アートの学生にGNU/Linuxを

私はアート系の学部で教える一介の教師だが、前学期から胸躍る冒険の旅に出ている。というのは、ディジタル・メディア・ラボにあるほぼすべてのMacintoshからMac OS Xを削除し、Ubuntuをインストールしたのだ。

ソフトウェアを入れ替えようかと真剣に検討し始めたのは昨年度のことだ。今出回っているフリーソフトウェア・プログラムであれば、私のクラスの学生には十分だということがわかったからである。アート系学部の学生も、PhotoshopやQuarkXpressやDreamweaverのようなプロプライエタリ・プログラムではなく、GIMPやScribusやQuanta Plusといったフリーソフトウェア・プログラムを学ぶ時代になったと考えたのである。

ディストリビューションとアプリケーションの選定

まず検討したのは、GNU/Linuxのディストリビューションである。一クラス分の学生たちが毎日現実的な課題に取り組むときに使うシステムであるから、それに耐えられるものでなければならない。

調査は、PowerPCアーキテクチャ用のディストリビューションを列挙したPenguinppc.orgの一覧表のお陰で短期間で終了した。Ubuntuを採用することにしたが、それは自宅のコンピュータで試してみてインストールやアップデートが容易であったこと、そしてUbuntuには多くのPowerPCユーザーがいてUbuntuオンライン・フォーラムからのサポートが期待できることがわかったからである。

次に、授業で使うアプリケーションを選定した。PhotoshopとPainterに代わるディジタルのペイント・ツールや画像編集ツールにはGIMPを選んだ。これは当然の選択だろう。しかし、Kritaに興味深いペイント機能が搭載されるそうだから、来年度はこれも教えようかと考えている。

FreeHandに代わるベクター・グラフィックス・デザイン・プログラムとしては、Skencil、Inkscape、Sodipodi、OpenOffice.orgのDrawがあるが、私はInkscapeを選んだ。ユーザー・インターフェースとTile Clonesなどの機能が大きな理由だが、簡便かつ有用で示唆に富む指導書のようなヘルプ・メニューもいい。

QuarkXpressに代わるページ・レイアウト・プログラムは、ScribusとPassepartoutにした。Scribusの完成度をかなり高いと見ての選択であり、よい判断だったと思う。その際、Cenonについても検討したが、それきりで、以降取り立てて調査はしていない。しかし、Scribusは十分期待に応えている。

Dreamweaverの代わりにはBluefishとNvuとScreemを検討したが、選んだのはQuanta Plusだった。ユーザー・インターフェースとプロジェクト管理機能が優れているからである。

FontographerやFontLab Studioに代わるタイプフェース・デザイン・ツールは、FontForgeが唯一の選択肢のようだ。しかし、やむを得ない選択ではない。FontForgeは、Fontographerに触発されて作られた優れたツールなのである。

学生たちの反応

今回のソフトウェアの入れ替えで、学生たちはますます元気になったようだ。ソフトウェアの品質が高くアップグレードも共有も変更も自由にできることから、学生たちは自信を深めている。私が選んだソフトウェアだけでなく、その他多くのGNU/Linuxのマルチメディア・ソフトウェアが使えることも、学生たちは歓迎している。そうしたアプリケーションを熱心に利用する学生たちのなんと多いことか。Synapticを介して16,000を超えるパッケージを揃えるUbuntuリポジトリからソフトウェアをインストールしているだけではない。どこからか手に入れたソースコードをコンパイルすることさえあるのだ。

各コースが始まる頃にインストールフェスタの期間を設けたが、嬉しいことに、多くの学生が自分のコンピュータにフリーソフトウェアをインストールしていた。また、shipit.ubuntu.comから無償のUbuntuディスクを数十枚送ってもらい、友人にも渡すようにと学生に配ったが、すぐに捌けてしまったのも嬉しいことだった。下級生にとっては、自分のコンピュータにソフトウェアをインストールしておけば授業以外でも使える。しかも無料だ。上級生は、フリーソフトウェアに切り替えたことで新しい機能が使えるようになり、しかも自由度が増したと考えている。

業界標準のアプリケーションを学んだ方が就職に有利ではないかと尋ねられもしたが、私は次のように答えた。すなわち、この学部では4年生になると就職に備えて自分で選んだ技術を学べる期間が1学期間あり、フリーソフトウェア・パッケージを学んでいれば、希望に応じてその1学期間でプロプライエタリ版に習熟するのは難しいことではないだろうと。今、最初の「GNU/Linux転換」学生たちが就職準備の学期に入ったところだ。私は、彼らが十分な成果をあげるだろうと楽観している。

確かに、私たちが長年使ってきたPhotoshopなどのプロプライエタリ・ソフトウェア・パッケージは、今回導入したフリーソフトウェアよりもインターフェースが洗練されており機能面でも先行していることが多い。今回の入れ替えでも、それは明らかだ。しかし、私のクラスで必要な基本的機能に限れば、フリーソフトウェアでも十分すぎるほどであり、プロプライエタリ・ソフトウェアにはない望ましい機能を持っていることも少なくないのだ。

今回の切り替えで、ソフトウェアのアップグレードに要する数千ドルが浮いたため、クラスのラボ費用を大幅に引き下げ、その代わり学生たちにはテキストを購入するよう求めた。このテキストのお陰でクラスでの活動を充実させることができた上に、学生が負担した費用はそれを含めても従来より大幅に少なくなった。だから、学生たちは大喜びだ。

技術的問題

もちろん、技術的な問題がなかったわけではない。しかし、容易に解決できたし、そうでない場合も回避策を見つけるのは簡単だった。Ubuntuフォーラムの技術サポートのお陰である。

ソフトウェアのインストールにはUbuntuのインストーラーとSynapticパッケージ・マネージャーを、キャンパス・ネットワークとの接続にはGNOME Network Settingsツールを利用したが、お陰で作業は容易だった。

設計上の問題では、ファイル共有の実現方法で思案した。コンピュータ間のファイル共有にはAppleTalkを使っていたのだが、その代替に何を使うべきかがわからず、UbuntuでAppleTalkを動かすべきかと考えたこともあった。しかし、FTPあるいはSSHで十分に代替できることがわかった。KonquerorをGUIとして使い、SSH経由でファイルを転送するのである。使い方は簡単、KonquerorのLocationフィールドにfish://とネットワーク・アドレスを入力するだけだ。KonquerorとOpenSSHのクライアントおよびサーバーのインストールもSynapticで容易だった。

実際にクラスが始まってみると、一部のコンピュータでネットワーク接続がときどき切断されるという不可解な現象が発生した。次の手順で回復は可能だが、少々厄介である。まず、問題のコンピュータ上でNetwork Settingsウィンドウを開き、イーサネット接続を無効にし、ウィンドウを一旦閉じる。次に、再度Network Settingsウィンドウを開き、接続を有効に戻すのだ。そうこうするうちにUbuntuのBreezy Badgerエディションがリリースされたので、インストールした。クラスが始まってから数週間後のことである。週末を使って、学生のデータ・ディレクトリーをバックアップし新しいエディションをインストールしたのだが、作業は簡単であった。その際、誰だったかの提案で、ハブがロックアップしないように教室のハブを一旦オフにし再スタートさせた。どちらの作業が利いたのかはわからないが、これ以降ネットワークの問題は発生していない。

また、Macキーボード上にあるCD/DVD の取り出しボタンが利かず、ほかの方法で取り出すしかなかったのだが、この問題もBreezy Badgerのインストール後は雲散した。

周辺機器では、長い間使ってきたWacomタブレットをGIMPで使うのに少々厄介な作業が必要だった。すべてのコンピュータについて、xorg.confファイルを手作業で編集してから、GIMPの「Configure Extended Input」ダイアログ・ボックス(File->Preferences->Input Devicesで開く)で設定を変更する必要があるのだ。しかし、これに必要な作業手順は、Ubuntuフォーラムに非常に丁寧に説明されていた。作業後グラフィックス・タブレットは何の問題もなく動いており、学生たちはタブレットの圧力センサーを楽々と使いこなしている。

また、手持ちのスキャナーが使えなかった。これはLinuxで使えるUSBスキャナー一覧を調べて発覚したたため、予備機にMac OS Xを残し、スキャナーをこのコンピュータに接続することで対処した。画像はここでスキャンし、その画像ファイルをFTPで転送することにしたのだ。100ドルもあれば十分な性能のスキャナーを購入できるから、来年度は、LinuxでもMac OS Xでも使えるスキャナーを買うつもりである。

これに対して、これまで使ってきたUSBインクジェット・プリンターには対応するLinuxドライバーがあった。www.linuxprinting.orgの情報によるものだが、実際に印刷に用いるコンピュータのUSBポートに接続したところ、ほぼ問題なく動作している。

一方、モノクロとカラーのレーザー・プリンターはAppleTalkでネットワークに接続している。そのため、ファイルを印刷するには、Mac OS Xのコンピュータに転送してから印刷する必要がある。この方法でうまく動いてはいるが、来年度は、レーザー・プリンターをUbuntuコンピュータに直接接続するようにしたいと考えている。

将来構想と推奨事項

フリーソフトウェアへの移行は、ここMaharishi University of Management(アイオワ州フェアフィールド)Department of Art and Designでは大成功だった。今学期は、引き続き、私のビデオのクラスで使うソフトウェアAvid DV ExpressとFinal Cut Express HDとSoundtrackとiDVDをKinoCinelerraRosegarden、DVDstylerに切り替えようと計画している。

さらに、来年度は、MayaをBlenderに切り替えるつもりだ。おそらく、FlashもSynfigOpenLaszlo、Ktoonの何らかの組み合わせになるだろう。

もし同様のソフトウェアの切り替えを考えているのなら、その方向で進むようお勧めしたい。ただし、必要に照らして最も適切なディストリビューションを選び、アプリケーションは慎重に選ぶこと。

GNU/Linuxを使わないクラスとコンピュータを共用する必要がある場合は、WindowsあるいはMac OS Xとデュアル・ブートできる形でGNU/Linuxをインストールすべきだ。Mac版Ubuntuの場合、それが簡単にできることは私が実証済みである。

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