ポータルサイトにとどまらない、多種多様なWebサイトを構築できるWebフレームワーク「Liferay Portal」――SourceForgeが選ぶ今月のプロジェクト

 米SourceForgeでは毎月1つのプロジェクトを投票で選び、「Project of the Month(今月のプロジェクト)」の栄冠を与えている。2012年7月に選ばれたプロジェクトは、さまざまなコンテンツを集積したWebサイトを構築できるWebフレームワーク「Liferay Portal」だ。以下では、その開発者に対するインタビューの模様をお伝えする。

 2012年7月の「今月のプロジェクト」に選ばれたのは、Liferay Portalだ。今回、このプロジェクトを10年程前に立ち上げたBrian Chan氏に話を聞くことができた。ここに、そのインタビュー内容を紹介しよう。

 ――「今月のプロジェクト」の受賞、おめでとう。

 Brian:ありがとう。Liferayがこの賞を受賞するのをずっと待っていたから、とても嬉しいよ。

 ――このプロジェクトについて話を聞こう。このプロジェクトはどれくらい続いてるんだい? また、どんな問題を解決しようとしているの?

 Brian:このプロジェクトは2000年に発足したんだ。私たちが解決したい問題というのは、「Javaプラットフォームを使ったwebサイトを誰もが素早く構築できるようにする」ことなんだ。その中でも私たちは、ポータルプラットフォームに特化している。10年来の従来型ポータルサイトをみてもらえば分かるが、それらの多くはとても重たくて、EJBアプリケーションサーバーのような様子だ。Java界における私たちの存在は、WebプラットフォームのTomcat的な存在だと思っているんだ。

 私たちの直接の競合としては、DrupalやDotNetNukeがある。DrupalはPHP向け、DotNetNukeはdot.NET向けだけど。たとえていうなら、WebSphere PortalやOracle WebCenter、Microsoft SharePointの軽量版といったところだ。これらがLiferay Portalの問題空間だね。私たちは、Webサイトを構築する人の役に立ちたいんだ。そして一般的なWebサイトだけでなく、ソーシャルネットワークサイト的なものや、コンテンツマネジメントシステムも素早く構築できるようにしたい。

 ――プロジェクトのサクセスストーリーを教えて。誰がこのプロジェクトを使っているの? どこか大きなWebサイトでの採用例は?

 Brian:「クールなサイト」に限定していえば、最近立ち上がったばかりのMarines.com(注:米国海兵隊のリクルーティングサイト)があるよ。

米国海兵隊のリクルーティングサイト、Marines.com
米国海兵隊のリクルーティングサイト、Marines.com

 このサイトは、Liferayのコンテンツマネジメントシステム的要素がよく分かる作りになっている。このサイトの見た目は従来のポータルサイトとは異なり、とても奇麗なんだ。この系統のものでいえば、Sesame Street(注:セサミストリート。日本でも放送されていた子供向け教育番組のWebサイト)もそうだ。私たちはみんなBig Birdを見て育っているからね、昨年のトップwebサイトの内の1つだよ。

セサミストリートのWebサイト
セサミストリートのWebサイト

 こういったサイトを見れば、Liferayはとても柔軟性があることが分かるだろう。ほかの凄くクールなサイトの例としては、developer.cisco.comがある。Ciscoはコラボレーションを生み出すWebサイトを必要としていたから、Liferayをベースにサイトを構築したんだ。ほかにも、よりソーシャルネットワーク的な面を押し出したWebサイトでteambeachbody.comがある。このサイトでは、「すでに友人である人達」を囲い込んでソーシャルネットワークを築くのではなく、エクササイズの上達を目指して指導を受けている人達を中心にネットワークを構築したいというのが要望だった。このWebサイトは、すべてがLiferay上に構築されているんだ。これらの例は、本当にたくさんあるケーススタディの内の、ほんのごく一部さ。

 ――これまで、あなたが度肝を抜かれたようなサイトはあった? 設計当時にはまったく想像していなかったようなことをやっているサイトとか。

 Brian:あまりないよ。なぜかと言うと、私が予想もしていなかったことを皆色々やっているんだけど、Liferay自体が柔軟性をもつように設計されているから、何をみても驚かないのさ。だからみんなが想像を超えるようなことをしていても、そうそう、まさしくそれだよ、そのために設計されている、って思っちゃうんだ。だから、あまりビックリしないのさ。私たちを本当に驚かすようなことってないんだよ。

 ――コミュニティについてだけど、皆どうやってこのプロジェクトに参加しているんだい? たとえば、どういったことに関わることができるのかな?

 Brian:私たちのプロダクトをダウンロードして、その後にフォーラムに参加する、というのが普通のパターンだ。フォーラムには今年だけでも70万(注:後にBrianが確認したところ、50万だったとのこと)の投稿があったと思う。おそらく今年は100万件に到達するだろう。大勢の人がLiferayの掲示板に参加しているよ。ほかの方法では、バグを見つけたり、パッチを投稿するといったこともある。これらは私たちのWebサイト上で行えるんだ。フォーラムやオンラインコラボレーションツールを使ったり、イシュートラッカーを使ったりという、オープンソースの伝統的なやり方だね。もちろん、シンポジウムやイベントなんかもある。みんなが集結して一日中ひたすらコードを書くというハッカソンなども催される。

 ――近く予定されているイベントは?

 Brian:すでにアナウンスされているかどうか分からないけど、2月か3月に、LAにある私たちのオフィスを開放して、2日間に渡る大規模なハッカソンを開催する予定だ。このイベントはどちらかというとコミュニティやギークハッカー寄りのものだね。開発者や一般コミュニティ寄りのものについていえば、Java OneやOSConといったシンポジウムがある。今年の10月末にサンフランシスコで開催する予定があるし、ドイツでもやるよ。そうすればヨーロッパから来られない人達も両方のイベントに参加することができるからね。私たちはこうしたイベントを通して自分たちのケーススタディを披露することになるし、クライアントやコミュニティメンバー、それからパートナーなどにも参加してもらって、これまでのLiferayへの取り組みについて発表してもらう。

 ――Liferay.comは、このプロジェクトをベースにして生まれた商業ベンチャー企業だよね?

 Brian:その通り。こういったベンチャーでは企業とプロジェクトを切り離して、「.org」と「.com」ドメインという2つのwebサイトを設ける場合が多いのだけど、私たちはそのようにする意味がないと思ったので、1つのWebサイトで提供している。だから「.com」はコミュニティ向けのWebサイトであり、またログインをすれば、顧客向けの追加機能が提供される。コミュニティ向けもビジネスの顧客向けも、両方ともLiferay.comでホストされているんだ。私たちは、コミュニティの活動を商業的なものから切り離すようなことはしていないんだ。

 ――料金を支払っている顧客が受けられる追加サービスはどういったものなの?

 Brian:1つは、使用中バージョンの長期サポートを受けられるる、というもの。私たちのサービスを利用する銀行や大手企業の多くはLiferayでWebサイトを構築してから5年間に渡って、当時のバージョンでのサポートが必要となる。コミュニティ版を使って彼らだけでやるには、大勢の社員を投入しなければならない。いっぽう、それらをエキスパートである私たちに任せるという選択肢もある。ここには大勢のエンジニアがいて、私たちは彼らエンジニア達をよく理解している。だから、顧客は私たちのサポートに対して対価を支払う。私たちのプロダクトで何か問題があったとき、自分達で解決しようとすると10時間もかかるものが、私たちに電話で知らせてくれれば2時間で済んでしまう。私たちが分析を行うから、顧客は膨大な時間を無駄にしないですむ。

 もう1つ提供しているのは、プロダクトをカスタマイズしたい顧客向けのプロフェッショナルサービスだ。私たちはその実装を手助けしたり、顧客に近いパートナーやカスタマイズしたい分野を専門とするパートナーと顧客とを繋いだりしている。この意味では、私たちと顧客はパートナーと言える。これが、私たちが収益を上げている方法だ。このやり方で、Liferayはここ数年成長しているんだ。

 私が知る限り、私たちが企業として、そしてコミュニティとしてほかと異なる点は、このサイズのオープンソース企業のなかで唯一、ベンチャーキャピタルに頼っていないということだ。私たちは、7~10カ国にまたがって300人ほどの社員を抱えている。今はもしかしたら少し増えているかもしれない。オフィスがどれほどあるのかも分からないけど。つまり、企業を自分たち自身で運営して収益もあげ、顧客には高いクオリティのサービスを提供できているんだ。

 ――Liferayをとりまく開発者コミュニティは、あなたが給料を支払っている社員なの?それとも社外の人もいる?

 Brian: とても良い質問だね。ほとんどのものはコミュニティとコラボレーションしながら社内で開発されていて、その大部分は私たちが主導して行っている。ただ、それを数値化するのは非常に難しい。大部分は私たちが主導しているとはいえ、多様な環境、あらゆる実行可能なやり方でのテストを行うにあたってコミュニティの貢献度はかなり大きい。たとえば何かをクリックするというものでも、そこには環境や操作する人によって無限のやり方がある。だからコミュニティはパッチ作成や機能向上において、大きな助けとなっているんだ。でも多くの場合、コミュニティによる貢献というのが最終的にどうなるかというと、結局はコミュニティの人たちが社員になってしまうんだ。彼らはLiferayの作業をすることが好きだし、私たちもエンジニアを雇う必要がある。彼らが始めはコミュニティメンバーだったとしても、最終的には私たちのところに就職してしまうんだ。現在Liferayが雇っている人の多くは以前コミュニティメンバーだった人達だ。彼等は、好きでやっていたことをフルタイムでやり続けることができるんだ。

 ――Webサイト上で社員募集を行っているようだけど、それはまだ続けているの?

 Brian: もちろん。まだ募集中さ。私たちがこれまで雇ってきた人達のほぼ半数がコミュニティ出身だ。そして、それが多くのオフィスを作らなきゃいけない理由でもある。たとえばとある国に開発者が居て、その開発者が優秀なら、私たちはその人にフルタイムで働いて貰いたいからね。今やっている凄いことをやってね、しかもフルタイムで、ってね。

 ――Liferayプロダクトの将来は?

 Brian:私たちはポータルサイトをアプリケーションを配信するためのWebプラットフォームとして見ているんだ。異業種の商業的サービスが、そのように形を変えていっているのを見ている。

 たとえばSalesForceを見てごらん。SalesForseはCRMアプリケーションだ。だけどアプリケーションを素早く開発する方法を提供することで、ポータルサイトに形を変えた。また、Facebookは本来はソーシャルネットワークだけども、アプリケーションがより大きな価値を生んでいる。私たちの最大の長所は、アプリケーションプラットフォームである、ということなんだ。私たちはJava界におけるデファクトスタンダードでありたいと考えており、今まだそうでなかったとしても、その目標に速いペースで近づいていると思うんだ。そういった形で成長をしていきたい。そして、特定領域に向けて付加価値を埋めるようなアプリケーションを提供することで、転換も行っていきたい。

 分かりやすい例として、Microsoftのケースがある。彼らはWindowsから始まった。そこを基点にして、Office、Internet Explorer、SQL Server、Biz Talk、それからShare Pointと手を広げて価値を加えていった。また、Oracleはデータベースから始まっているけど、今は企業のためのアプリケーションをつくっているし、単なるデータベースに留まらずいろんなことをやっている。それと同様で、私たちの「コア」はWebプラットフォームであり、ポータルだと考えている。私たちはそこを基点に、さらに多くの価値を生むことになるであろうアプリケーションを追加していくつもりだ。これらはすべオープンソースで行われるし、同時に企業向けの商業的サービスを提供する。

 その例の1つとして、私たちの新製品「Liferay Sync」がある。Liferayポータルにはコンテンツマネジメントシステムやドキュメントマネジメントシステムがビルトインで実装されている。でも、多くの人たちはローカルPC上で、ファイルを同期させるために別のデスクトッププログラムを使っているということに気付いたんだ。こういったデータをサードパーティにホスティングさせたくない、だけどデータは自分で所有したくないからAmazonにホスティングさせたい、サーバーの管理はサードパーティではない誰かにやってほしい。Liferay Syncはそういったケースに対応するもので、データの容量を気にすることなく、そして少ないコストでそれを実現することができる。これらはポータルというものを越えた機能だ。

 ――Liferay Portalプロジェクトはどのようにして始まったの? そもそも、どうしてこれを始めることになったの?

 Brian:2000年頃、ちょうどドットコムブームが起きていた最中、私の通っていた教会の牧師に、教会のためにWebサイトを作ってくれってお願いされたんだ。当時の私は、ソーシャルネットワーキングに力を入れているコンサルティング企業に勤めていたんだ。2000年当時は、「eビジネス・コミュニティ」という呼び方で呼ばれていたけどね。その企業はソーシャルネットワークに重点をおいていて、オンライン上のコラボレーションに力を入れていたんだ。そこで考えたんだ、もしこの教会が、会社で使っているソフトウェアをうまく活用することができたら素晴らしいんじゃないかって。その当時会社の従業員は200人程で、教会には150~200人の信者がいたんだ。もし私たちが皆、オンライン上でコラボレーションできたら凄いぞ、って思った。そこで私は、そのソフトウェア企業に話を持ちかけたんだ。でも、そこではライセンス料として10万ドルの費用がかかるし、各ユーザーは年間200ドルの使用料を支払うことになるよ、って言われたんだ。教会がそんな金額を支払える訳がなかった。そこでそのプロダクトの仕様を見てオープンソースの代替品を探したんだが、どれも気に入らなかった。そのため自分で書き始めたってわけさ。

 教会にLiferayPortalのプロトタイプを導入した後も私はそれをいじくり回し続けたけど、その教会だけでなく、ほかの非営利団体や組織にも使って欲しかった。そのためもっと一般的なものに改良していったんだ。その後、このプロダクトはどんどん一般向けになっていき、教育機関や、政府機関、銀行、金融機関など数多くの組織が使い始めるようになった。こうして今の姿になったのさ。私たちがこれを最初に触ってからもう12年が経っているんだよ。

 そして、SourceForgeに感謝しなければならない。なぜなら、当時SourceForgeがなければ、私たちのアプリケーションやプログラムを配布することはできなかったからね。しかも長い期間にわたって、かなりのネットワーク帯域をダウンロードのために使わせて貰っている。SourceForgeが私たちのためにしてくれたことには、本当に感謝しているんだ。

 ――本日は、私のインタビューに答えてくれて本当にありがとう。そして、おめでとう。

 Brian:こちらこそ、SourceForgeに参加させてくれて感謝している。それから、私たちのために多くのことをしてもらって感謝している。あなた方がやってくれていることは心からありがたいと思っているし、受賞についても本当に感謝しているよ。