ホームシアターの刷新を図るBoxee

 競争の激化が進むオープンソースのメディアセンターの分野に、 Boxee が参入した。「ソーシャル・メディアセンター」を謳った同名のアプリケーションは、さまざまなソーシャルネットワーキング・サービスと、メディア漬けのユーザを狙ったXBMC(XBox Media Center)ベースのメディアセンターを融合したものだ。Boxeeはさらに壮大な構想を掲げており、招待制のモニター制度に応募すればその内容をいち早く知ることができる。

 オープンソースソフトウェアを利用したメディアセンター・フロントエンドには、MythTV、Freevo、Elisa、LinuxMCE、CenterStage、XBMCといった多くの選択肢がある。いずれも、ローカルに保存された音楽および映像の各種ファイルの閲覧と視聴、写真の表示、DVR(Digital Video Recorder)機能による新規コンテンツの録画、Torrent検索、Webビデオ再生などの機能を備えている。

 Boxeeの大きな差異化要素がソーシャルネットワーキング・コンポーネントで、これには3つの作用がある。まず、Flickr、PicasaWeb、YouTube、Blip、Jamendo、Last.fmといったWebコンテンツサービスとの連動により、ローカルのライブラリ以外にこれらのコンテンツもメディアソースとして利用できる。

 また、Boxeeはユーザアカウントを必要とし、これがユーザ間のソーシャルネットワーク形成に役立つ。ほかのBoxeeユーザを友人のグループに加えてBoxee上における活動(アクティビティ)を共有したり、コンテンツの評価やお勧めコンテンツの情報を発信したりできる。なお、プライバシー保護のために、アクティビティフィードに表示するメディアの種類はユーザが制御できる。

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Boxeeのホーム画面。最近の自分のアクティビティと共に友人のアクティビティフィードが表示される

 さらに、TwitterやTumblrといったほかのソーシャルネットワーキング・サービスに対して自分のアクティビティフィードをエクスポートできる。サポートされているサイトが少なく、片方向の機能(BoxeeからのTwitterフィードの参照は不可)ではあるが、こうしたサードパーティによるサービスの統合は従来とは違ったコンテンツソースの利用法といえる。

 Boxeeのホーム画面には、最近の自分のアクティビティと共に友人のアクティビティフィードが表示される。Webコンテンツへのアクセスには、ビデオ、音楽、写真の各項目のサブメニューを用いる(「Video」→「My videos」、「Video」→「Internet videos」など)。現行版のBoxeeには、ビデオで8つ、音楽で7つ、写真で2つのプロバイダが用意されている。うち一部は特定のサービス(YouTubeなど)に接続するもの、それ以外はあらかじめ選択された一般的なメディア(BBC Newsなど)のRSSフィードのリストになっている。

Boxeeの独自性

 友人のアクティビティ・フィードやTwitterへのエクスポート機能を付けただけでメディアセンター・アプリケーションの分野に新しいカテゴリを打ち立てたとは大げさな、と思った人のためにBoxeeの狙いを説明しておこう。「ソーシャル・メディアセンター」はいかにも注目を集めるための宣伝文句に聞こえるが、同社の構想はそれ以上のものだ。

 CEO(最高経営責任者)のAvner Ronen氏は、Boxeeのソーシャルネットワーキング・コンポーネントについて、人々がコンテンツを見つけ出す方法を設計コンセプトとして採り入れて生まれたものだ、と説明する。さらに、Boxeeは最も優れたメディアセンターの開発に尽力している、とも語る。ここでいう最も優れたメディアセンターとは、ほかの開発でも共通のプラットフォームとして役立つものであり、Web関連のさまざまなプロジェクトおよびアドオンを包む大きな環境において共通の開発プラットフォームとなっているFirefoxに匹敵するものを指す。Boxeeは、メディアセンターの基盤としてXBMCを選択したが、それは高性能なホームシアターPC向けのプロプライエタリなメディアセンターよりも、Xbox向けのXBMCのほうが使い勝手に優れていたからだ。

 「現状だと大々的な技術革新は難しい。今のところ、十分な数のユーザを擁し、主流といえるほど普及が進んでいて、各種アプリケーションを一元化されたユーザインタフェースで開発できるようなプラットフォームは存在しない。BoxeeとXBMCなら、そうしたプラットフォームになり得るだろう」(Ronen氏)

 2007年初め、Ronen氏をはじめとするBoxeeチームは、XBMCの主だった開発者と連絡を取り、双方のブランチのコードベース開発での提携を持ちかけた。Boxeeは、2008年6月に開催された初めてのXBMC開発者カンファレンスのスポンサーとなり、XBMCチームに代わって重要なプランニングセッションの準備を担当した。このカンファレンスは、XBMCの開発にはずみを付け、新規バージョンのリリースにつながった。

 Boxeeの開発主任Tom Sella氏によると、Boxee側の8人の開発者(うち1人はXBMCの中心的開発者でもある)はXBMCチームと協力して作業を進めており、Boxeeを修正したり、そうした変更のすべてをXBMCに適用可能にしたりするのに貢献しているという。libRTMPのサポートなど、Boxee側の変更がXBMCのメインブランチに適用された例もあれば、Boxeeにおける操作メニューの見直しのように、XBMC側に採用されなかったものもある。

 いずれはBoxeeで(おそらくはコンテンツの紹介や広告によって)収益を上げられるようにする予定だとRonen氏は言う。だが、BoxeeをXBMCのクローズドソース版にするというビジネスモデルは、彼の頭にない。「我々はあくまでGPLとオープンソースにこだわる」

 とはいえ、Boxee営利化の決断はまだ先だ。「当面は成果物のリリース、ユーザからのフィードバック収集、十分な数のユーザの確保に注力し、そのうえで最初に採用するビジネスモデルをコミュニティと一緒に検討したい」(Ronen氏)

アルファ版の評価

 Boxeeでは、招待制のアルファ版モニター制度を通じてユーザからのフィードバックを収集している。現在、BoxeeはLinuxとMac OS Xの両プラットフォームで利用できる。Ronen氏は、この制度に登録しているアルファ版テスターの数を明かさなかったが、その数が目標の5,000人を優に超えていることは認めた。このアルファ評価に応募したのに承認待ちになっている人は、もう少し待つとよい。テスターへの承認通知はまだ続いており、毎週月曜に行われる。

 ここでは、Linux版BoxeeのテストをNVIDIA製GeForce 8600GTビデオカード搭載のUbuntu 8.04マシンで行った。BoxeeではOpenGL 2.0対応のカードが必要なので、ビデオカードのスペックに注意が必要だ。

 Boxeeを起動すると、Boxeeのユーザアカウントによるサインインを求められる。1台のマシンに複数のユーザアカウントを作成することが可能で、ソーシャルネットワーキング機能用の個人情報はアカウントごとに分割管理される。ローカルコンテンツについては、メディアブラウザ上にいくつかの保存場所(「~/Movies」など)があらかじめ設定されている。こうしたディレクトリ内にあるコンテンツは、自動的に検出され、メタデータとしてすべてインポートされる。それ以外の場所にあるコンテンツについては、メインメニューから「Settings」→「Media」→「Local」を選択すれば、手作業によってディレクトリをメディアソースとして追加できる。

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設定済みRSSビデオフィードの閲覧

 ネットワーク上にあるコンテンツのほとんどは、「Music」→「Internet Music」か、「Video」→「Internet Videos」を選択することで直ちに視聴できる。ただし、Flickrのように証明書のセットアップを必要とするコンテンツサービスは例外だ。一連の証明書のセットアップは通常、関連するコンテンツページの最上部にある「Options」メニューから別途行う。

 メディアプレーヤとしてのBoxeeは、(基本的とはいえ)その機能をそつなくこなす。私が試した限り、Boxeeで扱えないファイル形式はなかった。もっと大がかりなチェックを実施するには、さまざまなコーデックやコンテナに通じた誰かの助けが必要になるだろう。とりあえず、デスクトップ環境の標準的なメディアプレーヤで再生可能なファイルならBoxeeでも問題なく再生できそうだ。しかし、重要なのは目的のファイルがBoxeeの再生エンジンで処理できるかどうかよりも、インタフェースが使いやすいか、また再生したいファイルを見つけやすいかである。

 この点に関しては、Boxeeのインタフェースはビデオや音楽アルバムの操作を想定したものになっていて、利用可能なカバーアートがあればインポートしてくれるが、個々の楽曲や写真の閲覧にはいくらか支障を感じる。

 これは単純に数の違いの問題ともいえる。ビデオのファイル数は知れているが楽曲のほうは何千という数になるからだ。ただし、画面上に一度に表示するアイテム数を調整できるように、いくつかの表示オプション(2列および3列表示、サムネイルのみ、テキスト形式による一覧)が用意されている。また、コンテンツはアルファベット順には表示されず、検索、ブックマーク、お気に入りといった機能も見当たらなかった。

 インターネット上のメディアに関しては便利な機能が揃っている。たとえば、コンテンツの視聴に問題があった場合には、もう一度読み込んでくれる。だが、ビデオ関連のフィードやサービスから見たいものを探すためにすべての画面を確認しようとすると、時間がかかってしまう。また、PicasaやBitTorrentのダウンロードでは、ほかのアルファ版テスターがユーザフォーラムに報告しているのと同じような問題が発生した。

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オーディオプレーヤには再生トラックの表示にバグがある

 アルファ版の段階なのでバグがあるのは仕方ないが、この評価用Boxeeを日常的に使うつもりなら十分な注意が必要だろう。インタフェース上の問題(オーディオプレーヤの再生トラックを示す表示上の誤り、非表示にすべきWebパスワードの露骨な表示など)が存在するほか、定期的にウィンドウ表示と全画面表示のモードが勝手に切り替わったり、一部のメディアファイルがなぜかコンテンツブラウザ上に表示されなかったりする。

 さらに深刻なのは突然のクラッシュだろう。OpenGLベースのインタフェースがビデオカードを酷使することは念頭に置いておく必要がある。温度センサで計測したところ、Boxeeの実行中は、ホーム画面を開いているだけでも、GPUの温度が普段より16~20度高くなっていた。

 Boxeeには、私にとって基本的と思えるような過ちも見受けられる。それは、インストール先が「/usr/boxee」という独自のディレクトリになっていることだ。これは標準的な慣例から完全に外れており、ファイルシステム階層標準(Filesystem Hierarchy Standard:FHS)の規定に反して、「/usr/bin」に収まらないパッケージ向けに用意された場所を正当な理由なしに無視してしまっている。

 今回見つかったバグは、おそらく新規リリースでは解決されているだろう。しかし、ユーザマニュアルの欠如や、独自のコンテンツフィードを追加するために手作業で設定ファイルを編集しなければならない点など、バグとは無関係な問題の解決も求められている。また、お勧めコンテンツの提示や友人のアクティビティ・フィードの機能は問題なく動作しているようだが、自分以外のBoxeeユーザをあまり知らない状況でそうした機能の負荷テストを行うのは困難だ。Boxeeのアルファ版テスターの人がいたら、気兼ねなく私に招待状を送ってほしい。そうすれば、Boxeeのこうした特徴的な部分を重点的にテストできるだろう。

最後に

 現状から判断するとBoxeeは大きな可能性を秘めている。私が一番長く使ってきたメディアセンター・アプリケーションはMythTVだが、録画したテレビ番組を除くすべてのメディアについてBoxeeのほうが使いやすいと感じる。Boxeeに検索機能が追加されればもっと便利になるだろうが、ローカルコンテンツのブラウザやメディアプレーヤは現状でも十分に安定していて使いやすい。また、インターネット上のコンテンツには、Miroのような専用アプリケーションを使ってアクセスするより、Boxeeから直接アクセスするほうがずっと楽だ。

 Ronen氏は、Boxeeの狙いを「ほかのサービスとのつながり」が実感できるものにすることだと説明し、「メディアセンターの利用形態をネット上の交流と切り離してはならない」と語る。この点については、まったく彼のいうとおりだ。メディアセンター・ソフトウェアは、アプライアンスという枠から抜け出し、インターネット上のその他すべての活動と同じくらいインタラクティブなものになる必要がある。Boxeeは今後の注目株だ。コードが成熟するにつれ、理想的なメディアセンターへと変貌していくだろう。そのうちに、テレビのそばにPCを持って行ってBoxeeを使ってみたくなるかもしれない。

Linux.com 原文(2008年9月12日)