Web 2.0のジレンマ
自分の首を絞めるようなことを書くのもなんだが、私は収益源をインターネット広告に頼るというビジネスモデルは持続可能ではないと見ている。すなわち、コンテンツは無料で提供して広告で稼ぐというのが基本の、いわゆるWeb 2.0ビジネスの大半はそう続くものではない、というのが個人的な考えだ。
といっても来年Googleは潰れるでしょうというような短期の話ではなく、5年から10年くらい先を見た中長期的な話である。しかし、考えてみたら5年前って結構最近ですよね。だから5年後も案外すぐ来るのではないかと私は思っている。
さて、なぜこうしたビジネスモデルが長続きしないと思うかというと、理由は簡単だ。視聴者が広告を見ないようにするためのコストが劇的に下がり、そして今後も下がり続けるだろうからである。
テレビと違い、インターネットは見る人の自由度が格段に上がったと言われる。確かにその通りで、ネットでは見たいものを見たいときに見られるわけだが、裏を返せば見たくないものを見ないようにすることも簡単だということだ。
たとえば、テレビでコマーシャルを排除するのはとても難しい。録画すればレコーダーのCMスキップ機能を使うことも出来るが、面倒くさいし、そもそもなかなかうまくいかないのが実情だろう。しかしウェブの閲覧に際しては、たかだか広告ブロックプラグインの類をブラウザにインストールするだけで、ユーザは広告の存在にすら気づかなくなるのである。
個人的にも最近驚かされた出来事があった。たまたま常用ラップトップを買い換える羽目になり、一通りインストールした後にIceweasel(Firefox)ブラウザでウェブを見ていたのだが、よく見に行くサイトにも関わらず、どうもつい最近まで見ていたのとは雰囲気がだいぶ違う。実は、当人も気づかないうちにAdBlock Plusがインストールされていたのである。日本用のブラックリストがないので日本のサイトにはまだまだ甘いが、しかし少なくともGoogle AdSenseやそこらのバナー広告の類は全く見えなくなる。昔自分でjunkbusterプロキシを入れたことはあるが、それとは比較にならない手軽さだ。
この種のことには広告会社のほうでもずいぶん前から気づいていて、すでに3年前にはDoubleClickの重役が「フリーなインターネットコンテンツの終焉は、ウェブブラウザがオンライン広告をデフォルトでブロックするようになったとき訪れるだろう」と指摘していた(当時のSlashdotの記事)。その後DoubleClickはGoogleに買収されたのだから、当然Googleも分かっているはずだ。とはいえ、不況にも関わらずGoogleの今四半期は好決算だったようだが、決算書を見ると今や収益の97%は広告事業から得ているようである。
視聴者たるユーザの参加を促し、ユーザに自由を与えるというのが、Web 2.0の根幹だ。しかし、自由を与えるということは、ユーザに対し、彼らがやりたくないことをさせることはできないということでもある。そして、広告を積極的に見たいというユーザはあまりいないのではないだろうか。だとすると、広告を見なくてもすむようなイノベーションは出てくるかもしれないが、広告を見させようとするイノベーションは出てこないのではないか、というのが私の素朴な疑問である。梅田望夫氏は、著書「ウェブ進化論」において、Web 2.0の本質を「ネット上の不特定多数の人々(や企業)を、受動的なサービス享受者ではなく能動的な表現者と認めて積極的に巻き込んでいくための技術やサービス開発姿勢」と述べていたが、まさにユーザを能動的にするがゆえに、そういった技術やサービスの存在基盤である広告という収益源が脅かされるという、ある種のジレンマが生ずるような気がするのである。
だからと言って、ではどうしたらよいのかというとあまりアイデアもないのだが、個人的にはやはりマイクロペイメントの充実を図るしかないのではないかと思う。そういえば、Google Checkoutなんてものもありましたね…。