CRMを越えるアプリケーションプラットフォームを目指す――開発者に聞く:SugarCRM編

 SugarCRMは米SugarCRM社が開発を主導するオープンソースの顧客管理システム(CRM)だ。オープンソース版と非オープンソースの商用版があり、オープンソース版はSourceForgeでホスティングされている。このSugarCRMの開発者に、プロジェクトの運営やその歴史、活動方針などについて話を聞いた。

 SourceForge.netで公開されているPodcast「The Anvil Podcast」では、さまざまなオープンソースプロジェクトの開発者にインタビューを行っている。今回はSugarCRMでコミュニティマネージャを務めるJohn Mertic氏へのインタビューをお送りする。

 ――今回のインタビュー相手は、SugarCRMプロジェクトのJohn Mertic氏だ。このインタビューは1か月ほど前にシカゴで開催されたPHPTekで行われた。このインタビューに至るまでJohnをだいぶ待たせてしまったが、辛抱強く待ってくれたことに大変感謝している。

 私にとってSugarCRMはずっと前からのおなじみのもので、新しいプロジェクトではない。いくつかの企業で使った経験もあるんだ。あなたはこのプロジェクトでどういったポジションを務めているんだい?

 John: 現在の役職はプロジェクトのコミュニティマネージャで、主な役割は周辺のデベロッパコミュニティに対してさまざまな啓蒙を行うことなんだ。このコミュニティには、プロジェクトに貢献するオープンソース界の人だけでなく、プロジェクトのためにアドオンや拡張を構築する多くの開発者も含まれる。私たちのVARパートナーネットワーク、顧客、ISVネットワークなどもこれらに含まれるんだ。世界中、本当に多くの人々がさまざまな問題を解決するためにSugarCRMを使っている。

 ――SugarCRMができてから、たしか10年くらいになるよね?

 John:CRM業界出身のJohn RobertsとJacob Taylor、Clint Ormanの3人によってSugarCRMが立ち上げられたのは2004年。ありがたいことに、Clint Ormanは現在もプロジェクトに在籍している。彼はこのプロジェクトに参加している最後の共同設立者なんだ。SugarCRMはとても活発なプロジェクトで、2004年か2005年にもSourceForgeの「今月のプロジェクト」に選ばれたけど、それ以降もかなり成長している。私たちのプロジェクトはずいぶん成熟・成長しているんだ。私たちのオープンソースに対するコミットメントや、オープンソースコミュニティの一員であることを確約する意味もあってオープンソース版(CE版)のダウンロードページはSourceForge上にあるけど、それ以外にもCE版が提供するコア機能にビジネス向けの付加価値を追加した商用プロダクトもいくつか提供している。

 ――CRMを必要としている会社というのはどういったところなの? すべての会社にCRMは必要なのかい?

 John:必要だ。興味深いことに、IDGなどの調査会社が示している市場シェアを見ると、CRMのマーケット規模は大変小さい。非常に大きい割合、たぶん市場の90%はまだ未開拓のままなんだ。実際、顧客がいるすべての組織はそのマネージメントをサポートする手段を模索しているだろう。そしてどの会社にも顧客は存在する。その管理をより容易にしようとしているんだ。昔は卓上の住所録や電話帳を使って顧客を管理し、ノートに書き留めていた。そのちょっと進化したバージョンがExcelの表計算で、こいつはまだ生き残っている。笑っちゃうけど、驚くべきことに非常に多くの企業がまだこれをやっている。こういったやり方を尊重しつつ、それを構造化して、データ使って実際に何らかの作業ができるようなシステムを作ることを行っているんだ。データを死んでいるかのように放置しておくのではなく、それを活用したり、リポートを作成したり、分析したり、いくつかの正しい知識を得ることができるように。

 ――私が経験した中でもっとも難しかったことは技術ではなく行動なんだ。顧客にコンタクトをとって話をした2日後に「メモを残しておくべきだった」とか思うんだよ。技術ではそういった問題を解決できない。

 John:技術では解決できないけど、CRMを使ってそれをうまく改善できる。そういったことをトラッキングできるようにするプロセス構築を支援することができるんだ。あなたの顧客に関する知見はどうする? 頭の中に引っ込めてしまうか、付箋紙に書き込むか、それとも書類に書き留めて積み重ねておく? これらを正しく記録に残しておけば、誰かがそれを見て何が発生しているのか確認することができる。その経緯を確認できるんだ。顧客が何を自分達から購入したのか、自分たちがどんなことを行ったのか。これは顧客にの活動記録としても意味がある。

 ――SugarCRMは将来的にどういったものになるの?

 John:現在、SugarCRM 6.5の最終リリース段階を迎えている。今年の春最大のリリースだ。良い機能をたくさん準備しているよ。アプリケーション開発のスピードアップや多くのパフォーマンス改善も続けている。AJAXインターフェイスの更新も進めているんだ。

 あと、ここ最近のリリースからやり始めた大きなこともある。SugarCRMに関わっているコミュニティにも目を向けて、そこからいくつかのプロジェクトを引っぱってきているんだ。バージョン6.4のリリース時にやったことだと、カレンダーシステムをSugarCRMを使っているほかのプロジェクトで開発されたものにそっくり入れ替えたことがある。彼らはそれを私たちに提供してくれたから、それをプロジェクトに統合できたんだ。また、バージョン6.5ではiCalサポートでも同様のことをやっている。同じように彼らもそれを提供してくれてて、プロダクトに取り込んでリリースできたんだ。

 私たちはこういった取り組みに挑戦し続けている。コミュニティではびっくりするような、偉大なアイデアが出てきているんだ。こういった素晴らしいものをうまく利用したり、プロダクトに反映させる方法を探している。こういった大きなものばかりじゃない。多くのものはこれより小さなものなんだ。去年興味深かったことの1つに、プロジェクトに以前よりも多くのコミュニティが参加してくれたことがある。全バグのうちの約10%が、コミュニティ内の貢献者が提供してくれたコードで修正されているんだ。

 普通のオープンソースプロジェクトだったら、これはたいしたことじゃないと思うかもしれない。でも、私たちのプロジェクトは商業的なものだし、正直に言って、CRMは「関わることが地球上でもっとも面白い」というソフトウェアでもない。これは本当に素晴らしいことで、私たちが誇りに思っていることの1つなんだ。

 これ以外にも、コミュニティによる関わりはたくさんある。AJAXやUIの改良もあるし、見えないところのパフォーマンス改善もたくさんある。外部からプロジェクトを取り込むこともやっている。商用版の改良も少しずつだけど継続しているんだ。UXの改善もある。新機能の追加だってあるんだ。

 長期的な視点での話をすると、私たちは現在、プラットフォームの裏側にある多くのコンポーネントを作り変える最初の局面にいるんだ。たとえばバージョン6.5では、JavaScriptライブラリをYUIからjQueryへ切り替えている。移行期間としてしばらくの間はYUIを残すけど、jQeryの利用を始めているんだ。今年後半にリリース予定の6.6では、WebサービスのインターフェースをよりRESTful的になるように入れ替える予定だ。これは本当に面白いアドオンだよ。このような改善がほかにもたくさんある。

 プロダクトとしてフォーカスしているのは、必ずしも目立つような機能である必要はなく、プロダクトを使うことでユーザー体験をいかに改善できるか、という点だ。一般的にはビジネスソフトウェアとされているが、実際のところはCRMソフトウェアの領域をカバーしている、というソフトウェアはたくさんある。そして、これらの多くはセールス担当幹部に向けてデザインされている。私たちはこの状況をひっくり返そうとしているんだ。私たちは、エンドユーザーや実際の営業担当者、オフィスワーカーといった人たちが興奮して熱くなるほど楽しみながら使えて、しかも問題解決に役立つようなソフトウェアを作りたいと思っているんだ。私たちはCRMを導入する人をたくさん見てきたけど、CRMの導入に失敗する最大の理由は、ユーザーがそれを使わないことなんだ。

 ――そう、それが私がなんとなく言っていたことなんだよ。

 John:そうなんだ。有名ソフト、とくにSiebol(注:OracleのCRMsoftware)のようなクラシックで歴史が長いものは、幹部スタッフ向けにデザインされている。誰もが実際に使えるという感じにはデザインされていないんだよ。私たちが目指していることは、誰もが実際に使えるものなんだ。ユーザーを第一に考えているんだ。ユーザー経験にフォーカスし、そしてユーザーの問題解決を助けられるようにすることで、ユーザーの皆が成功し、より高い生産性を実現できるようにしたい。

 ――「SugarForge」についても教えてほしいな。

 John: SugarForgeは、プロダクトのアドオンや拡張を取り巻くオンラインコミュニティなんだ。現在1000以上のプロジェクトがホストされていて、32,000人以上の開発者がこれらのプロジェクトに関わっている。何かをハックしたいオープンソース開発者と、課題をコミュニティに放り込んで楽しむ人たちの素晴らしいコンビネーションがある。起業のためにSugarForgeを利用するというサードパーティの開発者なんかもいる。たとえば、面白いモジュールを構築したとしたら、誰もが使えるようにそれを公開する。もしかしたらそれで商売ができるかもしれないし、そのほかの何かになるかもしれない。同じようにプラットフォームを戦略的に活用している ISVパートナーもいるんだ。また、SugarForgeと対をなすものとして、アプリケーションを販売するアプリケーションディレクトリ「SugarExchange」もある。ISVパートナーはそこに自分達の製品を置いたりする。これらはSugarユーザーがアドオンや拡張を探すための場所になっているんだ。

 プロジェクト自体は順調に大きくなっているよ。CRMは、営業やマーケティングの人たちが使うためのソフトウェアだと理解されている節がある。だけど私が非常に面白いと感じているのは、これがどんなビジネス環境で活用できる開発プラットフォームだということなんだ。よく見られるケースなんだが、アプリケーションからメインのモジュールを外して、代わりにまるっきり違う何かをその上に実装して使っている人たちもいる。こういったことをやっているパートナーはたくさんいるんだ。

 たとえば、いくつか面白いケースだと、テスト結果を記録するのにSugarCRMを使用している研究所があるんだ。データベースのCRUDインターフェイスが必要な場合、SugarCRMを使うことで簡単に実現できてしまうからね。モジュールビルダーを使えばデータフィールドも作れるし、ロジックフックも追加できる。そういうのをとても簡単に扱えるんだ。

 アプリケーションを作る場合、ビジネスロジックを処理できるツールセットの制作に膨大な時間が費やされることがある。SugarCRMが提供する機能を使えば、ビジネスのための何かを作ろうとするとき、ウィジェットの見た目やフレームワークの選択といった作業に関わる多くの時間を短縮できるんだ。もしフレームワークに認証機能がないならそれを実装しなければならないし、ACLも構築しなければならない。CRUDインターフェイスの仕様も設計しなければならない。SugarCRMはそういったちまちました部分をすべて代行できるんだ。そのため、開発者はビジネスロジックに専念できる。ここがSugarCRMの本当に素晴らしいところなんだ。SugarCRMは素晴らしいCRMだし、CRM市場での競争力も高い。それに、オープンなCRM市場ではリーダー的存在だ。おそらく、一般的なCRM市場でもリーダーの1つだろう。だけどSugarCRMがほかのCRMソフトウェアと大きく異なる点は、一般的なCRMでは扱えないような、ビジネスプロセスの周辺にある要素も一緒に扱えるということなんだ。つまり、あなたの会社のすべてのビジネスプロセスについて、自動化を手助けできる。

 ――自分が開発したものが予想外の方法で使われるっていうのは凄いことだね。

 John: SugarCRMを変わった方法で使っている人たちの話を聞いて、毎日びっくりさせられているよ。たとえば私の友人に、家財一覧を管理するのにSugarCRMを使っている人がいる。もし家が火事で焼けてしまったら、これで家の中に何があったのかを確認できるからだって。SugarCRMはすぐに使えるツールセットを提供しているから、ビジネスロジックにすぐ集中することができる。開発しているどんなアプリケーションでも、それをより迅速に市場にリリースできるんだ。

 ――ありがとうJohn。

 John: どういたしまして。