Mozilla、Webアプリをブラウザから切り離す「Prism」をリリース

 米国Mozillaの研究部門Mozilla Labは、ユーザーがWebアプリケーションをブラウザから切り離し、従来のデスクトップ・プログラムのような感覚で操作できるようにするソフトウェアをリリースしたことを明らかにした。

 同ソフトウェアは、これまで「WebRunner」と呼ばれていたが、先ごろ「Prism」に名称変更された。Mozillaのプラットフォーム・エバンジェリスト、マーク・フィンクル氏は、Prismはまだ開発中であり、あくまで“実験的なもの”だと語った。

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Mozilla Labのトップページでは、Prismが紹介されている。スクロールしていくと「Getting Started with Prism」という項目があり、そこからダウンロードが可能だ

 同氏はユーザー・インタフェース・デザイナーのアレックス・ファーボーグ氏とともに先週、この名称変更と同ソフトウェアのリリースをブログで発表した。また、Mozilla Labは、PrismをMozillaプロジェクトとして公開し、Prismのコードやインタフェースの作成、あるいはバグ・チェックを行うボランティアを募っている。

 Prismは、Webアプリケーションをブラウザから切り離し、デスクトップ上にウィンドウとして配置して、そのアイコンやウィンドウの管理機能を提供する。PrismによりWebアプリケーションの使い勝手は、ローカルにインストールされたプログラムと同様になる。

 フィンクル氏は11月1日、Computerworld米国版の取材に対し、Prismは、Webアプリケーションとブラウザ・インタフェースを単に切り離すのではなく、Webアプリケーションとブラウザを別々のプロセスで動作させると語っている。

 「通常、ブラウザがクラッシュするとWebアプリケーションも道連れになってしまう。Prismを実行していれば、仮にブラウザがクラッシュしたとしても、アプリケーションへは影響しない」(フィンクル氏)

 また、Prismにより、ブラウザに関連づけられたユーザー・プロファイルとWebアプリケーションを切り離すことで、Webアプリケーションを保護することが可能だという。「ブラウザではプロファイルを共有しているが、アプリケーションをPrism上で実行すると、プロファイルがブラウザから切り離される。そのため、例えば、Webアプリケーションから電子メールにアクセスする場合、悪意のあるWebページを閲覧してしまうのではないかという心配は不要だ。なぜなら、Prism上のアプリケーションからそうしたページを閲覧することはできないからだ」(フィンクル氏)

 Prismはスタンドアロン・アプリケーションだが、担当チームはFirefoxのプラグインとして提供することにも取り組んでいる。また、PrismをFirefox本体に完全に組み込むことも技術的には可能だと、フィンクル氏は語った。

 Mozilla LabによるPrismのリリースは、少なくともライバル企業の1人の幹部の注意を引いた。Adobe Systemsで「Adobe Integrated Runtime(AIR)」プロジェクトの開発者関係担当主席プロダクト・マネジャーを務めるマイク・チェンバース氏は、個人ブログへの投稿で、MozillaによるPrismの説明に異議を唱えた。

 チェンバース氏は、Mozilla Labの発表文に記載された「AdobeのAIRやMicrosoftのSilverlightとは異なり、MozillaはWebに代わるプロプライエタリ・プラットフォームは開発していない」という部分を引用し、次のように語っている。「私が違和感を持ったのは、MozillaはAdobeのAIRと非常に似たものを開発していると見受けられるにもかかわらず、どういうわけか、彼らが行っていることは善で、Adobeが行っていることは悪だと言っている点だ」

 また、同氏は、「AIRは標準的なWeb技術をベースに開発されており、既存のWebアプリケーションやコンテンツを実行できる。WindowsとMac上で(まもなくLinux上でも)動作し、デスクトップ機能も提供する」と述べた。「大きな違いと言えば、AIRは基本的に企業によって開発されているが、PrismはMozillaによって開発されているということぐらいではないだろうか」(同氏)

 こうしたチェンバース氏の批判について、フィンクル氏は、Prismの発表文の説明を擁護したものの、PrismとAIRおよびSilverlightとの違いが説明しにくいことを認めている。「これらの技術には明白な共通点がある。しかし私から見れば、標準的なWeb技術で実現できないことは、Prismでもできない。これに対してほかの製品は、標準的なWeb技術ではない機能が豊富に盛り込まれている」(フィンクル氏)

 一方、Prismの今後の計画はあいまいだ。例えば、フィンクル氏は、現在はバージョン0.8であるPrismの正式版のリリース時期を明らかにしなかった。また、PrismがいずれはFirefoxに統合されるのかどうかも明らかにしていない。

 PrismはMozilla LabのサイトからWindows版が無料でダウンロードできる。Macintosh版とLinux版も近いうちにリリースされる予定だという。

(グレッグ・カイザー/Computerworld オンライン米国版)

提供:Computerworld.jp