「SOX法404条は悪夢だ!」──前FRB議長のグリーンスパン氏が指摘

 米国連邦準備制度理事会(FRB)の前議長アラン・グリーンスパン氏は11月8日、米国企業改革法(Serbenes-Oxley Act:SOX法)の404条について、「費用のかかる“悪夢”のような条項だ」と、厳しく批判した。

 グリーンスパン氏は、米ボストンで先週開催されたAMRリサーチ主催の「Executive Leadership Conference」で基調講演を行った。18年間務めたFRB議長の職を今年1月に退いた同氏は、米国と世界の経済のさまざまな問題を論じる中で、大手企業の会計スキャンダルを受けて導入されたSOX法についての持論を展開した。

 同氏は、財務報告の多くが過去の記録よりも将来の予測に重点を置いていると指摘、「(企業の)会計責任者が作成しているのは、芸術作品のようなものだ」と述べ、会場を沸かせた。

 ただし同氏は、CEOとCFO(最高財務責任者)に会計報告の承認を求める必要があることについては認めている。自社のビジネスの価値がどこにあるのかを熟知しているのは彼らだからだ。

 そのうえで同氏は、SOX法の404条に触れ、「きわめて費用のかかる“悪夢”のような条項だ」と批判した。404条が、企業の監査責任者に対し、財務報告システムとプロセスを守るために導入された内部統制の有効性を証明するように義務づけているからだ。

 グリーンスパン氏は、「上下両院でまともに審議されずに全会一致で成立するような法案が良い法案であるはずがない」と指摘。2002年にほとんど論争もなく成立したSOX法について、議員の大半が法案すらまともに読んでいないと批判した。

 同氏は、SOXの再評価を求める民主党上院議員のチャック・シューマー氏とバーニー・フランク氏の取り組みを賞賛し、404条を改正する必要性を強調した。ニューヨーク選出のシューマー氏は、金融センターとしてのニューヨーク市の状況に強い懸念を示しているという。「(シューマー氏は)ロンドン市場に株式を上場する動きが広がっていることを認識している」とグリーンスパン氏。

 一方、ITが生産性にどのような影響を与えるのかという長年の疑問については、コンピュータ技術が経済の一定部分を急激に変化させたという認識を示した。とりわけ同氏は、ITの活用によって、在庫の追跡や管理業務が改善された点などを評価している。

 しかし、コンピュータ化による生産性の向上が、過去に起こった技術の飛躍的進歩よりも早く達成されるかどうかはわからないと指摘する。同氏は、生産性向上を制約する要因は技術ではなく、人の知的能力だとしたうえで、「はっきりしているのは、われわれがそれほど賢くないということだ」と述べた。

 またグリーンスパン氏は、ITのユビキタス活用を促進するために、既存の物理的なインフラストラクチャを全地球規模で変えていく取り組みが不可欠だと指摘し、蒸気機関から電力への移行を例に挙げて次のような自説を展開した。

 「電力利用技術は、20世紀初頭に登場したが、実際に経済に影響を与えるようになったのは、それから15年から20年ほどたって、蒸気機関用の巨大な建物が取り壊され、電力用の工場施設に置き換えられるようになってからのことだ。新しい工場のおかげで、企業は新技術がもたらす利益を実際に手にすることができるようになった」

 さらに、ソフトウェア業界で進んでいる業界再編に対する評価について問われたグリーンスパン氏は、Microsoftなどの企業による「自然な独占の形成段階」にあるとの認識を示した。同氏は、表計算ソフトウェアのExcelを例に挙げ、使い方を習得した顧客が別の製品の使い方を学びたいと思わないことが、Microsoftなどの企業に独占的な地位を与えている原因の1つになっていると述べた。

 かつてFortranのプログラマーだった経験を持つグリーンスパン氏自身も、Microsoftの製品を使っており、自分のやりたい方法ですぐに修正できないことに不満を感じていたが、最後には「音を上げ」、同社の技術に慣れ親しむようになったという。

(チャイナ・マーテンス/IDG News Service ボストン支局)

提供:Computerworld.jp