メッセージングソフトウェアZimbraのレビュー──Exchangeの置き換えは可能か?
Zimbraには、オープンソース(Open Source)版、ネットワークスタンダード(Network Standard)版、ネットワークプロフェッショナル(Network Professional)版という3種類の構成がある。ただし、無料のオープンソース版には、Outlookとの同期、モバイル機器との同期、バックアップ機能、クラスタリング機能など本格的な導入には必要になるであろう機能のいくつかが欠如している。
今回は、ネットワークスタンダード版のテストをCentOS 4で、オープンソース版のテストをDebian SargeとMac OS Xでそれぞれ行った。Zimbraのインストール手順は少し面倒なものになる可能性がある。特に、オープンソース版をインストールしようとする場合はその傾向が強い。Debian上でオープンソース版インストールスクリプトを走らせると、依存関係のチェックのところで必要なPerlモジュールがインストール済みかどうかを検証できなかったため、このスクリプトの実行は初回にして失敗し、使用不可能な状態のままZimbraのインストールが頓挫してしまったのだ。一方、Mac OS Xサーバへのオープンソース版のインストールは、よりスムーズに進んだ。ただし、インストール後もドキュメント機能が何らかの理由で動作しなかった。
ネットワークスタンダード版のCentOSへのインストールは、さらにスムーズに運んだ。依存関係(システム要件に記載されている)を満たすためにパッケージ数個のインストールと、Sendmailの削除を行わなければならなかったが、それ以外ではオープンソース版よりもずっと手のかからないインストールだった。
Zimbraは、インストール済みのLDAPやActive Directoryと協調して動作することができる。私の環境にはどちらも存在しなかったので、ユーザ認証およびアドレス帳の管理のためにZimbraに組み込まれているLDAP機能を有効にした。
Zimbraの管理
インストールを終えると、Zimbraの設定とユーザアカウントの追加に取りかかった。ZimbraのWebインタフェースは使いやすく、たいていの管理タスクはこのインタフェースを利用して行えるようになっている。
ただし、Webインタフェースを使っていて気付いたことの1つに、フォーム内の項目間をTabキーでうまく移動できない点があった。たとえば、新規ユーザ作成のフォームでTabキーを押せば次のフィールドにカーソルが移動すると思うだろう。ところが、新規ユーザのファーストネームを入力した後にTabキーを押すと、フォーカスが「New Account(新規アカウント)」ダイアログの「Cancel(中止)」ボタンに飛んでしまうのだ。これはいただけない。
また、既存のアカウントまたはエイリアスと同じ名前で別のアカウントを作成しようとしても単純に失敗するだけで、前の設定手順に戻って誤りを訂正する手立てが用意されていない。とてもユーザフレンドリ(ここでは管理者フレンドリとすべきか)とは呼べない仕様だ。
Zimbraの管理者インタフェースでは、アカウントをどれか1つ選択して「View Mail(メールを表示)」クリックすると、そのアカウントに対象ユーザとしてログインすることができる。この機能を使えば、基本的にそのユーザとして振る舞うことができる。つまり管理者は、パスワードを知らなくても、ユーザのアカウントにログインし、そのユーザとしてメールを送信したりそのユーザの文書を閲覧したりできるわけだ。Zimbraのマニュアルには、アカウントに関する問題を起こしそうなユーザを助ける方法としてこの機能が説明されているが、同時にこれは管理者がユーザの電子メールを監査する簡単な方法でもある。ただしZimbraでは監査ログも記録されており、管理者が別のユーザのアカウントへの切り替えを行うたびにログにその記録が残る。(もちろん、その監査ログを記録しているサーバに管理者がアクセスして……すれば、監査ログはその役割を果たさなくなるだろうが)。
企業の環境では、社員のメールが会社または組織に監視されている可能性があることは、誰もが承知している。それでも、Zimbraによってユーザの電子メールの監視が極めて容易になるとあっては、ユーザとして良い気分はしない。だが、管理者にとっては非常に便利な機能であることは間違いないだろう。かくいう私もユーザアカウントに関する問題の解決にはずいぶんと手を焼いてきた。
また管理者はZimbraの設定によって、添付ファイルの拡張子に応じてメッセージを破棄したり、元のフォーマットで閲覧するかHTMLフォーマットへの変換だけを行うかを指示したりできる。
さらにWebインタフェースには、キューにたまっている電子メールの数をZimbraが管理しているドメインごとに確認する機能、受信メールの発信元IPアドレスを追跡する機能、キュー内の個々のメッセージを参照する機能など、すばらしい監視機能が用意されている。以前、私がホスティング環境に携わっていたときにこれほどの機能が揃っていたとしたら、どれだけ仕事が楽になったことだろうか!
残念なことにZimbraではすべての作業がWebインタフェースで行えるわけではない。手動でのバックアップ、スケジュールのバックアップ、SSL証明書のインストール、アカウントのバルクプロビジョニング、メールボックスの移動、その他いくつかのタスクを行うには、Zimbraに付随のコマンドラインツールを利用しなくてはならない。
熟練した管理者のいる大規模な環境であれば、この点は問題にならないはずだ。しかし「設定後は手間要らず」のツールを望んでいる小さな会社には適していないかもしれない。とりわけ、Zimbraのコマンドラインツールには関連するmanページが見当たらないため、ちょっとコマンドの構文を確認したいというときには苛立ちをおぼえることだろう。
エンドユーザにとってのZimbra
管理者の立場では十分にZimbraについて述べてきたが、エンドユーザにとっての有用性はどうだろうか。調べたところ、ZimbraクライアントのインタフェースはWebアプリケーションとしては意外なほど使えることがわかった。
ZimbraクライアントのWebインタフェースは、ローカルのアプリケーションとほとんど同じ感覚で使える。非常によくできており、応答性、使いやすさともにローカルアプリケーションにひけをとらないくらいだ。ただし、ボタンやアイコンをクリックして反応が起こるまでにときどき若干の遅延が生じていたことは明言しておかなければなるまい。この遅延の原因がサーバとブラウザとの間の通信にあるのか、ブラウザのレンダリングが遅いせいなのかはわからない。いずれにせよ、通常のデスクトップアプリケーションではなくWebベースのアプリケーションを使っていることをたまには思い出すことになるだろう。
Webベース機能の利用に関するZimbraのエンドユーザ用マニュアルの内容は悪くはないのだが、残念ながらZimbraをThunderbirdやEvolutionといったオープンソースのほかの生産性アプリケーションとの連携に関する記述は見つからなかった。電子メールについては、設定がとても簡単なので、好みのPOP3またはIMAPクライアントをZimbraで使いたければ問題なく使える。だが、カレンダーやアドレス帳の設定となると話は別だ。
たとえば、ZimbraのカレンダーをEvolutionと同期させようとしたのだが、そのたびに必ずパスワードの入力を求められ、その後もZimbraのカレンダーの同期が取られることはなく、Evolutionではカレンダーのプロパティにひどく奇妙なURLが表示されることがわかった。しかし、不具合がEvolutionとZimbraのどちらにあるのかは私にはわからない。またZimbraのカレンダーをKontactと連携させる設定もうまくいかなかった。本当に可能なのか疑問に思いつついろいろと試してみたが徒労に終わった。むしろ、マニュアルでカレンダーをほかのアプリケーションと連携させるための設定方法を見つけ出そうとすべきだったかもしれない。
また今回はテストできなかったが、ZimbraにはOutlook用のインポートウィザードが用意されている。Windowsマシンのユーザは、このウィザードをダウンロードすればOutlookのメール、カレンダー、アドレス帳、添付ファイルをZimbraにインポートすることができる。これで、所属する組織がExchangeからZimbraに乗り換えようとしても、そこにいるユーザが異を唱えることはなくなるかもしれない。ただし、ZimbraをサーバにしてMicrosoft Outlookを使用する場合は、各クライアントマシンにコネクタアプリケーションをインストールする必要がある。
さらにZimbraのWebクライアントには、Zimbra Assistantという実に気の利いた機能が存在する。Webクライアント上で~
と入力すると、このZimbra Assistantダイアログがポップアップ表示されるので、appointment
、calendar
、contact
、email
といったコマンドをそこに入力できるほか、新しいメッセージや予定の作成、状況に応じたダイアログを使った連絡をこの機能が支援してくれる。つまり、キーボードから手を放すことなく、またフォーム上の別のフィールドへの移動に気をせずに、こうした操作を実行できるのだ。まったく驚くべき使いやすさである。
まとめ
Zimbraのオープンソース版は、バックアップ機能がないことや故意にそうしているのか思えるほど商用版に比べてインストールが難しいことから、期待外れの感が否めない。また、このオープンソース版よりも格段にインストールが容易な商用版には、2通りのライセンスが用意されている点が怪しい。うがった見方をしているだけかもしれないが、オープンソースという看板を掲げようとする企業はオープンソース版をわざわざ不便なものにするのではなく、サービスとサポートの面で商用版との線引きをするべきではないかと私は思う。
商用版については、ネットワークスタンダード版のほうでもかなり使える。私としてはオープンソースのグループウェアクライアントとの連携使用に関するマニュアルの記述を改善してもらいたいが、大半の顧客はOutlookとの互換性のほうをもっと気にすることだろう。
商用版Zimbraの価格は、スタンダード版で1人あたり25ドル、Outlookとの接続機能を備えたプロフェッショナル版では1人あたり35ドルとなっており、商用ソフトウェアの利用を検討している人にとっては悪くない価格設定だ。また同社は60日間の試用版を提供しているので、Exchangeの置き換えを検討しているか、最終的にグループウェアソリューションの導入を予定しているなら、数少ない評価の対象にこのZimbraを加えることをお勧めしたい。