クリエイティブ・コモンズ改訂に立ちはだかるGPLと同種の問題
CCLは、GPLとは違ってソフトウェアではなくコンテンツのためのライセンスだ。2002年12月の初公開以来、小規模な改訂が繰り返されて現在に至っている。現在の利用形態では、作品の複製と再配布に関する基本的な権利と制限(著作権の保持など)と以下の条件を組み合わせることによって自分に合ったライセンスを指定することになっている。以下の条件は相矛盾しない限り複数の条件を選択可能だ。
- 帰属:オリジナルの作者のクレジットを表示すれば作品を利用可能
- 非営利:非営利目的の利用においてのみ作品を利用可能
- 派生禁止:変更しない形でのみ作品を利用可能
- 同一条件許諾:派生作品も含め同じライセンスで公開するなら作品を利用可能
CCLは、Lawrence Lessig氏主席の理事会が率いる非営利組織を通して作成・振興されている。
CCLの改訂もGPLの場合と同様に公開プロセスとなっている。クリエイティブ・コモンズの最高顧問弁護士Mia Garlick氏によると、主な利害関係者やクリエイティブ・コモンズ・インターナショナル(各司法管轄区域へのライセンスの移植を手助けするために作られた組織)のメンバーに対しては定期的に助言を求めているとのことだ。そして一般からの意見は、cc-licensesメーリングリストやCreative Commonsブログを通して受け付けている。また、ライセンスの変更点がオンラインで閲覧可能になっている。
ライセンス文面の実際的な起草はGarlick弁護士が行っている。ただしGarlick弁護士は、クリエイティブ・コモンズ理事会(理事会のメンバーの多くは法律関連の経歴やライセンス問題についての経験を有する)やクリエイティブ・コモンズの外部顧問であるCooley Godward社の社員たちと協議の上で執筆しているとのことだ。CCL新版の起草は、Garlick弁護士が「反復プロセス」と呼ぶ「ドラフトを書きながら審議する」というスタイルで行なわれている。この点は「審議した後でドラフトを書く」というGPL新版の起草スタイルとは異なっている。
改訂における論点
GPLが抱えている問題のいくつかは、CCLの場合には問題にならない。例えばCCLの改訂では、反DRMの文面の明瞭化ということを除くと、BitTorrent等の新たなテクノロジーによって生まれた問題に対処する必要性はない。また他のライセンスでの用語との互換性も問題にならない。もちろんこれは、CCLの条件が柔軟であるためにデュアルライセンスにする必要性が通常はないからということが大きな理由だ。同じように、Garlick弁護士が指摘する通り「クリエイティブ・コモンズライセンスはコンテンツに対するものであるため、普通は特許問題は生まれない」ということもある。
今回も今までもCCLの改訂においての主な関心事と言えば既存の言い回しの改良だ。これまでも常にクリエイティブ・コモンズでは、言い回しの明瞭さやシンプルさが主な関心事であった。そして言い回しの明瞭さやシンプルさこそがおそらく同ライセンスの成功の大きな理由であろう。興味のある読者は、曖昧であったり不必要であったりする言い回しの削除や、明瞭にするための追加が施されている箇所をオンラインで閲覧可能になっているライセンスの変更点で確認することができる。
もう一つの関心事は、米国外でのCCLの人気の高まりに対処することだ。この問題に対処するため、元々の一般ライセンスは現在、米国固有のライセンスとされた。そしてそれに置き換わる新たな一般ライセンスが起草された。Garlick弁護士はこの新たな一般ライセンスについて、「知的所有権に関する国際的な協定の文面に基づいており、そのような協定の各国での施行に従って効力を生じるもの」であると説明している。この新たな一般ライセンスには、(著作者人格権の概念が存在する司法管轄区域のために)著作者人格権の尊重が含まれており、著作者人格権と派生物作成の権利との間でバランスをとることが試みられている。この新たな一般ライセンスは米国固有のものではないため、他国でのCCLの導入がやりやすくなるはずだ。
利害の調整
利害調整の多くは、ややこしいものではない。というのも調整の多くは、主義主張の違いを超えて調整が必要という類いのものではなく、単に細部についての調整が必要であるというだけのものであるからだ。一方、この改訂プロセスの中でもっとも白熱した議論が起こるケースというのは、一部の有力なユーザ(潜在的なユーザも含む)の利害関係に対処し、その後そのように特別な利害のために行なわれた変更を残りのクリエイティブ・コモンズコミュニティ全体に受け入れてもらうという場合だ。
具体的な例を挙げて説明すると、マサチューセッツ工科大の教育コース用のフリーな資料を電子出版しているMIT OpenCourseWareが持つ関心事についての対処は、どちらかと言えばややこしいものではなかった。この対処としてCCLの新版には、(既に行なわれていた言い回しの明瞭化に加え)著作権保有者の名前を作品の宣伝に使用することを禁止するための「推奨なし」という条件が含められた。この「推奨なし」という条件は、フリーソフトウェア用のMITライセンスやBSDライセンスにすでに存在する条件だ。つまり先行例がありすでに定着している条件であるため、議論は比較的少ししか起こらなかったようだ。
一方、Debianディストリビューションのメンバーたちを満足させるための対処は、(不可能とまでは言わないが)より困難であるということが判明しつつある。Debianはライセンスをあまりに厳格に精査することで(悪名高くとまでは言わないが)名高く、現在CCLをフリーのライセンスとして認めていない。Debianが懸念しているのは、CCLは組み合わせ方によっては、Debianディストリビューションへ含めることができるものを決定するDebianフリーソフトウェアガイドラインに違反するという点だ。
具体的には Evan Prodromou氏によるまとめにある通り、「帰属」を含むCCLの場合、原作者が(他の人が作った)派生作品内で自分に関して言及している部分を削除するようにと強制できてしまい編集の自由が妨げられてしまう可能性や、DRMに関する制約の文言と商標に関する制約の文言が曖昧であることなどがある。さらに深刻なこととして、「帰属-同一条件許諾」や「派生禁止」などのCCLのいくつかの形態が、Debianフリーソフトウェアガイドラインと完全に非互換とみなされるということがある。
これらの問題を解決しようと2005年の春、Lawrence Lessig氏の個人的な要請により、Evan Prodromou氏、Don Armstrong氏、Benjamin Mako Hill氏、Branden Robinson氏、MJ Ray氏、Andrew Suffield氏、Matthew Garrett氏からなるDebianのワークグループはクリエイティブ・コモンズの代表者たちと意見の交換を開始した。Prodromou氏の2006年8月の報告によると、これらの会合により反DRM文面の明瞭化という結果が得られたものの、「DRMのかかっていない『並行配布』版が存在するDRM作品についての例外」を設けようとするDebian側の努力をクリエイティブ・コモンズ側が受け入れることはなかったということだ。
問題は、改訂プロセスに関わっている他のグループが「並行配布例外」という案に反対しているということだ。Garlick弁護士によると、多くの人は並行配布例外の必要性を感じておらず、ライセンスを複雑にしてしまうだけだと懸念しているらしい。また並行配布例外が「反DRM」の文面を弱体化させるものだとみなす人も多い。「従ってクリエイティブ・コモンズは目下のところ『並行配布例外』という文言を3.0版の一部として含めるつもりはありません」とGarlick弁護士は言う。理論的にはDebianが一般決議を通してCCLを受け入れる判断を下す可能性はまだ残されているが、Debianのライセンス関連の過去の流れから考えると、そのような動きが起こるとはかなり考えにくい。
われわれの取材に対しGarlick弁護士は、そのような問題点は「議論という手段で」解決中であるとだけ述べた。しかし、ちょうどLinus Torvaldsを含む多くのカーネル開発者たちによるGPL 3.0の拒否がGPL改訂の試みを根底から覆す可能性があるように、CCLもまたDebianによる不認可がいつまでも続くかもしれないという恐ろしいほどの不安材料を抱え込むことになるかもしれない。これらの問題を解決しようとしていることがCCL最終版の発行が遅れてしまっていることの大きな原因となっていることは疑うべくもない。同最終版は、当初の予定表では7月のリリースを予定していた。
現在のところ、すべての関係者からの合意に達することができるのかどうかを占うことは不可能だ。(第三者の目には意外なことと映るかも知れないが)GPLとCCLが直面した問題の類似性を考えると、長い時間親しまれてきたライセンスでない限り「ライセンス」のように細密なものについての合意を得るには、フリーな著作権のコミュニティは大きくなり過ぎまた多様化し過ぎたのかもしれない。どうやら選択肢は、今後の継続的な議論から合意が生まれることに賭けてライセンスのリリースを遅らせるか、一部の利害関係者の懸念を無視しライセンスの威信と信用に甚大な打撃を受けつつもライセンスをリリースしてしまうかのどちらかであるようだ。
CCLの場合、合意へこぎつけようとする意欲があるというのは確かなようではあるが、実際に申し分のない合意に達することができるほど十分な意欲があるのかどうかは今はまださだかではない。
Bruce Byfieldは、教育コースの設計・指導を行なう傍ら、NewsForge、Linux.com、IT Manager’s Journalへと定期的に寄稿するコンピュータジャーナリスト。
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