レコードとテープをデジタル化する:Audacityの使い方
Audacityは、フリーの高機能クロスプラットフォーム・オーディオ編集ツールである。ノイズ除去フィルタやトラック自動分割などのツールを備え、アンティーク音源をぴかぴかの新しいMP3やOggに変貌させる作業を短時間で終わらせることができる。
最新版のAudacityをダウンロードすること以外に最初に必要となるものは、サウンドカード内蔵のコンピュータ(”ライン入力”ポートがあればこれを使う)とカセットデッキまたはレコードプレーヤーである。
コンピュータに接続する
カセットデッキはサウンドカードに直接接続できるが、レコードプレーヤーにはフォノ・プリアンプが必要だ。フォノ・プリアンプは、サウンドを実用レベルまで増幅し、RIAA補正曲線を適用する。この処理は、1954年前後以降に生産されたレコードに必要な措置だ(これより古いレコードについては、この資料を参考にして別の補正曲線を適用する)。
USB対応レコードプレーヤー(今回は米IONのiTTUSBを使った)は、USBポートに直接接続できる。このタイプにはフォノ・プリアンプが内蔵されている。
Audacityで録音を始めるには、[Edit]→[Preferences]→[Audio I/O]のリストから、使用しているコンピュータの録音/再生デバイスを選択する。次に、大きな赤い[Record]ボタンをクリックして録音を開始する。曲が終了したら、黄色い[Stop]ボタンを押す。録音データが波形として画面に表示されるが、まだディスクには保存されていない。[File]→[Save]をクリックして、データをAudacityプロジェクト(.aup)として保存する。この生データは、後処理を加えて最終的な音楽ファイルにする必要がある。
録音と後処理をそれぞれ単独の工程として行う場合は ─ 知人からレコードプレーヤーを借りているならこれは良策だ ─ 好みの録音ツール(arecord
など)を使って、レコードまたはテープの片面全体から1つのWAVファイルを作成できる。トラックを後処理して曲を分割できる状態になったら、[File]→[Open]を使ってWAVファイルをAudacityにインポートする。ファイルの種類が自動的に識別され、Audacityプロジェクト(.aup)に変換される。
トラックの自動分割
アルバムの片面全体を録音した場合は、トラックの間に短い無音の部分がある。Audacityでは、この無音部分を検出し、ここにマーカーを置いてトラックを分割できる。手順は次のようになる。
Ctrlキーを押しながらAキーを押して録音データ全体を選択し、[Analyze]→[Silence Finder]をクリックする。メインのオーディオトラックの下にラベルトラックが作成され、すべての無音部分にマーカーが設定される。
最後のラベルは瞬間的な無音をマークするだけなので、削除してもかまわない。削除するには、ラベルをクリックし、ラベルが消えるまでBackSpaceキーを押す。
これで各トラックにラベルが付けられたが、どれも”S”などの使いにくい名前になっている。最初のラベルをクリックしてみよう。再生位置が設定され、トラックを聴き始められる状態になる。フォーカスもラベルに移動するので、曲のタイトルを入力できる(MP3にエクスポートすると、ラベルのテキストがID3タイトルタグになる)。
タイトルが後でファイル名になるので、Unixのファイル名での使用が禁止されているスラッシュ(/)記号を排除するため、Audacityではスラッシュが含まれる名前でファイルを保存することはできない。同じ名前のラベルが複数あると、ファイル名には番号が付加される。つまり、Songという名前のトラックが2つあると、最終的なmp3ファイルの名前はSong-1.mp3とSong-2.mp3になる。
トラックの手動分割
録音データにトラック間のはっきりした無音部分がない場合、Audacityの自動分割機能は役に立たない。DJが”dead air“(放送事故)を嫌うことから、ラジオ放送の録音などに起こる問題である(ラジオ放送にトラック自動分割を試したところ、DJトークの合間や曲中のブレーク部分にラベルがマークされてしまった)。
トラックを手動で分割するには自動分割よりも根気がいるが、難しくはない。まず、新しいラベルトラックを[Tracks]→[Add New]→[Label Track]を使って作成する。再生とナビゲーションのツールを使って録音を聴きながら、新しいトラックを開始する地点で[Pause]をクリックする。[Tracks]→[Add]をクリックして再生開始にラベルを配置する(Ctrl+M)。先ほど説明した手順で、ラベル内をクリックして名前を入力する。
レコード再生の豆知識 |
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[Effect]メニューのフィルタ機能
録音データの全体に背景ノイズ(カセットテープのヒスノイズなど)が乗っている場合、Noise Removalフィルタを使ってこれを除去できる。作業は次の2工程から成る。
最初に、数秒間の無音部分を、たとえば録音の先頭や末尾などから、選択する。[Effect]→[Noise Removal]をクリックし、[Get Noise Profile(ノイズプロファイルの取得)]をクリックする。
次に、全体を選択(Ctrl+A)し、[Effect]→[Noise Removal]を再度クリックする。パラメータを調節し、プレビューを聴いて確認した後で、[Remove Noise]ボタンをクリックして作業を完了する(プレビューが短すぎる場合は、[Edit]→[Preferences]→[Audio I/O]でプレビュー再生時間を変更する)。
レコード針が小さなゴミにぶつかると、録音に”プチッ”といったノイズが入る。Audacityには、これを処理するフィルタもある。録音データ全体を選択し、[Effect]→[Click Removal]をクリックする。場合によっては、録音データに最も適した設定を得るために試行錯誤を繰り返す必要がある。
エクスポートとタグ作成
AudacityプロジェクトをMP3またはOggのフォルダにエクスポートする前に、ID3タグまたはOggタグのメタデータを入力する。[File]→[Open Metadata Editor]をクリックし、アーチスト名、アルバムタイトル、発売年、ジャンル、コメントを入力できる。アルバムタイトルとトラック番号を空白にすると、Audacityによってラベルから情報が埋め込まれる。
すべての作業が終了したら、[File]→[Export Multiple]をクリックする。エクスポート形式をMP3に設定するか、任意の形式を選ぶ(MP3にエンコードするにはlame
がインストールされている必要がある)。エクスポート先として都合の良いディレクトリの名前を入力する。同じダイアログで、ラベルに基づいてファイルを分割し、ラベル名を使って各ファイルに名前を付けるように指定する。最後に[Export]ボタンをクリックすると、作業は完了だ。
曲を個別にエクスポートするだけでなく、Audacityプロジェクト全体を保存することもできる。こうすると、後でAudacityに戻ってアルバム全体にさらにフィルタを適用できる。プロジェクト全体を保存するには、[File]→[Save Project]をクリックする。
MP3タグを編集する場合でも、Audacityで編集を行ってからファイルを再エクスポートする必要はない。id3v2
を使えば、MP3タグをコマンドラインから編集できる。または、ポイントアンドクリックのインタフェースを使ってMP3またはOggのタグを編集する場合は、EasyTAGを試すことができる。
Audacityの機能(実に多い!)を詳しく知るには、Audacity wikiをじっくり読むことをお勧めする。
Beth Skwareckiは、ライター兼プログラマであり、長年のLinuxユーザである。