GPLv3 Discussion Draft 1 Rationale 日本語訳

GPLv3 ディスカッション・ドラフト1に付随して発表された、趣旨説明書 (Rationale)の日本語全訳を公開する。この訳に関する意見や誤訳の指摘は、本記事へのコメントとして寄せて頂けるとありがたい。

GPLv3 ディスカッション・ドラフト1への解説

2006年1月16日
日本語訳、2006年8月25日

Copyright (C) 2006 Free Software Foundation, Inc.
51 Franklin Street, Fifth Floor, Boston, MA 02110-1301 USA
Everyone is permitted to copy and distribute verbatim copies of this document, but changing it is not allowed.

(訳: 本文書の内容を、逐語的に複写し頒布することは許可する。しかし変更は認めない。)

翻訳は八田真行 <mhatta@gnu.org>が行った。原文はhttp://gplv3.fsf.org/gpl-rationale-2006-01-16.htmlである。誤訳の指摘や訳の改善案を歓迎する。なお、日本語訳の利用条件は原文に準ずる。

日本語訳のバージョンは日付で管理している。冒頭を見よ。

1. はじめに

15年の長きに渡って利用されてきたGNU 一般公衆利用許諾書 (GNU General Public License)のバージョン2は、私たちが予想した以上の成功を収めました。GPLバージョン2は協力と信頼の精神を醸成し、世界に広がるユーザ/開発者のコミュニティが、驚くほどの範囲に渡るフリーソフトウェアをリリースすること を可能としたのです。ユーザが協力する権利を尊重するというGPLv2の根底にある原則は、ソフトウェアという分野を越えて広がり、その他の創造的で科学的な試みをも鼓舞しています。

GPLが成功した理由はその根本的な設計原則、ユーザが自分のしたいことをソフトウェアにさせるために、個々人で、あるいは共同して作業する自由を守るという点にあります。 私たちはGPLを未来へ導き、今日の技術的、法的状況がもたらす機会と脅威に対してもこの原則を維持できるよう、本許諾書を改造する 作業に着手しました。

GNU GPLの中核となる法的メカニズムは「コピーレフト」というものです。コピーレフトは、GPLが適用されたソフトウェアの改変されたバージョンも、それ自身にGPLが適用されることを要求します。コピーレフトは、フリーソフトウェアという共有地を囲い込みから守るため、(訳注: GPLv2が発表された)1991年にそうであったのと同じように今日においても不可欠なものです。しかし今日の状況は、当時よりもさらに複雑で多様なものになっています。そこで、コピーレフトが完全に効果的であるためには、従来以上の追加的な法的手段を必要とするのです。この点、すでに世界中の津々浦々でフリーソフトウェアの原則が受け入れられているという事実は私たちにとっては成功なのですが、一方でこれらの手段を考案する上では、考慮すべきことを増やしてしまいます。そこで私たちは、GPLバージョン3 への貢献者が世界中から, そしてあらゆる開発者や頒布者、顧客ユーザから現れることを望んでおり、またそうなることを期待しています。

1.1 邪魔をしない

私たちは今回のGNU GPLの改訂を数年に渡って準備してきましたが、その間常に念頭に置いていたのは、フリーソフトウェアのユーザが依存する、すでに確立された自由を保全するということでした。私たちは、改訂の意図せざる結果としてこういった自由を損なわないよう最善を尽くしました。私たちとしては、今回のドラフトがそのまま採用されたとしても、自由に害をなすような不測の結果は起こらないだろうという自信がありますが、それでも私たちは、この点に関して全く疑う余地がないというところまで持って行かなければなりません。これが、私たちがパブリック・コメント・プロセスを開催する主要な理由の一つです。

この原則が含意することを例証するため、ネットワークサーバでの公衆利用を念頭に設計されたソフトウェアの扱いを考えて見ましょう。様々な関係者が、全く異なりかつ強硬な態度を維持しているこの分野での必要性と懸念の種類を鑑み、私たちはGPLそのものには、改変されたバージョンの公衆利用に関する要件を追加しないことにしました。その代わり、両立性(compatibility)条項を増強することによって、指定される可能性があるさまざまなライセンス要件をGPLと矛盾しないようにし、これによって個々の開発者が彼らのコードの公衆利用に適用される要件をある範囲から選べるだけの余地を残すようにしておきました。私たちは、フリーソフトウェアのユーザとフリーソフトウェアの開発者を隔ててしまう恐れのあることは意図的に行わないようにしたのです。

1.2 技術的変化と自由への法的脅威

1991年以来コンピュータ技術は変化しましたが、こうした技術的変化が、私たちをGPLを改訂しようという気にさせた主要な理由ではありません。GPLの関心は、技術の詳細ではなく、ユーザの自由を維持するということです。確かに、過去15年間の技術的発展は新たな自由を可能とし、結果として自由への新たな脅威を生みました。そうは言っても、私たちの許諾書を抜本的に変えなければならないほどの本質的変化は、コンピュータ技術においては起こっていないのです。

フリーソフトウェアのコミュニティに、主要な問題を持ち込んでいるのは、コンピュータ技術ではなく法における変化です。そういった変化の中でも最も主要なのは、分別に欠け不適切な、特許法のソフトウェアへの適用です。ソフトウェア特許は、プロプライエタリ(proprietary)ソフトウェアや特注のソフトウェアを脅かしているのと全く同様に、すべてのフリーソフトウェアプロジェクトをも脅かしています。特許以外にプログラムとは何の関係もない誰かに帰属するソフトウェア特許のために、いかなるプログラムも破壊あるいは機能不全に陥る可能性があるのです。

私たちは、1991年にソフトウェア特許の問題が容易ならざるものであることを認識していたごく少数の人々に属します。しかし当時は、これはある一つの国、アメリカ合衆国に限られた問題のように思われていました。今日では、状況は全く異なっています。ほとんどの国々はアメリカ合衆国の方向性を追い、ソフトウェアが特許の対象となることを、少なくともある程度は認めてしまっています。特許法におけるこの世界的な転換は、計り知れない害と不正をもたらしました。1991年という時点で、その第7項においてソフトウェア特許の問題に対する防衛策を導入したGPLv2は比類のないものでした。それから10年を経て、そのGPLが、特許と戦う上であまりに何もしていないということで識者から批判を受けるに至ったという事実は、この問題の規模の広がりを暗に示していると言えるでしょう。

あるプログラムに適用されたライセンスだけでは、プログラムをソフトウェア特許の脅威から守ることはできません。ソフトウェア特許の問題を真に解決する唯一の方法は、ソフトウェア特許を廃止することです。しかし私たちは、あるプログラムの開発に参加する一部の人々が、他の参加者を攻撃するために特許を使うことを止めさせることはできます。GPLv3では、GPLv2が依拠していた暗黙的許諾ではなく、そのプログラムの開発者によって保持されているいかなる特許もカバーする、明示的なパテントライセンスを提供します。またGPLv3には、上記のような明確な形式を採った攻撃を企てた者に対する、限定的な特許報復(patent retaliation)の枠組を実装しています。

私たちが用意したGPLv3のドラフトでは、現在フリーソフトウェアのコミュニティにおいて私たち以外の人々が熱狂的に支持している、ライセンスに広汎な形態の特許報復を含むという手法に対して私たちが一線を画していることを明確にしています。私たちの考えでは、特許報復の理論家はフリーソフトウェアへのアクセスを拒否することによる抑止力の価値を過大に見積もり過ぎています。この分野において、私たちは広汎な特許報復の代わりに、自由を守るために明らかに必要とされる場合のみ自由を制限し、また許可を与えるに際しては、達成が予想できる許可以上のものは与えないというという私たちの一般的な指針に従いました。

著作権が主張される著作物においてユーザの伝統的な権利を制限する技術は、しばしばデジタル制限管理 (Digital Restrictions Management)、あるいはデジタル権利管理 (Digital Rights Management, DRM)として知られています。これは、フリーソフトウェアに対するもう一つの脅威です。ユーザの権利を制限するための運動であるDRMの採用は、フリーソフトウェア運動の精神とは根本的に相容れません。DRM技術を実装したフリーではないソフトウェアは、法がユーザに認めている権利を、ユーザが自分を自らその中に押し込めることで奪わせてしまいかねない事実上の牢獄です。私たちの目的は、社会的慣行としてのDRMの廃止であり、またそうでなければなりません。この点に関する完全な勝利なくしては、ソフトウェアの自由は致命的な危険に晒されたままとなるでしょう。

フリーソフトウェアは、ユーザにとって必要不可欠な自由を尊重するソフトウェアです。フリーソフトウェアが採用されるということ自体、自由が広がることを意味するという点で一歩前進と言えます。にも関わらず、DRMを課す企業は自由なユーザによるデジタル的に制限されたデータへのアクセスを禁止し、しばしばフリーソフトウェアをユーザを制限するツールへと一変させようと狙っています。私たちは、このようなユーザの自由への暴行に使われるソフトウェアが、私たち自身のものではなく単にある特定のバージョンに過ぎないとしても、このような暴行を容認するわけにはいきません。

いつの日か、個々のユーザの権利を尊重してきた著作権法の伝統が復活し、ユーザを不自由にするDRMがもはや許可されないという時が来ることを、私たちは望んでいます。その日が来るまでは、GPLv3がそのようなフリーソフトウェアの悪用を禁じるよう、私たちは設計しました。

フリーソフトウェアのコミュニティが直面しているもう一つの問題は、互いに矛盾するフリーソフトウェアライセンスの急増です。もちろん私たちは、そのようなすべてのライセンスとGPLを矛盾させないようにすることはできませんが、GPLv3には、非GPLの条項を含むコードをGPLが適用されたコードと結合するのを簡単にするような、ライセンスの矛盾を削減するよう設計された条項が含まれています。

私たちは、より多くのフリーソフトウェア開発者が、彼らのソフトウェアのライセンスとしてGPLを適用してくれるよう促進したいと考えています。また、より一般的には、さらに多くの開発者にコピーレフトの利点を確信してもらえるよう努力するつもりです。完全に制約を取り払ってしまった、コピーレフトを主張しないライセンスの支持者は、実質的には、短期的なソフトウェアの商業化を円滑にするためにユーザの自由の維持と拡大を犠牲にしようという主張をしているのです。私たちは常々、元々自由であるように作られたソフトウェアであっても、そのような甘いライセンスによる管理ではたやすく非フリーにされてしまうと主張してきました。1991年から現在までの長年に渡る事態の進展は、この見方を強めただけでした。

私たちが、ビジネス上の利害を主要で優先すべきものとみなしたことはありませんが、それでも私たちはこのテーマに関して一家言を持っています。私たちにとって、ユーザの自由を守ることとソフトウェアの商用利用を可能にすることの間には、何の矛盾も決して存在しませんでした。1991年の時点ではいかなる疑念があったにしろ、以来私たちは、ユーザの自由の持続的な保護を念頭に設計されたライセンスであるコピーレフトライセンスが、 コピーレフトを主張しない、他のいかなるフリーソフトウェアライセンスが今までに生み出したよりも多くの商業的に有用なソフトウェアが拠って立つ基盤を形成することができるということを示してきました。たとえビジネス上の利害は自由から見れば二次的なものに過ぎないとしても、GNU GPLが、自由を尊重しつつビジネスが成功することを可能にするということは重要であり、私たちは自由とビジネスの間の相乗効果に干渉するつもりはありません。

1.3 設計における目標

GPLは、著作権法自身が義務づける以上の許可を与えることによって機能します。コピーレフトライセンスの一つとして、GPLの主要な目標はすべてのソフトウェアユーザにとって中核となる一連の自由を防御することです。このためGPLはライセンシーにいくつかの要件を課しますが、それはあくまで一部のユーザが他者の自由を否定するのを妨ぐという目的に限定されます。懸念すべき事態が進行しているのに対応して、私たちは改訂されたライセンスのいくつかの部分に、DRMに関する条項のようなある種の新しい要件を追加しました。これらの要件は自由のメカニズムがそれ自身に刃を向けるような事態を避けるべく念入りに検討されたものです。

GPLv3に為された変更が、ライセンスの全体的な複雑さを増してしまったということは、私たちも認識しています。私たちとしても、より単純で短いGPLを希望していた方々の期待に応えたかったのですが、GPLv3がそれに要求される役割を果たすようにするということを優先せざるを得ませんでした。私たちは簡明なライセンスを高く評価しますが、簡明であるということがユーザの自由を保護するという目標を阻害してはなりません。より少ない言葉でも、全く同様にGPLが自由を保護できると信じる方には、ぜひとも私たちのコメントプロセスに参加して頂き、どうすればそれが達成できるのか教えて頂きたいと思います。

2. 変更点に関する節ごとの議論

対応する節の一覧

GPLv2 GPLv3
0 0, 2
1 4
2 5
3 1, 7
4 8
5 9
6 10
7 12
8 [13]
9 14
10 15
11 16
12 17

2.1 0. 定義

第0節には、新しく導入された2つの用語、「『保護された著作物』 (covered work)」と「伝播(propagate)」の定義が含まれています。「『保護された著作物』」という用語を使うことにより、改訂されたGPLの言い回しをいくぶん簡明で分かりやすいものにすることができるのです。

「伝播」という用語には、二つの目的があります。一つは、GPLが条件を課すような種類の著作物の利用と、GPLが(ほとんどの部分において)条件を課さない種類の利用を分別するための簡単で便利な手段を提供するということです。

第二に、「伝播」という用語を使うことによって、本許諾書をその言い回しや効力において可能な限りグローバルなものとするという私たちの目標に一歩近付くことができます。ある著作物がGPLの下で許諾されていた場合、いくつかの特定の国々の著作権法が本許諾書の下で浮上するある種の法的問題を司ることになります。「頒布 (distribute)」、あるいは英語以外の言語においてそれと同等の意味を持つ語はいくつかの国の著作権法規中で使われており、著作権という文脈における「頒布」の範囲は国によって異なることがあります。GPLにおいて、アメリカ合衆国の著作権法やその他の国々の著作権法で言うところの「頒布」の特定の含意を強制するのは、私たちが希望することではありません。

そこで私たちは、「伝播」という用語を「適用可能な著作権法 (applicable copyright law)」の下で許可を必要とする諸活動、という形で定義します。実行や私的な改変は、定義から除外されます。私たちの定義では「伝播」の範囲内に含まれうる活動の例をいくつか挙げてはいますが、特定の国では、「伝播」に他の活動も含まれうることもまた明確にします。

第0項では、著作物の改変に、(たとえば著作物へのテキストの追加による)著作物の拡張が含まれるということも明確にしています。これは、GPLv2では暗黙のうちに仮定されていました。

2.2 1. ソースコード

第1項ではGPLv2における「ソースコード (source code)」の定義を踏襲していますが、「オブジェクトコード (object code)」も「ソースではないバージョンの著作物すべて (any non-source version of a work)」として明示的に定義しています。ここで言うオブジェクトコードは狭い技術的な意味に限定されず、 著作物に改変を加える上で好ましいとされる以外のいかなる著作物の形式をも幅広く含むと解されるべきです。そこでオブジェクトコードには、バイトコードのようなソースコードを各種変換したバージョンも含まれます。また、このオブジェクトコードの定義では、ライセンシーがソースを隠蔽したり、あえて不明瞭にプログラミングするという手段に出ることによってGPLの下での義務から免れることがないよう保証しています。

第1項の第2段落にある「『完全に対応するソースコード』 (Complete Corresponding Source Code)」の定義は、GPLの下でのユーザの権利行使を保護するのに必要なだけの広汎さを持つものになっています。私たちの定義は具体的な例で補強され、どのようなものが『完全に対応するソースコード』としてみなされるのかについて何の疑いも残さないようにしてあります。私たちは、ライセンシーがアドオン・コンポーネントをプログラムのオリジナル・バージョンに動的にリンクしても、GPLの要件に従うことは回避できないということを完全に明白にしておきたいと思います。

第1項の第2段落における『完全に対応するソースコード』の定義は幅広いものですが、ユーザの自由を多くの状況下で保護するには十分ではありません。例えば、GPLが適用されたプログラムや、そのようなプログラムの改変されたバージョンには、それを 特定のマシンで実行し適切に機能させるためには、あるキー で署名したり、あるコードで認証したりする必要があるかもしれません。似た場合として、プログラムがデジタル的に制限されたファイルを作成し、その出力結果を読むためには復号化コードを必要とする、ということもあり得ます。

第1項の第3段落では、『完全に対応するソースコード』にはそのような暗号、認証、復号コードのすべてが含まれるということを明確にすることによって、上記の問題を解決しています。GPLが『完全に対応するソースコード』の頒布を必要とする際には、常にこの種の情報を含むことを義務づけることによって、私たちはGPLの目標を妨害しようとする試みを妨げ、ユーザが彼ら自身のマシンを完全にコントロールし続けられることを保証するのです。私たちは、プログラムの利用がユーザが通常すでにそのようなコードを持っていることを暗に示しているような場合には、例外を認めることにしました。例えばセキュアなシステムにおいて、プログラムの頒布者は持っていないかもしれないが、コンピュータの所有者はプログラムを実行するのに必要なキーをすべて持っている、というような場合です。

第1項の最終段落では、私たちがしばしば「システムライブラリの例外」と呼んできた、GPLv2におけるソースコードの頒布要件に対する例外を改訂しています。この例外は、私たちも正当であるとみなし、別に妨げようとは思っていなかったある種の頒布における取り合わせ、例えばgccを、より大規模な非フリーなシステムの一部として含まれる、非フリーなCライブラリとリンクして頒布するというような行為まで禁止するかのように解釈されてしまっていました。と言っても、そのような非フリーのライブラリが正当だと言っているわけではありません。どちらかと言えば、フリーソフトウェアをこれらのライブラリとリンクするのを禁じたばかりに、プロプライエタリなソフトウェアに損害を与えるよりも大きな損失をフリーソフトウェアにもたらすことを防ごうということなのです。

改訂の結果、この例外は二つの部分を持つようになりました。(a)の部分では、GPLv2にあった例外を言い換えて明確にするだけではなく、「そのコンポーネントが実行形式に添付されない限り (unless that component itself accompanies the executable)」という言い回しを削除しました。(a)それ自身だけでは制約が甘すぎ、頒布者がGPLの下での彼らの義務を避けることを可能にしてしまいますので、私たちは(b)の部分を追加し、主要で必須のオペレーティングシステムコンポーネント、コンパイラ、あるいはインタプリタへの付属品であるシステムライブラリであれば、どのような場合にはソースコードを頒布するための要件を発動しないかを指定しました。ライブラリによって提供される機能が低レベルであればあるほど、それがこの例外の基準を満たす可能性も上がります。

2.3 2. 基本的な許可

第2項の最初のセンテンスは、GPLを更に国際化するために含まれたものです。いくつかの国々の著作権法において、著作権許諾は、与えられる権利の存続期間について明示的に述べた条項を含まなければならないことがあります。アメリカ合衆国を含むその他の国々では、そのような条項は必要ではありませんが、別にあっても差し支えありません。

また第2項の最初の段落では、GPLの下でのライセンシーは著作権フェアユースの権利か、適用可能な法の下における同等の権利を享受することを承認しています。これらの権利はGPLが保護しようとしている自由と矛盾するものではなく、もちろん対立するものでもないので、GPLはそれらを制限することはできませんし、またそうすべきでもありません。

第2項では、ライセンシーに対して無制限に許可されている活動と、追加的な要件を発動する活動とを区別しています。第2項の第2段落は、私的にプログラムを改変したり実行したりする基本的自由を保障します。しかし、もしライセンシーが、そのプログラムを基にした著作物に関連した活動を訴因として誰かに対して特許侵害訴訟を提起した場合、ライセンシーの私的にプログラムを改変あるいは実行する権利は終了させられます。

この標的を狭く絞った特許報復条項は、GPLv3がそれ自身の力で課す特許報復の唯一の形式です。私たちは、ユーザがプログラムを実行、改変する自由を保全することと、他のユーザが特許権者による脅威に晒されることなくコードを実行、改変、複製、頒布する権利を保護することの間で適切なバランスをとっていると確信しています。特にこの条項では、GPLのライセンシーが、GPLが適用されたコードに対する未公開の改変部分に対して特許を確保しておき、オリジナルの開発者や他の人々が自分自身で同等の改変を行った際に訴えるのを思いとどまらせることを目的としています。

いくつかの他のフリーソフトウェアライセンスは、かなり幅広い特許報復条項を含んでいます。私たちが思うに、特許報復のこれらの形式がもたらす結果についてはほとんど何も知られていません。以下で説明するように、第7項ではGPLに含まれるもの以外の条項で保護された追加の部分を含む、GPLが適用された著作物の頒布を許可しています。そのような条項は、第2項にあるそれよりも広汎なある種の特許報復条項を含んでいても構いません。

第2項の第3段落では、各国著作権法のばらつきを埋め合わせるためにさらなる努力を払っています。私たちは、ライセンシー以外の当事者がコピーを作成あるいは受領することを可能とする伝播と、その他の形式の伝播を区別します。上記の通り、著作権法における「頒布」の意味は国によって異なり、そういった違いの中には、他の当事者(例えば関連した公衆や企業体)に利用可能なコピーを作成することが「頒布」と見なされるかどうかに関するものまで含まれますが、「伝播」は、いかなる法令言語とも結びつけられていない用語です。私的なコピーを作成したり、私的にプログラムを見るなど、他の当事者がコピーを作成したり受領したりすることを可能にしない伝播は無条件に許可されています。他の当事者がコピーを作成したり受領したりすることを可能にする伝播は、第4項から第6項で述べられた条件の対象となる「頒布」として許可されます。

2.4 3. デジタル制限管理 (Digital Restriction Management)

DRMは、その保護のためにGPLが設計されたユーザの自由とは本質的に対立するものですが、フリーソフトウェアライセンスという手段で私たちがDRMに反対する能力は限られています。第3項において、私たちは開発者に対し、彼らがDRMに対抗して使うことができるある形態の影響力を提供します。第1段落の本質は 裁判所に対して、DRMやその他のユーザの自由に対する技術的制限、ユーザのプライバシーに対する違法な侵害を思いとどまらせ妨げるというポリシーを踏まえてGPLは解釈せよと指示することにあります。これは、著作権者やその他のGPLライセンサーが、もし政府が行動できないならば、ユーザの自由に逆行する活動に反対する行動を起こす手段を提供します。

第3項の第2段落では、GPLが適用されたプログラムは、そのプログラムが何をするかを関わらず、効果的な技術的保護手段の一部分となることは絶対にないということを宣言しています。アメリカ合衆国やその他の国々における軽率な立法は、そのような技術的手段を回避することを禁止してしまっています。保護された著作物が、あるデータを生成したりそれにアクセスしたりするためのシステムの一部として頒布される場合、この段落は、誰かが、同じデータにアクセスする何か他のGPLが適用されたプログラムが違法な回避だと主張することを防ぐと言う影響があります。

2.5 4. 逐語的な複製

第4項は、GPLv2の対応する項から、新設されたライセンス両立性に関する第7項を踏まえて改訂されています。プログラムのソースコードの逐語的なコピーの頒布者は、プログラムのそれぞれの部分に適用される既存の追加的条項すべてに従わなければなりません。加えて頒布者は、すべてのライセンス告示を、そのような追加的条項の告示も含めて、そのままに保つことが義務づけられます。

2.6 5. 改変されたバージョンのソースの頒布

第5項には、GPLv2の対応する項と比べいくつもの変更が加えられています。小項5aでは、プログラムに変更したという告示に関して要件を若干緩和しています。特に、改変されたファイル自身に記録を付ける必要はもはや無くなりました。これにより、GPLが適用されたソフトウェアの改変されたバージョンの開発者にとっては管理上の重荷が減ることになります。

小項5aの下では、GPLv2の対応する条項と同様、告示においては「いかなる変更が加えられた日付 (the date of any change)」をも述べなければなりません。私たちとしては、この小項はライセンシーによる変更のうち一つあるいは複数が行われた日付を意味すると解しています。最も良いのは、最新の変更の日付を含めることでしょう。しかし、「GPLバージョン2かそれ以降」の下で頒布されているプログラムの改訂が必要となってしまうことを避けるために、私たちは既存の言い回しをそのまま残すことにしました。

小項5bは本許諾書の中心的なコピーレフト条項です。今回この条項は、GPLは著作物全体に適用されると述べています。本許諾書は、GPLが適用されたコードを他のある種のフリーソフトウェア許諾条項によって保護されている部分と結合することを認める第7項で許可されているものを除き、改変されてはなりません。小項5bにおける最終センテンスでは、分離的なデュアルライセンシングの有効性を明示的に承認しています。

小項5cは、GPLv2の小項2cにおける要件を一般化し、各種の対話的なユーザインターフェースに適用されるようにしたものです。新しい文面では、メニューのようなユーザコマンドないしオプションの一覧を表示するインターフェースと、そうでないものを区別しています。最初の部類のインターフェースに関しては、そうしたリストは著作権告示と、小項5cの最初のセンテンスで義務づけられた他の情報を表示する機能を含んでいなければなりません。コマンドラインインターフェースや音声によって起動されるインターフェースなどが含まれる第二の部類のインターフェースに関しては、条件はGPLv2と本質的に同じです。すなわち、改変されたプログラムは、その改変が元々そのような情報を起動時に表示しない対話的なプログラムに対してのものでない限り、必要とされる情報を起動時に表示しなければなりません。表示される情報には、第7項で必要とされる、追加の部分に適用可能な非GPLの条件をまとめた中央リスト (central list)を含まなければなりません。

小項5cに続く段落は、明確化のために改訂されましたが、根本的な意味は変わっていません。独立した、派生物ではない一部分が、GPLで保護された著作物と結合して利用されるために頒布される場合、そのような結合がどのような形式で起ころうとも、全体としての結合物はGPLの下で許諾されなければなりません。 そうした形式には、ダイナミックリンクによる結合も含まれます。また、この段落の最終センテンスによって、この要件は第7項で新しく用意された両立性条項に適合しています。

第5項の最終段落は、GPLv2における「単なる集積」の例外を改訂するものです。私たちは、改訂された言い回しがこの条項の意味に関するいかなる不確実さをも除去するだろうと期待しています。特にこの条項では、編集著作権の利用におけるある種の悪用が認められないことを明確にしています。

2.7 6. ソース以外の頒布

GPLv3の第6項は、GPLv2の第3項を明確化し改訂するものですが、GPLが適用されたオブジェクトコードの頒布者に対し、対応するソースコードへのアクセスを、指定された4つの方法のうち一つで提供することを義務づけます。上記の通り、GPLv3における「オブジェクトコード」は著作物のソースではないバージョンすべてを広汎に意味すると定義されています。

小項6aおよび6bは今回、特に物理的製品 (physical product)におけるオブジェクトコードの頒布に対して適用されることになりました。物理的製品には、CDのような物理的なソフトウェア頒布媒体に加え、組み込みシステムも含まれます。GPLv2と同様、オブジェクトコードの頒布は機械読み取り可能なソースコー ドか、いかなる第三者に対しても機械読み取り可能なソースコードを提供するという書面による申し出を添付した形で行われることになるでしょう。GPLv3では、機械読み取り可能なソースコードの提供で用いられるソフトウェア交換用媒体は、耐久性のある物理的媒体でなければならないと明確化しています。小項6bでは、物理的媒体によってソースコードを入手するという選択肢がある限り、頒布者がネットワークを介した伝送のようなその他の手段による第三者へのソースコードの提供を申し出ることは妨げません。

小項6bは、ソースコードを提供するという書面による申し出の要件を改訂しています。以前と同様、この申し出は最低3年は有効なものでなければなりません。加えて、もし3年が経過したとしても、GPLが適用されたオブジェクトコードを含む製品の頒布者は、頒布者がその製品モデルに補修用部品やカスタマーサポー トを提供し続ける限り、ソースコードを提供するという申し出をしなければなりません。私たちは、これが合理的で適切な要件だと確信しています。というのも、頒布者は、彼あるいは彼女が物理的製品の他の側面に関してサポートを提供するよう準備している以上、ソースコードを提供する準備も整っているはずだからです。

また、小項6bでは、ソースコードのコピー一部を提供する上で認められる価格の上限を増加させています。GPLv2では、この価格はソースの頒布を物理的に行う上でかかる費用以上であってはならないと述べていました。GPLv3では、この価格を頒布者の費用の10倍まで認めるとしています。いくつかの組織が、そのよう なコピーを費用をかけてまで提供すると期待するのは実際的ではありません。加えて、そのような組織が費用の10倍を課金することを認めるのは、取り立てて有害というわけでもありません。というのは、コードの受領者の何人かが、コードを公衆ネットワークサーバ上で自由に利用可能にすることが予想しうるからです。私たちはまた、コピーの価格が事実上入手が不可能になるくらいの不合理に高いものにされていなければ、ソースコードのコピーを提供することから利益を得ることには何の問題もないということを認めます。

小項6cは、GPLv2の対応する小項よりも狭い許可しか与えません。小項6bに従って受領した申し出のコピーを含めるという選択肢は、オブジェクトコードの私的な頒布でのみ利用可能です。加えて、そのような私的な頒布は「特別な場合の非商業的な頒布 (occasional non-commercial distribution)」に限定されています。この小項では、単にオブジェクトコードを公衆がアクセス可能なネットワークサーバ上で利用可能にしておき、上流の頒布者から受け取った、ソースコードを提供するという書面による申し出のコピーをいっしょに置いておくというだけでは頒布者はGPLに準拠したことにはならないということを明確にしています。

新設の小項6dは、GPLv2の第3項の最終段落を改訂したものです。あるネットワークサーバへ電子的にアクセスできるようにすることによるものなど、指定の場所からコードを複製するためのアクセスを提供することによるオブジェクトコードの頒布を扱っています。小項6dでは、頒布者はソースコードを「同じ場所を通じて同じ方法で (in the same way through the same place)」複製するのに必要な同等のアクセスを提供しなければならないとしています。この言い回しは、頒布者が第三者に対して、単一のネットワークポータルあるいはウェブページからオブジェクトコードとソースコードの両方へのアクセスを提供することを許可します。この場合、アクセス手段として異なる物理的サーバへのリンクが含まれても構いません。例えば、下流の頒布者は、自分がオブジェクトコードをアクセス可能にしておく限り、複製用のソースコードを利用可能にしておくと相手のサーバの運営者と取り決めておけば、上流の頒布者のサーバへのリンクを提供して構いません。これは、私たちのGPLv2の解釈であったものを明文化したものです。

小項6dに続く段落では、オブジェクトコードの頒布者が、ソースコードを何か私的で、ロックまたはデジタル的に制限された、あるいはその他の非フリーな形式で提供することにより、彼あるいは彼女はGPLの下での義務を満たしていると主張するのを明示的に防いでいます。

第6項の最終段落では、『完全に対応するソースコード』には、第7項で許可されている通り、非GPLの条項を有する追加の部分が含まれるかもしれないという事実を考慮に入れています。

2.8 7. ライセンスの両立性 (License Compatibility)

GPLv3において私たちは、GPLが適用されたコードを他のフリーソフトウェアライセンスの条件の下で管理されたコードと結合する問題に対して、新たなアプローチを採っています。GPLv2それ自身にははっきりとは述べられていませんでしたが、私たちの考えでは、GPLv2は、非GPLな許諾条項がGPLの下での頒布を許 可しており、かつそのコードにGPLによっては課せられていない制限を課さない時のみ、そのような結合を許可することになっていました。実際上は、私たちはある種の結合に対しては、このポリシーを例外というしくみによって補足していました。

GPLv3の第7項は、ライセンスの両立性に関してより明示的なポリシーを実装し、ライセンシーが非GPLな条項を有する追加の部分を含む保護された著作物を公開してよいのはどういった状況かを、正式に述べています。私たちは、コードにGPLを適用することによって確立される許可と要件との比較において、コードに 追加的な許可を提供する条項と、追加的な要件を置く条項とを区別します。

第7項では、追加的な許可をもたらす条項によって保護された追加の部分を、GPLが適用されたコードと結合するのを明示的に許可しています。これは、GPLと矛盾しないような許諾条項に関する私たちの既存の慣行を明文化したものです。GPLが適用された結合著作物の下流のユーザがそのような追加の部分を改変した場合、より広汎な許可がもはや改変されたバージョンに適用されないときには、そのユーザは追加的許可を削除して、GPLの条項のみが適用されることにしても構いません。

追加的な要件を課す条項の扱いに関して、第7項は、GPLが矛盾しないとする許諾条項の幅を拡大しました。追加的な要件を持つ追加の部分であっても、GPLが適用されたコードと結合することができますが、そのような要件は第7項で列挙された限定された集合に属していなければなりません。もちろん私たちは、私たちが受け入れる追加的要件の種類についてある限界を設け、ライセンスの両立性の向上がGPLによって高められる広汎な自由を損なわないよう保証しなければなりません。追加的許可を与える条項と異なり、追加的要件を課す条項はGPLが適用された結合著作物の下流のユーザによっては削除することはできません。なぜなら、そのようなユーザには削除する権利がないからです。

小項7aおよび7bでは、著作権告示、コードの起源やコードの改造に関する情報、そしてGPLとは異なった種類の保証免責の保全を要件に含んでも良いとしています。小項7cでは、貢献者の名前や商標の広告目的での利用への制限を要件に含んでも良いとしています。一般的に言って、私たちは追加的条項に含まれるこ れらの要件を認めます。なぜならば、多くのフリーソフトウェアライセンスがこれらを含んでおり、私たちとしても異議はないからです。私たちは商標のフェアユースを支持していますので、商標利用に関する制限は、それが商標法において義務づけられている場合ならば実施を追求してもよいですが、フェアユースを構成するような利用を禁止してはなりません。

小項7dの下では、追加の部分がプログラムに対し、ユーザがプログラムの『完全に対応するソースコード』のコピーを入手することを可能にする機能設備を含むことを義務づけても良いとしています。これは、例えばユーザとネットワークを介してやりとりをするプログラムの改変されたバージョンにおいても、ユーザがソースコードのネットワーク伝送を要求する機会を保全することを義務づけるような許諾条項ともGPLが矛盾しないようにする、というのが目的です。

小項7eは、GPLv3の第2項にある限定的な特許報復条項よりも広汎なソフトウェア特許報復条項を追加的要件として含むことを認めています。しかし、その報復は以下に示す二種類のソフトウェア特許侵害訴訟のどちらかに対する報復に、明確に限定されています。その二種類とは、(1)ソフトウェア特許による攻撃に対する報復として申し立てられたものではない特許攻撃によって構成された訴訟、そして(2)GPLが適用されたコードかその追加の部分を標的にした訴訟、の二つです。

受け入れられる特許報復条項に私たちがこうした限界を設けたのには、いくつもの理由があります。私たちは、プログラムの作者に過度の利点をあたえるような広汎すぎる特許報復条項は排除します。私たちはまた、ユーザに対して面倒な特許の探索を要件として課すような過度の特許報復条項も支持しません。さらに、特許報復条項は特許を使った攻撃行為に対する防御としqて特許侵害クレームを申し立てた人まで罰するべきではありません。

第7項では、GPLは追加的要件を課す条項の強制は提供しないと述べています。というより、第7項は、単にそのような条項によって保護されたコードとGPLが適用されたコードとの結合は、GPLに違反しないと述べているだけです。そのような条項の強制を私たちが追求しない理由の一つは、それが私たちによって書 かれたものではないからです。加えて、私たちは異なる許諾条項をいろいろ試してみることを推奨したいと思っていますので、第7項の下で私たちが許可した追加的要件の特定の形式のどれかにコミットしたくはないのです。

第7項では、保護された著作物の下流ユーザは、そのユーザのバージョンに非GPLな条項で保護された追加の部分が相当量存在している限り、GPLを保全しなければならないのと同様にそうした条項も保全しなければならないと義務づけています。

異なる許諾条項によって保護されたコードとの結合を許可する一方、私たちは、開発者にとって、コードの特定の部分にどの条項が適用されるのかを判定するのが面倒な仕事にならないよう保証したいとも思います。それゆえ第7項では、GPLが適用された結合著作物に含まれるすべての非GPLな条項は、すべて著作物中の中心的な場所においてリストされなければならないと義務づけています。

しかしながら、特別な例外として、このリストはGPLv3に加えて以前のバージョンのGPLの下でも許諾されている著作物に関しては必要とされません。私たちはこの例外を設けることにより、GPLv2「かそれ以降のいかなるバージョン」の下で許諾され、非GPLの許諾条項を有するコードを含んでいる著作物の頒布者が、 単にリストを提供していないというだけでGPLv3の違反になってしまわないよう配慮しました。

2.9 8. 終了

GPLv2では、本許諾書に違反して著作物を複製、改変、再許諾、頒布した者の権利は自動的に終了します。不注意で違反を犯してしまった人、特に大量の著作権者がいるソフトウェアの大規模なコレクションの頒布に関わる場合においては、この自動的終了は厳しすぎるかもしれません。違反者がGPLv2へのコンプライアンス(準拠)を再開するためにはすべての著作権者から容赦を得る必要がありますが、彼ら全員に連絡することさえ不可能な場合があります。

GPLv3の第8項では、自動的な終了を非自動的な終了プロセスに置き換えました。許諾された著作物の著作権者は誰でも、本許諾書の違反者の権利の終了を選ぶことができます。ただしその場合、著作権者はまず最初に、違反が最も最近に発生してから60日以内に通知しておかなければなりません。通知された違反者は、コンプライアンスを満たすべく努力するか、著作権者が終了の権利を行使しないよう同意することを要請することができます。この場合、著作権者はこの要請を認めても拒否しても構いません。

GPLv3に違反したライセンシーが違反を改めるよう行動してコンプライアンスを満たし、ライセンシーが過去の違反について60日以内に通知を受け取らなければ、後はライセンシーが本許諾書の下での権利の終了について心配する必要はありません。

2. 10 9. これは契約ではない

第9項は、GPLv2で本項に対応する項をいくつかの方法で改訂し、条項を明確化しています。

2. 11 10. 下流ユーザの自動的許諾

第10項では、新規に設けられた第7項に矛盾しないよう行われた改変が含まれています。

2. 12 11. 特許の許諾

GPLv3では、特許の許諾に関して新たな項が設けられています。GPLv2では、暗黙のパテントライセンス (implied patent license)に依拠していました。暗黙的許諾(implied license)という学説は合衆国の特許法の下では承認されているものですが、他の司法権の下では承認されていないかもしれません。そこで私 たちは、GPLv3ではパテントライセンスを明示的に与えることにしました。第11項の下では、GPLが適用された著作物の再頒布者は、著作物や合理的に予想される著作物の利用によってそうしたクレームが侵害された場合には、自動的に非排除的かつロイヤルティフリーで世界的に有効なライセンスを、再頒布者が持ついかなるパテントクレームに対しても与えるということになります。

パテントライセンスは、再頒布された著作物の受領者と、著作物のいずれかのバージョンを受領したその他のユーザ全員の両方に対して与えられます。よって第11項は、GPLが適用されたコードやそうしたコードから派生した著作物の下流ユーザが、いかなる国の法がGPLが適用されたコードの頒布や許諾のいかなる特定の局面において適用されようとも、上流の頒布者による特許侵害の申し立ての脅威から保護されることを保証します。

GPLが適用されたコードのある特定の再頒布者だけ、第三者からパテントライセンスを与えられて便宜を得るということがあるかもしれません。他の再頒布者に対しては、その第三者がそのコードの頒布や他の利用を根拠に特許侵害訴訟を提起しかねないのです。このようなケースにおいては、再頒布されるコードの下流ユーザは、概して第三者による適用可能なパテントクレームに対して脆弱なままですが、これはGPLの目的を挫折させかねない脅威と言えます。というのも、第三者はいかなる下流ユーザに対しても、本許諾書が保証しようと腐心する自由の行使を妨害することができるからです。

第11項の第2段落では、再頒布者が、下流ユーザをこうしたパテントクレームから守るよう振る舞うことを義務づけることでこの問題を解決します。この要件は、ある特定のパテントライセンスに依存していることを承知の上で故意に頒布する頒布者にのみ適用されます。多くの企業が包括的な特許のクロスライセンシング協定に加入していますが、そのようないくつかの協定に関して、協定によってカバーされているが、特に協定中では言及されていないある特定のパテントライセンスが、ある企業によるGPLが適用されたコードの頒布を防いでしまうのを、その企業が知っていることを期待するのは合理的とは言えないでしょう。

2. 13 12. 『プログラム』の自由、あるいは死

第12項の最初のセンテンスにおける言い回しは、若干改訂されています。これは、訴訟における和解合意やパテントライセンス協定のような何らかの合意は、GPLのライセンシーにGPLの条件と矛盾するような条件が「課せられる」可能性の一つであるが、それはライセンシーがGPLの条件に従わなくてもよいというこ とにはならないということを明確しています。この変更は、私たち従来行ってきたGPLv2の解釈を明文化したものです。

私たちは、GPLv2の第7項にあった限定的切断条項 (limited severability clause)を削除しました。削除するのが、GPLのすべての条項が法廷において支持されることを保証するために最良の方法だと思われるからで、これは戦術的な判断の問題です。また、私たちはGPLv2の第7項の最終センテンスを削除しました。必要ではないと考えられるからです。

2. 14 [13. 地理的な制限]

私たちが知る限り、この条項を発動して明示的な地理的頒布制限を加えたという例は、1991年にGPLv2がリリースされて以来存在しません。そこで私たちは、この条項は必要ではなく、将来においても必要でないと予想し、削除すべきであると結論づけました。しかし私たちは、この条項が残されるべきだと信じるコミュニティのメンバがおられれば、ぜひ彼らの意見を寄せて頂きたいと考えています。

2. 15 14. 本許諾書の改訂されたバージョン

第14項には実質的な変更は行われていませんが、より明確にするため、言い回しは若干改訂されています。

2. 16 15. 例外の要請

第15項には 何の変更も加えられていません。

2. 17 16-17. 無保証

第16項および第17項に関しては、変更は実質的に行われていません。

2. 18 18. 安全性が重視されるシステム

安全性が重視される環境においては、正しく動作しないソフトウェアは、開発者を潜在的に高い損害責任に晒しかねません。いくつかの非フリーなライセンスはこの問題を、安全性が重視される用途でソフトウェアを利用することを禁止するという形で解決しています。しかし、この解決法はフリーソフトウェアのライセンスにおいては適切なものではありません。新設された第18項ではその代わりに、GPLが適用されたソフトウェアは、デフォルトで安全性が重視されるシステムでの利用はテストされていないということを明確にすることによって開発者を責任から守ります。これならば、ユーザは依然としてソフトウェアをいかなる目的にでも自由に実行、改変することができます。

3. むすび

私たちがGPLv3 パブリック・ディスカッション・プロセスで目標にしているのは、それをできる限り透明でアクセスしやすいものにするということです。私たちは、フリーソフトウェア・コミュニティに関連したあらゆる立場、さまざまな観点から、GPLv3のドラフトに多くの情報や有用なコメントに寄せて頂きたいと願っています。予想されるコメントの量に留意して、私たちはコメントを入力するためのウェブベースのインターフェースを構築しました。このシステムは、提出されたそれぞれのコメントを緊密にディスカッション・ドラフトと結びつけるよう設計されています。コメントしてくださる方には、 今回私たちが従事しているのはある一つのライセンスを起草するという専門的な作業であって、思想や目的についてより一般的な理解を深めるというものではないことを念頭に置いてコメントして頂くようお願いします。

「GPL3 プロセスの定義 (GPL3 Process Definition)」という文書(http://gplv3.fsf.org/process-definitionで入手可能)で説明している通り、私たちは複数のディスカッション・コミッティーを組織しています。これらのコミッティーの任務は、私たちが受け取ったパブリック・コメントを基に問題点を確認することです。フリーソフトウェア財団はすべての問題について結論に至るまでの理由を示し、その上で最終的な判断を下すことになるでしょう。

我々自身のソフトウェアに適用するため、そして他の開発者も彼らが書いたソフトウェアに適用したいと思ってくれることを願い、私たちは1991年、GPLv2をリリースしました。今日、私たちは我々のソフトウェアが世界中の極めて多くの人々によって利用されていることをうれしく思いますが、極めて多くの開発者がGPLを彼ら自身のプログラムに適用するのを見ても同じくらいうれしく思っています。GPLを改訂するプロセスは、GPLを利用している、あるいは利用したいと思っている人すべてに、私たちがGPLをより良いものとする助けとなる機会を与えます。私たちは、コミュニティのすべてのメンバが、この作業に加わってくださるようお願いいたします。