Goghを使って創造的に描く

 Goghはペン入力デバイス向けに作られたとてもライトウェイトな描画プログラムだ。単純な造りだが、多くの機能と遊び心が盛り込まれている。

 Goghのパッケージは同プロジェクトのWebサイトからダウンロード可能で、最新リリースは0.1.2.1である。GoghはPythonで書かれているので、ソースコードtarballの展開と実行はコンピュータ上のどこででも行える。コンパイルもインストール作業も必要ない。ただし、PyGTK、PyXML、gnome-pythonはインストールしておく必要がある。いずれもありふれたPythonパッケージなので、使っているディストリビューションのパッケージ管理システムをあたればよい。

 Wacomタブレットのようなペン入力デバイスなしでも使えるが、その場合は描画できるものがかなり制限される。

早速使ってみよう

 動作要件を確認してGoghパッケージのダウンロードが済んだら、パッケージを展開し、コマンドラインから「./gogh &」と入力して実行する。

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Gogh:メイン画面(左側)とすべての補助画面を表示したところ

 するとGoghのメイン画面である400×400ピクセルの真っ白なキャンバスが現れる。この画面の上部にはいくつかのツールとボタンが付いている。また、色選択、ブラシ選択、レイヤマネージャという3つの補助画面があり、これらの表示はトグル切り替えが可能だ。色選択画面は標準的なGTKの色選択ウィジェットになっていて、色相環のほか、HSV、RGB、HTML色コードによる選択もできる。

 Goghには5種のブラシがあらかじめ定義されている。3種類の“ペンシル”、ぼかしブラシ、そしてイレイサー(消しゴム)だ。ブラシ選択ではサイズ、不透明度、筆圧感度のすべてを調整でき、追加のカスタムブラシを好きなだけ定義できる。

 レイヤマネージャではワンクリックで新規レイヤの作成が可能で、並び替えや不透明度およびブレンドモードや操作がレイヤごとに行える。

 使い始めるにあたって知っておくべきことは以上だ。

 Goghのインターフェイスはシンプルさを意識したものになっているが、いくつかすばらしい機能も備わっている。まず、アンドゥ/リドゥ(取り消し/やり直し)の回数に制限がない。また、キャンバスは必要なだけ拡大、縮小、サイズ拡張が可能だ。さらにイレイサーブラシをWacomスタイラスのイレイサーにバインドすることもできる。

 描いた作品はレイヤ構造を残したまま.goshフォーマットで保存できる。あるいは平面化した形でJPEGまたはPNG形式へのエクスポートも行える。

描画に関するまとめ

 思いも寄らないほどハイエンドなグラフィックアプリケーションを使っていた人からすれば、ないと困りそうな機能のいくつかがGoghには欠けている。たとえば、レイヤ名だ。ほとんどのグラフィックエディタではレイヤに名前を付けられるが、Goghではできない。しかし、Goghはスケッチや描画だけを想定して作られており、たとえばWebサイトのモックアップや写真のレタッチは想定されていない。それに、レイヤマネージャでのサムネイル表示があればレイヤの区別は容易につく。

 とはいえ、いくつかの点については改良の余地がある。たとえば、Goghのレイヤは常に透明であり、それはそれでよいのだが、作品をJPEGやPNGにエクスポートすると必ず背景が白になってしまう。複数の色を使った背景を自作してレイヤとして追加することは可能だが、画像に透明な背景を付けてエクスポートすることはできない。

 Goghのようなシンプルさを意識したエディタの場合は、不用意な補助ツールの追加が裏目に出るおそれがあることは承知しているが、もう少し追加の機能があってもよいのではないかと思うことがある。たとえば、別のレイヤに移すために絵の一部を切り取れる部分選択のツールなどだ。

 唯一バグではないかと思われたのは、ファイル保存時の挙動である。Goghは必ず、Goghを立ち上げたフォルダに描画結果を保存しようとする。最初のうちはそれでも問題なさそうだが、ユーザ自らが別の保存用フォルダを選択したあとは次回のファイル保存時にもその場所を覚えておくべきだろう。

 Goghの開発者Aleksey Nelipa氏によると、今後は追加ツールやレイヤ間のより複雑な制御も含め、もっとリリースを増やすという。一方で彼は、Goghを使う簡単さと楽しさはそのままにしておきたい、またできる限り純粋なPythonプログラムとして開発を続けたいとも語っている。プロプライエタリなナチュラルメディア(従来のアナログ的な描画の意)アプリケーションをずっと利用してきたNelipa氏が、初めてLinuxとPythonを使って開発に着手したのがこのGoghだった。そのため、Goghの開発は彼にとって学びの機会でもある。それでも「アイデア、提案、機能の要望は大歓迎だ」と彼は言っている。

 もちろんGoghは、GIMP、Krita、Inkscape(いずれもペンタブレット入力に対応している)のような堅牢で十分に成熟した画像エディタの代わりにはならない。しかし、小さくまとまって直観的にわかりやすいアプリケーションとしての存在意義はある。Goghは描画を楽しめるツールであり、結局はそこが大事なのではないだろうか。

Linux.com 原文