Fedoraに統合されたK12Linux、開発者が語る苦労

 K12Linuxは、米オレゴン州で教育関連の仕事に携わるPaul Nelson氏とEric Harrison氏が7年前に立ち上げたプロジェクトで、現在はFedoraに統合されている。かねてからの悲願だったFedoraへの統合を達成できたことを、2人はうれしく思っている。

 2人はネット上で知り合った。Nelson氏がLinuxに関して助言を求めたことがきっかけだ。ポートランド市のリバーデール学区内の小さな学校で、教職の傍ら技術統括を担当していたNelson氏。「我が校では、バックエンドの処理にはLinuxを全面的に利用していましたが、フロントエンドのWindowsデスクトップの管理に苦労していました。フロントエンドでもLinuxを使えたらいいのに――そう考えました。そこで、地元のユーザー・グループのメーリングリストにメールを投稿したんです」。当時マルトノマ郡でITサービスの技術サポートを担当していたHarrison氏はNelson氏と意気投合する。そして2人はある構想を抱いた。Linux Terminal Server Project(LTSP)をベースとして、学校向けの特別なディストリビューションを作成し、旧式の安価なハードウェアを利用したシン・クライアントでLinuxを使えるようにしたらどうだろう――。

 こうして2人はプロジェクトを開始した。当初のプロジェクト名はK12LTSPだ。教育現場でLinuxをこんなふうに活用できるということを、他校に示すことができればと考えていた。Harrison氏が、LTSPプロジェクトの設立者であるJim McQuillan氏と会い、プロジェクトの構想を話したところ、LTSPを基盤として構築することを勧められた。そこでHarrison氏とNelson氏は、Red Hatに提案できるようなプルーフ・オブ・コンセプトの作成に着手した。

 Nelson氏はこう話す。「我々が目指したのは、Red Hatを利用し、LTSPの機能を全部まとめて導入できるインストーラを用意することでした。そうすれば、きちんと稼動するターミナル・サーバを提供でき、Red Hatと同様に誰でも簡単にインストールできるようになると考えました。その目標の裏には、プロジェクトの配布作業やメンテナンス作業をいずれはRed Hatが引き継いでくれればという願いもありました。遠からず達成できるつもりでいたのに、結局7年かかってしまいましたが」。

 Fedoraコミュニティへの統合までの間、プロジェクトのリード開発者として精力的に活動してきたHarrison氏も同じ考えだ。「最初の実装を我々が手がけて、あとは誰かに引き継ぐというのが我々の考えでした。しかし、ターミナル・サーバ・ソフトウェアの元々の設計では、ディストリビューションとの統合がうまくいきませんでした。元のLTSPは、それ自体が1つのディストリビューションであり、glibcやxserverなど、あらゆるものを独自に備えていたからです。だから、Red Hatがプロジェクトを引き継ぐとなると、Red Hatの品質保証の手間が倍になってしまうのです」。Red Hatからの参加がすぐには得られないことになったとき、Harrison氏は燃え尽き寸前の状態だったが、プロジェクトを放棄する気は起きなかった。同氏は、関連するメーリング・リストへの投稿で、「K12LTSPの根本的な問題は、骨の折れる仕事をほとんど私が担っていることだ」と記している。同氏は、統合の方法について、Ubuntuプロジェクトの助けを請うことにした。

 「(Ubuntu創設者の)Mark Shuttleworth氏は興味を持ってくれましたが、統合に関して同じ問題を指摘されました。我々は、UbuntuやLTSPと協力して、LTSPをディストリビューションに統合するうまい方法を探っていきました」。Harrison氏の取り組みからは、K12Linuxにも相通じるEdubuntuプロジェクトが生まれた。さらにHarrison氏は、本人曰く「釈迦に説法」のような取り組みを続けた。「我々の共通点がいかに多く、力を合わせることがいかに重要かを説いて回りました」。同氏の熱心な働きかけはついに実を結び、必要な助けが得られた。「我々は力を合わせて、この統合をFedoraにバックポートしました。ディストリビューションの実際のパッケージを使うことで、ターミナル・サーバ機能に固有のプログラムができるだけ少なくなるようにしました。こうすることで、管理の手間が軽減します」。

 2008年初めには、LTSP5パッケージはFedoreリポジトリに少しずつ取り込まれていった。そして、Fedore 10のリリースで、K12Linuxはディストリビューションの一部として完全に統合された。

 Harrison氏の負担が大きく軽減されたことは言うまでもない。「自分が一手に担う状態から、ほとんどの作業を他の人に任せられる状態へと変わりました。とてもいい気分です。私が手がけた作業はユニークなものでした。苦労して中核部分の技術を設計し直し、ディストリビューションに統合しやすくしたことで、今では開発リソースが非常に充実しました」。

 K12Linuxが全米の学校で名の知れた存在になってくれればというのがNelson氏の願いだ。「ベンダに電話して、『K12Linuxの環境を導入したいのですが』と相談したときに、話が通じるようになってくれたらというのが、最後の大いなる野望です。販売業者なりDellなりに電話でそう伝えると、先方はK12Linuxの何たるかをきちんと認識している。でも、Webサイトのどこを見ても価格が書いてない、そんな状態です。あるいはHewlett-Packardもそうです。HPは優れたシン・クライアント製品を150ドルか200ドル程度で発売していますが、あまり宣伝していません。なぜしないのかはわかりませんが、そこを踏み出してもらうのが次の1歩です。シン・クライアントの宣伝に力を入れた企業は、その売り上げを大きく伸ばすことになっていくと思います」。

Tina Gaspersonは、ビジネスと技術について、オープンソースの視点から記事や文章を執筆している。

Linux.com 原文(2008年12月10日)