フランス大統領候補者、フリーソフトウェア関連の問題について語る
こうした情報は、「自由なコンピューティングの促進および研究のための団体」という意味の正式名を持つフランスの団体APRILによって提供される。今年2月、APRILは14項目の詳細な質問から成るアンケートを各大統領候補に送り、一般的な問題とフランス特有の法律に関する問題の双方についてそれぞれの立場を尋ねた。選挙2日前の時点で、12名の候補者中8名から回答があった。詳しい回答をくれた候補者のなかには2人の有力候補者が含まれていた。社会党のSégolène Royal氏とフランス民主連合のFrançois Bayrou氏だ。もう1人の有力候補、国民運動連合のNicolas Sarkozy氏からも回答はあったが、その文面はかなり短く、APRILの質問に直接答えるものではなかった。
回答があった他の候補者は、革命的共産主義者同盟のOlivier Besancenot氏、無所属のJosé Bové氏、フランス共産党のMarie-George Buffet氏、国民戦線のJean-Marie Le Pen氏、緑の党のDominique Voynet氏である。
なお、労働者の闘争党Arlette Laguiller氏からの返信には、質問への回答ではなく、「残念ながら、あなた方の求める適切かつ正確な回答を用意できるだけのスタッフやエキスパート集団が、私のもとにはいません」と記されていた。
関連する質問と回答
各候補者の回答はWebサイトCandidats.frにPDF形式でポストされているが、以下にその内容をかいつまんで紹介する。
アンケートの最初のセクションは、特許の一般的な好ましさ、とりわけヨーロッパ特許庁(OEB)の活動に関する項目だった。Bayrou氏は、「フリーソフトウェアの開発」に寄与する法律を支持するとの立場を明らかにしている。同様に、Royal氏は「特許化できるものとそうでないものの区別の明確化」と特許事務所による立法的行為の防止の必要性を訴え、欧州議会においてフランス社会党がソフトウェア特許を排除すべく投票したことも記している。Voynet氏の態度はもっと強硬で、緑の党は「アイデアの特許性に反論する」人々を支援することを表明している。Besancenot氏、Buffet氏、Le Pen氏もソフトウェア特許に反対の立場を取り、さらに、Bové氏は同じく反対の立場を表明するにあたってフリーソフトウェア財団の4つの自由を引用している。
もう1つの質問は、ロックダウン技術の迂回を試みる人々に対する相互運用性と保護の権利を支持するかどうか、また相互運用性のためにソフトウェア開発者による情報提供の義務があるかどうか、を基本的に問うものだった。Bayrou氏は「相互運用性の権利は、開発者にとってもユーザにとっても不可欠」と答え、「相互運用性の抑制は、クリエイティブな大衆アーティストの阻害につながる。また、単純にこの質問が個人用にコピーする権利を行使するユーザに言及しているのなら、そうした技術的手法を迂回手段とみなすことはできないだろう」とも記している。Royal氏も同意見で、相互運用性はソフトウェア特許より優先されるべきだとも述べ、この問題が言論および結社の自由に関わるものであることを示唆している。Sarkozy氏(以下を参照)を除けば、他の候補者の回答も同様の立場を示すものだった。
アンケートには、DADVSI法(情報化社会における著作者の権利および関連権利についての法律)の撤廃を支持するか、という質問もあった。昨年、フランス議会で強引に可決されたこの法律は、反DRM活動家たちから「ヨーロッパで最悪の著作権法」と呼ばれている。ここでも、Sarkozy氏を除くすべての候補者が、この法律の大幅な改正または撤廃の必要性を認める旨の回答をしており、Bove氏に至ってはDADVSI法の支持者を「自由破壊者」とまで記している。
Sarkozy氏を除けば、各候補者は、どんなソフトウェアも予めインストールされていないコンピュータを消費者が購入できる権利の必要性、また、学生たちにMicrosoft Officeのような「シリーズ製品」(アンケート中の表記より)ではなくワープロや表計算ソフトのような「各カテゴリのツール」を習得させる必要性についても同意していた。どちらについても、各候補者はフリーソフトウェアコミュニティと同じ立場を取っており、予めインストールされたソフトウェア分の費用支払いが消費者の権利に反すること、未成年層がソフトウェアベンダの影響を被りやすいことをほのめかしている。
候補者のほとんどにはっきりとした回答内容の違いが出た質問は、オープンスタンダードとフリーソフトウェアを促進する政府組織を支持するかどうかというものだった。ただしここでも、その違いは主として支持の度合いにあった。Besancenot、Bové、Buffet、Le Pen、Voynetの各候補は皆、オープンスタンダードとフリーソフトウェアの双方を奨励すると答えた。異なるのは、Le Pen氏が約束するように単に「奨励」するのか、Voynet氏が述べるように両者を支持する政策を実施するのか、Buffet氏が掲げるようにそれらを促進する機関を設置するのか、という点だけだった。これに対し、回答者のなかでも有力候補であるBayrou氏とRoyal氏は、より慎重な見方をしており、そのような支援は担当政府機関の基準によって調整しなければならない、と述べている。特に、Bayrou氏はオープンスタンダードおよびフリーソフトウェアの普及促進よりも「公的資金の活用」、「利用の自由」、「待遇の均等化」といった原則のほうが重要だと指摘する。
全体的な印象として、大部分の大統領候補者は、フリーソフトウェアの問題についてかなり理解しているように感じた。そのうち少なくとも2名がRichard Stallman氏と面識があることを強調し、ほかの数名もフリーソフトウェアコミュニティとある程度の馴染みがあるようだった。こうした意識は従来の範囲を超越しており、共産および社会主義の各党派も国民戦線もフリーソフトウェアへの関心を表明している。おそらく、数週間後に決戦投票が行われることがほぼ確実と見られる今回のような接戦では、フランス国内のフリーソフトウェア活動家が握る団体票を少しも逃してはならない、と各候補者は考えたのだろう。
ただ1人の例外
こうした見方に唯一当てはまらないのが、Sarkozy氏である。Sarkozy氏は、Candidats.frに他の候補者の回答が投稿されるまでは沈黙を守って回答を返さなかったのだが、あるニュースリリースでは自らの回答の欠如を嘆いた。あとで得られた彼の回答は、わずか4ページしかなく、他の候補者の文面の半分にも満たないものだった。その内容は各質問に直接的に答えたものでもなく、かといって総括して答えたものでもなかった。Sarkozy氏は、あからさまな対立を示した唯一の候補者で、DADVSI法については「あなた方が暗に示唆している考えには反対の立場をとっている」と記していた。
Sarkozy氏の文面からは、質問への回答を渋った理由が伺える。彼は特許法の支持を表明しているが、その根拠を「企業の技術革新を促進し、投資を活性化させ、個人による新しい発明の創出を促進するから」だとしている。また、Sarkozy氏は知的財産権の考え方も支持しており、見直しが予定されている2007年末にならないうちにDADVSI法の改正に言及するのは時期尚早だとも述べている。オープンスタンダードとフリーソフトウェアについての質問に対しては、「自由に対する私の考え方によれば、誰にでも1つの型を押しつけることが国家の役割とは思えない」と答えている。その他の回答内容もきわめて一般的なものであり、彼はこうした問題について考えていないか、態度を明らかにするのを避けているかのどちらかだろう。APRILのディレクタFrédéric Couchet氏がコメントしているように、Sarkozy氏のものが「受け取ったなかで最悪の回答」だった。
APRILで市民啓発を担当するバイスプレジデントJean-Christophe Becquet氏は、今回のアンケートについて次のようにまとめている。「APRILの活動が、市民による党派を超えた議論のきっかけになったのではないかと思う。今回の各候補者の提言は、非常に多くの人々の目に触れ、議論や批評が行われた。こうした提言の一部が再び注目されることは間違いないだろう」
すでにAPRILは、次のフランス議会選挙に向けてCandidats.frの取り組みを再開することを発表している。フランス以外の国々のフリーソフトウェア支持者も、こうした取り組みを検討する必要があるのではないだろうか。
Bruce Byfieldは、NewsForge、Linux.com、IT Manager’s Journalに定期的に寄稿しているコンピュータジャーナリスト。