キャリアグレードLinuxのラインナップにDebianが参入

Open Source Development Labs(OSDL)から出された本日のアナウンスによると、DebianのSargeリリースが、Carrier Grade Linux(CGL)2.0.2の仕様に準拠したものとして登録されたとのことである。このニュースは、Red Hat、Novell、Motorolaなどの商用ベンダと同じ舞台に、Debianの提供する製品が登ってきたことを意味する。

キャリアグレードLinuxというシステムでは、Webサーバやファイルサーバ用Linuxあるいはデスクトップ用Linuxに比べて、求められる要件がいくつか異なっている。その中でも最大のものは、Linuxのメインストリームでは通常重要視されないリアルタイムコンピューティングのサポートがキャリアグレードシステムには課せられるという点だろう。その他にも、Linux Standard Base(LSB)、Service Availability(SA)Forum、Hardware Platform Interface(HPI)、POSIXへの準拠がCGLの仕様では要求されている。

ただしDebianは、最新版のCGL仕様に準拠している訳ではない。CGL 3.2の仕様ではセキュリティやクラスタリングに関する規定が追加されており、これは現行のDebianには装備されていない機能である。ただし、将来的にこれらの要件にDebianが対応することは充分に期待していいだろう。

CGLという概念が最初に提出された段階では、そこに要求された諸条件を満たすのは現在よりもはるかに困難であった。たとえばOSDLの上級テクノロジアナリストを務めるBill Weinberg氏は、2.6カーネルの開発段階において「これらテクノロジの多くは、メインストリームのLinuxに存在していなかったものです」と指摘している。「そんな段階でCGLのディストリビューションを作ろうとしたら、ディストリビューションのサプライヤ側にしろOEM側にしろ、必要なコンポーネントを探してあちこち駆け回らなければならなかったでしょうね……。もっとも今では、CGLの要件の少なくとも半分はメインストリームにも取り込まれていますが」。同氏の説明によると、今日でもCGLディストリビューションを構成するのは片手間でできるような作業ではないが、以前よりも簡単にはなっているとのことである。

Weinberg氏が例として取り上げたものに、POSIXスレッディングがある。当初LinuxはPOSIXに準拠していない独自のスレッディングモデルを採用していたが、その後これをPOSIXに準拠したものに改めており、こうした点についてWeinberg氏は「キャリアグレードという大枠としての制限が、そうした方向へ進ませるきっかけになりました」と説明している。

Weinberg氏によると、British Telecom、France Telecom、NTTなど、現状で16の企業がCGLの採用をアナウンスしているということだ。これらの他にも、単に公にはしていないだけで既にCGLを使用しているという企業があってもおかしくはないだろう。

実際、Debianは既にキャリアグレードシステムで使用されだしており、そうした状況が広範に認められることは、すなわちDebianの地位が公認されることと見なしていいだろう。Hewlett-Packardは数年前の段階でCGLの使用にDebianを選択しているが、その際の最大の理由としてはRed HatやNovellを採用した場合に比べて、より迅速にOSに変更を施せるという点が挙げられていた。

Debianの参入は何をもたらすか

Weinberg氏は、Debianの参入によりCGLのベンダは新たに“連続性”というメリットを受けられる点に言及している。そうした連続性の1つは、各種のオープンソースコンポーネントを使用してベンダが独自のCGLディストリビューションを作成できるようになることである。また同様に、Red HatやSUSEなど、CGLに準拠した汎用ディストリビューションを選択できるようになることも忘れてはいけない。

Debianの採用によってベンダは、ディストリビューションの大幅なカスタマイズが可能になるのと同時に、関連コミュニティからの活発なサポートを期待できるだけでなく、ディストリビューションに変更を加える際にも一部のコンポーネントだけに目を向ければ済むようになり、変更時の負担を大幅に取り除くことができるようになるだろう。

CGLソフトウェアの開発は、双方向的な発展性を秘めている。HPでOSS関連の研究および開発マネージャを務めるAlan Meyer氏の語るところでは、キャリアグレード系のベンダとカスタマにより達成された成果は、たとえばStream Control Transmission Protocol(SCTP)の実装などのように、オープンソースコミュニティ全体のプロジェクトにフィードバックされつつあるという。Meyer氏によると、HPは得られた成果を「すべての人間がメリットを享受できるよう」アップストリームへの還元を検討しているということになる。

またMeyer氏が指摘しているように、HPなどの企業がDebianに対して標準準拠のテストを実行するのはカスタマ側からの要求を満たす必要があるためだが、いずれにせよその成果はディストリビューション全体に反映されることになる。つまりDebianの標準への対応状態を検証する作業は、直接的な利害関係を有すベンダやカスタマだけに止まらず、Debianに携わるすべての人々にメリットを及ぼすことになるのだ。

CGL準拠のコンポーネントがDebianから提供されることにより、DebianベースのダウンストリームディストリビューションがCGLの認証を得る際の障壁が、大幅に低下するものと期待していいだろう。

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