨金と運営費の合計――は高額ですから、確定的なことは言えません」と注意を促した。

Bruce Byfieldはコース・デザイナー、インストラクター、コンピュータ分野のジャーナリスト。NewsForgeやLinux JournalのWebサイトの常連執筆者。

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