Linux.comの見た2008年米大統領選候補
11月の大統領選を前に、米国の有権者は、激しい論戦を呼びそうな重要課題が主要メディアおよび選挙広告でこれまで以上に取り上げられることを期待している。しかし、オープンソースおよびフリーソフトウェアコミュニティにとって重要な課題の情報は、なかなか目にする機会がない。ここでは、民主党と共和党の両候補がFOSSコミュニティの有権者に身近な問題についてどのように述べているかを紹介する。
Barack Obama氏もJohn McCain氏も、テクノロジをはじめとする問題に対する政策を記したポジションペーパーを選挙活動Webサイトに用意している。また、どちらの党についても、オフィシャルな政治要綱のPDF文書をダウンロードすることができる。以下で参照している情報はすべて、これらのドキュメントに基づいている。
テクノロジの問題に対する両候補のスタンスのほとんどは、「テクノロジ」という独立したページに記載され、そこではソフトウェアやネットワーク以外にも多くのテーマが取り上げられている。この部分はぜひじっくりと読んでほしいのだが、できればほかのポジションペーパーにも目を通すことをお勧めする。というのも、テクノロジの問題には、政策のその他の領域と重なっているものが非常に多いからだ。
ネットの中立性
両陣営のスタンスの違いがはっきりと出ているテーマに、ネットワークの中立性がある。Barack Obama氏がネットの中立性を明確に支持しているのに対し、John McCain氏は反対の構えを見せている。
Obama氏のプランには、インターネット成功の鍵はその歴史的なオープン性にあり、その特質は維持しなければならない、と記されている。
インターネットでのオープンな競争の恩恵を守るために、Barack Obamaはネットワークの中立性の原則を強く支持する。ほとんどの国民にはブロードバンドキャリアの選択肢が1社か2社しかないため、プロバイダはコンテンツやサービスに料金を課す傾向があり、平等な待遇を得るためにプロバイダに金を払うことを良しとしないWebサイトを差別しようとしている。これはインターネットの二極化をもたらすおそれがある。つまり、プロバイダに取り入って良好な関係を築いたWebサイトには高速にアクセスできるのに、競合関係にあるWebサイトには十分な回線速度が与えられない、ということである。そうした状況は、イノベーションやオープンなインターネットの伝統と構造を脅かすだけでなく、コンテンツプロバイダとバックボーンプロバイダの対立にもつながるだろう。
McCain氏のプランは、インターネットおよびソフトウェアのマーケットにこれまである程度の規制を敷いてきたことがインターネットの繁栄をもたらした、とする一方で、政府が度を越した規制を課してはならない、とも述べている。
John McCainは、“ネットの中立性”などという作り上げられた規範を信用してはおらず、むしろ、さまざまな選択肢を消費者に提供するオープンな市場が、公正さを欠いたやり方に対する最大の抑止力になる、と考えている。
また、次のようなくだりもある。
John McCainは、政府の不用意な介入によってインターネットの革新的な性質が損なわれる可能性を理解している。規制が不要なことを起業家に実証させるのではなく、規制の必要性を政府が実証してみせる必要がある。
ソフトウェア特許
特許改革については、両候補の立場の違いがそれほど明確になっていない。どちらの公式要綱も具体的にソフトウェア特許に言及してはいないが、特許制度改革の必要性には触れている。
McCain氏のプランは、特許審査官の増員と教育、また“特許問題を解決する別のアプローチ”を可能にするために米国特許商標庁(US Patent and Trademark Office:USPTO)への予算追加を求めている。
多くの重要なテクノロジに関しては、米国で特許に対抗する効果的な方法が訴訟を起こす以外にない。しかし、特許訴訟には莫大な費用がかかる。有効な特許を認める低コストで確実な手段が政府にないばかりに、革新的な企業を無理やり和解に持ち込ませるための大がかりで根拠のない訴訟が横行している。
Obama氏のプランもまた、米国特許商標庁への予算の追加を求めているが、具体的に特許審査官の雇用にあてるべきだとは記されていない。
また、「不透明性をなくすと共に、現在イノベーションの大きな妨げとなっている無駄な訴訟を減らす」ために、「特許審査の過程を民間の目でチェックできるようにオープンにすること」を提言し、「厳密かつ公開方式の同業者による審査」という選択肢を出願者に与えることを提案している。
さらに、「そうすれば怪しげな特許が申請されていても、低コストかつ短期間の手続きで特許性の判断が可能になる」とも記されている。
著作権関連
どちらのプランも、著作権の実施全般について簡単に触れ、海外でのエンタテインメント製品の違法コピー市場との関連性を指摘している。
Obama氏のプランには、「中国が米国の著作権および商標権を実施できていない」こと、また米国の税関で押収されている偽造商品の8割が中国で生産されたものだと記されている。また、2005年に中国で販売されたDVDの9割以上が違法コピー製品だとする全米映画協会(MPAA:Motion Picture Association of America)の推定値を引用した上で、「(Barack Obamaは)海外市場において知的財産権が保護されるように働きかけると共に、米国のテクノロジが全世界で競争力を発揮できるような国際標準規格の制定に向けての協力をこれまで以上に強く推し進める」と結んでいる。
Obama氏のプランは、特許制度だけでなく著作権制度についても「国民による議論、イノベーション、投資を促進しつつ知的財産権保有者の公正な扱いを保証する」ために、「更改」が必要だと述べている。
John McCain氏のプランでは、このテーマに関する論述に「John McCainはクリエイティブ産業を海賊行為から保護する」というタイトルを付け、エンタテインメント業界は経済にとって「不可欠な領域」であり、米国最大級の輸出を誇る業界でもあると述べている。特に、インターネットについては次のように言及している。
インターネットは、楽曲や映画といった著作物を低コストで世界中に配信する多大な機会をクリエイタに提供する一方で、海賊行為の世界的蔓延の原因にもなっている。John McCainは、インターネットでもそれ以外でも、海賊行為を厳重に取り締まる活動を支援する。
開かれた統治
両候補とも、インターネットから入手できる行政情報をもっと増やすべきだと述べている。
McCain氏のプランは、行政サービスのオンラインアクセスと「米国民すべての利益になる行政情報のオンライン化」を提唱している。また、McCain氏が「電子政府の実現に向けた戦略的構想を立てるための電子政府オフィス」の設立を支持している点にも触れている。
Obama氏のプランは、テクノロジを利用して「米国民に対する新たなレベルの透明性、説明責任、関与」を生み出すことを提言している。具体的には、行政資料を「だれもが理解できる形」でオンライン化して国民が再利用できるようにすること、連邦政府による助成金、請負業務、使途指定予算、陳情受付窓口の調査が可能な公開Webサイトと検索エンジンを設けること、非緊急法案について国民がホワイトハウスのWebサイトに意見を書き込めるようにすること、「行政上のより良い意思決定のために組織内、省庁間、対国民の情報の伝達および共有」の方法を改革することが挙げられている。
またObama氏は、国の最高技術責任者を置くという考えを支持しており、その職責には「電子政府法で求められているように、連邦政府の各機関によって記録文書が公開され、利用できるようにすること」を含めるとしている。
反トラスト法
Obama氏のプランには、具体的に反トラスト法の施行を扱った「市場における自由競争の確保」というセクションがある。そこには、Obama政権は消費者の福利を害するおそれのある合併の審査を厳しく行うことで反トラスト法の施行を再強化し、消費者が企業間競争の恩恵を受けられるように基幹産業に注意を向けるとの公約が記されている。このObama氏のプランには、「反トラスト当局間の競争関係を認める制度を強化し、特別利益団体が規制を利用してこうした競合プロセスを免れることがないようにする」とも記されている。
McCain氏のプランは、反トラスト法の施行には触れていないが、Obama氏のプランと同様、国際市場における米国企業の競争力確保については取り上げている。
その他
テクノロジに関するMcCain氏、Obama氏両陣営のプランの全容は、それぞれjohnmccain.com、barackobama.comで読むことができる。いずれも、無線周波数帯の割り当て方針やプライバシー保護など、(フリーソフトウェアの開発や導入に直接影響を与えるわけではないが)フリーソフトウェアおよびオープンソースの各コミュニティにとって非常に関係の深い問題を取り上げている。
また、民主党の国政要綱はdemocrats.orgから、共和党のものはgop.comから入手できる。
なお、Linux.comでは、リバースエンジニアリング、セキュリティの脆弱性報告、模造品・海賊版拡散防止条約(Anti-Counterfeiting Trade Agreement:ACTA)など、要綱には示されていない問題に対する立場を双方の選挙対策本部に問い合わせているところだ。回答が得られ次第、本サイトで報告する。