CiscoがPostPathを買収 Microsoft Exchangeに対抗

 ネットワークの巨大企業Ciscoが、8月27日、PostPath買収という驚きの発表を行った。PostPathはLinuxベースの代替ExchangeサーバーPostPath Serverのメーカー。

 PostPathは、Microsoft Exchangeと差し替え可能な代替サーバーとしてよく知られている翻訳記事)。Exchangeの代替を掲げる製品にはScalixやLotus Domino/Notesなどもあるが、これらはクライアントPC上のOutlook互換Mail Application Programming Interface(MAPI)を提供しているだけだ。これに対して、PostPathはMicrosoftのMAPIプロトコルとActive Directory(AD)プロトコルを実際にリバースエンジニアリングしている。つまり、ネットワークやWindows PCから見る限り、PostPathはExchangeサーバーそのものなのだ。

 Microsoftに対抗するためリバースエンジニアリンすることで代替Exchange製品を作っているメーカーはPostPathだけだが、この方法はほかのオープンソース企業にも広がる可能性がある。というのは、欧州委員会がMicrosoftにCommon Internet File System(CIFS)とADプロトコルを開示するよう命じた際、MAPIプロトコルの開示も命じているからだ。

 実際、オープンソース・プロジェクトOpenChangeが、現在、この情報を使ってMicrosoft Exchange ServerとExchangeプロトコルのオープンソース実装を構築しようとSambaに取り組んでいる。しかし、The Radicati GroupのCEO、Sarah Radicatiによると、オープンソース企業にはそうした動きはないという。

 Ciscoは、現在、「サービスとしてのソフトウェア」(SaaS)を基本とするWebExコラボレーション・プラットフォームを展開している。WebExにはすでにインスタント・メッセージ、音声、ビデオ、データ、文書管理、Web 2.0アプリケーションが組み込まれているが、その電子メールとカレンダー機能を今回買収するPostPathのソフトウェアを使って拡張するのだという。同社コラボレーション・ソフトウェア・グループのシニア・バイス・プレジデントを務めるDoug Dennerlineの言を借りれば、「PostPathの買収は、現在および未来の作業環境のための統合コラボレーション・プラットフォームを開発し真の生産性と使い勝手を提供するというCiscoの戦略を補完するものだ」(発表時の声明)

 これは業務用電子メール市場の65%(Ferris Researchの最近の調査)を占めるMicrosoftとExchangeへの挑戦のように聞こえるが、実際、その通りなのだ。「Unified MessagingスイートにVoIP(Voice over Internet Protocol)を組み込んだExchange 2007がリリースされるまでの一時期、CiscoはMicrosoftに不満を感じていた。その時が、顧客に代替製品を提供すべき潮時だった」(同社幹部)。Ciscoは、長い間、Session Initiation Protocol(SIP)を使ったVoIPで先頭を走っていた。現在は、Exchange 2007もSIPをサポートしている。

 同社CEOのJohn Chambersは、最新の四半期報告書で次のように述べている。「Ciscoが何をしようとしているのかを知りたければ、Ciscoが買収した企業を見ればいい。Ciscoは新しい市場に参入する場合、その製品分野に経験がなければ(それを持つ企業を)買収するからだ」。その上、今回のケースでは、既存のWebEx Connectコラボレーション・プラットフォームとピタリと整合するのだ。同社も、発表の中で、この点をしっかりと強調している。

 Ciscoのウォッチャーたちは、Chambersの買収再開をずっと見守っていた。市場が底を打ったと判断すれば、Chambersはどのような買収でも承認するだろうと広く信じられているからだ。

 Ferris ResearchのアナリストRichi Jenningsは、Ciscoはよい判断をしたと評価している。「Ciscoは、今度も電子メール技術を持つ企業に堅実な投資を行おうとしている。IronPort(電子メール・セキュリティー・アプライアンス・メーカー)のときと同じように」

 PostPathについては「Exchangeクライアント・プロトコルのMAPI/RPCや、普通にインストールされたOutlookがExchangeではないメール・サーバーと(Exchangeのときと)寸分違わないやりとりができるようにするために実際の通信をリバースエンジニアリングできるだけの技術者がいるということだ。なかなかのものだ。いくつかある代替Exchangeの中で、PostPathは最も興味深いアーキテクチャーを持っている。長年OpenMil技術に思い入れがあって投資してきた者として、そう言うのだ」。OpenMil技術はScalixの基礎だ。

 買収自体については「Ciscoはしばらく前からMicrosoftとの関係を切っていたのだろう。ExchangeのVoIPサポートの件があったし、Microsoftのパートナーということもある。しかし、Microsoftとは競争関係にあることが明らかになった。親しめるものは何もなかったのだ」

 また、Ciscoの計画については「CiscoはPostPathとWebExをベースにしてSaaSコラボレーションを提供したいようだ。いったい誰が、電子メールの世界は面白くなくなったと言ったのだ?」

 Ciscoは、PostPathの株式を約2億1500万ドルで買い取る。買収の完了はCiscoの年度で2009年度第1四半期の見込み。買収完了後、PostPathの従業員はCiscoのコラボレーション・ソフトウェア・グループに所属することになる。

Steven J. Vaughan-Nichols 技術とそのビジネス応用を守備範囲とするライター。PC向けオペレーティング・システムならCP/M-80と言われ、自分のコンピューターで2BSD(Second Berkeley Software Distribution)を使うのが最先端だった時代からの古参。

Linux.com 原文