gNewSenseがFSF公認ディストリビューションに仲間入り

スプラッシュ画面やその他ブランディング要素の向こう側をどのように想像しようと、最近発表されたばかりでUbuntuのDapper Drakeリリースではまだ利用できないLinuxディストリビューションgNewSenseには、目新しい点がほとんど見当たらないだろう。実際、このディストリビューションを支えるアイルランドのフリーソフトウェア支持者、Brian Brazil氏とPaul O’Malley氏によると、gNewSenseのハードウェアの認識率が特に無線カードについてはUbuntuよりも低いことにユーザは気付くかもしれないという。では、誰がどんな理由でgNewSenseを使うというのだろうか。

その答えは技術面にではなく政治的なところにある。大半のディストリビューションと違い、gNewSenseの目標はユーザビリティやその他の技術的な課題とは関係がなく、フリーソフトウェアだけが含まれるGNU/Linuxディストリビューションを提供することにある。この目標の追求は、Linuxカーネルからフリーでないファームウェアを取り除くとともに、フリーでないリポジトリへの接続を行わないことを意味する。Brazil氏とO’Malley氏は、少なくとも一部のユーザは自らの理想に従うディストリビューションを利用できる満足感と引き換えに利便性の低下を受け入れてくれるだろうと期待している。また、こうした交換条件に喜んで応じる開発者たちの存在により、この小さなディストリビューションはすでにフリーソフトウェア財団(Free Software Foundation:FSF)からの支援を受け、本当の意味でフリーであるとしてFSFが普及促進に努める6つのディストリビューションの1つとして挙げられている。

gNewSenseのアイデアが生まれたのは、2005年11月にチュニスで開かれた世界情報社会サミット(World Summit on the Information Society)でのRichard Stallman氏とMark Shuttleworth氏によるフリー版Ubuntuの可能性についてのディスカッションをO’Malley氏が聞いたときである。このアイデアに確かなものを感じたO’Malley氏は、自らがGnusiance、gnubuntu、Ubuntu-libreといったプロジェクト名で呼ぶIRCチャンネルや電子メールでの議論の場を用意したのだが、アイデアを評価する声は多かったものの開発者として名乗りを挙げる者は1人もいなかった。2006年4月、O’Malley氏はこのアイデアをBrazil氏に伝えた。Brazil氏はダブリンのトリニティカレッジ(Trinity College)の卒業試験の終了後、6月になってから作業に着手した。

gNewSenseのデスクトップ ― クリックで拡大

GNU/Linux内に存在するプロプライエタリな要素について疑問を投じたディストリビューションはgNewSenseだけではないが、Brazil氏とO’Malley氏は、こうした先行のディストリビューションとは独立して作業を進めることを早くから決めていた。Debianプロジェクトではこの問題が長い間議論され、メンバーの投票により、次のリリース版が出るまでは行動を起こさないという一般的な解決策に最近落ち着いたことは承知している、とBrazil氏は語っている。しかし彼に言わせると、この決定は、Debianのメンバーが「フリーでないソフトウェアを利用するとの決断をしたも同然」だという。

またBrazil氏とO’Malley氏は、KubuntuやXubuntuのようなUbuntu内部のサブプロジェクトとして取り組めないかの検討を拒んだ。「Ubuntuにはフリーでないプログラムが含まれ、それらが確実に適切な動作をするように相当な手間がかけられているので、UbuntuプロジェクトがgNewSenseのような取り組みを行うとは思えない」とBrazil氏は話している。いずれにせよ、Ubuntuリポジトリに接続することになれば、「そこにはUbuntuの提供するフリーでないプログラムが依然として存在する」ため、gNewSenseの目標に背くことになってしまう、と彼は説明する。

Brazil氏とO’Malley氏は、Richard Stallman氏自らが個人的に推奨するなど、かつてFSFが強力な後押しをしていたディストリビューションUTUTO-eを当てにすることも検討しなかった。最新のリリース版で大幅に改善されたとはいえ、相変わらずUTUTO-eには技術的な問題がある。「UTUTO-eをダウンロードしたが、インストールの途中で行き詰まってしまった」とO’Malley氏は話している。

FSFは引き続き、UTUTO-eを認定ディストリビューションのリストに載せているが、FSFの常任理事Peter Brown氏は次のように語っている。「自分たちに制限を課したくはない。だからフリーのディストリビューションすべてに注目している」

gNewSenseを支援するために、FSFはフリーのLinuxBIOSを搭載したビルドマシンのほか、gNewSenseプロジェクトのメーリングリストおよび広報活動のためのサーバスペースも提供している。UTUTO-eへの過剰な後押しの後で慎重になっているようで、FSFはgNewSenseを公式に支持するには至っていないが、Brown氏は今回の初リリースを個人的に喜んでいる。

「このディストリビューションの良いところは、環境の構築と実行がほとんど誰にでもできる点だ。UTUTO-eは英語に対応してはいるが、スペイン語を念頭に置いて開発されているので、そこに違和感を感じる人々もいる。gNewSenseの場合、平均的なユーザの視点から見れば、明らかにその点で大きくリードしている」(Brown氏)。

またBrown氏はこの新たなディストリビューションを「Ubuntuの発展版」と呼び、次のように述べている。「gNewSense開発者は我々の理想により一層迫ってきている。我々は、これまでになかった自由が加味されたディストリビューションを手にしたのだ」

gNewSenseを発表したプレスリリースのなかで、FSFでフリーソフトウェアのディレクトリメンテナを務めるTed Teah氏は、このディストリビューションを「100%フリー(自由)であることを公約」するものだと述べている。ただし、実際にどこまでフリーなのかは、プロジェクトの創設者たち自身にも明らかになっていない。gNewSenseでは取り除いたプロプライエタリなファームウェアの一覧を公開しているが、Brazil氏は「現時点でどこまでフリーになっているのか、正確なところは私にもわからない」と認めている。彼の説明によると、問題はフリーでない要素に加えてそれらを参照する要素まで特定することにあるという。

しかし、gNewSenseの開発チームは報告されているプロプライエタリ要素を削除するために誠意をもって努力することを約束している。「プロジェクトに加わってきた誰かがプロプライエタリな要素を見つければ、我々はそれを排除するよう努めるつもりだ」とO’Malley氏は言う。現在、開発者のメーリングリストで議論されているのはたとえば、Mozilla Foundationが商標利用の制約に固執していることを考慮してFirefoxをリブランド版や別のブラウザに置き換えるべきか、といった話題である。

無償ディストリビューションのメンテナンスに加え、gNewSenseの開発チームはこのディストリビューションの外観のほか、今のところUbuntuのものに依存しているセキュリティ機能、処理の自動化についても改善を予定している。またチームメンバーは、詳細未定のgNewSense用ソフトウェアもいくつか含めたいと考えている。

だが当面の具体的な懸案事項は、ドキュメントの整備のようだ。gNewSense用CDのスライドショーのなかで、O’Malley氏はディストリビューションの構築を「(個々の開発者の技量に頼った)黒魔術」と記している。関係者たち自らがガイドラインの欠如に不満を感じている結果として、Brazil氏とO’Malley氏はプロジェクトのWebサイトにBrazil氏が「haikuフォーマット」と呼ぶ形式で自分たちの取り組みをまとめたページを用意している。Brazil氏の目標は、最終的に「他者の参画を可能にし、これまでの成果に基づいて別のディストリビューションを生み出せるように、我々による取り組み結果すべての完全な文書化」を確実に行うことにある。その他の優先事項を開発チームがどう定めるかは、プロジェクトにどれほどのボランティアが集まるかに依存している。

O’Malley氏は「我々の取り組みに対しては多くの反応が寄せられている。そうした反応には、プロプライエタリ要素に向けられる純粋な猜疑心への賛同から、‘ああ、プロプライエタリ要素のせいですべてが台無しになってしまう’という認識には欠けるが一定の理解を示すものまである」と語っている。 とはいえ、ほとんどは肯定的な反応のようだ。小規模ながら積極的に活動しているコミュニティにgNewSenseのメーリングリスト設立の動きが見られるほか、FSFからはリリース発表直後の4日間でCDイメージのダウンロードが5,000件近くになったとの報告も出ている。

FSFにとっては、無条件に推奨できるディストリビューションをリリースすることそのものが目的である。しかしgNewSenseは、オペレーティングシステムからドライバ、BIOSに至るまで全面的にフリーソフトウェアで動作するマシンを製造するようにコンピュータメーカーを説得するというFSFの長期的目標に向けての重要な一歩でもある。gNewSenseのリリースと、One Laptop Per ChildプロジェクトでLinuxBIOSを利用するプランの双方に勇気づけられ、Brown氏は次のように語っている。「ゆっくりとしかし着実に目標の達成に近づいていると我々は確信している。我々がそうしたコンピュータを手にする予定である1年後には、多分そのゴールに到達していることだろう」

Bruce Byfield氏はセミナーのデザイナ兼インストラクタで、NewsForge、Linux.com、IT Manager’s Journalに定期的に寄稿しているコンピュータジャーナリストでもある。

NewsForge.com 原文