敢えて使用するまでもないArk Linux

  Ark Linux は新規Linuxユーザをメインのターゲットとして作成されたディストリビューションの1つであるが、開発陣は初心者以外の使用にも耐えるだけの機能を備えていると主張している。私が以前のバージョンを試用した際には、この後半部の主張は誇張が過ぎるよう感じられたものだが、果たして今月リリースされたバージョン2008.1はそれだけの機能向上を達成したのだろうか? 確かに本ディストリビューションについては安定性とソフトウェアの品揃えにおいて手堅い面は認められるが、ハードウェア関連のサポート状況は今回の最新リリースにおいても貧弱なままであるし、何よりもセキュリティ面において様々な矛盾が満ちあふれているのである。

 Arkの開発陣が“セキュリティシステム”と呼称している機能は、むしろ“セキュリティ不在システム”とでも呼ぶべき代物でしかない。まずオペレーティングシステムのインストール段階にて、デフォルトユーザの“arklinux”およびrootへのパスワード設定を行うようにされていないのだ。つまりここでは、ソフトウェアのインストールと削除やネットワークの設定などの一般的な管理タスクについてはroot権限を有さないユーザでもグラフィカルツール経由で行えるようにし、その際にはユーザパスワードによる保護すら設けないという方針が採用されているのである。なるほど考え方としてはこうした仕様もありかもしれず、実際デフォルトのarklinuxユーザがsuを用いてroot権限を取得することはコンソールエミュレータでは不可能となっているのだが、ここでの問題はターミナルを使えばsuを用いたroot権限の取得が行えてしまうことであろう。更にメニューからアクセスできるroot用のコンソールエミュレータに関してもパスワード不要で実行可能となっており、これを用いれば任意のユーザがあなたのコンピュータを欲しいままに操作できるようになってしまうはずである。

 当然ながらこのディストリビューションでもパスワード付きで新規ユーザを作成したり、デフォルトのarklinuxユーザにパスワード設定することはできるようになっている。ところがrootパスワードの設定を行ったとしても、ターミナルの起動やメニューからのターミナルエミュレータへのアクセスは依然としてパスワード不要で実行可能なまま残されるのだ。こうしたArkのセキュリティシステムは新米ユーザにとってみれば使いやすいのかもしれないが、最終的にそのツケはユーザ自身に降りかかってくることになるであろう。ファイルパーミッションを介したアクセス権限の管理はLinuxにおける基本原則の1つのはずなのだが、このオープンシステムはそうした原則を本質的に無視していることになる。ただしこうした仕様に関しては、Ark側にもそれなりの理由があって採用したとのことだ。

 Ark Linuxの配布サイトからはインストール用イメージおよびライブCDを入手することができる。またここでは、サーバソフトウェア、ゲーム/エンターテインメント、開発者用スイート、その他の追加ソフトウェアを収めた各種イメージも配布されているが、これらは本稿執筆時点でバージョン2008.1用へのアップデートは行われていない。

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Ark Linux

 今回私がインストール版を試したところ、いくつかのトラブルに遭遇することになった。まずインストーラそのものに時代遅れの感があるのはともかくとして、機能的な不備も多々残されているのだ。例えば私のラップトップの場合、タッチパッドは使用することができたがUSBマウスは認識されなかった。また最初に現れる画面ではユーザの使用する言語、キーボード、タイムゾーンをドロップダウンメニューにて選択するようになっているが、タイムゾーンとしての選択肢は2つしかなく、残念ながらどちらも私の所在地とは重なっていなかったのである。

 その次に現れるのはインストール方式の指定画面で、ここではWindowsパーティションへのインストール、WindowsパーティションのリサイズとArk用パーティションの作成、ディスク全体を使用、パーティションのカスタム作成という選択肢が提示される。私はパーティションのカスタム作成を選んだのだが、この場面にてQTPartedは私のディスクを読み取ることができず、意味不明なエラーを返すだけだった。いずれにせよ今回用いたディスクは既にパーティション済みであったので、私はメニューのQuitコマンドによりプログラムを終了させることにして、その次の画面にてrootパーティションとbootloaderに関するオプションを指定したのである。このインストーラに用意されている設定オプションはこれだけで、その後のシステムインストールはスムースに進行してくれた。ところが、インストール完了後にOKをクリックしてリブートさせると、何度試してもカーネルがクラッシュしてシステム全体がフリーズしてしまうのだ。

 もっともこのインストール後に発生するカーネルパニックは、システム本体に大きな悪影響を及ぼすものではなかったのである。それと言うのも、私がメインのGRUB設定ファイルを修正したところ、システムは正常にブートできるようになってくれたのだ。今回はArkのbootloaderをrootパーティションにインストールさせていたのだが、これだとチェーンロードが行われないようなのである(つまりマスタブートレコードのメインGRUBからインストールパーティションのGRUBディレクトリにブートプロセスが受け渡されない)。

 結局Ark Linuxデスクトップに辿り着くには、GRUBにカーネルへのフルパスを設定すればよかったのであるが、そうして表示されたデスクトップについても時代遅れの構成という印象を拭うことができなかった。その画面はありきたりのKDEカラーとPlastikテーマで固められており、KDE 3.x系をカスタマイズした壁紙に至っては本ディストリビューションの数世代前のリリースから使い続けられてきたもののままなのである。

ハードウェア関連のサポート状況

 今回使用した私の所有するHewlett-Packard Pavilionラップトップに関して言えば、Arkのハードウェア対応状況にはかなりの不備が残されているようである。まず起動時のXの解像度は、その他の多くのディストリビューションにて最適とされている1280×800ではなく1024×768とされていた。先に触れたUSBマウスは使用できるようになったが、動作が不安定になったり特定の位置で反応しなくなるケースがときおり見られる。ただしタッチパッドとキーボードについては正常に動作している。そして有線式のEthernetアダプタは機能するものの、問題は自動認識がされない点だ。つまり必要なモジュールの読み込みおよびインターネットへの接続は、ブートするごとにユーザが手作業にて行う必要があり、その際には付属のMission Controlユーティリティないしコマンドラインに切り替えなくてはならないのである。

 サウンド関係はとりあえずは機能するものの、原因不明のクラック音やノイズが混入する場合があり、どうやらこの現象はアプリケーションの起動時やリムーバブルメディアの挿入時にも発生するようだ。またシステムから発せられるメッセージのうち、Ogg形式のものは正常に再生されないみたいだが、これらメッセージの大半はOgg形式で収録されているのである。

 Arkのバッテリモニタは画面下側のパネルに表示されるようになっている。そしてCPU Frequency Scaling(処理要件の高いタスクの実行時以外はプロセッサの動作速度を低下させる省電力機能)も使用できたが、私のラップトップの場合は必要なモジュールを読み込ませた上でKlaptopの設定を行わなければならなかった。またBroadcom無線チップについては、ソフトウェアリポジトリに収められていたbcm43xx-fwcutterを用いても有効化することはできなかった。同じくサスペンドおよびハイバーネーションの両機能も使用不可能となっている。

 Arkはリムーバブルメディアの挿入を自動検出するよう作られている。つまりCDやDVDのディスクを挿入すると、対応するアプリケーションないし選択用ツールが自動で開くか、デスクトップにてアイコン表示がされるのだが、残念ながらこの機能は不安定であり、動作する場合もあれば動作しない場合もある。USBメモリスティックについてもその挿入が検出された上で新規デバイスの接続/取り外しを告げるインフォメーションボックスがポップアップするものの、実際にはマウントないし認識がされていないのである。

ソフトウェアおよび各種の同梱ツール

 Ark Linuxで使われている基本コンポーネントは、カーネル2.6.25.3、Xorg 7.4/1.5、KDE 3.5.9という構成である。GCCはデフォルトではインストールされないが、Arkのソフトウェアリポジトリからはバージョン4.3.1を入手することができる。標準で同梱されているアプリケーションの多くはKDEソースパッケージにあるものだが独自に追加されたものもあり、KLMDonkey、Amarok、Kb3、KMPlayer、KDE Radio Station、Kynapticなどが揃えられている点は高く評価すべきだろう。

 Ark Linuxでのパッケージ管理には、KDE用のAPTフロントエンドとして作られたKynapticが流用されているが、このツールについてはRPMパッケージフォーマットを扱うための改良も施されている。またArkのリポジトリは、現行リリース用だけでなく開発ブランチに置かれた各種のソフトウェアもインストールできるよう整備されているので、本ディストリビューションのメインターゲットである新米LinuxユーザがKDE 4.1その他の実験的なソフトウェアを使用したい場合は、ここから入手すればいいはずだ。

 その他にも、OpenOffice.org 2.4.0、Scribus 1.3.3.11、Gwenview、Tux Racerなどのソフトウェアがメニュー経由でアクセスできるようにされており、スタンドアローン型のツールとしては、wpa_gui、QTParted、RPM Installer(これと混同されやすいKPackageも利用可能)なども用意されている。

 こうしたアプリケーション関連で遭遇したトラブルは、QTPartedとRPM Installerに関するものだけであった。先に触れたようにQTPartedは私のラップトップに搭載されていたハードドライブがお気に召さなかったようであり、RPM Installerに至ってはまったく動作してくれなかったのである。これらと対照的に、例えばKMPlayerは暗号化DVDを含めたあらゆる種類のビデオおよびオーディオ系ファイルを再生してくれたし、Google VideoはダメであったもののYouTubeの動画についてはKonquerorにて再生できている。

 Arkに同梱されたツール群の中で最も注目すべきものがMission Controlである。これは敢えて例えるならMandrivaのControl CenterやopenSUSEのYast2に相当するツールで、一種の中枢設定センタとして機能するのだが、その実体はシステムに対する各種の設定用モジュール群を格納したコンテナなのである。これらアイテムの大部分はKDEモジュールを呼び出すものであり、その他にArk Linux Internet ConfigやKynapticなどのツールを起動するアイテムも一部存在している。Mission Control自体はそれほど高機能なものではないのだが、初心者ユーザにとってはKDE Control Centerよりも扱いやすいかもしれない。

まとめ

 今回のリリースを称賛する内容のレポートを書けなかったのは、私にとっても残念な出来事である。まず簡単に扱うことのできない時代遅れのインストーラがいただけない。野暮ったさを感じさせるデスクトップのルック&フィールも同様である。その一方で、GIMPをScribusに置き換えた点など、同梱されるソフトウェアの構成は本ディストリビューションにおける長所と見なしていいはずだ。

 Arkのセキュリティポリシは新米ユーザにとっては扱いやすいかもしれないが、よりにもよってファイルアクセス権限の扱い方でWindowsを見習うこともないであろう。初心者以外のLinuxユーザであればこの不備を耳にしただけで、これは使用すべきではないシステムだと見限ってしまうかもしれない。

 私を失望させたのはハードウェア関連の対応状況についても同様である。こうしたものは今時のLinuxディストリビューションであれば問題にされなくなりつつ分野であるだけに、Arkにおける対応度の低さはテストを行った私を驚かせるのに充分すぎるくらいであった。サウンド再生時に混入するノイズの類は今回用いたハードウェアに特有のものかもしれないが、話を私1人に限っても、これと同じチップを搭載したマザーボードは3つも所有しているのである。またインターネット接続を自動で処理できないディストリビューションというのも、現在では珍しくなってきているのではなかろうか。

 結論として、Ark Linux 2008.1を使用するのは見送りにするべきだろう。外見的にも性能的にもArkより優れたディストリビューションは山のように存在しているのであり、敢えてこうした不備に悩まされる必要はないはずだ。

Linux.com 原文