ロイターによる再度の誤報に意見する

 ロイターから配信されたニュースによると“Linux陣営”(Linux camp)なる存在が現在、MicrosoftとNovellとの提携に対して“妨害工作”を画策しているそうだ。1つ不思議に思うのだが、ロイターという会社は、Linuxコミュニティに関する虚報を流すことに何か特別な意図を持っているのか、あるいはそうではなくLinuxコミュニティのことを根本的に誤解していてそれを正す意思がないのか、いったいどちらなのだろう……。

 さて今回の事件に先立つ2月の時点において、ロイターのJim Finkle氏が「NovellがLinuxを提供できなくなる可能性」という報告をしている。この件については当サイトにてJoe Barr氏がFisking(辛口の批評)を掲載してくれたが、その反論記事では、Finkle氏がオープンソースとフリーソフトウェアのコミュニティを混同している点および、NovellによるLinuxの取り扱いをFree Software Foundation(FSF)が禁止することなどは不可能なことを理解していない点が指摘されていた。FSFが行使できる最善の(見方によっては最悪の)抵抗となると、FSFが関係するソフトウェアの著作権を武器にして、その将来バージョンの使用を困難にする程度のものでしかない。

 今回の誤報は署名者入りの記事ではなかったが、その内容は“Linux陣営”なる存在が新たに制定されるGNU Public Licenseの第3版(GPLv3)において、その条文を変更することでMicrosoftとNovellとの提携に対する“妨害工作”を画策しているというものであった。

 確かにLinuxコミュニティの中でNovellとMicrosoftとの提携に不満を覚えている人間は多数存在するが、FSFに“Linux陣営”というレッテルを貼り付けて語るのは誤報も甚だしいと言わざるを得ない。そもそもフリーソフトウェア擁護派とオープンソース開発陣との間のわだかまりなどは、公開形式の様々なフォーラムで以前から論じられてきた類の話である。

 GPLv3についても一言触れておくと、Linus Torvalds氏を始めとするカーネル開発者たちはGPLv3における変更点に対する不満を繰り返し表明しており、現行のGPLv2を堅持するための計画を打ち出している。こうした状況に“Linux陣営”は置かれているのだが、それがはたして妨害工作につながるなどと言えるものだろうか?

 Linuxにとって重要な意味を持つユーティリティの多くがFSFの管理下にあるのは事実だが、ロイター側の失態は、非FSF系のLinuxベンダやプロジェクトに問い合わせて、これらのツールをFSF草案のGPLv3下でも使用し続ける意図があるかを確認しなかったことである。仮に真の意味での“Linux陣営”にとって、FSFによるGPLv3での改訂内容は許容しがたいというのであれば、必要なユーティリティをフォーキングさせ、既に広範に受け入れられているGPLv2ライセンス下で開発を継続させるということも、ごく普通に可能な話なのだ。

 さてロイター関係者が本稿に目を通すこともあるかと思うが、その場合は以下の点を記憶に留めておいてもらいたい。つまりFSFにしろその他の団体にしろ、Linuxユーザの圧倒的多数を代表する組織などは存在しないこと、そしてFSFその他の団体がそうであるかのように論じるのは誤報なのであるということである。Linuxの開発者およびユーザの一部にフリーソフトウェアの信奉者やFSFの崇拝者がいることに間違いはない。その他にも“オープンソース”という理念に賛同し、NovellとMicrosoftの提携話は別問題だと見ている者もいるのだ。

 ロイター側の説明する「フリーソフトウェアとはオープンソースソフトウェアとしても知られている」という旨の解説文を読むと、ロイターはフリーソフトウェアという形態をオープンソースという大枠の中に押し込めようとしているように感じられてならない。確かにフリーソフトウェアの中には“オープンソース”の形態を採用しているものもありはするが、フリーソフトウェアとオープンソースソフトウェアとの違いを明確化しようとしないロイター側の姿勢は、読者を害す行為だとも見なせるのだ。

 さて問題の記事だが、ライセンス変更の真の動機である「FSFはユーザの自由を擁護しようとしている」という事実をタイトルにした方がよかったのではなかろうか。もっともこうした穏当な見出しは、ニュース記事のタイトルとしてロイター側を満足させるだけのセンセーションに欠けているかもしれないが……。正確な事実を伝えることの是非はさておき、こうした内容を前面に押し出した方が、ロイターが無理矢理あおり立てようとした闘争劇などよりもニュースとしてはよほど読み応えのある記事になるとおもうのだが、それはそれで残念な話である。

NewsForge.com 原文