RIAAは「恐怖支配」を行っている ─ 弁護士が語る

全米レコード工業会(Recording Industry Association of America:RIAA)は「無防備な人々」に対して「恐怖支配」を行い、彼らを非合法な音楽ダウンロードで告訴しようとしている。 そう語るのは、電子フロンティア財団(Electronic Frontier Foundation:EFF)の弁護士で、ニューヨークのVandenberg & Feliu法律事務所に所属するRay Beckermanである。 「Recording Industry vs the People」というブログでよく知られるBeckermanは、Defective By Designキャンペーンが主催した昨日の電話会議でこのように発言した。

人々の意識を高め、RIAAに対抗する基金を創設することを目的としたこの電話会議で、BeckermanはRIAAが米国や他の国々で個人を告訴する際に用いる典型的な策略について、またRIAAの活動と闘ううえで大きな節目となる可能性のある2件の訴訟について語った。

Beckermanによると、RIAAは一般の個人を相手取って1万9千件の訴訟を起こしている。 「数十億ドル規模の企業連合が、訴訟に対抗する術を何も持たないあらゆる種類の人々を訴えているのです」Beckermanは言う。 彼は、とりわけ技術コミュニティが抵抗しなければ、「裁判の対審性のせいで、RIAAが首尾よく著作権法を書き換える」のではないかと懸念している。

典型的な手順

Beckermanは、これらの訴訟の典型的な手順 — それに技術的な問題を理解していない判事たち — にきわめて批判的だ。 彼の説明によると、訴訟はKazaaなどのファイル共有ネットワークで、著作権付きの音楽が収められたフォルダを調査員が見つけるところから始まる。 調査員はそれ以上の調査を行わず、テキストとメタデータだけが表示されたスクリーンショットを保存する。 Beckermanが「隠匿された手順」 — 共謀とプライバシー侵害を黒々と匂わせる表現 — と呼ぶ作業を経て、調査員はフォルダを動的IPアドレスに関連付ける。 そして、RIAAは一連の氏名不詳の召喚状(身元不明の被告に対して発行される召喚状)を発行し、そのIPアドレスに関連付けられた利用者の名前と住所を入手するのである。

これらの訴訟は、まもなく被告にされようとしている人が住む場所から遠く離れた都市で提起される。 通常、被告が個人情報請求のことを知るのは聴聞会のわずか数日前で、自分が告訴されようとしていることもまったくわからない。 「彼らは裁判所命令や提出された書類のコピーを持っていません」Beckermanは言う。 「対抗する手段が何一つないのです。」 個人情報の提出を命じる裁判所命令を受け取って初めて、召喚状のことを知る人もいる。 彼は、これを「完全に違法」なやり方だと述べている。 IPアドレスから特定のプロバイダをたどるのは容易であることを指摘しつつ、彼はRIAAが「意図的に相手の居住地と異なる場所で訴訟を起こし、相手が情報を一切入手できないようにしている」に違いないと付け加える。

これらの個人の多くは米国の居住者だ。カナダやオランダなど、多くの国ではこうした訴訟の有効性を否定しているからである。 「オランダでは、これが虚偽の調査であることに加え、人々のプライバシーの違法な侵害であることまで裁判所が言明しています」Beckermanは指摘する。 けれども、フランスなどの他の国々では、訴訟がRIAAの姉妹団体によって首尾よく提起されており、一方の米国では、「判事たちが言われるがままにこれらの命令を承認」している。

BeckermanとEFFは、この時点で訴訟に参加することを望んでいる。 彼らは、「本物の著作権侵害者なら、メタデータを残すようなことは決してしないし、他人のインターネット・アクセス・アカウントを使っているはずだ」ということを指摘しようとする。 「たとえ共有ファイルのフォルダが見えても、それがどのコンピュータ上に存在したかはわかりません。なぜなら、そこに見えているのは相互に接続されたコンピュータの集合にあるファイルだからです。」

問題は、「判事たちがまったくわかっていないことです」とBeckermanは言う。 「彼らは私にその話をすることも許してくれません。 2004年のある訴訟では、高齢の判事が弁論趣意書でRIAA側の弁護士に、メタデータとハッシュを見れば、それらが違法にコピーされたファイルであることがわかると聞かされました。もちろん、これはたわごとです。 しかし、判事は裁定の中で、召喚状を支持する理由として実際にこのことに言及したのです。」 往々にして、判事は口頭弁論にまったく耳を傾けずに決定を下す。

名前を入手するやいなや、RIAAはその特定された個人に対して訴訟を起こす。 Beckermanが指摘するように、この時点では、証拠は決め手に欠けている。 「彼らがせいぜい主張できるのは、そのIPアドレスと何らかの形で関連があるかもしれない誰かが、何かのファイルを公開した可能性があるということだけです。 被告がやったという確証は何もありません。 彼らにわかっているのは、被告がそのインターネット・プロバイダに料金を支払ったということだけです。」

このように漠然とした証拠にもかかわらず、訴訟手続きは止まらない。 Beckermanによると、RIAAが好むのは「[金銭による]和解を強要する」方法である。 もし相手が応じなければ、RIAAはその個人を相手取って連邦訴訟を起こす。無料またはほんの形ばかりの料金で働いてくれる弁護士が見つからない限り、これに対抗できる金銭的な余裕がある個人はほとんどいない。 「大手の法律事務所は決して助けてくれないことに気付くでしょう」と彼は言う。 「大手の法律事務所は大企業と同じようなもので、利益を上げる必要があります。 彼らは、RIAAが訴えている貧しい人々ではなく、RIAA側の代理人になることに関心を示します。」

重要な2件の訴訟

問題の概要を述べた後、Beckermanは甚大な影響を及ぼす可能性がある2件の訴訟について簡単に説明した。 Elektra対Barker訴訟の被告は、低所得者用の公営住宅に住む看護学生である。 被告側は、この訴訟で「通常、法に定められている著作権侵害のいかなる行為、日付、または時刻も明示されていない」ことを理由に、訴え棄却の申し立てを行っている。 これに対し、RIAAは「単にインターネット上でファイルを公開する行為それ自体が著作権侵害に当たる」と主張している。この主張が認められれば、おそらくインターネット全体が大きな打撃を受けるだろうとBeckermanは指摘する。 この主張がもたらす影響から、被告側の代理として電子フロンティア財団(Electronic Frontier Foundation)、Computer & Communications Industry Association、およびUS Internet Industry Associationが、また原告側の代理としてMotion Picture Association of Americaと米国司法省が参加している。 この訴訟は、RIAAの訴訟の命運を分ける可能性がある。 にもかかわらず、「我々はどこからもいかなる種類の支援も得ていないのです」Beckermanは言う。

UMG対Lindor訴訟の被告は、Beckermanによると「コンピュータを一度も使ったことがない家政婦」である。 「彼女はコンピュータを操作したことがなく、コンピュータの電源を入れたことさえ一度もありません。 彼女とコンピュータの唯一のかかわりは、彼女がコンピュータだと思っている部品の近くのホコリをときどき払っていることだけです。 それにもかかわらず、彼女はピアツーピア・ファイル共有のオンライン配布元として訴追されています。」

Beckermanは連邦裁判所に持ち込まれた後でこの訴訟にかかわるようになってから、告訴の詳細を知ろうと努めてきたが、今までのところほとんど成功していない。 「RIAAは彼らの“調査”の実施方法に関する情報を隠そうとしています」と彼は言う。 「口実をもうけて、我々が行ったすべての開示請求を引き延ばしています」 — おそらく、この情報が明らかになると、同様のすべての訴訟の弱点も明らかになるからだろう。

「世界が団結し、これらの無防備な人々を助けなければ、RIAAはすべての闘いに勝利するでしょう」Beckermanは結論付けた。 「そして、彼らは著作権法を書き換えるでしょう。」

質疑と締めくくりの言葉

Beckermanは発言を終えた後で、電話会議の参加者からの質問を受け付けた。 マサチューセッツ大学のStudent Legal Servicesで働いているという1人の参加者は、同様の告訴を受けている52人の学生を事務所で把握していると述べた。 彼らの多くは示談で解決したが、Student Legal Servicesでは少なくとも1件の訴訟を支援する準備をしているという。

Free Software Foundation(FSF)の事務局長で、Defective By Designの主任委員の1人でもあるPeter Brownは、これらの訴訟で被告を支援する必要性を強調して電話会議を締めくくった。 デジタル著作権管理(Digital Rights Management:DRM)技術がハードウェアで普及すれば、音楽ダウンロードで現在RIAAが行っていることを、来年には他の団体も行うようになる可能性があるとBrownは警告する。 彼は、この電話会議のことをブログに書いて他の人々を啓蒙するよう参加者に強く促し、会議の録音が近いうちにDefective By Designのサイトで公開されることを発表した。

またBrownは、FSFのWebサイトを通じて、または「RIAA Lawsuits」と指定した小切手をFSFに送付して、訴訟費用を寄付できることも述べた。

「我々はRIAAとの闘いが、勝利を収めるための非常に重要な最前線であることを認識するようになりました」Defective By DesignとFSFの両方を代表してBrownが語った。 「これらの訴訟で、我々は今後の流れを大きく変える節目を迎えています。 我々が基金を創設できれば、弁護士たちに訴訟への参加を促すことになるでしょう。」

Bruce Byfieldは、コース・デザイナ兼インストラクタ。またコンピュータ・ジャーナリスト としても活躍しており、NewsForge、Linux.com、IT Manager’s Journalに定期的に寄稿している。

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