Power Architecture終焉の噂を払拭する新Linux搭載PowerStation

 PowerStationプラットフォーム上のYellow Dog Linuxを開発しているTerra Softが、従来のデザインとパフォーマンスを超えるクワッドコアPowerPCデスクサイド・タワーを7月中旬にリリースする。これにより、ワークステーション市場とサーバー市場に安価なPower Architectureが再登場することになる。

 Power Architectureは、この10年、ハイパフォーマンス・コンピューティング、個人用ゲーム、自動車、通信、信号処理、画像処理といった分野で主力を担ってきた。しかし、Terra Softがこの3年で初めてリリースするハードウェア、新PowerStationは主にPower Architectureのコード開発にフォーカスしたコンシューマー向け製品だ。同社CEOのKai Staatsは、Power Architectureは主に組込み分野で使われており、それに使うPowerコードをPowerワークステーションで開発すればコードをそのまま使えるという利点があると述べ、PowerStationを主として、Power ArchitectureのOEM/ODM向け開発用ワークステーションとして、またクラスター所有者に販売する計画だという。

 組込みシステムの開発用ワークステーションがPowerStationであればホストからターゲットへの移行がシームレスになり、開発コストの削減と開発時間の短縮が期待できる。作成したコードをそのままコンパイル、テスト、デバッグし、完成したアプリケーションを速やかに組込みプラットフォームに搭載できるからだ。「この方法では、コードの移行は単純なコピーコマンドか移動コマンドを実行するだけだ。時間がかかるばかりかエラーを生みやすいクロス・コンパイル(x86マシンでPower用のコードを作成すること)は不要になる」

PowerStationとは

 YDL PowerStationのターゲットは、コンシューマーから企業まで幅広い。古くなったApple PowerMac G5ファミリーの買い換えもその一つだ。同社によると、1つ前のG4システムやG5システム向けに調整されたLinuxコードは容易に移行できるという。

 Yellow Dog Linuxが動くPowerStationはIBM、Freescale、AMCCのPower Architectureチップ上に構築されたシステム・ボードに対してホストとなることができるため、それらチップに共通し互換性のある資産をPowerStationの970コアもサポートでき、またその資産を増やすことにもなる。こうしたチップは、また、Cell開発にも欠かせない。PowerStationはCellシステム向けコードの準備と最適化に、またSony PS3やハイパフォーマンスIBM QS22クラスターのヘッド・ノードとしても使うことができる。

 同社エンジニアリング担当ディレクターOwen Stampfleeは、YDL PowerStationは従来品以上にオープン標準に準じており、Linuxによるサポートも容易だと言う。

 「PowerStationは、ファームウェアからOSやグラフィックス・カードのサポートに至るまできわめてオープンなコンピューターとして作られている。出荷時にYDLをプレインストールしてはいるが、より広いLinuxコミュニティーの参加を歓迎する。参加してくれる開発者はすべてサポートする」

 YDL PowerStationには、Yellow Dog Linux v6.0がプレインストールされている。搭載されているアプリケーションは、WebブラウザーFirefox、電子メール・クライアントThunderbird、IM/IRCクライアントPidgin、IP電話アプリケーションEkigaのほか、OpenOffice.org、gThumb、GIMP、RhythmBox Music Playerなど。そのほか、ゲーム、マルチメディア・アプリケーション、Fluendoコーデック・インストーラー(MP3はインストール済み)、パーソナル・アクセサリーのスイートも用意されている。また、開発ツールとして、GNU Compiler Collection(GCC)、GNU Debugger(Gdb)、Eclipse、Subversion、IBM Cell SDKを含むライブラリーとツールキットの大きなコレクションが同梱されている。

絶滅からはほど遠い実態

 Appleは2005年にPower Architectureを見限ったが、Power Architectureが絶滅することはなかった。Power Architectureのマイクロプロセッサーは、今も、地形マッピング、無線諜報、画像開発、スマート兵器、レーダー、衛星通信のシステムで使われており、航空機のエンジン制御、燃料制御、飛行とGPS測位、計測、診断でも多用されている。

 StaatsはPowerPCが競争力を失ったというのは誤解だとし、IBMのPower ArchitectureチップのうちApple向けは5%以下だったと指摘する。しかも、それはAppleの一般消費者向けPowerベース製品の最盛期の数字だ。「Appleの撤退でその部分は失われたが、全体から見ればわずかだ」

 同氏は、また、ゲーム用ハードウェアの上位3機種、XBox360、Wii、PS3のすべてにPowerが搭載されていることを指摘する。「これは毎年数千万個のチップが販売されることを意味する」。さらに、新車の半分が少なくとも1つのPowerチップを搭載し、世界のすべての長距離電話が少なくとも1つのPowerチップを経由しているという。

競争力は?

 RISCハードウェアはコストがかかるかもしれないが、IntelやAMDの出来合いのハードウェアに対抗できると同氏は主張する。「このクワッドコア2.5GHzコンピューターが1,800ドルだ。この価格性能比を考えれば、同じ価格帯のIntelシステムに十分対抗できることがわかるだろう」

 Enderle Groupの社長でプリンシパル・アナリストでもあるRob Enderleも、Linux.comの取材に対して「この分野では比較的コストが高い。Terra Softが提供するソリューションはIBMと同じようにも見えるが、初期投資の総額は少なくなる」と述べている。

 さらに、IBMは一般にエンタープライズ・レベルではきわめてよくやっているが、IBMのような大企業は、それよりもはるかに小さな企業のニーズに対応する能力は比較的低いものだという。

 「だから、小規模企業向けソリューションについては、同じIBM Powerプラットフォームであっても、Terra Softの方がより安価でより良いものを提供することができる。IntelやAMDのソリューションより低価格である必要はなく、ただ、同種のIBMソリューションより安価であればよい。これはニッチ市場だが、小規模企業はニッチ市場でよい仕事をするものだ」

Linux.com 原文