GNOMEウェブサイト再建の舞台裏

大規模な組織の例にもれずGNOMEプロジェクトも、 効果的なウェブサイトの維持という難題に立ち向かっている。 そのすべてをボランティアの手によらなければならないという事情を抱えながら、 プロモーション部門、文書化部門、コミュニティ部門、それぞれから出される要望の間で バランスを取らなければならず、作業の困難さに拍車がかかっている。 しかしこの一年に渡りGNOMEコミュニティは、 かつておろそかになっていたウェブ上でのプレゼンスに再び意識を向け、 再活性化のための手順を明確に定め、その実行を開始した。

GNOMEプロジェクトは1997年8月に開始された。 そしてその後2、3年の間のGNOMEプロジェクトは、 フリーソフトウェアの熱心なファンの間でのみ知られるお遊びという程度の存在に留まっていた。 その頃の様子は、1998年12月時点のウェブサイトの スナップショットを見るとうかがい知ることができる。 それ以降GNOMEプロジェクトのウェブサイトは徐々に進歩はしていたものの、 GNOMEソフトウェアそのものやフリーソフトウェア全体の状況や ウェブ出版のトレンドに付いて行っていると言えるほどには進歩しなかった。 今でもGNOMEプロジェクトのウェブサイトへの変更は CVS経由でファイルへパッチをあてるという形で行なわれているし、 一貫性やプレゼンテーションのスタイルが欠落したウェブサイトの状態は 何年もの間まとまりのない状態だったGNOMEプロジェクトのマーケティング戦略 をそのまま表わしたものとなっている。

現在のwww.gnome.org(「wgo」と省略)サーバは多くの役割を果たしている。 現在のwgoは、 エンドユーザ向けにGNOMEデスクトップの紹介をしたり、 開発者向けにプログラミングフレームワークとしてのGNOMEとGTK+ の紹介をしたり、 潜在的なコントリビュータ(開発協力者)や興味を持ったエンドユーザ向けに コミュニティとしてのGNOMEの紹介をしたりしている。 また、 GNOME FoundationPlanet GNOME など、 コントリビュータやサードパーティの開発者やエンドユーザが見たいであろうと思われる 何十ものウェブサイトへの入り口にもなっている。

wgoの全面的な再建の必要性を認識したGNOME Foundation評議会は、 そのまとめ役にQuim Gil氏を任命した。 Gil氏は、 Drupal を使って GUADECウェブサイトを再建した業績や、 ジャーナリズムに携わった経歴を持ち、 またGNOMEコミュニティにおいても評判の高い人物だ。 Gil氏は任命されるとすぐに、 プロのウェブチームで使われているものをモデルとしながらも GNOMEコミュニティの性質にふさわしいよう変更した、 明確でオープンなウェブサイト開発プロセスを確立した。

GNOMEコミュニティに合わせて行なわれた変更の一つとして、 ウェブサイト開発プロセスのマイルストーンを GNOMEプロジェクト本体のリリースサイクルに合わせたということが挙げられる。 GNOMEプロジェクト本体のリリースサイクルでは、 6ヶ月ごとにデスクトップ環境「GNOME」の新しいメジャーリリースを 行なうということになっている。 Gil氏によると、GNOMEプロジェクト本体と同じリリースサイクルにすることによって 以下のような3つの効果があったのだという。 まず1つめの効果として、(締切を延ばすという選択肢や議論の余地がなくなり) 締切を守ることの意味/重要性をプロジェクトのメンバーに分かってもらいやすくなったとのことだ。 Gil氏の表現によると「GNOMEは規則正しいリズムを刻む大きな心臓」なのだという。 次に2つめの効果として、自分たちの作業がGNOMEプロジェクトの他の分野の作業と 同じくらい大切だということをウェブサイト開発チームに自覚させるという効果があったのだという。 そして最後に3つめの効果として、 良いウェブサイトを作るためには、 コードや文書やアートワークと同様に、 適切な計画を立てることとプロジェクトの進め方を適切に定めることが必要であるということを ウェブサイト開発チームに認識させるという効果もあったのだという。

このようにすでに確定しているGNOMEプロジェクト本体のリリーススケジュールに 合わせることになったので、 ウェブサイト開発チームは新たに現リリースサイクルでの 目標など、 様々な計画書の作成を行なった。 そして現在もメーリングリスト上では凄まじく活発な議論が進行中である一方、 (議論に終始して実作業が滞ることはなく) 体系立った戦略や長期的な方針を策定しながら、 wikiページは徐々に改訂・承認されている。

とは言え、今まですべてがスムーズだったというわけでは決してない。 Gil氏はわれわれの取材に対し 「カオスの様相が失われてしまったら、たぶん私はプロジェクトを去ってしまうと思います」 と冗談めかして言うほどだ。 多くの議論が脱線していたり無益であるようにさえ見えながらも、 優れたアイデアというのはその中から浮かび上がってくるものであり、 ウェブサイト開発プロセスは少しずつではあるが前進してきた。 Gil氏はカオスの中から秩序を生み出している。 少なくとも、そうでありたいとのことだ。

GNOMEウェブサイト開発チームにとってありがたいことの一つとして、 GNOMEコミュニティの規模を考えるとwgoのコンテンツ量が驚くほど少ないということが挙げられる。 「about」セクションを KDE のものと比べてみると、 Gil氏が「wgoは、できるだけ小さく保っておきたい」とする理由は明白だ。 ここで最も難しい作業は、何を、誰に、どう説明するのかを決めるということだ。 特にウェブサイトを「誰に向けて」作るのかという問題は、 誰も彼もが「うちの祖母は…」や「大学のルームメートが…」など 思い出される限りの知り合いについての軽率な意見を述べ合い始める 木を見て森を見ず的な 回りくどい議論になってしまうとして悪名が高い。 このような議論は現在も時折持ち上がるが、 その場合ウェブサイト開発チームは単純に、 GNOMEマーケティングチームが最近行なった例に習うことにしている。 つまり、主要ターゲットを 「ソフトウェアあるいは自由についての興味を持つホビイスト、 独立系のソフトウェア開発者、公共機関、ジャーナリスト」に定めるということだ。

ボランティアによる協働作業ということによってまた別の課題も出てくることになる。 つまり、ソフトウェアの開発であれば時には多少のカオスが入り込む余裕もあるが、 ウェブサイトの開発というようなプロモーション目的のものを作り上げようとする場合、 狙い通りの効果を得るためには徹底的に対象を絞り一貫性を持たせる必要があるという問題だ。 しかしGil氏は、メーリングリストの カオスの中から出現したアイデアは徐々に進化を遂げることができるので、 GNOMEウェブサイト開発チームがプロの企業に勝るとも劣らないだけの 成果を挙げることもできるはずだという点には自信を持っている。 実際、文書の調子というものは、 コミュニティ的な熱い思いと 企業的な冷静なプロ意識との間でバランスを取る必要があるものであるが、 スタイルガイドなどで定義されているわけでもないのに、 Gil氏によると「たいていは自然に、無意識のうちに流れ出てきている」とのことだ。

これまでのところ、大きな決断が一つあった。 それは、ウェブサイトを構築するプラットフォームの選択だ。 GNOMEウェブサイト開発チームは Plone を使用することに決めた。 Ploneは、 世界中の政府機関、企業、慈善団体、コミュニティなどで使用されていて 人気の高いプロ向けのコンテンツ管理システムだ。 GNOMEウェブサイト開発チームが、 DrupalJoomlaMidgard など同種のプラットフォームの採用を見送って Ploneの採用に踏み切ることになった決め手は、 標準化されている POファイルを使用して複数の言語をサポートすることのできる 翻訳用ワークフローをPloneが提供していたためとのことだ。

GNOMEウェブサイト開発チーム及びGNOME界隈の次の大きな締切は、3月14日だ。 この日、GNOME 2.18は改訂されたウェブサイトと共にリリースされるだろう。

自分のウェブサイトの改訂を成し遂げたいと思っているのなら Gil氏からアドバイスがある。 「私たちの 計画プロセスのページ を一度ご覧になってみて下さい。 そして何よりも大切なことは、ゆっくりと時間をかけるということです。 焦って何もできあがらなくなってしまうよりは、 ゆっくりとでも進展する方がずっといいでしょう? そして思ったよりも進捗が遅くなってしまったときには、 締切を先送りするのではなく、 目標を先送りするのが良いでしょう。 そうすれば次回にはチームがどこに的を絞ればよりうまく作業できるかが分かってくるでしょう。 」

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