Inquisitorでハードウェアをテストする
新しいコンピューターが何故か遅く感じたり、オーバークロックしたプロセッサーが粉々に吹き飛ぶかもしれないと不安に思ったりしたことはないだろうか。そんなときは、テスト用プラットフォーム Inquisitor でハードウェアをテストあるいは診断してみよう。Inquisitorはオープンソースの主だったベンチマーク・ツールを動かすためのラッパー・スクリプトで、一般利用者にも簡単に使うことができる。また、何千台ものコンピューターを同時にストレス・テストできるので、コンピューターのメーカーや販売店が行う出荷前テストにも使うことができる。
InquisitorはBonnie++、IOzone(翻訳記事)、UnixBench、BYTEmarkなど、よく知られたオープンソースツールを起動するためのシェルスクリプト群だ。ALT Linuxが開発し、2007年半ばにGNU GPLの下でリリースした。圧縮形式のアーカイブがダウンロード提供されているので、これをダウンロードし、テストしたいマシンにインストールすれば利用できる。ほかに、ライブCDのISOイメージも提供されている。大きさは130MB。すべてのスクリプトがインストールされており、テストを呼び出して実行する簡単なインタフェースが付属している。このライブCDは単に便利というだけでなく、ベンチマークの環境を統一する上でも有用だ。
現行バージョンであるライブCD 3.0には、25種のテストとベンチマークが収容されており、プロセッサーやハードディスクのほか、USBやCDドライブなどの取り外し可能デバイスなどといったハードウェアデバイスをテストすることができる。
このライブCDからブートすれば、25種類のテストをすべて実行することができる。実行するテストを選択し、指示に従ってテスト時間などのパラメーターを設定すればよい。各テストとベンチマークの解説もあるので読んでおくこと。テストを構成する際、構成パラメーターを理解する上で役に立つし、テスト、特にハードディスクのテストの中にはディスク上のデータをすべて削除してしまうものがあるからだ。概要だけを知りたいときは、非破壊版のテストを実行するとよい。これなら、ディスク上のデータが消えてしまうことはない。
このライブCDでは、各テストを単独で実行できるだけでなく、テストプロファイルに従って実行することもできる。テストプロファイルはあらかじめ設定されたパラメーターで数種のテストを行うもので、破壊的ストレステスト、非破壊的ストレステスト、破壊的ベンチマークテスト、非破壊的ベンチマークテストの4種が用意されいている。
テストプロファイルにも解説(オンラインとCDに)が完備されており、動作にも問題はない。ただし、一旦始めると途中で止めることができないので注意すること。中断したい場合はコンピューターを再起動するしかない。
ハードウェア試験は、テストやベンチマークを実行しただけでは終わらない。その結果を解釈して、初めて完了する。Inquisitorのストレステストの結果はわかりやすい。合格と不合格のいずれかしかないからだ。一方、ベンチマークの結果は、テスト中に収集した数値データだ。テストはよく知られているツールによるものだから、結果を解釈するための情報はそのツールのWebサイトで得られる。概要を見たいというだけの場合は、値が大きいほどよいと考えればよい。
大規模なテスト
ライブCDを使うと、個々のマシンでストレステストとベンチマークテストを簡単に行うことができる。しかし、数千台のマシンを同時にテストするとなるとライブCDでは手に負えない。そこで登場するのが、Enterprise版と呼ばれている圧縮アーカイブだ。これをインストールすれば、PXEを使ってネットワークを介して起動することができる。
Enterprise版とライブCDには大きな違いが2つある。1つは、Enterprise版はすべてのデータをローカルファイルではなくサーバーデータベースに送ること。2つめは、Enterprise版はWebインタフェースを介して管理すること。テストの進捗を監視したり問題のあるコンピューターを操作したりすることができる。
InquisitorのWebサイトにはEnterprise版のデモがあり、たとえば受注の処理状況やテストで不合格になり 修理後合格したコンピューターの詳細などを見ることができる。
Enterprise版は全機能を備えているが、汎用プラットフォームであり、実際に使うには、あらかじめ企業の状況に応じて調整しておく必要がある。つまり、Enterprise版は開発者向けということだ。Inquisitorの主要開発者であるMikhail Yakshinは「Inquisitorは汎用ソフトウェアプラットフォームだ。しかし、ハードウェアメーカーやデータセンターにおけるサーバー管理といったエンタープライズクラスの場合は、ソフトウェア1本だけでは済まない。それよりはるかに多くのものが必要になる」と述べている。
開発予定
Inquisitor 3.0は2008年7月にリリースされた。数か月後に予定される次期リリースでは、8コアや32コアのマシンにも対応する。Yakshinによると、長期的には、テストの種類を増やし、2Dや3Dのグラフィックスカードなど、対応するハードウェアを広げたいそうだ。
また、InquisitorのEnterprise版は、現在、ALT Linux、SUSE、Debian、Ubuntuの各ディストリビューションでサポートされているが、ほかのディストリビューションでも使えるようにしたいという。可用性を高めることのほかに、フレームワークを改善することや開発者向けにAPIに関する詳細な解説を用意することも優先的な課題だ。
Inquisitorはハードウェアをテストするためのプラットフォームで、質もよい。時々テストやベンチマークを実行するならライブCDで、コンピューターメーカーが数千台のコンピューター上で同じテストを実施するならやはり無償のEnterprise版で、とスケーラビリティーもある。この種のソフトウェアは揃えておくと便利だ。特に、新しいコンピューターを買ったときや古いコンピューターの弱点を調べたいときには役に立つ。