FLAとは何か
FSF Europeが、多国語での「法的統合ツール」の提供を目指すことになったらしい。
法的統合(legal consolidation)などと言われると何のことやらという感じだが、これはようするに、標準化された被信託者ライセンス協定(Fiduciary License Agreement, FLA)を作ってヨーロッパの主要10ヶ国語で提供するということである(すでに英語版は存在する)。では被信託者というのは誰が何を信託されるんだという話になるが、オープンソース/フリーソフトウェア開発プロジェクトの代表者が、プロジェクトへの貢献者から、彼らが持つ著作権の行使を信託されるということだ。
多くのオープンソース/フリーソフトウェア開発プロジェクトは、複数の人からコードなりドキュメントなりの貢献を受けて成長していく。そうして貢献された部分部分は、それを貢献した人々が著作権を保有する。成果物としてのソフトウェア全体は、そうした貢献者たちによって分有されているとも言えるわけだ。例えばLinuxカーネルの開発を仕切っているのはLinus Torvaldsだが、彼が現在のLinuxカーネルの全ての著作権を持っているわけではない。ある部分はLinusが、ある部分はAlan Coxが、ある部分はIBMが、そしてある部分は富士通が著作権を持っていたりするのである。
普段はこれで別に構わないわけだが、一朝ことあって法廷で権利を行使したい、あるいは特にライセンスを変えたいという時などに、大変面倒なことになる。そのソフトウェアに貢献したことがある著作権者全員から同意をとらなければならないからだ。例えば何か事情があってライセンスを変えようという際、それに積極的に反対する人がいるのはそれはそれで別に構わないのだが(説得するなりその人の貢献部分を外すなりすればよい)、多くの場合単に連絡がつかないので賛成か反対か意志が確認できないというだけである。結果として、プロジェクトが大規模になって多くの人が関われば関わるほど、プロジェクト全体が意思決定不全に陥りやすくなるわけだ。また、最近ではSoftware Freedom Law Centerのようなオープンソース/フリーソフトウェア開発プロジェクトに法的コンサルティングを提供する団体や弁護士が出てきているが、そういったところに法的な権利行使を委任するプロジェクトも増えてきている。そのために必要な一連の手続きを整理して、どのプロジェクトでも使えるような文面としてまとめましょうというのが今回のFLAだ。
ちなみにFSFはこの手の問題に対し、伝統的にGNUプロジェクトへの貢献者には著作権をFSFへ譲渡してもらうという手段で対処してきた。実際には譲渡というより、「自分の貢献部分に関しては好きにしてもらって構わない」旨一筆書いてFSFに送るという感じである(書面の例)。ちゃんとやろうとすると、自分が所属する企業なら機関なりからも権利を行使しない旨一筆取らないといけないのでなかなか面倒くさい。おまけに、署名しなければならないので電子ではなく紙のメールで送らなければならないのである。
最近では、FSF以外にもこの手の貢献者ポリシーを定めているプロジェクトが結構あるようだ。目につくところだけ挙げても、Python、Apache、Mozilla[PDF]、Perlといった有名どころは皆貢献者ポリシーを用意している。それだけ個々のプロジェクトが大規模化してきているということなのだろう。もし皆さんがこれからこういったプロジェクトに何かしら貢献しようと考えているのであれば、一度はポリシーに目を通しておいたほうが良いと思う。