Kileで、LaTeXを使いやすく
KileはKDE向けで、主要なディストリビューションであれば、それぞれのリポジトリーから直接入手可能。ただし、DVI、PostScript、PDFなどKileでよく使われている便利なファイル出力形式のドキュメントを表示するには、KDVIやKGhostviewやKPDFなどのビューアーもインストールしておく必要がある。
Kileの画面構成
Kileの画面は一目瞭然だ。左側にある多目的ペインには、右端に縦に並んだボタンに応じて10種類のビューが表示される。表示中のビューに対応するボタンは縦長になり、アイコンではなく文字が表示される。デフォルトではファイル・マネージャのビューが表示される。このビューで.texファイルをクリックすると、そのファイルが主編集ウィンドウ上に開く。ドキュメントの構造をツリー表示するビューもある。また、特殊文字、矢印、関係、区切り文字、ギリシャ文字、高度なLaTexコマンドなど、種々のシンボルを挿入するのも、このペインからだ。
多目的ペインの右にはタブ方式の主編集ペインがあり、各ドキュメントがタブとして表示される。マークアップとコンテンツがツリー構造の形で表示され、ドキュメントの各部分を1行に折りたたんだり展開して表示したりすることができる。マークアップはツールバーを使って挿入する。ツールバーにはフォントの太さやリストを設定するボタン、基本型に関するボタン、コンパイル時に発見されたエラーを検索するボタンなど多くのボタンが並び、ワードプロセッサーを思わせる。
主編集ペインの下には第3のペインがある。これもタブ方式で、制作中のドキュメントに関する長文メッセージを表示するタブ、コンパイル・エラーを表示するタブ、コンソールのタブから成る。
作業の流れ
ドキュメントの制作を始める手順は、KWordの場合とよく似ている。メニューからFile→Newの順に選択すると、記事、書籍、手紙、Latex-Beamerによるプレゼンテーションなど基本的なドキュメント・テンプレートの一覧が開くので、その中からいずれかを選択する。空のドキュメントを選ぶこともできる。この場合は、Quick Startダイアログを使って基本的な特性を設定する。ダイアログのCancelを押せば真っさらのドキュメントから始めることもできるが、これには基本ドキュメント構造すらないので、LaTexをよく知っている人にしかお勧めできない。
ドキュメントを定義したら、次にコンテンツを書き込む。作業手順はワードプロセッサーとほぼ同じだ。メニューのTools→Spellingで綴りを確認できるし、File→Statisticsで単語数を数えることもできる。この統計機能では、LaTexコマンドや環境設定を除いたコンテンツを正確に計数することができる。マスター・ドキュメントを作ればドキュメントを小さなファイルに分割でき、大部のドキュメントでも楽に作業することができる。
ワードプロセッサーとの主な違いはマークアップが表示される点と直接的なWYSIWYG表示がない点だ。制作中にドキュメントの実イメージを確認するには、コンパイル(後述)し、メニューのBuild→View→ViewDVIをクリックするか、Alt-3を押してDVIビューアーを開かなければならない。しかし、この処理は初めて見る人が驚くほど高速で、実イメージの確認が面倒という不安はすぐに払拭される。LaTexではコンテンツの執筆に集中できるとよく言われるが、Kileを長く使えば使うほど、その言い分が正しく思えてくる。
ワードプロセッサーとの違いはもう一つある。段落や章から、目次や参考文献一覧に至るまでの主要な構造要素がLaTexメニューまたはツールボタンを使って構築できるという点だ。こうした配慮がなされているため、初心者にもLaTexドキュメントの構造がわかりやすく、熟練者にとってもマークアップを直接書き込むより間違いが少ない。
コンテンツの入力が終わったときや、制作中にドキュメントの実イメージを確認したいときは、ドキュメントを保存し、メニューのBuild→Compileをクリックしてコンパイルする。出力形式は、TeXやLaTexは当然として、DocBook、HTML、PDF(LaTeX-Beamerプレゼンテーションを表示するときの形式)に至るまで種々の形式に対応している。メニューのFile→Printをクリックすれば、ドキュメントをPostScriptで保存したり、紙に印刷することもできる。
コンパイルした結果は下のペインに表示される。エラーまたは警告があった場合は、Buildメニューの下にある項目またはツールバーのボタンをクリックしてエラーのある個所に直接ジャンプし修正する。ただし、その前にメニューのView→Show Line Numbers機能を有効にしておいた方がいいだろう。そうすれば、迷子にならずに済む。エラーを修正したら再度コンパイルし、エラーがなくなるまでこれを繰り返す。
初心者の場合はとりわけ言えることだが、ある書式を初めて使うようなときはこまめにコンパイルすることをお勧めする。確認しながら制作することができ、同じ誤りで大量のエラーを発生させウンザリするような事態が避けられる。
制約と利点
初心者にとっての利点は、LaTexに関する基礎力が身につきやすい点だ。コマンドを覚える必要がなく、検索しなくてもメニューから入力できる。同様に、ドキュメントの骨格を正しく作成できたかどうかを心配する必要もない。テンプレートを見れば基本構造のあるべき形も利用可能なさまざまなオプションも正確にわかるからだ。
しかし、そうしたKileにも(公平に言えば、どのプログラムでも)、LaTex全体に及ぶ複雑さを緩和することはできない。左ペインやメニューからコマンドを簡単に入力できても、LaTexが習得に長期間を要する複雑なプログラムであることに変わりはないのだ。実際、Kileを使っていても、利用可能なオプションには圧倒される。しかし、Kileというのは、LaTexに関する既知の情報を容易に広げることができ、構文エラーの心配がなく、複雑なものを前にしたときに多くの利用者が感じる漠然とした感情とも無縁な、そういう環境なのだ。
要するに、KileはLaTexのワードプロセッサー部分を代行する。利用者がそのとき取り組むべきことに集中でき、それに伴う複雑な事柄はそれが必要となるまで無視できるようにしてくれるツールだ。LaTexを誰にでも使えるものにする一方、LaTexに込められた趣旨の大部分をそのまま維持する、Kileはそういうツールなのである。
Bruce Byfield コンピューター・ジャーナリスト。Linux.comとIT Manager’s Journalに多く寄稿している。