応用情報技術者試験--SEのための受験ガイド 2009秋版

 情報システム開発に携わるSE(システムエンジニア)であれば、情報処理技術者試験のことはご存じでしょう。新卒でシステム開発会社に入社して、基本情報技術者試験(以下、FE試験)の合格を目指して、仕事や勉強に取り組んだ(取り組んでいる)方も多いはずです。FE試験に合格すると、次はソフトウェア開発技術者試験(以下、SW試験)を目指すのが一般的でした。SW試験に合格することと、3~5年程度の実務経験を積むことが、中堅SEへのステップと考えている企業が多いからです。

 SEに馴染みの深いSW試験でしたが2008年限りで廃止となり、同等の後継資格として2009年4月から応用情報技術者試験(以下、AP試験)が始まりました。では、単に試験の名前が変わっただけなのでしょうか? 実はそうではないのです。情報処理技術者試験の中堅SE向け試験区分は過去にも何度か変更がありました。今回の変更は、一見するとあまり変わっていないようで、実は大きく変わっているのです。本稿は8回にわたって、主に技術系のSEを対象として、AP試験の受験学習をするうえで注意すべきことと、新たに出題範囲となるマネジメント系とストラテジ系の学習のポイントについて解説します。

応用情報技術者とはどんな人か

応用情報技術者試験の人材像

 情報処理技術者試験には多数の試験区分があり、試験を主催する情報処理技術者試験センター(以下、試験センター)は、試験区分ごとに試験の対象となる人材像を提示しています。SW試験の前身の第一種情報処理技術者試験(以下、第一種試験)も含め、人材像を比較したものが表1-1です。

表1-1 中堅SE向け試験区分とその人材像の変遷
試験 人材像
(1970~1994) 第一種 情報処理技術者試験 プログラムの設計、高度のプログラムの作成及び第2種情報処理技術者の指導に主として従事する者を対象とし、大学卒業程度の一般常識を有し、3年程度以上のプログラミング経験を有するシニアプログラマー
(1995~2000) 第一種 情報処理技術者試験 システムの開発、保守、運用のいずれか又は複数の業務に従事し、高度情報処理技術者を目指す人材
(2001~2008) ソフトウェア開発技術者試験 情報システム開発プロジェクトにおいて、内部設計書・プログラム設計書を作成し、効果的なプログラムの開発を行い、単体テスト・結合テストまでの一連のプロセスを担当する者
(2009~) 応用情報技術者試験 高度IT人材となるために必要な応用的知識・技能を持ち、高度IT人材としての方向性を確立した者
出典:情報処理技術者試験センターWebサイトを参考に筆者作成

 違いが分かったでしょうか? 第一種試験やSW試験では、情報システム開発やプログラミングに携わる人材であることが明記されていました。しかし、AP試験では“高度IT人材としての方向性を確立した者”とあるだけで、情報システム開発ともプログラミングとも書かれていないことです。

 ちなみに第一種試験が始まった1970年は、コンピュータにとってどんな年だったのでしょうか。ハードウェアでは、米国インテル社が世界初のマイクロプロセッサ4004を開発しています。プログラミング分野では、ダイクストラが“構造化プログラミング”を提唱し、goto文有害論が出てきました。データベース分野では、コッドがリレーショナル(関係)データベースの理論を発表し、今日のデータベース技術の基礎となりました。この時代にコンピュータを使えたのは限られた技術者だけで、一般人には縁遠いものでした。最初の第一種試験の対象者がプログラマーだったのは、ごく自然だったといえます。

高度IT人材とは?

 “高度IT人材”とは聞き慣れない言葉ではないでしょうか。ただ単に高度なIT技術を持つ人なら、SEとの違いが見えません。答えは経済産業省の報告書にあります。

「高度IT人材」とは、狭義のIT産業における企業システムの開発人材に限定されるものでなく、ユーザー産業等においてITの戦略的な活用により付加価値を創造する人材も含む。
出典:「人材育成ワーキンググループ報告書」

 現代はコンピュータを仕事のツールとして使う人が多数で、技術者のほうが少数です。ITを活用して付加価値を創造する人材も、試験の対象者に含めようということです。そこで、経済産業省や試験センターは、高度IT人材として表1-2のように人材類型を挙げています。これを見るとイメージがつかめるでしょう。

表1-2 高度IT人材の類型
人材類型 人材像 人材像の説明 試験での対応
●基本戦略系人材
各種課題のITによる解決のための基本戦略を立案
①ストラテジスト ITを活用したビジネス価値の増大をリードする。 対象
●ソリューション系人材
システムの設計、開発や、信頼性・生産性の高い運用を総括
②システムアーキテクト ビジネス戦略に対して最適なシステムをデザインする。
③サービスマネージャ 継続的な高い信頼性を確保しつつ、システムを維持する。
④プロジェクトマネージャ 与えられた制約条件(品質、コスト、納期等)下で、信頼性の高いシステム構築を統括する。
⑤テクニカル
スペシャリスト
データベースやネットワーク等の技術ドメインを実装する。
●クリエーション系人材
新しい要素技術を用いて社会・経済的なフロンティアを開拓
⑥クリエータ 新たな要素技術の創造等により社会・経済にイノベーションをもたらす。 対象外
●その他 ⑦その他 ITスキル標準のエデュケーションが該当する。
出典:「新試験制度の手引き」

 ただし2009年度からの情報処理技術者試験が対象とするのは、基本戦略系人材とソリューション系人材だけです。クリエーション系人材とその他人材(エデュケーション;教育)は少し方向性が違いますので、今のところ試験の対象外とされています。

 また、“高度”IT人材と呼ぶ以上、一定レベルのスキルが求められるはずです。人材育成ワーキンググループ報告書では、IT人材をレベル分けしています。図1-1のように、IT人材をレベル1~7の7段階に分けて、レベル4~7を高度IT人材としています。

図1-1 IT人材のレベルと対応試験区分
図1-1 IT人材のレベルと対応試験区分 出典:「人材育成ワーキンググループ報告書」を基に筆者作成

 このレベルを試験で認定しようというのが、2009年度からの情報処理技術者試験です。ただし、認定対象はレベル4までです。レベル5以上は、もはやペーパーテストで認定できる性質のものでないため、対象外です。

 AP試験が認定する対象者はレベル3であり、AP試験に合格すれば次はレベル4の高度IT人材を目指すことになるでしょう。これは表1-1で見たAP試験の人材像「高度IT人材となるために必要な応用的知識・技能を持ち、高度IT人材としての方向性を確立した者」にほかなりません。

応用情報技術者試験の対象となる人材類型

 まず、新旧試験制度の体系図を見てみましょう。

図1-2 旧試験制度(2008年度まで:左)と新試験制度(2009年度から:右)の体系図
図1-2 旧試験制度(2008年度まで:左)と新試験制度(2009年度から:右)の体系図 出典:『情報処理技術者試験ガイドブック』、「新試験制度の手引き」

 新旧試験のどちらも似たような構成です。初級~中級レベルの試験区分が、下の方に横長で表されています。その上に上級レベルの試験区分(高度試験区分)が乗っており、専門分野別に縦長で表されています。

 大きく違う点は、新試験制度ではベンダ側(開発・運用側)とユーザ側(利用側)を統合して区別をなくしたことです。新試験制度の体系図の左端にはレベル1~4の表示があり、図1-1で見たIT人材のレベルに対応していることも分かります。

 また、旧制度のSW試験と新制度のAP試験で決定的に違うことがあります。SW試験は横幅いっぱいでないことです。これは、SW試験がベンダ側(開発・運用側)向けの試験区分であることを明確に示しています。他方、AP試験の長方形は横幅いっぱいに描かれ、システム監査技術者試験を含むすべての高度試験区分の下位に位置しています。

 ここまで見れば、お分かりになった方もいるでしょう。SW試験がソリューション系人材を対象としていたのに対し、AP試験はソリューション系人材に加え、基本戦略系人材も対象に含みます。基本戦略系人材は必ずしも情報システム開発に直接携わらないので、表1のAP試験の人材像には、情報システム開発ともプログラミングとも書かれていなかったわけです。

応用情報技術者試験の対策

試験の実施形式

 SW試験とAP試験の実施形式を比較したものが図1-3です。

図1-3 SW試験とAP試験の実施形式
図1-3 SW試験とAP試験の実施形式 出典:『情報処理技術者試験ガイドブック』、「新試験制度の手引き」

 午前試験の実施形式は変わっていません。

 午後に行われる試験は、SW試験では午後Ⅰと午後Ⅱに分かれていましたが、AP試験では午後Ⅱがなくなり、午後試験ひとつになります。ただし、試験時間が120分から150分に延びていますが、午後Ⅱがなくなるので、全体の試験時間は30分短くなります。午後試験の解答数は6問のままですが、SW試験では全問必須だったのが、AP試験では12問出題された中から選択することになります。

 午後Ⅱが廃止された理由には、出題が1問しかないため、運によって合否が左右されてしまうことがあったからと考えられます。午前と午後Ⅰがどんなに好成績でも、午後Ⅱの1問ができなかったばかりに不合格になるケースも多かったのでしょう。

合格基準

 合格基準は、午前試験、午後試験とも60点(100点満点)以上であることです。午前で100点を取っても、午後が59点なら不合格となります。したがって、午前、午後ともバランスよく試験対策をする必要があります。逆に、無理に90点や100点を目指す必要はなく、確実に70点や80点を取れればよいとも言えます。

 2009年春のAP試験の得点分布は図1-4のようでした。午前試験では、約半数が60点以上を得点しています。午前試験が60点未満の場合、午後試験は採点されずに不合格となります。午前通過者のみ午後試験の採点対象となり、そのうち約半数が60点以上を得点しています。こうして最終的に、全体の約4分の1が合格しました。

午前試験
採点対象者36,653名、午前通過者19,857名、午前通過率54.2%
図1-4 2009年春期AP試験の得点分布
 午前試験
午後試験
採点対象者19,610名、合格者9,549名、午後通過率48.7%、合格率26.1%
図1-4 2009年春期AP試験の得点分布
 午後試験
図1-4 2009年春期AP試験の得点分布

午前試験の出題範囲

 前述のように見た目では、午前試験は変わっていません。ところが、出題範囲はかなり広がったのです。SW試験とAP試験の出題範囲と出題数を表1-3で比較してみましょう。

表1-3 SW試験とAP試験の午前の出題範囲と出題数
分野 大分類 中分類 SW AP
テクノロジ系(技術系) 1 基礎理論 1 基礎理論 ○8 ○3
2 アルゴリズムとプログラミング ○10 ○6
2 コンピュータシステム 3 コンピュータ構成要素 ○5 ○5
4 システム構成要素 ○6 ○4
5 ソフトウェア ○7 ○3
6 ハードウェア ○1 ○3
3 技術要素 7 ヒューマンインタフェース ○0 ○3
8 マルチメディア ○2 ○3
9 データベース ○11 ○3
10 ネットワーク ○10 ○4
11 セキュリティ ○8 ○5
4 開発技術 12 システム開発技術 ○6 ○5
13 ソフトウェア開発管理技術 ○1 ○2
マネジメント系(管理系) 5 プロジェクトマネジメント 14 プロジェクトマネジメント ○1 ○5
6 サービスマネジメント 15 サービスマネジメント ○2 ○4
16 システム監査 × ○2
ストラテジ系(戦略系) 7 システム戦略 17 システム戦略 × ○2
18 システム企画 × ○3
8 経営戦略 19 経営戦略マネジメント × ○3
20 技術戦略マネジメント × ○1
21 ビジネスインダストリ × ○5
9 企業と法務 22 企業活動 × ○3
23 法務 ×(2) ○3
出典:「新試験制度の手引き」を基に筆者作成

 ○印が出題範囲です。SW試験と比べると、AP試験ではシステム監査とストラテジ系(戦略系)が試験範囲に加わり、全分野が出題範囲になっています。

 SEとしての経験年数が少ないうちは、情報システムの開発技術に興味の中心があり、企業の経営戦略など考えたことがないかも知れません。しかし、SEのキャリアを積むためには、いずれ勉強しなければならないときが来ます。午前試験の出題範囲を全分野に広げた背景には、IT産業の発展のために若いうちから企業経営の視点を持ってほしいとの試験センター(≒経済産業省)からの願いがあるのでしょう。

 実際の出題数はどうだったでしょうか。○の右側の数字は、SW試験の2008年秋、AP試験の2009年春での出題数です。SW試験では、中分類によって出題数に偏りがありました。アルゴリズムとプログラミング、ネットワーク、データベースが特に多くなっています。ソフトウェア開発で特に必要とされる技術に、焦点を当てて出題していたことが読み取れます。

 一方、AP試験での出題数は中分類別の偏りが少なく、ほぼ均等になっています。結果として、ネットワーク、データベースなどは出題数が大きく減りました。また、分野別で見ると、テクノロジ系49問、マネジメント系11問、ストラテジ系20問でした。マネジメント系、ストラテジ系で4割を占めますので、これらの学習は決して軽視できないことが分かります。

※SW試験で「法務」に2問あるのは、「標準化」(ISO9000、文字コード)からの出題です。「標準化」は、旧制度では「セキュリティと標準化」の一部でした。これが新制度の出題範囲では「法務」の中に含められたため、分類し直した結果このようになったものです。

午後試験の出題範囲

 午後試験についても、出題範囲を図1-5で比較してみましょう。

図1-5 SW試験とAP試験の午前の出題範囲 SW試験
図1-5 SW試験とAP試験の午前の出題範囲 SW試験 出典:「新試験制度の手引き」を基に筆者作成

 午後試験でも、SW試験ではほぼテクノロジ系のみの出題であったところに、AP試験ではマネジメント系及びストラテジ系の出題が加わることが分かります。また、テクノロジ系には組込みシステム開発が加わります。 ただし、午前試験と違って、AP試験の午後では解答する問題を選択できます。この出題形式を表1-4で見てみます。各分野の欄の問1~12は、2009年春期試験での問題番号です。この出題範囲の順序どおりに出題されました。問題の分量は、12問とも各4ページでした。

表1-4 AP試験の午後の出題範囲
分野 問1~2 問3~12
ストラテジ系(戦略系) 経営戦略 問1 問3
情報戦略
戦略立案・コンサルティング技法
テクノロジ系(技術系) システムアーキテクチャ   問4
ネットワーク   問5
データベース   問6
組込みシステム開発   問7
情報システム開発   問8
プログラミング(アルゴリズム) 問2  
情報セキュリティ   問9
マネジメント系(管理系) プロジェクトマネジメント   問10
ITサービスマネジメント   問11
システム監査   問12
出題数 2問 10問
解答数 1問 5問
配点 20点 各16点
出典:「新試験制度の手引き」

 問1~2のグループから1問、問3~12のグループから5問を選択します。

 問1~2はストラテジ系問題とアルゴリズム問題の選択です。技術系のSEでも、アルゴリズム問題を苦手とする方も多いようですので、それを回避したいとお考えの方は、ストラテジ系の問題を解けるよう学習しなければなりません。配点も少し高くなっていますので、ここは試験対策上のポイントのひとつでしょう。もちろん、両方に対応できるのがベストです。

 問3~12は選択の自由度が大きく、テクノロジ系から5問選ぶこともできますし、ストラテジ系とマネジメント系を中心に選ぶこともできます。選択する問題を決めておけば、最低5分野を学習しておけばよいことになります。ただ、その場で選択問題を変えることも想定して、多めに6~8分野くらい学習しておくと安心です。

まとめと対策

 ここまで見てきたことをまとめると、次のようになります。

  • AP試験は、基本戦略系人材とソリューション系人材の両方の業務から出題される。
  • 技術系のSEであっても、基本戦略系人材の担当業務の知識が求められる。
  • 午前試験は全問必須のため、ストラテジ系とマネジメント系の問題を回避する道はない。
  • 午後試験は選択でき、ストラテジ系とマネジメント系の問題を回避することはできる。

 2回以降は、2009年春の出題内容を踏まえ、主に技術系のSE向けにストラテジ系とマネジメント系のテーマについて、学習のポイントを解説していきます。テクノロジ系の問題には十分対応できる知識と能力があると思いますので、この連載では取り扱わないことにします。

出典 図表に付した出典の正式なタイトルは次のとおりです。
「人材育成ワーキンググループ報告書」
『産業構造審議会情報経済分科会情報サービス・ソフトウェア小委員会 人材育成ワーキンググループ報告書 ~高度IT人材の育成をめざして~』 (経済産業省 商務情報政策局 情報処理振興課、2007年7月)

「新試験制度の手引き」
『情報処理技術者試験 新試験制度の手引き―高度IT人材への道標―』 (情報処理推進機構 情報処理技術者試験センター、2007年12月)
松原 敬二(まつばら けいじ) 1970年生まれ、メーカー系ソフトウェア企業、インターネットサービス企業での勤務を経て、2008年からIT教育コンサルタント。翔泳社「情報処理教科書」シリーズなどに著書がある。 情報処理技術者試験のうち、15試験区分(プロジェクトマネージャ以外のすべて)に合格。