LinuxユーザのためのiPhoneアプリケーション
iPhoneとiPod Touchは、モバイル市場に一大旋風を巻き起こした。AppleのApp Storeには、これらのデバイスの機能を活かした魅力的なアプリケーションがあふれている。そのなかにLinuxユーザが活用できるものはあるだろうか。GTKPodやAmarokがまだiPhoneのバージョン2.xファームウェア版とのファイル転送に対応していないのは残念が、LinuxのデスクトップあるいはサーバとiPhoneとの間でデータをやりとりできる興味深い方法はほかにもある。
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たとえば MPoD は、Music Player Daemon(MPD)サーバが稼働する環境で威力を発揮し、MPDの楽曲ライブラリのネットワークからの利用を可能にする。iPhoneをプレイリストのリモコンとして利用すれば、デーモンが動作するコンピュータが別の部屋にあっても、ソファに座ったまま気軽に曲の選択ができるのだ。曲をタップすると、iPhoneはWi-Fi通信でMPDサーバに接続して再生を開始する。必要な準備は、MPoDアプリケーションのインストールと、その設定画面への接続情報(MPDサーバのIPアドレスおよびポート、アクセス用パスワード)の入力だけだ。
MPoDには、楽曲をフィルタリングする方法がいくつかある。オムニバスアルバムのデータを除いてフルアルバムの情報だけを表示したり、ID3タグではなくフォルダ構造およびファイル名に基づいて楽曲データを表示したりできる。メインインタフェースには、アーティスト、アルバム、曲名、あるいは自作のプレイリストの情報に基づいて曲が表示される。
iPhoneからコントロールできるのは楽曲サーバだけではない。パーソナルビデオレコーダのMythTVをコンピュータにインストールしているなら、 Remote Remote GH が使える。これは、MythTVにWi-Fi経由で接続して録画データを再生できるリモコンアプリケーションだ。その特徴は直観的なユーザインタフェースにあり、iPhoneの画面に表示されるリモコンのグラフィックを使ってMythTVサーバを操作できる。同じ機能を持つオープンソースのアプリケーションとして、 MyMote がある。Remote Remote GHと同様、MyMoteもバックエンドであるMythTVに接続して操作用のボタンをiPhone上に表示するもので、番組表の取得や録画予約の設定もできる。また、 MythTV for iPhone を試してもよいだろう。このWebアプリケーションをMythTVサーバ上にインストールすると、iPhoneやiPod TouchからよりグラフィカルなMythTV互換のフロントエンドに接続できるようになる。このフロントエンドの外観は、iPhoneからデモにアクセスすれば確認できる。
メディアセンタアプリケーションのXBMCも、iPhoneから操作できる。そのためのアプリケーションが XBMC Remote で、MythTVに対するMyMoteのものと同様の機能を持つ。XBMC側のIPアドレス、パスワード、再生するデータのパスを指定するだけで、ビデオや音楽、ポッドキャストの各ファイルにアクセスできる。また、このiPhoneアプリケーションはカバー画像の表示にも対応している。
Linuxベースのビデオディスクレコーダ(VDR)プログラムを利用しているなら、ユニバーサルリモコンアプリケーションの ZapperPro を使うことで、そうしたデバイスに種類を問わず接続できる。ZapperProをインストールしたら、iPhoneのグローバル設定の画面を下方にスクロールし、ZapperProの設定項目を表示する。そこにVDRデバイスのホスト名またはIPアドレスを入力すれば、アプリケーションを起動できる。VDRソフトウェアが動作するホストにSVDRPコマンドをTelnetで送信してハードウェアを制御できるほか、番組の視聴、録画、予約、音量調節など、基本的にはレコーダ側のすべての機能を利用できる。
ファイルの共有
Appleデバイス側の最新ファームウェアに接続できるLinuxアプリケーションはまだ存在しないため、iPhoneとLinuxの間でファイル転送を行うには、iPhone側の持つWi-Fi、EDGE、または3G接続の機能を利用することになる。KonquerorとNautilusはどちらもWebDAV共有フォルダへのアクセスをサポートしており、iPhoneを小さなファイル共有サーバに仕立て上げるアプリケーションがいくつか存在する。 Files もその1つで、さまざまな種類のファイルをiPhoneとLinuxマシンの間でWi-Fiを使って転送できる。PDF、XLS、DOC形式のファイルの読み取りにも対応しているため、仕事の資料をiPhoneに転送して自宅に持ち帰ったり、移動中にiPhoneで閲覧したりすることも可能だ。ただし、無料で使えるlite版では、利用できるファイルのサイズが200MBまでに制限されている。
同じようなアプリケーションとして、 Air Sharing がある。これもファイル共有に主眼を置いたもので、WebDAVに対応したGNOMEおよびKDEアプリケーションとの互換性があり、高解像度画像など、非常に多くのファイル形式に対応していて、カラーコード指定のあるソースコードのファイルまで表示できる。iPhone上に保存されたファイルには、Linuxマシン側のWebブラウザやファイルマネージャを使ってアクセスできる。Firefoxの場合は、iPhoneのIPアドレスにポート番号の8080を付けて入力するだけでよい。NautilusまたはKonquerorの場合は、WebDAVのURL(dav://192.168.1.33:8080/
など)経由で共有フォルダの読み取り/書き込みができる。Air Sharingでは、共有ディレクトリに対してパスワードをかけられるほか、隠しファイルも表示でき、画面の一番下には常に空きディスク容量が表示される。
リモート操作
iPhoneはWi-Fiだけでなく3G接続にも対応しているので、外出中にサーバの状態をチェックするのに使えても不思議はない。 pTerm は、リモート接続用の便利な簡易ターミナル機能を提供する小さなiPhoneアプリケーションだ。事前に接続先を設定することができ、接続方法はSSH、Telnet、Raw TCPの3つから選べる。接続先の名称、ホスト名およびポートを指定して保存しておけば、保存したエントリを起動してSSHまたはTelnetサーバにアクセスすることができる。コマンドの入力は、iPhone標準のソフトウェアキーボードから行える。
似たようなアプリケーションに、 TN5250 Lite がある。これは、IBMのミッドレンジサーバiSeriesのターミナルエミュレータだ。SSLのほか、タッチ操作によるズームとスクロール、自動ログイン、iSeriesの各種構成、表示色のカスタマイズに対応している。フリーのものとしては TouchTerm があり、これはCtrl、Esc、Tabの各キーとカーソルキーのボタン入力をサポートしている。SSHに特化したものがよければ、 iSSH を試せばよい。クライアント単体のアプリケーションで、SCPによるファイル転送には対応していないが、その代わりに透過型のキーボードを備えている。一方、 Mocha Telnet は、Telnetサービスが稼働しているマシンとのTelnet接続の確立に特化したものだ。
VNCを使ってデスクトップを管理するなら、 Mocha VNC Lite を試すとよいだろう。仮想のキーボードやマウス、8ビットおよび32ビットカラーモード、横画面表示に対応し、サーバ側で実行されたRealVNC、TightVNC、UltraVNC、x11vncと連携して動作する。同様の機能を持つ商用のアプリケーションとしては、 Jaadu VNC がある。見た目はこちらのほうが華やかで、マウスカーソルの移動方向を反転させたり、各種キーの組み合わせをリモートデスクトップ側に送信したりできる。
Linux向けiPhoneアプリケーションの市場は盛況とはいえないが、そもそもApp Store自体のサービスが開始されてからまだ日が浅い。iPhoneやiPod Touchの音楽をLinuxと同期できるようになるまでは、こうしたアプリケーションが双方のプラットフォームを活用するうえで役に立つかもしれない。
Razvan T. Colojaは通常の雑誌およびオンラインマガジンに150本を超えるLinuxおよびIT関連の記事を寄稿している。ルーマニアの雑誌のエディタを務め、ルーマニア語のLinux/OSSポータルおよびコミュニティサイトwww.mylro.orgの管理者兼エディタでもある。