Stallman氏とTorvalds氏、NovellがGPLv3についてコメント――「GPLv2の実用的な代替案になるだろう」(Torvalds氏)
Richard Stallman氏
Richard Stallman氏はGPLv3の協議プロセスには関与していない。その代わりに彼は、協議をSoftware Freedom Law Center(SFLC)に委ね、そこで提起された問題に重点的に取り組んでいる。Stallman氏自身にとっては2年近く続いているこのプロセスを、彼は「かなりの大仕事」だと述べている。しかし、次のように語ってもいる。「どうすれば避けられたのか、私にはわからないが、とにかく予想していなかった大量の問題を引き起こした」
Stallman氏にとって、GPLv3は、テクノロジや法的なトレンドによってフリーソフトウェアの思想がゆるがされるのを防ぐためにGNU GPLを継続的に発展させていく活動の一部にあたる。
「GPLv1の発端は、フリーソフトウェアを事実上プロプライエタリソフトウェアにしてしまいかねない2つの方法の存在に私が気付いたことだった。1つはライセンス条項を追加すること、もう1つはソースを非公開にすることだった。そこで、GPLv1では、そのどちらも行えないように規定した。その後1990年になって、私はまた別の方法に気付いた。特許の保有者がその権利によって開発者を脅かし、さらにユーザにまで制限的な条件を課す恐れがあるというものだった。そこでGPLv2では、ほかにどんな条件が課されようともGPLの提供する自由を全面的に与えて配布するか、まったく配布しないかのどちらかしか選べない、とした第7項を追加した。そして現在、フリーソフトウェアを実質的にプロプライエタリにしてしまおうと試みる方法がさらに2つあることがわかっている。1つがTivo化(TiVoization)、もう1つがNovellとMicrosoftの提携だ。だから、我々はこれら双方の阻止を試みているわけだ。ユーザの自由を奪う脅威に気付いたときはいつでも、我々はその阻止を試みるつもりだ」
NovellとMicrosoftの提携が確定したとき、ドラフト第3版の公開までの残り日数は5日を切っていた、とStallman氏は言う。そのねらいは、いわゆる「パテントトロール」 ― 特許を取得し、訴訟を起こすかその旨の脅迫によって和解金をせしめる企業 ― との特許に関する相互の契約や調停を含む企業間のクロスライセンスのような協定を見逃すことのないように、第11項を書き改めることだった。
NovellとMicrosoftの協定をその対象外とする文をドラフト第3版に含めることにやむを得ず同意したものの、Stallman氏は「それが必要にならないことを望んでいる」と語る。この但し書きが最終的に残るかどうかは、ドラフト第3版に対するコミュニティからのフィードバックによって決まる。
Stallman氏がGPLv3公開後に想定しているのが、GNUフリー文書利用許諾契約書(GNU Free Documentation License)とWebサービスとして提供されるソフトウェアのために作られたライセンスAffero GPLの改訂である。GPLv3において用語の国際化に取り組んでいるにもかかわらず、彼はこのライセンスを公式に他の言語に翻訳することをまったく考えていない。「公式な翻訳版を出せれば素晴らしいのだが、そこには非常に大きなリスクが伴う。私はまだそのリスクをとる気にはなれない」
GPLv3の策定プロセスでしばしば顕著に現れるオープンソースとフリーソフトウェアの立場の相違については、どちらもフリーソフトウェアコミュニティの一部だとStallman氏は語る。しかし、オープンソースの支持者に言及してこう述べている。「誰もが自由を尊重するわけではない。自らの意見を自由に選択できるとき、全員の意見が一致することはない」。その一方で、GPLv3の採用に対するコンセンサスの形成は必須だともStallman氏は述べ、その理由を次のように話す。「GPLv3は、ユーザの自由に対する新たな脅威からユーザを守ってくれる。GPLv3が広い範囲で採用されない、あるいは多数のプログラムがGPLv2に留まる場合、こうしたプログラムのユーザは新たな種類の攻撃を受けやすくなるだろう。例えば、Linus(Torvalds氏)がGPLv3に移行しない場合、LinuxカーネルのユーザはTivo化に対して脆弱になる。これはゆゆしき問題だ」
「あるプログラムの目的がユーザに制限を課すことにあるとき、そのプログラムの制限機能を強化して信頼性を高めると状況はさらに悪化する。したがって、(オープンソース側の人々が主張するように)高性能で信頼できるソフトウェアが目標というのは誤りだ。(これに対して)フリーソフトウェア運動の目標は、使っているソフトウェアを自らの管理下に置くことにある。そのため、ソフトウェアをもっと高性能なものにしたければ自らの手でそうすることができる」
それでも、Stallman氏は希望を失わずにいる。例えば、オープンソース支持者は全員が同じ立場を共有しているわけではない、と彼は述べる。また、オープンソースにおびえながらも独自の理由でGPLv3への移行を検討している企業の例として、彼はSun Microsystemsを挙げている。
Linus Torvalds氏
GPLv3のドラフト第2版が公開されたとき、もっとも率直に批判をした人々の1人がLinus Torvalds氏だった。GPLv3に対して自分は非公式な意見を述べているに過ぎないと彼は強調しているが、今回のドラフト第3版には比較的念入りに目を通し、最初の反応として彼は限定付きの賛同を示していることからすると、気が変わったのかもしれない。
「以前より良くなっただろうか」と Torvalds氏は意味ありげに問いかける。「あきれるほど、良くなっているよ。だが、少なくとももっと健全なものにできるという点でまだ十分ではない。その点については私も頭をひねらなければならないだろう。とにかく、GPLv2よりも明確で好ましい言い回しになっている箇所がたくさんあり、私が『どう見ても戯言だ』と指摘した部分の多くは改善されているか、あるいは完全に削除されているようだ」
Torvalds氏は、今回のドラフトで書き直されて明確になった第7項の追加条件の内容を認め、ドラフト第3版では特殊なケースでのデュアルライセンシングが容易になっている、と言う。また、「新たな追加の制限事項がまったくないことには非常に安心した。その点で、このライセンスは以前よりずっと実用的だと言える」とも述べている。
今回のドラフトの第11項について、Torvalds氏は次のように話している。「Novellの(Microsoftとの)協定が本当にそれほど注目に値するものなのかどうか、私にはわからない。ただし、このテーマは、(DRMに対するどんな過剰反応とも違って)何を置いてもGPLv3を支持する理由としてずっと妥当なものになり得たと私は思う」
この「DRMへの過剰反応」は、第6項の反Tivo化の言い回しに現れている。Torvalds氏は、制限をもたらすテクノロジやスパイウェアの全面禁止が今回のドラフトではソースコードの提示義務に置き換えられたこの項の新たな条文について、次のように述べている。「相変わらず、ソフトウェアだけでなく、ソフトウェアがインストールされているハードウェアや環境の制御にこだわった内容だ。私としては気に入らないが、言い回しはかなり良くなっている。また、以前のドラフトの内容がまともでなかったことを、どうやらFSFは理解してくれたようだ(すなわち、アップグレードを想定していないソフトウェアに『インストール情報』やキーを要求しようとしても無意味なことが今回は明確になっている)。また、対象を『ユーザのデバイス』に限定することで、以前のドラフトにあった多くの馬鹿げた問題もすっかり取り払われた」
「この新しい内容であれば、GPLv3は少なくともGPLv2の実用的な代替案にはなるだろう。もう少し時間をとって全体を通読して深く理解しなければならないが、1度読んだ後の直感に従えば、少なくとも私自身の心情は以前のような『新しいプロジェクトを興すとしても絶対にこのライセンスは選ばないだろう』というものではなくなった」
Novellの場合
Novellを代表して話を聞かせてくれたBruce Lowry氏だが、同社による今後の公式コメントに配慮してか、今回のドラフトに対する詳細な感想は語ってくれなかった。ただし、簡潔に次のように述べている。「このGPLv3ドラフトには、今後NovellがSUSE Linux Enterprise、OpenSUSEをはじめとするオープンソース製品にGPLv3のテクノロジを採用する可能性を抑止するものが何もない」
「当社は、Microsoftとの提携関係を継続すること、そして、我々は常にそうだが、GPLv3の下でライセンスされたソフトウェアも含め、自らの出荷するソフトウェアのライセンス条項には徹底して従うことを確約している。もしGPLv3の最終版が我々のMicrosoftとの協定に影響を与えうる場合は、Microsoftと共に問題解決にあたることになるだろう」
Lowry氏は、Novellが「フリーソフトウェアおよびオープンソースを強力に支持」し、「幅広いフリーソフトウェアおよびオープンソースプロジェクトに大いに貢献」していると述べている。
今後数ヶ月の行方
Stallman氏、Torvalds氏、そしてNovellはGPLv3に対する態度を完全に確定させる前に、同ライセンスに関する各種イベントと最終版の登場を待っている。しかし、ここに記した彼らの意見は、GPLv3最終版に向けての今後3ヶ月の議論の行く末を決定づける問題を浮き彫りにしている。対立を避けようとの思惑が随所に見て取れ、収束に向かう展開の兆しがあるとはいえ、コンセンサス形成までの道のりはまだ遠い。しかし、今やGPLv3が全面的に受け入れられる可能性は、6ヶ月前に比べてずっと高まったように思える。
Bruce Byfieldは、NewsForge、Linux.com、IT Manager’s Journalに定期的に寄稿しているコンピュータジャーナリスト。