IBM、Cell搭載コンピュータ第1号を発売

 米IBMは、医療画像処理や油田探査など、膨大な演算処理を要する組織をターゲットに、高性能マルチコア・プロセッサ「Cell」を搭載した初のコンピュータの販売を開始した。

 CellはIBM、ソニー、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)、東芝の4社が共同開発したもの。当初の用途はSCEのビデオ・ゲーム機向けだった。

 IBMバージョンのCellチップ「Cell Broadband Engine」を搭載した新製品はブレード・サーバ「BladeCenter QS20」。高い演算処理性能と高速なグラフィックス処理を必要とする顧客向けに提供される。

 同製品のターゲットには、デジタル・アニメーション、航空宇宙、防衛、通信、ガスの業界の企業も含まれる。IBMの広報担当者によると、BladeCenter QS20ブレード単体の価格は1万8,900万ドルから。

 Cell Broadband Engineは、1個のチップに1基のIBM PowerPCプロセッサ・コアと8個の専用ベクトル演算プロセッサ・コアが搭載されている。IBMによると、Cellチップは「スーパーコンピュータに匹敵するパフォーマンス」を提供するが、同チップのアーキテクチャの特徴を最大限に生かすためには、ほとんどのアプリケーションは書き直さなければならないという。

1
「Cell Broadband Engine」を搭載したブレード・サーバ「BladeCenter QS20」

 同社は今年3月にドイツで開催された「CeBIT 2006」(3月8日〜15日)で、プロトタイプのCellベース・ブレード・サーバを組み込んだクラスタ・システムのデモを行った。アプリケーションの1つでは、拍動している心臓の3次元モデルが表示され、来場者はそれをマウスを使って回転させたり、任意の位置で輪切りにして断面を見たりできた。

 ドイツのフラウンホーファー研究所の研究者によると、このアプリケーションをCellコンピュータへ移植するのには、プログラムを多数の独立した並列タスクに分割しなければならず、数カ月の開発期間を要したという。

 BladeCenter QS20の基本構成には、2基の2.3GHz Cellプロセッサ、1GB(1プロセッサ当たり512MB)のメモリ、40GBのハードディスク・ドライブ、デュアルギガビットEthernetポート、1〜2基のInfiniBandアダプタ(PCI-Express接続)が含まれる。IBMでは、OSプラットフォームとしてRed HatのFedora 5 Linuxを推奨している。

 すでに、英国のマンチェスター大学を含むさまざまな組織で同ブレード・サーバのテスト版が利用されている。IBMによると、マンチェスター大学でCellシステムが選択された理由は、より高い処理性能をより小さなスペースと電力で実現できるためだという。

 BladeCenter QS20は、医療や航空・防衛などの分野でも力を発揮する。例えば、医師が3D医療画像を比較・マッピングする際の所要時間を数分間から数秒間に短縮したり、レーダーの精度を向上させたりできるとしている。

(ジェームズ・ニコライ/IDG News Service パリ支局)

提供:Computerworld.jp