Songbirdメディアブラウザの華々しきデビュー
夥しい数のミュージック・ストアにiTunes、Napster、Musicmatchなど、ひとつの音楽プレイヤーでしかアクセスできないというのは、デジタルメディアに対する消費者の選択肢を狭めるものだ。こう語るのは、Songbirdプロジェクトを率いるRob Lordである。彼は同ブラウザを開発する会社Pioneers of the Inevitable(POTI)の設立者で、最高経営責任者でもある。Lordによれば、Songbirdの開発者たちはユーザーとデジタル音楽ファイルとのインタラクションをこのソフトウェアで集中管理しようと考えているという。
プロプライエタリなミュージック・ストアはAOL、CompuServe、Prodigyに支配されていた初期のオンライン・サービス時代と似ているとLordは言う。当時は契約会社が異なるとユーザー間でメールのやり取りもできなかった。フォーマットやストアやプレイヤーよりも音楽そのものに力を注ぐことでデジタル音楽業界は成長する。なぜなら、音楽の再生はもっと手軽なものになるからだ。
「デスクトップのメディア空間では、こうしたプロプライエタリなサービスとソフトウェアを使えばよいというのが大方の考えだ。我々としては、もっとWeb寄りの道筋を取るべきと考えている。音楽消費者にとって、プレイヤーを切り替えなければ別のサービスを受けられないというのは何とも変な話だ」
機能の充実
Songbirdバージョン0.1は機能がまだ限られており、ローカル・ディレクトリ内のメディアと、ブラウザでアクセスしたWebページに置かれているメディアしか探すことができない。現在はMP3、WMA、Ogg Vorbis、FLACなどの音楽ファイル・フォーマットに対応し、ID3タグを認識する。DRMやコーデックを意識しなくて済むことを目指しており、すべてのファイル・フォーマットやプロテクト・ソフトウェア、携帯機器などに対応するブラウザが最終目標となる。Lordによれば、最終的にはeMusic、Beatport、Real’s Rhapsodyといったオンライン・ミュージック・ストアのダウンロード・マネージャとして動作し、携帯機器とのファイル同期やほとんどすべての音楽ファイル・フォーマットをサポートすることになるという。
Songbirdのロードマップはバージョン0.3まで決まっている。だが、POTIとしては締め切りを気にせず開発に専念できるよう、リリース日を明言しないことにしているという。バージョン0.1.1では、ユーザー・インタフェースの改良、基本設定メニューによるプロキシ設定、そして、これは確定ではないがプロテクトされたWMAファイルの再生機能が計画されている。バージョン0.2では、Mac版とLinux版の提供、ビルド&ソース管理システムによる公開、各種サウンド・ファイルのダウンロード用マルチコアAPIの提供が予定されている。このAPIはユーザーのハードディスク内のファイルを調べてWMAファイルのライセンスを確認し、DRM(Digital Rights Management: デジタル著作権管理)ソフトウェアのプロテクト下にある音楽ファイルを再生する。
SongbirdはNapster、Yahoo!、Rhapsodyなどのミュージック・ストアで売られているファイルを再生でき、今後もそれは変わらない。しかし、Lordによれば、iTunesから購入したファイルへの対応が開発者の課題となっているようだ。最近のAppleの動きを見ると、他のソフトウェアとの連携を考慮せずファイル・フォーマットを一層閉鎖的なものにしているからだという。
このオープンソース・プロジェクトがベースとしているのはMozillaのCSS(Cascading Style Sheets)とJavaScriptとXULRunnerツールである。POTIはMozillaコード・ベースに対してバグフィックスやコード開発の面で既に貢献している。そのひとつがクリック・スライダだ。Songbirdユーザーは、これを用いてプレイヤーのボリュームを調節したり、ファイルの再生位置を選択したりすることができる。
Mozillaの最高技術責任者Brendan Eichによれば、POTIの開発者がXULRunnerを使ってくれたおかげで同ツールの開発が進展したという。MozillaはSongbirdの新しいアイデアを幾つか取り込むつもで、例えば、Songbirdが開発を予定しているGUIウィジェットはXULRunnerツールキットに追加される可能性があるという。
Webミュージック・ストアのメリット
AppleはiPodとiTunesでデジタル音楽の利用と販売に火を付けたが、iTunesモデルに続くWebストアがユーザーを尻込みさせているとLordは言う。「7段ケーキを手に入れて9段にしたのだから大したものだ。しかし、そのメディア管理はファイル・フォルダよりもメタデータに中心を置いているように思える。音楽はアーティスト、アルバム、曲という構成を取る。これをはっきり肝に銘ずることがデジタル・メディアの開発では重要だ」
Songbirdのメリットは、ユーザーが音楽ファイルをブログ上や音楽会社のWebサイトで簡単に見つけられることにある。eMusic、Beatport、Bleep、DownloadPunkなどのストアでは、Webブラウザさえあれば、音楽を購入してダウンロードできる。これはたいていの人にとってプラスになる。
eMusicのCEO、David Pakmanは、Songbirdのアイデアを大いに支持しており、Songbirdメディアブラウザ用のプラグインを開発するつもりで、チャンスがあればもっと緊密な統合を目指すという。「我々はデジタル・ミュージックの小売業者であり、我々の関心事は音楽を売ることにある。ユーザーがどんなソフトウェアを使おうが我々には関係ない。ソフトウェア的には特定のフォーマットやテクノロジが大量採用される方がよいのだろうが」
Pakmanによれば、ダウンロード数で見るとeMusicは業界2位のデジタル・ミュージック・ストアであり、月に約500万曲を売り上げ、昨年11月の契約者数は100,000を超えたという。同社のストアは会費制で、月のダウンロード数に応じて3段階の料金が設定されている。また、追加のダウンロード・バンドルを購入でき、ファイルをどこでどう使うかはユーザーの自由裁量とされる。
iTunesと競合するBeatportのような電子ミュージック・ストアにとっても、Songbirdは簡単に使えるという点で新たな顧客を呼び込む助けになるかもしれない。Beatportのマーケティング・広報担当部長Shawn Saboによれば、同社のストアではMP3や非圧縮WAVなど、複数のフォーマットでファイルを販売しているという。同社の顧客はカジュアルな音楽ファンからプロのDJまでおり、DJは大規模なサウンド再生システム向けに高品質の録音データを求めている。
Beatportの提供するダウンロード・マネージャとプレイヤーが1種類なのに、同社のサイトで非常に多くのフォーマットをサポートしているのは、ファイルがどこで使われても対応できるようにしたいからだという。
新たな標準作り
Lordは、メディアプレイヤー技術の標準化の道を探ることもSongbirdの開発の一部だと言う。リスナーが音楽ファイルを簡単に見つけて再生できるようにすること。そのほか、POTIは音楽を共有する仕組みの開発にも取り組んでいる。ひとつはWebjayなどのプレイリスト共有サービスとの連携を強化すること。また、音楽主体の独自のWebサイトの構築もSongbirdの開発に含まれるという。
Lordは、リリース後数時間でSongbirdへの関心が最高潮に達してサーバー停止に至ったことは大いに希望が持てると言う。「これが概念実証へとつながればしめたものだ。コミュニティに一定の議論を巻き起こすことになる。デジタル・メディアに関して現状はプロトコルも標準もなければ、標準やフォーマットを開発するコミュニティも存在しない。Songbirdの取り組みは、まさにこの開発の中心になることなのだ」
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