ISS設立者が明かす今後の展望──「IBM傘下になっても企業のセキュリティ保護に貢献していく」

 米インターネット・セキュリティ・システムズ(ISS)は先々週、IBMに13億ドルで身売りすることに合意した。この買収手続きは年末までに完了する見通しだ。本稿では、ISSの設立者で最高セキュリティ・アドバイザーを務めるクリス・クラウス氏に、ISSの今後の展開などについて話を聞いた。

──ISSの設立の経緯をあらためて聞かせてほしい。

 ISSは、世界初のインターネット用パブリック・セキュリティ・スキャナの開発に向けた個人的なセキュリティ研究プロジェクトとしてスタートした。私が目指したのは、ネットワークを分析して脆弱性を特定し、何を修正すべきかをリポートできるセキュリティ・スキャナを開発することだった。そのアイデアのヒントとなったのは、ウィリアム・ギブソンの『ニューロマンサー』という小説だ。「サイバースペース」という言葉はこの小説で初めて登場した。サイバースペースの鮮やかな描写に触発されて、私はこの小説のコンセプトの一部をインターネットに応用してみようと考えた。

 ジョージア工科大学に在籍していた1993年に、私はこのプロジェクトの成果である「Internet Security Scanner 1.0」をソースコードとともにUsenetに無料で公開した。非常に良い反響があり、新機能への要望が寄せられたため、私はその商用版を作る計画を発表した。私は大学を休み、セキュリティ会社の立ち上げという夢に突き進んだ。そうして1994年4月にISSが設立された。

──ISSがIBMの傘下に入ることについてどう思うか。

 ISSはエンタープライズ・セキュリティ・ソリューションにフォーカスし、最先端の保護技術とMSS(Managed Security Services)というオンデマンド保護サービスを開発、提供してきた。このたび長年のパートナーであるIBMから買収の提案があった際、われわれのソリューションがIBMのエンタープライズ・フレームワークの中で発展し、これまでよりもはるかに多くの顧客を支援するようになるというビジョンの説明を受け、この機会を利用するのが得策だと考えた。

 ISSのソリューションは今後、IBMの膨大なリソースの恩恵を受けることになる。ISSのセキュリティ・ソリューションが大きなITフレームワークの一部として、多くの顧客のセキュリティ保護に役立つのは間違いない。

 また、われわれの大手顧客の多くからは、セキュリティは重要性を増しているため、単独の要素ではなく、ネットワーク管理やIT管理の不可分の要素になるべきだという声を聞いていた。セキュリティがITインフラに初めから組み込まれるようになりつつあるなか、ISSのセキュリティ・プラットフォームをIBMのプラットフォームに統合すれば、われわれは進むべき方向に進み、顧客の意向に沿うことができるだろう。

 私はISSのチームが達成してきたことを誇りに思っている。われわれのミッションと相通じる姿勢を持つ大企業の一員になることは、われわれが世界の企業のセキュリティ保護にさらに大きな貢献を果たしていくうえで一助となるはずだ。

──あなたは今後IBMで働いていくのか、それとも新たな事業を開始するのか。

 IBMには協力していく所存だが、現在は、2度目の創業となるカネバという会社の仕事に力を注いでいる。カネバはラテン語でキャンバスという意味。カネバでは“キャンパス”の役割を果たすソーシャル・ネットワーキング・サイト(SNS)上で、ユーザー同士が、ビデオ、写真、音楽、ゲームなど、あらゆるデジタル・メディアを使って交流できるようにすることを目指している。

 この“キャンパス”に人々が集まるようになれば、同サイトは、コミュニティに参加したり、人と会ったり、経験を共有したりするための“ソーシャル・エンターテインメント・プラットフォーム”となるだろう。現在はベータ段階にあり、多人数同時参加型オンライン・ゲーム(MMOG:Massively Multiplayer Online Game)の提供を展開している。エンタープライズ・セキュリティの技術とはまったく異なるこの仮想世界の技術は、やはりニューロマンサーや、ニール・スティーヴンスンの『スノークラッシュ』からヒントを得たものだ。両方ともお勧めの小説だ。

(エレン・メスマー/Network World オンライン米国版)

提供:Computerworld.jp