LaTeX Beamerを使った簡単なプレゼンテーション作成の概要
メジャーなディストリビューションであれば、伝統的にLaTeX本体はデフォルトでインストールされるようになっている。一方のBeamerは、追加パッケージ扱いとして用意されているのが普通だ。最終段階におけるプレゼンテーションのコンパイル作業までは、プログラム本体よりも各種構文の指定法を解説したマニュアルの方が重要となるはずだが、それ以前の段階として気になるのは、これらのプログラムで具体的に何処までの作業が可能であり、貴重な時間を費やして試用する価値があるのかだろう。
最初に行う準備作業は、プレゼンテーション本体とそこで使用するグラフィックスその他のオブジェクトを格納するためのフォルダ作成である。特にスライドショーの場合は必然的に多数のファイルを扱うことになるため、関連するものを1つのフォルダにまとめるようにしておくことで後々の管理作業を簡単化できるはずだ。
次に行うのは、テキストエディタを使ったドキュメントへの基本マークアップの入力であるが、この作業にはあらかじめBeamerドキュメントのテンプレートが用意されたKileというLaTeX用グラフィカルエディタを利用してもいいだろう。最初に入力すべき基本構造は次のようになる。
\documentclass{Beamer} \title{text} \author{text} \date{date}
\begin{document}
\end{document}
LaTeX初心者であっても、この構造の意味は見ただけで理解できるだろう。1行目はドキュメントの種類の指定で、これはHTMLファイルの場合と同様のものだが、ここでは当該ファイルにおけるBeamerリソースへのアクセス設定行という意味も有している。その後の3行はプレゼンテーションの基本情報を指定しており、これらはコンパイル時にBeamerが自動で参照することになる。カスタマイズが必要な場合は、この基本構造をベースにして各自のプレゼンテーションに含めたい構造を追加しておけばいい。プレゼンテーションのコンテンツそのものは、beginとendタグの間に記入していく。
実際の作業としては、コンテンツの入力前にスライド群の追加が必要となる。通常1枚目のスライドは、次のような簡単な構成のタイトルページとするのが一般的であろう。
\begin{frame} \titlepage \end{frame}
その次のページは、講演内容のアウトラインかプレゼンテーションの目次ページとするのが通例であり、そうしたページはおおむね下記の構造でカバーできるはずだ。
\section*{Outline} \begin{frame} \tableofcontents \end{frame}
冒頭のsectionというキーワードは、目次ページを自動作成させるための宣言である。その右隣にあるアスタリスク記号は、このページ自体は目次の項目から除外させるための指定であり、残りのページは個々のセクションを設けて取り込まれることになる。このセクション名はスライドのタイトルとしても使われる。
このプログラムで作成する残りのスライドも、先のページと同様の構造を記述しておけばいい。3枚目のスライドとしては、例えば次のような指定をしておくことになるだろう。
\section{Introduction} \begin{frame} \frametitle{titletext} \end{frame}
スライドコンテンツの入力
あらためて説明するまでもないかもしれないが、各フレームのコンテンツもbeginとendタグの間に入力していく。コンテンツの文章そのものは、必要なテキストを入力しておくだけである。またスライドショーで一般的な表示である箇条書きを行いたければ、次の構造を流用すればいい。
\begin{itemize} \item \end{itemize}
この表示形式では、一覧させる項目の数だけ次のタグを追加していく必要がある。
\item
PNGフォーマットのグラフィックスを配置する場合は、次の構造を入力する。
\begin{center} \includegraphics{filepath} \end{center}
その他にもLaTeXでは、EPSやJPEGなどの画像フォーマットもサポートされている。先に推奨しておいたようにスライドショーで使用する全グラフィックスを1つのフォルダに格納する場合は、上記のファイルパス部(filepath)はファイル名だけを入力しておけばいい。また“center”はグラフィックスの表示位置に関する指定で、これは“left”や“right”に変更することができる。
LaTeXではテキストとグラフィックス以外にも、数式、連番リスト、表組み、ハイパーリンク、フォントサイズ、フレームの段組み表示用の構造要素を利用することができる。またLaTeXでのプレゼンテーション作成については、ドキュメントレイアウトプログラムを利用することも可能である。とは言うものの実際問題として、表組みなどの構造情報をGUI以外の形式で扱うのは、ベテランユーザであっても非常に負担の大きい作業となるはずだ。こうした場合に役立つのが、作成途中のプレゼンテーションをPDFに変換して、間違いがないかを随時確認するという作業である。そうした作業を行うには、プレゼンテーションをエクスポートする方法を把握しておかなければならない。
基本的なカスタマイズ
スライドショー用の基本構造およびスライドの追加操作がマスターできれば、次に行うべきはプレゼンテーションの外見を整えるためのカスタマイズ作業である。
カスタマイズに使える機能の中で特に有用なものが、1つのスライド中のコンテンツ表示を途中で停止させる\pause
である。具体的な用途としては、例えば箇条書きの項目を1つずつ表示させるようにしたり、あるいは設問とその解答という形式のページにて、設問だけを表示してから少し時間を空けて解答を示すという使い方ができる。
Beamerにはバッググラウンド用のオプションテーマもいくつか用意されており、これを使用する場合は、ファイルヘッダーで行うドキュメントのクラス宣言の後に「\usetheme{themename}
」という指定を記述しておく。その他にも、カラーテーマ(\usecolortheme{themename}
)、フォントテーマ(\usefonttheme{themename}
)、フレームおよびスライド内部に対するインナーテーマ(\useinnertheme{themename}
)、スライドのボーダ、ヘッダ、フッタに対するアウターテーマ(\useoutertheme{themename}
)を指定することもできる。これらのテーマの収録先は、Debianシステムであれば/usr/share/textmf/tex/latex/Beamer/themesというサブフォルダになるが、その他のディストリビューションでも同様の場所に置かれるはずだ。
こうしたテーマは各種の組み合わせで使用できるが、個別のカスタマイズにも対応している。例えばスライドタイトルのフォントをTimes Romanに変更するには「\setBeamerfont{title}{shape=\itshape,family=\rmfamily}
」という指定をすればいい。つまり操作性の面においては劣るものの、これらの様々な設定法をマスターするだけの意欲が使う側にありさえすれば、プレゼンテーション作成プログラムとしてのBeamerの機能はOpenOffice.orgのImpressなどに決して引けを取るものではないのである。
プレゼンテーションのコンパイルと再生
スライドショー用の設計とコンテンツの配置が終了したファイルは、拡張子を.texとして保存した後、「pdflatex filename
」というコマンドによるコンパイルを施す。先に触れたKileを利用しているユーザであれば、この操作は「Build」→「Compile」→「PDFLaTeX」を選択することでも実行できる。どちらの方式で起動するにせよ、pdflatexコマンドの実行によりPDF形式のファイルが作成されるが、同時に実行結果に関するログファイルも出力されるので、後者は問題発生時のトラブルシューティングに役立つはずだ。これらのファイルの出力先は.texファイルの格納ディレクトリとされる。
プレゼンテーションを実行するには、各自が使用しているPDFビュワーでコンパイル後のファイルを開けばいいが、その際にはウィンドウサイズを最大化しておき、表示倍率も可能な限り大きくしておく必要がある。この種の用途に適したPDFビュワーとしては、フルスクリーンおよびプレゼンテーションモードを備えたEvinceがお勧めだ。その他のPDFビュワーを使った場合はナビゲーションバーとメニューが表示されたままになる場合もあるが、いずれにせよBeamerで作成したプレゼンテーションは、サウンドなしスライドショーとしての及第点を確実に得ることができるはずである。あるいは、スライドデザインの面でオリジナリティを発揮できれば、追加ポイントの取得を期待していいかもしれない。
まとめ
Beamerの使い方をどこまでマスターすべきかは、各自のニーズ次第で異なってくる。このプログラムには詳細なマニュアルが付属しており、そこにはサンプルプレゼンテーションの作成法を始め、プレゼンテーション作成時のプランニングと設計に関するワークフローのアドバイスまでが掲載されているという充実ぶりだ。その他、プレゼンテーションに対するノートやハンドアウトの追加法も解説されている。
Beamerを用いたプレゼンテーション作成は、フリーオペレーティングシステム黎明期への逆行だと捉えられなくもない。実際問題として現状でBeamerを常用することはまずないだろうが、こうした方式の作業を実践することにより、その分だけ自分が使うオペレーティングシステムに対する理解を深めることができたと感じることのできる人間であれば、最初のプレゼンテーションを作り上げた際にある種の達成感を味わうことができるだろう。
本稿で解説したようにLaTeXおよびそのサポートプログラムを利用すれば、その詳細に立ち入らなくても高度な完成度のスライドショーを作成することが可能である。これはまたGNU/Linux系のコマンドライン形式のツールでもデスクトップ形式のツールと同等の作業をこなすことができることを示した事例の1つに過ぎないのだが、そのために必要なのは、ユーザ自身が自らの視点を変更することだと言えよう。
Bruce Byfieldは、コンピュータジャーナリストとして活躍しており、Linux.com、IT Manager’s Journalに定期的に寄稿している。